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第十五章 レニとユーリの神隠し

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「本当に、なんでユーリちゃんはこんな力を持ってる
わけ?いくら魔石で増幅されたからって言っても、
もうこれは姫巫女以上の力なんだけど。周りの精霊の
動き方が尋常じゃなかったよ?」

押し倒された私の上に身を起こして見つめたまま、
キリウさんはそう言った。

「何故と言われても私にもよく分からないんですけど
う、生まれつきですかね?」

「何それ。いくらイスラハーンと交流が少ないとは
いえ、このオレが知らなかったそんな魔力の持ち主が
まだいたなんてねぇ。それもユーリちゃんみたいに
かわいい子で!まあ詳しいところは結婚すればずっと
一緒にいるわけだしじっくり聞いて知っていけば
いいかぁ。」

私の頭上でにっこりとそう微笑まれ、銀色の髪の毛が
輝きを放って笑顔と共に煌めく。

そんなキリウさんをレンさんが引き剥がした。

「キリウさん、自分よりずっと小柄な女の子を
押し倒してるとか絵面がまずいです。犯罪者みたいに
見えるんでちょっと離れましょう。」

「えっ、何だよ!それ言ったら女の子に囲まれてる
お前はどうなんだよただの女好きにしか見えない
だろうが!」

「俺のは不可抗力じゃないですか・・・」

レンさんに文句を言いながら、それでもめげずに
まだキリウさんは私に話しかけてくる。

「そうだユーリちゃん、結婚祝いに素敵な毛皮を
贈るよ!銀色の魔狐って見た事ある?捕まえるのは
結構難しいんだけどね、オレならすぐだから!
ユーリちゃんのためなら大物の一匹や二匹、すぐに
捕まえてくるよ。それでお揃いの正装服を作って
レンの即位式と結婚式に参列しようね‼︎ユーリちゃん
の黒髪にオレの髪色みたいな銀毛魔狐の毛皮は良く
映えると思うなあ。」

一人夢見るようにそんなことを言っているけど
申し訳ない、すでに私はその毛皮で作った素敵な
コートを持っている。

「ごめんなさい、その狐で作ったコートをもう持って
いるので頑張って獲ってこなくてもいいですよ?
それよりキリウさんは賭けグセを改めた方がいいと
思います。そのままだとお嫁さんはずっと来ない
んじゃないかな・・・」

何しろ神様相手にまで家宝を賭ける人だ。次は
どんな相手に何を賭けるのか分かったもんじゃない。

「え?銀毛魔狐って結構珍しいよ⁉︎なんでもうその
毛皮を持ってるの?侮れないなあ・・・。
あと何⁉︎賭け事をやめたらユーリちゃんお嫁に来て
くれるってこと⁉︎ならやめるやめる!オレの人生を
賭けてもいい‼︎」

「キリウさん・・・」

なんて残念な人だ。賭け事をやめると言ったその口で
自分の人生を賭けると簡単に言ってしまっている。

レニ様も、私をぐいと助け起こしてくれながら
憐れみを込めた目でキリウさんを見ていた。

「こんな軽薄な奴が勇者様の右腕で小隊名の由来に
までなってるとか信じられないぞ。あの冷たい態度で
全然笑わない魔導士団長とも、おっかない雰囲気の
その父親とも全然違うんだけど・・・」

こっそりそう呟いている。

「ホントにそろそろ帰らないと、いつまで経っても
キリウさんから解放されそうにないですね。魔石も
手に入ったし、帰れるか試してみましょうか?」

本当に祈るだけで元の場所に戻れるかは疑問だけど
やってみるしかない。

一応お伺いを立てればレニ様もこくりと真剣な顔で
頷いた。

「頼む。俺も一生懸命お祈りする。母上にもこれから
生まれてくる妹にもこの勇者様からもらった魔石を
絶対プレゼントしたいんだ。」

・・・その強い気持ちがあればきっと大丈夫。

私をまだ口説こうとしているのを止められながら
レンさんと話をしているキリウさんに向き直る。

「キリウさん、レンさん、ここまで私とレニ様を
連れて来てくれてありがとうございます。おかげで
魔石も手に入ったので、これでやっと元の場所に
帰れそうです。」

ぺこりとお辞儀をすればレンさんが心配そうに
しながらも良かったねと言ってくれた。

「あんなにたくさんの力を使ったのに、まだ転移魔法
を使う力が残ってるの?大丈夫?なんならキリウさん
に魔力を分けてもらった方がいいんじゃない?」

キリウさんもそうそう、とレンさんの言葉に同意
する。

「前に言ったみたいにオレがイスラハーンまでついて
行ってもいいんだよ?どうせユーリちゃんのご両親に
結婚の許可と挨拶をしなきゃいけないし?」

そのセリフにレニ様が噛み付いた。

「お前、まだそんな事言ってるのか!ユーリに親は
いないんだ、俺んちがユーリの親代わりだからな⁉︎
その俺がお前との結婚なんか絶対許さないし!お前
みたいに軽いやつにユーリを任せられるわけない
だろう⁉︎」

