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第八章 新しい日常

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「ユーリにわざとお酒を飲ませようとするなんて
二度としないで下さい!」

注意したリオン様に対して、陛下は

「だけどオレだけ見てねぇのは不公平だろう?
これは仮の姿で、本当はもっと大きくて美人だって
話は聞いてるんだけどな。見てみたいと思って
当然じゃねぇか。」

なあ、と私の頭を撫でる。

まあ、イリューディアさん渾身の作の姿なので
褒められると嬉しいし、見せてあげたいのは
山々だけどそのために無理矢理お酒を飲むのもね。

「ダメです。大きくなった姿は確かに美しいですが、
酔ったユーリは結構厄介・・・扱いが難しいので。」

・・・リオン様が聞き捨てならないことを言った!

「リオン様⁉︎ダーヴィゼルドで怒った私のことを
そんな風に思ってたんですか?悪かったって
反省したのはウソですかっ⁉︎」

もう一度ちゃんと怒った方がいいのかな⁉︎
お菓子から顔を上げて抗議すれば、

「反省した気持ちに嘘はないよ。でもユーリ、
自覚してるかどうか分からないけど酔ってる時の
君はわりと絡み酒だから。何をしでかすか
分からなくて心配なんだよ。」

陛下の膝の上の私の顔を紙ナプキンで拭きながら
リオン様はそう言う。どうやらお菓子の食べかすが
ついていたらしい。全く格好がつかない。

「ふぐぅ・・・」

納得できないが一度目は酔っ払って記憶がないし
2回目の時は、はしゃいで馬鹿みたいに空に
呼びかけた挙句雷を落としているので何も言えない。

「分かった分かった、夫婦喧嘩もそこまでにしとけ。
お前らそんなんじゃ奥の院で部屋が繋がっても
意味がねぇだろ、仲良くしろ。」

「ふうっ・・・‼︎」

まだ夫婦とかそんなんじゃないもん!と言いたいけど
陛下にそんな反論していいんだろうか。

ここはやっぱり実の息子の出番だろう。

リオン様、陛下に何か言ってやって!と
正面を見ればぽかんと口を開けて顔を赤くした
リオン様が目をまん丸にしていた。

陛下がぶはっ!と吹き出す。

「何だよその顔!お前のそんな顔初めて見るわ。
ユーリちゃんがお前を選んでるのは分かってるし、
そのためにアルマの部屋を使わせて欲しいって
許可を貰いに来たんだろうが。
今更照れるところかよ」

「それは・・・そうなんですが」

リオン様がまだ僅かに赤面したまま、やっと
言葉を絞り出した。本当だ、こんなリオン様は
初めて見る。すっかり陛下のペースだ。

「今回の申し出を受けて考えたんだけどな。
いくらユーリちゃんが癒し子でこの世界に
奉仕するのが使命とは言え、何の褒賞もなしに
働かせっぱなしってのはねぇだろう?」

なあ、と頭を撫でながら陛下は私を見た。
褒賞とか考えたこともなかった。

私はただ、この世界を豊かにするお手伝いをして
それがひと段落ついたらのんびり暮らしたいだけだ。

「だからどうせなら褒賞代わりに、王宮の
敷地内にユーリちゃん専用の館を建てるか?
どうだ、一棟いっとくか?」

もう一軒行っとく?みたいな飲み屋にでも
誘うような軽いノリで私専用の建物を建てると
言われてビックリする。

「いっ、いえ!それはあまりにも勿体無いです‼︎
それに私、奥の院をすごく気に入ってるので!
あの庭園で木陰に座ってのんびり本を読んだり
お昼寝するのが好きなんです‼︎」

「・・・そうか。アルマも調子のいい時は
よくそうして木陰で本を読んでたな。」

陛下の青い瞳が昔を懐かしむように揺らめいた。

「ユーリちゃんがそれでいいって言うなら、
残念だが仕方ない。褒賞はまた別にするか。
もし何か思い付いたら何でも言ってくれ。
可能な限りその望みは叶えよう。」

そう言った陛下はリオン様に向き直り、

「あのガーデンルームは好きに使ってくれ。
というか、あの館自体を丸ごとユーリちゃんに
譲ってもいいんじゃねぇか?お前には元々
別に王子宮があるだろ。もしもこの先、
ユーリちゃんが勇者様みたいにお前の他に
あと6人夫を持ったらどうするよ?そいつら
どこに住まわせるんだ。通わせるつもりか?」

すごい事を言い放った。

「私、7人も旦那様はいりませんよ⁉︎」

リオン様の他にもう1人レジナスさんが旦那様候補に
いることは棚に上げて、さすがに反論した。

「でもちょうど西方守護伯の爺さんから孫の
結婚相手を探して欲しいって頼まれてるんだよな」

「父上、その子はまだ5歳な上に西方守護伯の
後継者でしょう⁉︎滅多なことを言わないで下さい、
ユーリが驚いてるじゃないですか!」

むっとしてそう言ったリオン様を、陛下は面白そうに
ニヤニヤして眺めている。
どうやらリオン様は揶揄われているらしい。

「まあ7人はどうかと思うが、先のことなんぞ
誰にも分からんだろう?もしもと言うこともある。
お前の今居る部屋はそのままでもいいから、
奥の院の権利はとりあえずユーリちゃんに譲っとけ。
身一つでこの世界に呼ばれて来たこの子には
部屋一つじゃなく、ちゃんとした帰る場所とか
居場所があった方がいい。」

