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第十三章 好きこそものの上手なれ

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前にリオン様から聞かせてもらったレジナスさんの
騎士団時代の話は冒険譚みたいでワクワクしたのに、
シグウェルさんのこれはちょっとスケールが違うと
いうか、毛色が違うというか・・・。

話の規模の大きさにびっくりする。

「ユリウスさん、シグウェルさんて今いくつでした
っけ?」

国家騒乱罪・・・とか治安維持法違反・・・と
呟いているユリウスさんに声をかける。

「え?ああ、えーと、リオン殿下の一つ下っすよ。」

てことは21だから・・・7、8年前ということは
13歳か14歳だ。

今の私の姿とそう変わらない歳の時にそんな大それた
事を考えていたとか怖い。

「魔法バカにも限度がありますねぇ」

思わずそう言ってしまった。だけどシグウェルさんは
そんな私の言葉を全く意に介さず、

「魔法と精霊との関わりについてはどれだけ時間を
かけて追求しても尽きることも飽くこともない。
俺の生涯を懸けて関わり続ける価値がある事象だ。」

そう話しながら私を見てなるほど、と何かに
気付いたように頷いた。

「え?何ですか、私が何か?」

「いや、『魔法と精霊との関わり』の部分を君に
変えてもそのまま俺の君に対する気持ちが成り立つと
いうか説明がつくなと納得したところだ。」

「はあぁ⁉︎」

また私じゃなくユリウスさんが声を上げた。
もっと言うなら私の代わりに赤くなってまでいる。

そのおかげで私の方は声を上げるのを忘れて
呆気に取られたけど。

えーと・・・つまりそれって、生涯を懸けて私に
関わり続ける価値があるとか飽きないっていう、
なんというか求婚めいた・・・あれ?今そんな話
してなかったよね?

混乱する私の心の声を代弁するように、またもや
ユリウスさんが声を上げた。

「団長、いい加減にするっすよ!何なんスか、なんで
団長んちの家宝の話がユーリ様へのお気持ち表明に
すり替わってるんすか‼︎隙あらば求婚やら口説いたり
するのはやめて下さい⁉︎それ、公共の場・・・って
言うか殿下の前でも普通にやらかしそうで、聞いてる
俺が怖い‼︎」

そうだ、そういうことだ。ユリウスさんが私の
言いたいことをなぜか全部言ってくれた。

こくこく頷いて同意したけどシグウェルさんは
不満そうだ。

「俺は自分の気持ちを客観的に分析した結果を説明
しただけなのに何が悪い。これのどこが求婚だ。
それに、口説くならもっと別のことを言っている。
言って欲しいか?」

ユリウスさんの抗議から流れ弾が私に当たった⁉︎

口説いて欲しいかと私に向き直られてしまった。

テーブルを挟んで対面に座っていたのに、ひょいと
それを乗り越えて近付いたシグウェルさんは、私の
座るソファの背に手をついて距離を詰めるとまた
あの端正な顔を近付けた。

召喚された直後以来の壁ドン状態の再来だ。

「ちょっ・・・近っ!」

慌てた私に構わずに、シグウェルさんはひたと私を
見つめた。

「君が誤解していなければいいが、俺は君が癒し子
だからだとか他に類例を見ない魔力の持ち主だから
魅かれているわけではない。」

いつも通りの冷静な声色なのに、至近距離でその声を
聞くと何だかソワソワして落ち着かない。

思わずもぞりと動いたら逃げるな、と言われて
ソファについていない方の手で髪の毛を一掬い
取られて固まった。

「俺が気に入っているのは君のそのユニークで自由な
発想力と明るさだ。それに、君は俺の顔が好きかも
知れないが俺も君のその豊かな表情を見せる顔が
好きだ。」

リオン様の真摯で真っ直ぐな言葉とも、レジナスさん
の騎士道精神溢れる誠実な誓いとも違う。

こんなにド直球なストレートを投げられたら恋愛
経験値がゼロに近しい私には打ち返す術がない。

黙ってストライクが入るのを見送るだけだ。

シグウェルさんの火の玉豪速球は続けてバンバン
投げ込まれた。

「笑顔もいいが、幸せそうに菓子を食べている顔も、
興味を示したものに向ける煌めいた顔や俺に向かって
抗議する時のむくれた顔もいい。それに、ああ・・・
今みたいに羞恥で瞳を潤ませるその表情もいいな。
他にもっと俺の知らない表情があるならそれを暴く
のが楽しみだ。別の顔ももっと俺に見せてくれ。」

何をすればまだ見た事のない君の別の顔を俺に
見せてくれる?

