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挿話 突撃・隣の夕ごはん

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シェラさんは私の街歩きに同行出来ないということ
だったけど、とりあえず王都に降りた時に立ち寄る
先や大まかな滞在時間は伝える。

それらはシェラさんがデレクさんへ伝えてくれること
になった。

後はその行き先や帰城時間について正式にリオン様の
許可が降りたら日にちを決めてその日の朝デレクさん
に奥の院まで迎えに来てもらうのだ。

ちなみに今回はエル君の他にマリーさんもついて来て
くれる。

「前回は私がいるとユーリ様がいることがばれて
しまうと思って同行しなかったら大変な目にあって
しまいましたからね!今回は一緒に行きますよ‼︎」

と気合いを入れていた。ただし、街歩きに出る日まで
日にちがないのでサシミは予約出来ないかも、と
申し訳なさそうにされたけど構わない。

タラコスパゲティが食べられるだけでも幸せだもん。
それにお魚の煮込みやシーフードサラダも美味しそう
だった。

そんな話をすればマリーさんは嬉しそうに頷いて、
それらのものなら前もって予約できるでしょうと
言ってくれた。

そうしてリオン様へ行きたい場所などを話してみれば
快く承諾してくれた。

ただし、

「念のためまた幻影魔法で姿を変えてから王都へは
出かけてくれるかな?その方が人の目につく心配は
少ないからね。」

とのことで、実際に王都の中へ降りる日は朝から
ユリウスさんに来てもらった。

すでにデレクさんも来てくれていて、先に私と話を
楽しんでいる。

「おはようございますユーリ様!幻影魔法をかけて
欲しいってことでしたけど、希望の姿は何かあるっす
か?出来るだけその通りにしますけど。エル君は
前回と同じ黒髪黒目でいいんすよね?」

デレクさんにも会釈をしたユリウスさんがにこやかに
私とエル君を見る。

「私も前回と同じリリちゃんの姿にしてもらっても
いいですか?」

リクエストをしたらええ?と驚かれた。

「わざわざあの姿にならなくても・・・どうせ夕食会
に来る時はあの姿になるんですから、せっかくなら
別の姿を楽しんでもいいんすよ?」

「でも先日私がちょっとだけ働かせてもらった食堂に
寄るんです。だから同じ姿で訪ねて、少し話でも
出来ればなあって思ってて。」

ウェンディさんやニックさんは元気かな。

あの時はばたばたと帰ることになってしまったので
きちんとお別れの挨拶が出来なかった。

だから久しぶりに二人に会えるのが楽しみだ。

と、そこでデレクさんが頷いた。

「シェラザード隊長から言いつかってますよ。
そこの従業員の態度がユーリ様に馴れ馴れしいから
気を付けるようにと。」

「ええ⁉︎なんですかそれ。そんな事ないですよ?」

一体シェラさんは何を見てそう判断したんだろう。
あの時はむしろシェラさんの方がニックさんに対して
失礼な態度だった気がする。

だけどデレクさんはさらに続けた。

「レジナス様も心配してましたよ?あまり他の男に
見つめられないようにそれとなく視界を遮ってやって
欲しいとおっしゃってました。その食堂は要注意
ですね。」

なにそれ。あそこでそんなにじろじろ見られた記憶は
ないんだけどなあ。もしそうだとすればそれはお店の
制服のスカートが短かったせいだと思う。

というかレジナスさん、そんな焼きもちみたいな
頼み事をデレクさんにするのはやめて欲しい。

ものすごく恥ずかしい。案の定ユリウスさんに

「レジナスの奴、ユーリ様がかわいくて心配なのは
分かるけどそんな嫉妬心丸出しなことを恥ずかしげも
なく、よく人に頼めるっすね・・・」

と半ば呆れて私を見た。私は関係ないですよ⁉︎

「まあ、それだけユーリ様のことを心配されている
んですよ。今日の俺はシェラザード隊長からも
レジナス様からもユーリ様の護衛をしっかり勤める
ようにと直々に言い含められて来ているんで、正直
かなりプレッシャーです。」

