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第七章 ユーリと氷の女王
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ケモ耳付きのコート姿の私を一通り
誉めそやしたユリウスさんは、
『その格好のユーリ様と一緒に山に
行けなくて残念っす。』と言うと
シェラさんを伴って先日私が雷を
落とした山へと調査に向かった。
その間、私はヒルダ様にお茶の誘いを
受けている。
「ユーリおねえちゃま‼︎」
暖かい日が差し込むサンルームへ足を運ぶと、
フレイヤちゃんが満面の笑みを浮かべて私に
飛び込むようにして抱きついてきた。
あれ?初対面はもの凄い人見知りだったのに。
「カイとうさまと、バルとうさまを
たすけてくれてありがとうございます‼︎」
そう言ってキラキラの目で私を見上げてきた。
そっか、どちらもフレイヤちゃんにとっては
大事な父親だ。バルドル様や他の騎士さん達は
トゲトカゲの毒毛の後遺症もなく無事に回復した。
カイゼル様のベッドの隣で眠っていた
フレイヤちゃんも目覚めてからバルドル様に
会ったのだろう。
「フレイヤ、慎みなさい。ユーリ様は大変な
お仕事をなされたあとなのですよ、
きちんと礼儀をわきまえなさい。」
相変わらずヒルダ様は幼いフレイヤちゃんにも
躾が厳しい。こんなにキリッとしてるのに、
人前でカイゼル様にキスしちゃうくらい
情に厚い・・・っていうか情熱的な
そのギャップよ、とあの時の2人を思わず
思い出してしまって赤くなる。
「どうかされましたかユーリ様。」
そんな私にヒルダ様は不思議そうにしている。
フレイヤちゃんも小首を傾げて私を見上げていた。
「あ、いえ。カイゼル様はヒルダ様と
随分仲良さげで微笑ましかったな~って
思い出してました。」
何となく誤魔化して言ったけど、そういえば
カイゼル様はヒルダ様に対してやめなさい、とか
割と命令口調だったのが謎だ。
そんな私の疑問を汲み取ったのか、
ヒルダ様が答えてくれた。
「ああ、カイと私は幼馴染なのですよ。
彼の方が歳下ですが身分も立場も上の私に
昔から歯に衣着せぬ物言いで、例え意見が
対立しようとも私に正直に思いを伝えてくれる
私にとってなくてはならない貴重な人間なのです。」
美人、というよりはそのきりりとした顔立ちから
美形と言う方が似合うカッコいいヒルダ様が、
そこで初めてふんわりと女性らしい
柔らかな笑顔を浮かべた。
「私はそんなカイを愛しております。
ですから、ユーリ様。この度はカイの命を
救っていただいて本当にありがとうございました。
ヒルデガルド・ダーヴィゼルド、この大恩は
我が身と魂に刻み込み、生涯決して忘れませぬ。」
臆面なく愛してると言い切られて
ひえぇ、と赤くなったところに輪をかけて
仰々しくお礼を言われてしまった。
どうすればいいのか分からずに焦ってしまう。
「あ、愛・・素敵ですね、羨ましいです‼︎
私もヒルダ様を見習っていつかそんな人と
出会えればいいなあ~‼︎なんて」
よく分からない事を口走ったら、フレイヤちゃんも
「わたくしもとうさまたちみたいなひとと
いつかけっこんするんです!」
私のドレスの裾を握りしめてにこっと
笑い掛けてくれた。かわいいなあ。
そんな私にヒルダ様はなるほど、と頷いた。
「それならばユーリ様が良い御伴侶を選べるよう
ぜひお手伝いさせてください。どのような殿方が
お好みですか?お年や見た目、性格は?
やはり魔法を使える方の方がお話が合いますか?」
「えっ、何でそんなぐいぐい来るんですか⁉︎」
「この世界ではユーリ様の年頃で身分のある者は
すでに伴侶がいてもおかしくありませんので。
フレイヤもあと数年もすれば、縁談の話が
舞い込んで来ます。私がカイと結婚したのは
14の時ですがユーリ様も今、それ位のお年では?」
そう言われて愕然とする。そうか、この世界では
初婚年齢がそんなに早いんだ。
え?召喚者だけど私もそんな感じになるの?
