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第十二章 癒し子来たりて虎を呼ぶ

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「ユーリ様ぁぁっ‼︎」

リオン様達と一緒に神殿まで戻ると、涙目の
マリーさんにがっしりと抱きつかれた。

「怖かったです~!突然大きな雷の音がして地震が
起きたと思ったら、体が全然動かなくなるし‼︎
ていうか体が勝手に平伏しちゃうし空から降ってくる
謎の声はグノーデル神様だって名乗って山は突然
吹き飛ぶし‼︎でもユーリ様がご無事で本当に本当に
良かったあぁ~‼︎」

だいぶパニックになりながら私に抱きついたまま
そんな事を言っているマリーさんの後ろでは、
シンシアさんも顔色を悪くしたまま胸元で両手を
握りしめ、無言でこくこくと頷いている。

「グノーデルさんの雷って音も光も大きいから
びっくりしちゃいますよね!」

「びっくりどころじゃないですよ~‼︎」

どうやらグノーデルさんの存在はあの場に居合わせた
人達だけでなくこの町全体にその影響は及んでいて、
リオン様達のように体が無意識のうちにその迫力に
圧倒されてしまったらしい。

あははと笑いながらマリーさんの背中をさすって
あげて落ち着かせようとするけど全然効果が
なさそうだ。まだ震えている。

そんな私に神官さんが

「グノーデル神様がこの地上に降臨されるなどまさに
奇跡・・・癒し子様のお力というのはなんと偉大な
ことでしょう・・・生きてこの身にグノーデル神様の
ご神威を感じ、そのお声を実際に耳にすることが
出来るなど夢にも思いませんでした。更には魔物の
脅威からもお守りいただきユーリ様、本当に
ありがとうございます。」

深々と頭を下げてくれた。でも私は何もしていない。

土竜もラーデウルフを祓うのも、全部グノーデルさん
がしてくれたことだ。

「私は何もしていませんから。感謝でしたら
グノーデルさんにして下さい!グノーデルさんの
神殿をいつも綺麗に整えて勇者様の遺物もきちんと
祀って、参拝する人達がグノーデルさんのことを
想ってくれればそれが一番です!」

そうすればきっとグノーデルさんは自分の力を
取り戻すのがまた早まるだろう。それはきっと、
ヨナスの力をこれから先も牽制し続ける事に繋がる。

「それよりも、町がすっかりぼろぼろです。
みんなで早く片付けてデクラスに戻りましょう!」

町の郊外からここまで戻ってくる間、町の中は魔物が
暴れたせいでかなり壊されていた。

瓦礫の山や消火されて火がくすぶっている建物、
倒れているラーデウルフ。

これらをある程度片付けないと帰るに帰れないが、
帰りの道中でも私の癒しの力を待っている人達が
あちこちの町にいるのだ。

日程は1日も遅らせることは出来ない。

リオン様も、

「ユーリの力を待っている人達の為にも日程を
変えることは出来ない。申し訳ないがここは
最低限の始末だけつけさせてもらって、予定通り
今日の夜はデクラスに戻らせてもらうよ。
そのかわり、騎士達を半分ほど残して当分の間
この町の片付けに当たらせよう。」

そう指図してレジナスさんもそれに頷く。

「一週間程度駐留させて復旧に当たらせましょう。
デクラスの領主へはここに同行させた魔導士を
通じて、我々の戻りが今日の夜半になることも
伝えさせます。」

そこへザドルさんもやって来た。

「いやぁ凄かった。あんな体験、もう二度と出来ない
でしょう。これは子々孫々、この町ではずっと
伝えられていくことでしょうなあ。」

そう言いながら、グノーデルさんが吹き飛ばした
あの山についても教えてくれた。

どうやらちょっと行って見てきてくれたらしい。

町の外から山へと続く、馬車が互いにすれ違うのも
難しい細い登り道の先にあった山とトンネルは
綺麗さっぱり消え失せていて、いつの間にかここ
アドニスから山を一つ越えた先にあるデクラスまで
真っ直ぐで平らな一本道が出来上がっているという。