陛下の警護でもここまで気を張ることはないですよ、
とデレクさんは笑う。

「ユーリ様の姿を幻影魔法で変えちゃえば、そこまで
気負わなくても警護は出来ると思うっすけどね。」

そう言ったユリウスさんがぱちんと指を弾いた。

すると私の全身がきらきら光る粉のようなものに
包まれる。

「どうですか?」

その光が消えてから確認してもらえば、デレクさんは
目を丸くしている。

「すごいですね、さっきまでのユーリ様と姿形も
気配も全く違います。赤毛の可愛らしい女の子に
なってます。」

あ、ちゃんとリリちゃんの姿になったらしい。

隣を見れば、エル君も黒髪黒目の姿になっていた。

ユリウスさんもデレクさんの言葉に満足げに頷いて
いる。

「そうでしょう?ユーリ様のおかげで俺の魔力量も
増えたんで、前よりも精巧な幻影を見せられるように
なったんすよ。さすがにユーリ様が力を使えばそれに
負けて元の姿に戻っちゃいますけど、前までのように
少しくらいの衝撃で元に戻るなんて事はないっす。」

しかも放っておけば明日まででもこの姿でいるらしい
ので、ユリウスさんにはまた夕方ここに来てもらって
魔法を解いてもらうことになっている。

「ユリウスさんのおうちの夕食会に行く前のいい練習
になりましたね!ありがとうお兄ちゃん!」

わざとまたお兄ちゃん呼びをしてみればユリウスさん
の顔がさっと赤く染まった。

「そういう悪ノリするのやめてもらってもいいっす
か⁉︎なんかこう、物凄く恥ずかしくなるんすけど‼︎」

「えー、だって夕食会に行けば絶対団長さんにまた
お父様って呼んでくれって言われますよ?だから
ユリウスさんのこともお兄ちゃんって呼ぶことになる
だろうし、今のうちに慣れておいた方がいいんじゃ
ないかな・・・」

小首を傾げてそう言えば、

「だからその小首を傾げるのやめて欲しいっす!
仕草がいちいちあざといんすよユーリ様は‼︎マジで
妹が出来たみたいな気になるからうっかり可愛いって
抱き上げてしまいそうで怖いんす!」

そんなところをリオン殿下に見られたら即、死が
待っている・・・‼︎

そんな事を呟いてユリウスさんは身震いした。

「さすがに私を抱き上げたくらいでリオン様が何か
することはないと思いますけど」

そう言っても、

「ユーリ様にイチゴを食べてもらった時の、あの
殿下に後ろから掛けられた声が忘れられないっす!
ユーリ様を抱き上げたら絶対あの声が背後から幻聴で
聞こえてくるっす!」

そんな事まで言っている。どれだけあのイチゴ事件が
トラウマになってるんだ。

対してデレクさんは朗らかに笑うと、片膝をついて
私に礼をとり頭を下げた。

「ユリウス様はそう言ってますが、僭越ながら俺は
ユーリ様を抱き上げて移動させていただきますよ。
よろしくお願いいたします。」

「どういう意味ですか?私、普通に歩けますけど⁉︎」

なんでデレクさんまで私を縦抱っこ移動しようと
してるんだろう。そう思えば、

「それも隊長とレジナス様の二人から言いつかって
おりまして。迷子になってはぐれたり転んだりしない
よう、移動は出来るだけ縦抱きでと。」

照れたようにはにかんだ笑顔で言われた。
あの二人はちょっと過保護過ぎないかな⁉︎

「ユーリ様、とりあえず言う通りにされた方が
いいと思います。この間はレジナス様と少し離れた
だけではぐれてしまったじゃないですか。」

エル君までそんな事を言う。それはそうだけどあれは
不可抗力だったしここはまだ奥の院の建物の中だよ?

「街に降りる前の練習だと思っていただければ。
もし恥ずかしいようでしたら、混雑具合によっては
街では手を繋ぐだけでも大丈夫かも知れません。」

少し困ったようにデレクさんはそう提案してくれた。

レジナスさん達に頼まれたならそれは命令に近い
んだろうし、ここで私がごねて迷惑をかけるのも
デレクさんがかわいそうかも・・・。

そう思い直して、申し訳ないけどデレクさんに身を
預ければ

「では改めて、本日はよろしくお願いいたします。」

好青年な笑顔で頬を染めたデレクさんにしっかりと
抱き上げられた。

それを「やっぱりちょっと羨ましいっす!」と
声を上げたユリウスさんに見送られて、マリーさん
やエル君もお供に私は久しぶりの街歩きにいよいよ
出かけることになった。






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