「ユーリ様が望めばいくらでも伴侶に名乗りを
上げる者がいるでしょうから、ご自分の理想を
前もって把握しておかないと周りからあれこれ
押し付けられて大変なことになりますよ。
勇者様が良い例です。あの方はお優しいだけに
周囲の希望を断り切れずに御伴侶様が増えに
増えてしまったのだと伝わっております。」
勇者様・・・やっぱり断り切れなかったんだ・・。
「どなたか想いを寄せてらっしゃるお方は?」
「いえ、特には・・・」
「では漠然としたもので良いので、理想は?」
カイゼル様を助けてもらった恩返しとばかりに
ヒルダ様が積極的過ぎて、強制的に
恋バナをさせられている感がすごい。
「え、えーとあんまり声の大きくない
人だといいですね・・・」
大声殿下みたいな人はご遠慮願いたい。
「なるほど、穏やかな方が良いのですね。
それから?」
「うーん、いつも優しくニコニコしてて、
私が何かやらかしても見守ってくれてるような?」
この世界に来てから何かとやらかしている
私にそれはマストな人材だろう。
「まるで私のカイのような人ですね。
そのお気持ちはよく分かります。
何もせず、そばにいてくれるだけでも
穏やかな気持ちになれるのは大事です。
気付けばいつもそこにいて、微笑んで
くれているだけで安心できますね。」
なるほど、そう言われるとそうかも知れない。
「ほかには?優しい方というご希望だけで
よろしいですか?体格は?がっしりした方か、
それともすらりと細腰の方が?」
「ほ、細腰?体格は特に・・・。あっ、でも
せめて私を軽々と縦抱き出来るくらいの
筋力は欲しいですね。」
「フレイヤはバルとうさまみたいに
つよいひともすきです‼︎」
はい、とフレイヤちゃんが手を挙げた。
なるほど、いざという時に頼りになる人がいいね。
ヒルダ様がフレイヤちゃんの頭を撫でる。
「そうだなフレイヤ。バルドルは普段は
物静かだが、何かあれば必ず私や
フレイヤを守ってくれるからな。」
「じゃあえーと、何かあった時にはすぐに
駆けつけてくれて、いつでも私の味方を
してくれるって言うのも追加で。
てことは、剣が強い騎士さんみたいな人?」
フレイヤちゃんにつられてつい、勢い込んで
そう言った時だった。それまで空気のように
静かに私達の給仕をしてくれていたシンシアさんが
もの凄く良い笑顔を私に向けた。
「まあユーリ様、それはまるでどなたかと
どなたかを足して割ったような理想の
殿方ではありませんか?
良いご縁は案外近くにあるかも知れませんね。」
「へっ?」
「無意識のうちに好ましいと思っている
お方達の事を口にしてしまったのでしょうね。
いつもはあまりにも近くにいすぎて意識して
いなかったものが、こうして距離を置くことで
意識されたのかも知れません。
ここに来られたのは良い機会になりましたね。」
「シンシア嬢、それはどういう意味なのだ?」
ヒルダ様の問いに、シンシアさんが
お耳を失礼いたします、と
顔を寄せてヒソヒソ話している。
私に内緒とかなんだろう。
「・・・ああ、なるほど。委細承知した。
ユーリ様、失礼いたしました。
どうやら私が世話を焼くまでもなく、
ユーリ様には良いご縁があるようです。
私はそれをこのダーヴィゼルドの地から
暖かく見守ることにします。
王都に戻られてから、いつか近いうちに
良いご報告が聞けることを心より
お待ち申し上げておりますよ。
その際はこの地をあげて心尽しの
お祝いの品を贈らせていただきます。」
「え?急にどうしたんですか?」
シンシアさんが何を言ったのか知らないけど、
突然始まった恋バナが突然強制終了した。
「いずれ分かるでしょう。さ、ユーリ様
こちらの菓子もぜひご賞味下さい。
北方原産の果実を練り込んである大変
甘くておいしい焼き菓子ですよ。」
ヒルダ様が私にクッキーの乗った皿を
差し出して来た。
