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第十五章 レニとユーリの神隠し

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「すごいとは思いますけど結婚はしませんよ?」

そもそもまだハーピーを倒しただけで勇者様が炎狼と
格闘中なのに私を口説いてる場合じゃないと思う。

そう思ったのはレニ様もだったみたいで、

「勇者様を助けに行かないのかよ⁉︎」

と声を上げた。

「必要があればレンの方から声をかけてくるから
大丈夫。オレは君達を守ってるよ」

ヒマだから倒したハーピーの羽根でもむしろうか?
綺麗な装飾品が出来るよ?とキリウさんは提案して
きて、レニ様は何を呑気に・・・とポカンとした。

「虹色に光るように加工して、装飾品の材料にして
あげるからレニ君も向こうに帰ったらそれでブローチ
やコサージュを作ればいいよ。イスラハーンには
ハーピーがいないんでしょ?きっとみんなに羨まし
がられるよ~。」

言いながらさっそくキリウさんは私達の近くに墜落
していたハーピーの羽根をぶちぶちとむしっている。

「はい、とりあえずのブローチ代わりね」

キリウさんがそう言って、一枚の羽根を手に取り
くるりと回せばそれはうっすらと銀色の光を放った。

それをレニ様の胸元に挿せば、光の当たる角度に
よってキラキラと虹色に輝いている。

「あ、ありがとう・・・」

意外と素直にレニ様はそれを見てお礼を言った。

「どういたしまして!」

ふふー、とまた嬉しそうにキリウさんは微笑む。

そこへ突然、レンさんの大声がした。

「キリウさん、ヘルプ!補助をお願いします‼︎」

その声に私とレニ様ははっとして慌ててレンさんの
方を確かめたのにキリウさんは

「ええ~」

と、せっかくほのぼのしてたんだけどなあ、と面倒
そうにそちらを見た。

「俺だけの炎魔法じゃ倒せないんで、上乗せお願い
します‼︎」

周りを炎狼に囲まれながら自分の拳にも炎を纏って
戦っているレンさんが言う。

「炎の上乗せって、炎狼は普通、水や氷魔法で倒す
んじゃないのか⁉︎」

胸に挿すハーピーの羽根のブローチを大切そうに
握りしめて聞いたレニ様に、うん。とキリウさんが
説明する。

「まあ普通はね。レンの面白いのはオレ達と考え方が
全然違うっていうか常識はずれなところなんだよ。
炎狼の纏う炎よりも高温の炎で焼き切る方が早い、
もし炎狼の炎の方が氷の最低温度を上回ってたら
魔力の無駄じゃん?って言ってね。その時はなるほど
なあって思ったなあ。」

あ・・・いわゆる絶対零度VS最高温度か。

絶対零度は確か約マイナス270度だけど、それを
ものともしないくらい炎狼が自分の炎を魔力で高温に
出来るなら、氷魔法でどんなに頑張って凍らせよう
としても実質無意味だ。

確かにそれなら最初から炎狼の炎以上の高温を
ぶつける方が効率的だけど。

「氷魔法が効かないくらい高温の炎を纏った魔物って
います・・・?」

つい口にすれば、キリウさんは背に背負っていた
長剣を抜いて笑った。

「まあねえ、滅多にはいないかな。過去にもそんな
魔物は炎竜を入れて数匹だし。でも無駄に魔力を
使わないですむから、最近は火炎系魔物には最初から
高温の火魔法をぶつけるようにしてるよ。」

