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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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西方守護伯のオーウェン・コーンウェル伯爵が治める
コーンウェル領まではわりと平坦な道のりだ。

レジナスさんやシェラさん達が護衛する馬に囲まれて
行く馬車の窓からはずっと続く平原が見えていた。

100年前のレンさんとキリウさんもこの平原を馬で
駆けて行った先で私やレニ様と出会ったんだろうか。

そんな物思いにふけっていると、いつのまにか平原は
森へと変わり、現れた渓谷の間に突然大きくて立派な
城門が現れた。

「コーンウェル領の中心部に着いたようですよ
ユーリ様。」

窓の外を確かめたエル君が教えてくれた。

私と一緒に乗っているマリーさんも、コーンウェル
領に来るのは初めてらしく興味深そうに外を見て
いる。

「やっぱり魔物が出やすい地域だけあってそれを
防ぐためにもこんな立派な城門や長い城壁が必要
なんですねぇ。」

マリーさんはそう言ってたけど、魔物が出やすい割に
王都からここまで何事もなくやって来れた。

なんでかな?と思えば魔物避けの効果がある香を
含んだたいまつをずっと掲げていたらしい。

「そんな便利なものがあるんですか」

感心すれば、

「そのかわりに高価です。だからそれを使えるのは
王侯貴族ぐらいで普通の人は傭兵を雇ったりして
自衛して行き来をします。」

そうエル君が教えてくれた。

「コーンウェルには魔石鉱山はないんですかね?
もしあれば、私が魔石に祝福を付けるのでそれを
ユリウスさんに魔物避けの魔法を付けた結界石にして
もらって、せめてこの近辺だけでも安全に通行できる
ようになればいいんですけど・・・。」

レンさんが結界付きの休息場を作ったみたいに。

私の話にエル君はレジナス様に伝えてコーンウェル伯
にも聞いてもらいましょうと頷いてくれた。

良かった、どうせお世話になるなら何かしてあげたい
と思っていたので役に立てればいいな。

そうして着いた先には、蔦の絡まる石造りのどっしり
とした歴史を感じる大きなお城と白髪で大らかな
笑顔のおじいさんが私を待っていた。

「ユーリ様、ようこそコーンウェルへ。私がこの地で
領主を務め、陛下より西方の守護を任されております
オーウェン・コーンウェルです。いや話に聞いていた
よりもずっと可愛らしいお方だ!」

両手で私の手を取って握手をしてくれ笑うその姿は
本当に人の良いおじいちゃんと言った風だ。

ただレジナスさんに言わせると、魔物の多い土地と
領民を代々守って来た一族だけあってかなりの武闘派
らしい。

シェラさんも「キリウ小隊の任務で各地の騎士や
傭兵の指導に当たりますがコーンウェルの者達は
個々の武力が優れていて単独行動での魔物討伐力も
優れているので教え甲斐があります」って言ってた。

だからさぞおっかない顔や荒々しい傭兵さんや
騎士さんがいるんだろうと思っていたのに、
見る限りそんな人達の姿はない。

かわりにやけにキラキラしてる侍従さんや年若い
貴族の男の子?男の人?達が多い気がする。

人口比で女の人が少ない土地柄なのかな?それとも
魔物が出る土地柄、危ないから女の人達はあまり
こういう公の場には出てこないんだろうか。

そう思っていたら、護衛のエル君以上に私の近くに
立っているシェラさんが少し不機嫌そうなのに
気が付いた。

ユリウスさんも、周りの様子を伺ってうわあ。と
小さく声を上げた。

私の目の前ではレジナスさんがオーウェン様とまだ
挨拶を交わしているので、その邪魔にならないよう
こっそりと聞く。

「どうかしましたかユリウスさん。シェラさんも、
なんでそんなに不機嫌そうなんですか?」

「ユーリ様、これ見て何にも気付かないっすか?」

「・・・ここまであからさまな事をしてくるとは
思いませんでした。ユーリ様、どうかオレとエル以外
の者をお側に置かないで下さいね。」

口々におかしな事を言う。二人とも何を言って
いるのかな?と思っていたらオーウェン様がまた
私に話しかけて来た。

「なんとユーリ様、王都ではわが孫とお会いに
なっておりませんのか⁉︎歳も近く良い遊び相手や
話し相手になったでしょうに。リオン殿下もお人が
悪い!」

そういえばコーンウェル領の跡取りの小さいお孫さん
って今王都に来てるんだっけ。

リオン様がそんな事を言ってた気がするけど結局
会わず仕舞いで私はここに来ちゃったなあ。

私よりも歳下みたいだけど、会っていれば事前に
もっとコーンウェルの事やオーウェン様の話も聞けた
と思うのに、リオン様からは特に何の話もなかった。

「なんだか行き違いみたいに私の方がここに
来ちゃいましたね。」

オーウェン様にそう笑いかけたら、

「残念ですなあ。しかしユーリ様、このように我らが
コーンウェル領にはうちの孫以外にも見目よく武力
にも優れた者達が多くおります。滞在中はぜひとも
この者達とも仲良くしてやって下さい。」

気に入った者がおれば王都へ同行させてもらえれば
なおよろしいのですが。

オーウェン様の言葉にそこで初めて、居並ぶ
男の人達の視線が私に注がれていたのに気付いた。

あれ・・・これはもしかしてあれかな?

シグウェルさんのタウンハウスでセディさんが
「気に入った侍従がいたら連れて行って下さい!」
って私のことを美少年ハンターと勘違いしてたあれ
と同じパターンだろうか。

さっきのユリウスさんとシェラさんの反応はこの
せいってこと?

「いえ、あの、そういうお気遣いはしてもらわなく
ても大丈夫」

「更にもしユーリ様の伴侶に選んでいただけるならば
コーンウェルの者にとってそれ以上に名誉なことは
ありますまい。そうなればわが領としても王家とも
より強固に結び付き、我らが忠誠心の強さを示す
良い機会にもなります。本当はうちの孫と一番仲良く
していただきたかったが、引き合わせられなかった
のが残念です。ぜひとも滞在中はご検討下さい。
・・・ああお前達、早くユーリ様の荷物を中へ。
城を案内する者は誰かな?」

私に断る隙を与えずにそんな事を言ったオーウェン様
にその場にいた何人かが優雅に私に微笑みかけた。

いや、みんな顔がいいね⁉︎

まさかオーウェン様がセディさんみたいにお持ち帰り
用の人達を準備しているとは思わなかった。

だからやけに顔のいい男の人達ばっかりここに
いるのか。

ていうか、ちょっと待って欲しい。

「私は美少年ハンターじゃないですよ・・・⁉︎」

トランタニアからリース君達を連れ帰った噂がまさか
ここまで広まっている?

さっと顔を赤くすれば、

「照れる様子も可愛らしいですなあ。何、恥ずかし
がることはありません。見目が良い者や逞しい者に
惹かれるのは自然なこと。ですからレジナス殿は
ご伴侶となりシェラザード殿もその傍らにおられる
のでしょう?」

いや、シェラさんは別に顔がいいから同行者に
選んだとか連れ歩いているんじゃないですよ⁉︎

誤解を解こうとしている私に構わずオーウェン様は
大らかに笑っている。

ていうか、レジナスさんも反論して⁉︎

そう思ってレジナスさんを見上げれば、オーウェン様
に不意打ちで自分が伴侶だと言われたのに動揺した
のかうっすらと赤くなって固まっていた。
ダメじゃん!



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