どうやらこれ以上恋バナを続けるつもりは
ないらしい。それならそれでいいんだけど、
なんだか気になるんだよねぇ・・・。
誉めそやしたユリウスさんは、
『その格好のユーリ様と一緒に山に
行けなくて残念っす。』と言うと
シェラさんを伴って先日私が雷を
落とした山へと調査に向かった。
その間、私はヒルダ様にお茶の誘いを
受けている。
「ユーリおねえちゃま‼︎」
暖かい日が差し込むサンルームへ足を運ぶと、
フレイヤちゃんが満面の笑みを浮かべて私に
飛び込むようにして抱きついてきた。
あれ?初対面はもの凄い人見知りだったのに。
「カイとうさまと、バルとうさまを
たすけてくれてありがとうございます‼︎」
そう言ってキラキラの目で私を見上げてきた。
そっか、どちらもフレイヤちゃんにとっては
大事な父親だ。バルドル様や他の騎士さん達は
トゲトカゲの毒毛の後遺症もなく無事に回復した。
カイゼル様のベッドの隣で眠っていた
フレイヤちゃんも目覚めてからバルドル様に
会ったのだろう。
「フレイヤ、慎みなさい。ユーリ様は大変な
お仕事をなされたあとなのですよ、
きちんと礼儀をわきまえなさい。」
相変わらずヒルダ様は幼いフレイヤちゃんにも
躾が厳しい。こんなにキリッとしてるのに、
人前でカイゼル様にキスしちゃうくらい
情に厚い・・・っていうか情熱的な
そのギャップよ、とあの時の2人を思わず
思い出してしまって赤くなる。
「どうかされましたかユーリ様。」
そんな私にヒルダ様は不思議そうにしている。
フレイヤちゃんも小首を傾げて私を見上げていた。
「あ、いえ。カイゼル様はヒルダ様と
随分仲良さげで微笑ましかったな~って
思い出してました。」
何となく誤魔化して言ったけど、そういえば
カイゼル様はヒルダ様に対してやめなさい、とか
割と命令口調だったのが謎だ。
そんな私の疑問を汲み取ったのか、
ヒルダ様が答えてくれた。
「ああ、カイと私は幼馴染なのですよ。
彼の方が歳下ですが身分も立場も上の私に
昔から歯に衣着せぬ物言いで、例え意見が
対立しようとも私に正直に思いを伝えてくれる
私にとってなくてはならない貴重な人間なのです。」
美人、というよりはそのきりりとした顔立ちから
美形と言う方が似合うカッコいいヒルダ様が、
そこで初めてふんわりと女性らしい
柔らかな笑顔を浮かべた。
「私はそんなカイを愛しております。
ですから、ユーリ様。この度はカイの命を
救っていただいて本当にありがとうございました。
ヒルデガルド・ダーヴィゼルド、この大恩は
我が身と魂に刻み込み、生涯決して忘れませぬ。」
臆面なく愛してると言い切られて
ひえぇ、と赤くなったところに輪をかけて
仰々しくお礼を言われてしまった。
どうすればいいのか分からずに焦ってしまう。
「あ、愛・・素敵ですね、羨ましいです‼︎
私もヒルダ様を見習っていつかそんな人と
出会えればいいなあ~‼︎なんて」
よく分からない事を口走ったら、フレイヤちゃんも
「わたくしもとうさまたちみたいなひとと
いつかけっこんするんです!」
私のドレスの裾を握りしめてにこっと
笑い掛けてくれた。かわいいなあ。
そんな私にヒルダ様はなるほど、と頷いた。
「それならばユーリ様が良い御伴侶を選べるよう
ぜひお手伝いさせてください。どのような殿方が
お好みですか?お年や見た目、性格は?
やはり魔法を使える方の方がお話が合いますか?」
「えっ、何でそんなぐいぐい来るんですか⁉︎」
「この世界ではユーリ様の年頃で身分のある者は
すでに伴侶がいてもおかしくありませんので。
フレイヤもあと数年もすれば、縁談の話が
舞い込んで来ます。私がカイと結婚したのは
14の時ですがユーリ様も今、それ位のお年では?」
そう言われて愕然とする。そうか、この世界では
初婚年齢がそんなに早いんだ。
え?召喚者だけど私もそんな感じになるの?