ということで。と抜いた剣を大きく振ればそれは
ゴウ、と音を立てて炎を纏った。

そのままくるりと大きく剣を振って

「レン、行ったぞ!」

と声をかければ、振った剣から炎は物凄い熱量を
持ってレンさんの方へ放たれる。

間違ってレンさんを攻撃したのかと思うくらいの
威力と速度を持って放たれた炎の勢いに、熱には
強いはずの炎狼が思わず飛びすさって避けていた。

そのあいた隙間にレンさんは飛び込んでしっかりと
キリウさんの放った魔法を受け取る。

「ありがとうございます‼︎」

離れていてその表情までは見えないはずなのに、
なぜかレンさんの瞳がひときわ青く輝いたような
気がした。

レンさんの両手・・・どころか両腕の肩の近くまでが
燃え盛る炎に包まれている。

「えっ、大丈夫ですか⁉︎勇者様燃えてません⁉︎」

思わず馬に乗ったまますぐそばに立つキリウさんを
掴めば、

「大丈夫大丈夫、こっちまでちょっと衝撃が来て
揺れるかも知れないけど結界を張ってるから。」

ぽんぽんと頭を撫でられた。

レンさんは青い瞳を煌めかせたまま、

「ブラストバーニングぅ‼︎」

気合い一発、燃える腕で地面を殴り付けた。

ビシ、と地面に亀裂が入り噴火をするようにそこから
炎狼達に向かって炎の柱が立ち上がり、爆発する
ような火が噴き上がった。

同時に、地震みたいに地面は大きく揺れると全ての
炎狼達が一瞬で炎に包まれてしまい、黒いシルエット
になる。

揺れる地面に、私とレニ様がそれぞれ乗っている馬は
驚いていなないたけど暴れ出さないようにしっかりと
キリウさんが手綱を握っていてくれた。

「ブ、ブラストバーニングって・・・!」

なんか似た名前の技名を聞いたことがあるぞ。

そう思っていたらキリウさんが

「レンが考えた技名だよ?リザなんとかの最強技が
どうのとか言っててそれをイメージしたとか何とか」

え、もしかして。本家の技名のバーンをもじって
バーニングかな?

そう思っていたら、消し炭みたいになった炎狼の黒く
焼け焦げた体をいつの間にかごそごそ探っていた
レンさんが、嬉しそうに声を上げて赤い石を掲げた。

「やった!魔石、ゲットだぜ‼︎」

あ、やっぱり。思わず近くにピカピカ言う黄色い
電気ネズミの幻を見た。

ルーシャ国に召喚されたばかりの頃、勇者様の技名や
戦った記録に私が癒しの力を使うためのヒントが
ないかと文献やら何やら相当調べまくったけど、
その中にこれもあったかな?

何ヶ月も前のことだったのでもう覚えていない。

でも炎狼が消し炭になるなんてすごく強力な技だ。

魔法はイメージって言うけど、アニメやゲームで先に
その技のビジュアルを見てイメージできているだけに
実際繰り出す技もかなり強力になるんだろうか。

「ヨナス神の影響を受けていたせいか、普通の炎狼
よりも耐火性能が上がっていて手こずりましたけど
おかげで助かりましたよ、ありがとうございます
キリウさん!」

手にした小袋がいっぱいになり、じゃらじゃらいう
位の量の魔石を持ってレンさんが私達のところへと
戻ってきた。

その魔石を確かめたキリウさんも、おーこれはいい
ヤツ!魔道具作りが捗るわーと喜んでいる。

「ユーリちゃん達もびっくりしたでしょ。大丈夫?
怖くなかった?」

私達をそう気遣ってくれたレンさんは腕が火傷を
したように赤くなっている。

グノーデルさんの加護がついた丈夫な体で、さらに
キリウさんがさっきかけてくれた防御魔法で耐性も
ついているはずなのに、炎狼が燃え尽きるほどの
高温にはさすがに無傷でいられないらしい。

「レンさん、ケガをしてますよ。私が治してもいい
ですか?」

手を伸ばしたらキリウさんが、

「ユーリちゃん、オレも!オレもここ切ったよ‼︎」

さっと手のひらを見せてきた。微妙に薄汚れている。

いや、それ戦ったからじゃなくてさっきハーピーの
羽根をむしった時に汚れただけ・・・。

そう思ったけど本人がレンの後でいいから治して!と
騒ぐしレンさんにも申し訳なさそうに

「ごめんユーリちゃん、キリウさんの気の済むように
してあげて・・・。じゃないとこの人、ずっと騒いで
るから・・・」

と頼まれてしまった。

魔法を使って戦ったりレンさんの補助をしている時は
頼もしく見えたのに女の子の前での通常運転がこれ
とか・・・。

とてもじゃないけどキリウ小隊という小隊名に誇りを
持っているデレクさんや、キリウさんの事を勇者様の
右腕で親友だとユールヴァルト家の来歴を嬉しそうに
自慢していたセディさんには見せられない姿だなあと
思いながら、まずはレンさんを治すために私は手を
かざしたのだった。

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