それも大型の馬車が余裕ですれ違えるほどの広さで
ガタガタや穴もない、本当に綺麗な道だそうだ。

グノーデルさんはただ山を吹き飛ばして砂に変えた
だけじゃなく、綺麗な道まで通してくれたらしい。

「あれならデクラスへ出るまでこれまで半日ほど
かかっていたのがかなり早く着くかも知れません。
お互いの町の者も今までよりも活発に行き来が出来る
ようになるでしょうし、領主様も二つの町の管理を
よりしやすくなります。」

そう言って嬉しそうに笑っていた。

その後はリオン様が話していたようにアドニスの町の
後片付けを騎士さんや傭兵さんがある程度して、
私はそれを神殿の中で待っていた。

グノーデルさんに渡された、シグウェルさんの家の
家宝らしい魔石は綺麗な布で包んでしっかりと
しまってある。

勇者様の小刀以外にも思わぬ頼まれごとをされて
しまったし、これは王都へ戻ったらいよいよ
シグウェルさんに会わないとなあ。なんて考えて
いた私の前にお茶が置かれた。

「ユーリ様、お茶です。」

エル君だ。それであっ、と思い出す。

そういえばエル君にも渡すものがあった。

「エル君、これ!」

ワンピースのポケットからハンカチに包んでいた物を
取り出してエル君に見せる。

「何ですか、これ。」

不思議そうな顔をしたエル君に笑いかける。

「グノーデルさんからエル君へのプレゼントです!」

「・・・え?」

エル君はぽかんとして私を見つめた。

「グノーデルさんの被毛です!これをエル君の
持っていたあの糸の形の武器と一緒に煮溶かして、
もう一度同じような糸状の武器を作るようにって
言ってました。竜の石化や炎にも負けないものが
出来上がるそうですよ?」

グノーデルさんの被毛、と言う言葉に周りにいた
神官さん達が色めき立った。

「グッ、グノーデル神様の被毛⁉︎神の顕在化の証が
消えずに残っているのですか⁉︎」

「私にもぜひ見せて下さい‼︎」

「ふ、触れてもよろしいでしょうか・・・⁉︎」

「この神殿に少し分けていただくことは?」

エル君を押し退けそうな勢いだ。

「ダメです‼︎」

被毛を包むハンカチをサッとしまってエル君の手に
握らせる。

「これはグノーデルさんが、エル君のためにって
くれたものですから全部エル君の物です‼︎」

キッパリとそう言えば、さすがに神官さん達も
シュンとする。エル君は

「僕のためのもの・・・?」

信じられないというように呟いた。

「そうですよ。私を守るために必要だろうって。
それから、エル君が自分と同じお揃いの白い色で
嬉しそうでした。自分と同じ色の者は不敬だとか
神様の供物だって言うのはとんでもない誤解だとも
言ってました。そんなデタラメで自分と同じ色の人が
少なくなったのは悲しいって。」

私の言葉にエル君の白い頬にみるみる赤みが差す。

「グノーデル神様とお揃い・・・?嬉しいって、
ほんとうに・・・?」

エル君はそう呟きながら、ハンカチに目を落として
小さな手でそれをぎゅっと握りしめている。

そんなエル君の様子と私の言葉に神官さん達は
少しだけバツの悪そうな顔をしていた。

神職についている人達だから、一般の人達のように
エル君に対してあからさまに嫌な顔はしていなかった
けど、やっぱり白い色の人については多少は偏見
めいて何か思うところがあったらしい。

でもこうやってグノーデルさんの気持ちや言葉が
少しずつ正しく伝わって、そのうちエル君やその他の
白い色の人達に対する偏見がなくなっていけば
いいなと思う。

ありがとうございます、と小さくぽつりと言って
かすかに笑ったエル君の顔は、今までに見たことが
ないくらい穏やかで嬉しそうな笑顔だった。
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