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第十四章 手のひらを太陽に

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フィリオサ殿下のお兄さんが殺されたと言うその
発言は、いくらルーシャ国の王子の同行者とはいえ
一商人であるシェラさんに話して良いことなのか。

シェラさんも興味深げに目を細めた。

「そんな不穏な事をおっしゃってよろしいので?
オレには何の力もありませんが、聞いた事はルーシャ
やリオン殿下へ伝えるかも知れませんよ。そんな事
になれば殿下やバロイ国の不利益では?」

「どうせこの国に滞在していればそのうち嫌でも
噂で聞くさ。そこにバロイが関わっているかも
知れないってこともな。そしてそれは事実だ。」

今度こそはっきりとミリアム殿下はそう言った。

「ちょっと殿下⁉︎」

そんな重要なことをあっさりと。びっくりして声を
あげれば

「何だよ猫娘。・・・いや、猫娘じゃないのか。
フィーの兄貴2人は父上の間者にやられた。それは
間違いない。ただ、エーリク様始めモリーの者達は
それを知らない。もしかしたらと疑う気持ちはある
かもしれないが、この国ではあくまで噂にとどまって
いる。気の毒過ぎて本当の事なんか言えるもんか。」

口元を歪めるようにして微かに殿下は自嘲するような
笑みを浮かべた。

「証拠はもう残っていない。だけどバロイの王族に
しか伝わっていない毒薬を使った時の特徴が、あの
2人を見舞った時に出ていた。その毒薬に薬花は
効き目が薄いんだ。それに気付いてすぐに解毒薬を
俺の兄上から分けて貰った時にはもう手遅れだった」

だからフィーだけはそんな目に合わせない、と
続ける。

そういえばミリアム殿下とこの国の二番目の王子様は
親友のような間柄だったんだっけ。

「またバロイの毒薬を使われても、俺が先に毒味を
していればすぐに気付ける。少しはそれに耐性もある
からな。だけど薬花も効き目がないような、俺も
知らない毒草や呪いの魔法をもし今も使われてたら
フィーは救えない。だからそれに備えておきたかった
ところに現れたのがお前達だった。」

そう言ってミリアム殿下は自分を見つめるシェラさん
にまっすぐ強い視線を向けた。

「俺がここまで話したのは、お前が持ち込んだあの
リンゴの干乾しがフィーに効いたからだ。何を
しても良くならなかったフィーが、あれを少し口に
しただけで目に見えて回復した。それならあれを
もっと食べれば完全に回復して、もしバロイの者が 
何かしようとしても防げるんじゃないか?」

「自国の秘密を明かしてまでフィリオサ殿下を案じて
おりますか。その気持ちに真実ウソ偽りはござい
ませんね?」

「くどいなお前も。エーリク様にすら話していない
俺の国のやらかした事まで打ち明けたのに、まだ
疑ってんのか。回復したフィーがこの国をきちんと
継いで、いずれ俺の兄上が継承するバロイとも平和で
自由に往来が出来るようになればいい。そう思って
るんだよ俺は。」

しつこく念押しをしてくるシェラさんにミリアム殿下
は呆れたようにそう言った。

シェラさんはどうします?正体を告げますか?と
言いたそうに私を見る。

お互いに顔を見合わせた私達にミリアム殿下は焦れた
ように話しかけて来た。

「なあ、早いとこあのリンゴをもっと分けてくれよ。
あれがお前達がルーシャ国から持ち込んだって言う
『よく効く薬』なんだろ。それからえーと猫娘、名前
を知らないからまだそう呼ぶけどお前の使う力が珍妙
な魔物の力じゃないなら何だ?お前は魔導士か巫女
なのか?まさか噂に聞くルーシャ国の大神殿の姫巫女
ってやつか?」

「『よく効く薬』っていうのはあのリンゴのことじゃ
ないです。それ、私のことです。あの時はまだ殿下が
どういうつもりでいたのかよく分からなかったから
そう言ったんです、ごめんなさい。」

ぺこっと頭を下げると、ミリアム殿下は目を見開いて
驚いた。

「はっ?お前が薬⁉︎どういう意味だ?まさかお前の
血肉に栄養があるってんじゃないよな⁉︎この商人が
やけにお前を崇め奉ってたり黄金や宝石よりも価値が
あるっていうのはまさかそういうことか?」

でもさすがにお前の血肉を分けてくれって言うのも
それをフィーの口にさせるのも・・・なんて言って
戸惑っている。

「まさかお前、エーリク様にもお前の血か何かを
飲ませたのか⁉︎」

「違いますよ!そんなわけないじゃないですか‼︎」

なんて恐ろしいことを言い出すんだろう。

「ユーリ様、この者には暗喩が通じないようですので
はっきり伝えませんと。」

シェラさんが私の名前を口に出した。正体を明かして
大丈夫という意味だろう。

ベールも取っていいですか?と一応聞けば、

「その美しい瞳であまり殿下を見つめないように
お気をつけ下さい。ユーリ様の美しさと愛らしさに
慣れ親しんでいるルーシャの者と違い、女神を目に
したことのない人々には刺激が強過ぎて皆その虜に
なってしまいますから。」

意味の分からないことを言われた。

「相変わらず褒め言葉が過ぎますね・・・」

「事実です、オレの女神。」

そう言ってシェラさんは私の髪の毛を乱さないように
そっとベールを取ってくれた。

「おい商人、猫娘を褒めるにしても大袈裟過ぎる
だろう。何を訳の分からないことを言ってんだよ。」

ほんと何言ってるんだろうねシェラさんは。

ベールを取ってもらって明るく開けた視界で目の前の
ミリアム殿下をしっかり見る。

間にベールを挟んで見ていた時は分からなかったけど
薬花の色よりは少し明るい髪色だ。瞳の色も、青紫と
いうよりは青に近い。その色にふとリオン様を連想
して、今頃どうしているのかなと思った。

「私は別の世界からルーシャ国に召喚された召喚者で
ユーリっていいます。イリューディアさんのおかげで
癒しや治癒の力を使えるので、ミオ宰相さんにお願い
されて今回モリー公国に来ました。まあ、着いて
早々人間じゃないって誤解されちゃいましたけど。」

説明している私の顔をミリアム殿下は見ているけど、
驚いているのか目を見開いたまま動かない。

瞬きもしないで私を見てるけど目が乾かないのかな。

「えーと殿下、人の話聞いてます?」

あまりにも微動だにしないので心配になる。

その様子を見たシェラさんがため息をついた。

「やはり女神の美しさに免疫のないものには刺激が
強過ぎたようです。このままではユーリ様に見惚れて
埒があきませんのでもう一度お顔を隠していただき
ましょうか。」

失礼します、と断りを入れたシェラさんがまた私に
ベールを被せた。

「ええー・・・」

せっかく視界が開けて周りが見やすかったのに。
あとそれを被ると薄くても熱がこもって少し暑い。

私と会った時のカティヤ様が、ベールを被ってると
暑いんですのよー。と言って両手でパタパタ煽いで
いた意味がよく分かる。

だけど私がベールを被って視界が塞がると、まるで
石化でも解けたかのようにミリアム殿下はハッとして
目を瞬いた。

「いや、悪い。ちゃんと聞いてなかった。ていうか
俺は何か聞き間違いをしたらしい。お前がルーシャ国
のあの有名な召喚者だとか癒し子だとか・・・」

「あってますよ」

こくんと頷いて見せればまた固まった。

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