「え?ユーリちゃんてレニ君の家に仕えてる魔導士
一族の子なんでしょ?なら親代わりはわざわざ
レニ君ちがしなくても、魔導士の親戚がいるんじゃ
ないの?しかもこんなすごい魔力の持ち主ならどこの
魔導士の家でも欲しがるでしょ?」

キリウさんの疑問は至極真っ当だ。

だけどレニ様の家・・・っていうか王家が私の
親代わりなのもあながち間違いじゃない。

なにしろ癒し子の後見人はリオン様だし。

そして私に親がいないのも間違いとは言えない。

それをレニ様が子供らしく正直に、つい言って
しまったので逆に不思議に思われてしまった。

そしてキリウさんの指摘に動揺したレニ様はそこで
さらに余計なことを言った。

「い、いやだってユーリはそのうち叔父上と結婚
するし!だからその家族の俺がユーリの面倒みても
ヘンじゃないだろ⁉︎」

「ウソでしょ⁉︎」

キリウさんが声を上げた。そのまま私に向き直って

「ええ⁉︎ユーリちゃん、レニ君の叔父さんとは結婚
前提のお付き合いなの?ホントに⁉︎年上好きなのは
嬉しいけど、その人よりオレの方が強くてカッコ良く
ない?オレの事をまだ知らないまま他に結婚相手を
決めるのは早くないかな⁉︎」

そう食い下がられてしまった。せっかく穏便に
別れの挨拶もすませて帰れそうだったのに。

しかもレニ様はキリウさんのその言葉にも反応して
しまった。

「確かにお前の魔法はカッコよかったけど!でも
叔父上だって剣は強いしレジナスもそれに負けない位
の国一番の剣士だ!それに魔法なら魔導士団長だって
凄いし顔もお前に似てるけど・・・お前よりももっと
カッコいいからな‼︎ユーリのお前に負けてない‼︎」

「ちょっとレニ様⁉︎」

それはまずい。余計なひと言だ。

そう思って止めたけど遅かった。レニ様の言葉に
キリウさんどころかレンさんまでぽかんとした。

一瞬の間があって、まさか・・・とキリウさんが
恐る恐るレニ様に確かめる。

「えーと、レニ君?ちょっと確認なんだけどね?
君の叔父さんの他に、そのレジナスさんっていう人と
魔導士団長?その人と、つまりユーリちゃんには
三人も結婚相手がいるのかな?え?イスラハーンも
ルーシャ国みたいに複数配偶者制度?」

そこでやっとレニ様は自分がまずいことを言ったのに
気付いたらしい。

あっ!という顔をして私を見た。

「ごめんユーリ、こいつがしつこいからつい言って
しまった・・・‼︎」

いや、レニ様。まだ子供だから仕方ないけど
大声殿下ばりに余計なことしか言わないね⁉︎

おかげでその言葉に二人とも私に伴侶が三人もいる
のは本当のことだと確信してしまった。

「ウソでしょ⁉︎三人⁉︎まだ小さいのになんでそこまで
いっぱい相手が決まってるわけ?そりゃあ一度に
そんなに相手をする事も不可能じゃないよ、でも
ユーリちゃんにはまだ早いしムリじゃない?それとも
何かいい方法が・・・⁉︎」

混乱したのかキリウさんの疑問が下世話な方に
向かった。おかげで私まで赤くならざるを得ない。

私だってそんなの知らないよ!むしろ教えて欲しい
くら・・・いやダメだ、知らない方がいい。
そもそもなんで一度に三人を相手にする前提なのか。

赤くなった私に、伴侶が三人は事実だと理解した
らしいキリウさんはショックを受けている。

レンさんも、

「三人かぁ・・・良かった、じゃあ二人しか相手が
決まっていない俺はまだマシな方なんだね。ていうか
凄いな異世界。こんな小さいうちからそんなに結婚
相手が決まっちゃうんだ・・・」

そんな風に呟いてるけど、違うから!私もあなたと
同じ日本人だから‼︎しかも最終的にあなたの方が
七人も奥さんが出来て私以上だから‼︎

そう言いたかったけどさすがにそれは言えない。

レニ様のおかげで話がややこしくなってしまった。
この話題、このままほっぽってリオン様達のいる
元の世界に帰っちゃダメかなぁ⁉︎
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