最後にまた耳元で囁くようにそう言われた。
さっきみたいにまるで耳から脳へと直接言葉を
注ぎ込むみたいに。

その上、髪の毛に静かに口付けを落とすとそのまま
私を上目遣いで見て反応を試される。

ギ、ギブアップだ。

スリーストライクで退場なはずなのに、3つどころか
4つも5つもストライクゾーンに直球を投げ込まれて
いるのに打席から降ろしてもらえない。

審判・・・もといユリウスさんに助けを求めようと
思ってそっちを見たら、ユリウスさんは座り込んで
両手で顔を覆っていた。

その手の隙間から赤くなっている様子が見て取れる。

「とてもじゃないけど見てられないっす・・・!
え?これ、俺ここに居てもいいんすかね⁉︎
もしかして2人の邪魔してるっすか⁉︎」

やめて、このままこの場からユリウスさんが消えたら
もっとすごい事になる気がする。

おかしい。シグウェルさんってもっとこう、冷徹な
感じというか他人の領域に踏み込んでこないどこか
一歩引いた感じの人だと思っていたのに。

こんなに情熱的な事を言うイメージが全くなかった
上に、それが全部私に向けられた言葉だというその
事実に、私の小さな脳みそでは処理能力が追いつかず
ぼーっとしてしまった。

その時ふと、なぜか元の世界で働いていた時に研修で
見せられた世界エネルギー事情的な動画のことを
思い出した。

水とメタンガスを合成して出来るメタンハイドレート
いわゆる燃える氷の動画だ。

見た目は真っ白で冷たくて、凍てつく氷なのに火を
近づけると青い炎を上げて燃えるその氷は、見た目は
冷たく他人を拒絶しているのにこれと決めた相手には
熱心に迫るシグウェルさんを連想した。すると、

「まさか団長が色恋沙汰になるとこんなに人が
変わるなんて知らなかったっす!今までの見合い相手
のご令嬢方にも、ちょっとでもそれ位の情をかけて
やっても良かったんじゃないすかね⁉︎こっぴどく
断られた相手も紹介者の団長のご両親もかわいそう‼︎
団長もやれば出来る子だったって、今の団長の様子を
見せてあげたいっす!」

がばっ、と真っ赤にした顔を上げてユリウスさんが
そう言った。

だけどシグウェルさんはまだ私の髪の毛を弄んだまま

「お前は馬鹿か。どこの世界に石ころや樹木に
向かって口説き文句を言う奴がいる?」

冷たくユリウスさんを見た。

「立派な貴族のお嬢さん方を石ころ扱いとか、それ
絶対ここだけの話にするっすよ⁉︎ていうか、ええ?
そんな認識で今まで見合いしてたんすか⁉︎」

「偽物とは言え家宝に傷を付けたからな。それ以来
父には最低年に一度の見合いを条件に、国王陛下への
謝罪や魔導士が不在の間の国の防衛費の補填など
尻拭いを手伝わせてしまった。俺の唯一の失敗だ。
だが話が通じず会話が成り立たない相手など石ころ
同然だろう?石ころにいくら気安く触れられようが
石だと思えば腹も立たなかったしな。」

それに見合いはするが相手をするとは言っていない。
そう言う始末だ。

「とりあえず離れましょう‼︎」

ユリウスさんの方へとシグウェルさんの気が逸れた
ので我に返って提案すれば、

「なんだ、まだ途中だ。ちゃんと俺の顔を見て話を
聞け。」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべられた。顔の良さを
使うと言っただけあって、まだ至近距離で私に迫った
まま何か言うつもりらしい。

いや、もうお腹いっぱいなんですけど⁉︎








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