な!と頭をぽんぽんされる。
微妙に強い力加減でそうされると、まるで
強制的に頷かされてるみたいに私の頭は
上下した。

こくこくと頷く格好になりながらそうか、と
気付く。全く見ず知らずの世界に来て、
住む所も本当はきちんと定まっていない
王宮に間借りしてるみたいな状態の私が
心細くないか陛下は心配しているのだ。

もしかしてさっき私のために館を建てると
言ったのもそのためかも知れない。
ただのノリじゃなかったのか。

リオン様もそれに気付いたらしく、私を見つめた。

「・・・そういうことなら奥の院の権限を
ユーリに譲るのに僕も異論はありません。
むしろ賛成です。」

「お、やっと大人しく聞き分けたな。」

よしよし。と満足げに頷いた陛下に
ただし、とリオン様は続けた。

「7人も夫を住まわせるためにそうするんじゃ
ないですからね!」

「何だよ、それはオレじゃなくユーリちゃんに
言ってくれよ。選ぶのはオレじゃなくて
ユーリちゃんなんだからな。」

なー?と聞かれても困る。まあ元の姿なら
ともかく、まだまだ小さく見えるらしい私に
求婚してくる物好きはそういないだろう。

「大丈夫ですよ、そんな人滅多にないと思うんで!
陛下もリオン様も心配し過ぎです‼︎」

そう言った私を二人は無言で見つめた後、
陛下がなぜか呆れたようにリオン様へ声を掛けた。

「・・・おい、大丈夫か?無自覚とか無邪気ってのが
一番タチが悪りいぞ。お前がしっかり見てないと
あっという間に旦那の7枠が埋まりそうなんだが。」

「分かってますよ。そこはちゃんと見極めます。
僕だって無駄に奥の院に人を増やすつもりは
毛頭ありませんから。」

「心配だよ、オレは。せっかくカティヤの他に
もう一人かわいい娘が出来るのに、増えた旦那に
ユーリちゃんを独占されたら敵わねぇからな。」

まだ居もしない旦那様の心配をされても困る。
・・・というか、そっか。
陛下から見ると私は義理の娘になるのか。

元の世界ではすでに両親は亡くしているので
何だかこそばゆい気分になる。

娘という単語に反応してソワソワした
私に気付いた陛下は目を細めた。

「お、何だ?お義父とう様って呼んでみるか?
いいぞ、言ってみろ。カティヤがいないと
オレのことをそう呼んでくれる奴がいなくて
寂しいからな。ほれ。」

促されて顔を覗き込まれ、じっと待たれる。
これは言わないといつまでも待たれるやつだ。

「お・・お義父とうさま・・・?」

うわあ、思った以上に照れる。
陛下の顔を見てられなくて俯いた。

頬に手を当ててみれば熱い。これはかなり顔が
赤くなっているに違いない。

「なんっだそれ‼︎可愛すぎか‼︎」

頭の上で物凄く大きな陛下の声がしたかと思うと
陛下の上に座ったまま、むぎゅっと抱き締められて
頬に口付けを一つ落とされるとそのままぐいぐいと
頬擦りされた。

「ちょっと父上⁉︎」

リオン様の慌てた声が聞こえる。
絶賛頬擦り中だから
その表情は見えないけど。

「何だよ、大丈夫だって!今日のためにちゃんと
無精ヒゲは剃って身支度整えて来てんだし
痛くないから心配すんな‼︎」

「そんなバカみたいな事は心配してません!
ユーリから離れて下さいって言ってるんです‼︎」

「あーうるせぇうるせぇ!
男の嫉妬は醜いって言っただろ。
それより見たか、おとーさまって言って
俯いた照れてる顔がすごく可愛いぞ⁉︎
くっそ、自慢してぇけど他の奴にこの
可愛い顔を見せるのも勿体無ぇな。」

「だから何で父上がユーリを独占しようと
してるんですか!」

わあわあ言い合う二人に収拾がつかない。
さすがに陛下をお義父とうさま呼びは照れるし
こんな騒ぎになるのなら、普段は陛下って呼ぼう。

それが周りの平和のためだ。

頬擦りされながら私は心の中でそう
決めたのだった。

その後、ひとしきり私に思う存分頬擦りをして
満足したのか陛下はやっと落ち着いた。

それでもまだ私をあぐらをかいた膝の上に乗せたまま
頬擦りのせいで乱れた私の髪の毛を大きな手に
似合わない優しい手付きで撫でつけ整えながら話す。

「そういえばあのガーデンルーム、ベッドを
また入れないとなんねぇし家具も高さが
合わねえから、ユーリちゃん仕様に変えなきゃ
いけねぇだろ?
それくらいはオレにやらせてくれないか?
そうすればアルマも喜ぶだろうしな。」

そうだな、あそこから見えるところに新しく
花を植えてもいいかも知れねぇ。
もうずっと同じ景色だし飽きただろ?

ベッドも部屋の中に数段高さを付けて、
そこに置こう。
そしたら起きた瞬間から見降ろすように
庭園を眺められるな。

あれこれ思いついた事を話す陛下は楽しそうだ。
奥の院を建てる時もこんな風に陛下自ら色々と
王妃様のことを想ってバリアフリーなあの館を
設計したのかな。

そう思っていたのは私だけでなくリオン様も
だったようで、さっきまでの陛下を怒っていた
勢いはすっかり影を潜めて複雑そうな顔で
その様子を見つめていた。

















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