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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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晩餐会の後でお茶を飲みながら、私の物言いの
仕方にダメ出しをしつつ、ユリウスさんは翌日以降
の日程について教えてくれた。

「出発する前にも王都で説明してた通り、明日は
レニ殿下が見付けてくれた勇者様の結界がついて
いるらしい泉に行くっす。ただ俺は予定外に鏡の間
を使ったリオン殿下とオーウェン様の会談の調整を
しなきゃ行けなくなったんで、後追いで出発します
けど・・・いやホント何で俺がそんな胃が痛くなる
ような場に立ち会わなきゃいけないんすかねぇ⁉︎」

それはやっぱりユリウスさんが優秀な魔導士で
鏡の間での通信をスムーズに進めるためだろう。

「んで、話によるとその場所はここからちょっと
離れてるんで日帰りは厳しいらしいっす。帰って
来れないこともないけど、そうすると夜に戻ることに
なるからそうなると魔物の心配もあるし、途中に
あるオーウェン様の別宮への宿泊を勧められたっす。
だから明日は泉を確かめたらその別宮に泊まって、
翌日は近場の穀倉地帯に豊穣の加護を付けながら
またここに戻って来るって感じっすかねぇ。」

今日このお城に着いたばかりなのに明日はまた
別の場所に泊まるとか慌ただしい。

だけどそれならこのお見合いめいた騒ぎからも
逃れて本当にゆっくり出来そうだ。

「そこ、温泉もありますか?」

温泉を楽しみにして来たのに、なんとこのお城には
温泉がなかった。

コーンウェル領の温泉は、平地にも温泉が湧いている
ノイエ領と違ってもっと山中や森林の中、それに
休火山近くにある野趣溢れるものらしい。

その代わりお湯に浸かるタイプだけでなく地熱で
温まった岩の上に寝る岩盤浴めいたものや硫黄の
香りが強い蒸気を利用した蒸し風呂、打ち身や捻挫
にも良く効いて野生の動物まで一緒に入ってくる
ような温泉まであるという。

「確かその別宮からは回廊で繋いだ場所に露天風呂
があるって話っすよ?時間帯によっては猿やら鹿やら
もその温泉にやって来るとか。ユーリ様、動物と
一緒の温泉でもいいんすか?」

私の質問にユリウスさんがメモを見て、動物の来る
時間帯までは把握してなかったっすと教えてくれた。

「ちょっと楽しそうです・・・!静かにしてれば
一緒に温泉に入ってくれますかね?」

そんな経験はなかなか出来ないだろう。

目を輝かせれば、レジナスさんが心配そうに私を
見やる。

「怖くないのか?温泉ではまさか俺やエルが同伴して
一緒に入るわけにもいかないし、万が一動物に危害を
加えられてもすぐには助けられないぞ?」

「自然の一部みたいにじっとしてれば平気じゃない
ですか?面白そうです!あ、それにもし心配なら
どうせ私は湯浴み着を着ているんだし、レジナスさん
さえ良ければ一緒でも大丈夫ですけど・・・」

ヨーロッパの人達が温泉入る時って確か湯浴み着が
あるから基本混浴だったよね?

それと同じで、湯浴み着は水着のつもりで一緒に
プールにでも入る感覚でそう言った。

そうしたらレジナスさんやユリウスさんが真っ赤に
なって私の言葉に噛みついて来た。

「何を言ってるんだユーリ!湯浴み着を着ている
からと言って婚前の男女が一緒に入浴していいわけ
がないだろう⁉︎」

「ユーリ様、自分が何言ってるか分かってるすか⁉︎
そんな姿をレジナスに見せたら野生動物よりも先に
襲われるか、こいつの鼻血で温泉が血に染まるかの
どっちかっすよ⁉︎」

ユリウスさんの言動が何気にひどい。だけど私の
混浴発言の方に気を取られているレジナスさんは
幸いにも気付いていなかった。

シンシアさんとマリーさんも赤くなっているから、
どうやら湯浴み着を着ていてもこの世界で普通
混浴はダメらしい。一つ学んだ。

だけどシェラさんだけは平気な顔で、

「オレなら喜んでご一緒しますが?」

と言ったものだからレジナスさんにもの凄い顔で
睨まれていたけど。



・・・その翌朝、早い時間から私達はユリウスさん
だけをお城に置いてコーンウェル領の人を案内人に
さっそく出掛けた。

途中、今晩泊まる予定のオーウェン様の別宮へも
立ち寄って休憩をしながらシンシアさんとマリーさん
をそこへ降ろして行く。

宿泊のための準備を先にしておいてもらうためだ。

「お気を付けていってらっしゃいませユーリ様。
戻りましたらいつでも温泉に入れるように整えて
おきますね。」

「おいしい夕飯も準備しておきますよ!」

二人に見送られて、そこからは馬車を馬に変えて
先を目指す。

万が一の魔物の襲撃にも備えて、狭い森林では
その方が機動力があっていいだろうということで
そうなった。

私はレジナスさんと二人乗りだ。

「レジナスさんと一緒の馬に乗って出掛けるのは
初めてじゃないですか?」

「そういえばそうか?」

緩やかに駆ける馬上の背後からレジナスさんの少し
気恥ずかしそうな声がする。

「早く駆け過ぎて具合が悪くなったり体が痛く
なったりしたら声を掛けてくれ。こういう二人乗り
にはあまり慣れていない。」

それはあれだ、顔が怖くて今まで誰もこんな風に
一緒の馬に乗ってくれる相手に恵まれなかったとか
そういうデートをしたことがないとかって言う意味
なのかな・・・?

そう思っていたら隣を走るシェラさんが

「悲しいことを言う男ですね。レディのエスコートの
経験がないなどとユーリ様に話して同情を引こうと
しているのですか?普段からその魔物のような
恐ろしい目付きで周りを見ているから敬遠される
んですよ、自業自得です。」

ちらりと横目で私達を見てきた。

「ユーリ様、もし乗り心地が悪ければオレの馬へ
どうぞ。オレとユーリ様は長距離での二人乗りにも
慣れておりますからね。快適ですよ?」

なぜそこで張り合うのか。

「ありがとうございます、大丈夫です!レジナスさん
の手綱さばきもとっても上手で安定してますから。
さすが騎士さんです!それに体が大きいので私が
寄りかかっていてもしっかり支えてくれるのですごく
安心感がありますよ!」

安心して眠くならないかが心配です。と後ろを
降り仰いでレジナスさんに笑いかければ、

「眠くなったら寝てもいい。絶対に落とさない」

目元を優しく緩めて頷かれる。

良かった、シェラさんの牽制も気にしていない
みたいだ。

だけどシェラさんはどうしても私を一緒の馬に
乗せたいらしくて、その後もあれこれとレジナスさん
と軽口の応酬をする。

これはどこかでシェラさんの機嫌も取ってあげた
方がいいのかな?

私を挟むと二人の態度が途端に大人げなくなる。

シグウェルさんが二人の間の緩衝材にとユリウスさん
を同行させた意味が何となく理解出来た。

ユリウスさんがいればなんだかんだ言っても二人の
仲裁をしてくれそうだからだ。早く合流しないかな。

後追いで来るというユリウスさんをまさか待ち遠しく
思うなんて、思いも寄らなかった。





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