「ユーリ様が望めばいくらでも伴侶に名乗りを
上げる者がいるでしょうから、ご自分の理想を
前もって把握しておかないと周りからあれこれ
押し付けられて大変なことになりますよ。
勇者様が良い例です。あの方はお優しいだけに
周囲の希望を断り切れずに御伴侶様が増えに
増えてしまったのだと伝わっております。」
勇者様・・・やっぱり断り切れなかったんだ・・。
「どなたか想いを寄せてらっしゃるお方は?」
「いえ、特には・・・」
「では漠然としたもので良いので、理想は?」
カイゼル様を助けてもらった恩返しとばかりに
ヒルダ様が積極的過ぎて、強制的に
恋バナをさせられている感がすごい。
「え、えーとあんまり声の大きくない
人だといいですね・・・」
大声殿下みたいな人はご遠慮願いたい。
「なるほど、穏やかな方が良いのですね。
それから?」
「うーん、いつも優しくニコニコしてて、
私が何かやらかしても見守ってくれてるような?」
この世界に来てから何かとやらかしている
私にそれはマストな人材だろう。
「まるで私のカイのような人ですね。
そのお気持ちはよく分かります。
何もせず、そばにいてくれるだけでも
穏やかな気持ちになれるのは大事です。
気付けばいつもそこにいて、微笑んで
くれているだけで安心できますね。」
なるほど、そう言われるとそうかも知れない。
「ほかには?優しい方というご希望だけで
よろしいですか?体格は?がっしりした方か、
それともすらりと細腰の方が?」
「ほ、細腰?体格は特に・・・。あっ、でも
せめて私を軽々と縦抱き出来るくらいの
筋力は欲しいですね。」
「フレイヤはバルとうさまみたいに
つよいひともすきです‼︎」
はい、とフレイヤちゃんが手を挙げた。
なるほど、いざという時に頼りになる人がいいね。
ヒルダ様がフレイヤちゃんの頭を撫でる。
「そうだなフレイヤ。バルドルは普段は
物静かだが、何かあれば必ず私や
フレイヤを守ってくれるからな。」
「じゃあえーと、何かあった時にはすぐに
駆けつけてくれて、いつでも私の味方を
してくれるって言うのも追加で。
てことは、剣が強い騎士さんみたいな人?」
フレイヤちゃんにつられてつい、勢い込んで
そう言った時だった。それまで空気のように
静かに私達の給仕をしてくれていたシンシアさんが
もの凄く良い笑顔を私に向けた。
「まあユーリ様、それはまるでどなたかと
どなたかを足して割ったような理想の
殿方ではありませんか?
良いご縁は案外近くにあるかも知れませんね。」
「へっ?」
「無意識のうちに好ましいと思っている
お方達の事を口にしてしまったのでしょうね。
いつもはあまりにも近くにいすぎて意識して
いなかったものが、こうして距離を置くことで
意識されたのかも知れません。
ここに来られたのは良い機会になりましたね。」
「シンシア嬢、それはどういう意味なのだ?」
ヒルダ様の問いに、シンシアさんが
お耳を失礼いたします、と
顔を寄せてヒソヒソ話している。
私に内緒とかなんだろう。
「・・・ああ、なるほど。委細承知した。
ユーリ様、失礼いたしました。
どうやら私が世話を焼くまでもなく、
ユーリ様には良いご縁があるようです。
私はそれをこのダーヴィゼルドの地から
暖かく見守ることにします。
王都に戻られてから、いつか近いうちに
良いご報告が聞けることを心より
お待ち申し上げておりますよ。
その際はこの地をあげて心尽しの
お祝いの品を贈らせていただきます。」
「え?急にどうしたんですか?」
シンシアさんが何を言ったのか知らないけど、
突然始まった恋バナが突然強制終了した。
「いずれ分かるでしょう。さ、ユーリ様
こちらの菓子もぜひご賞味下さい。
北方原産の果実を練り込んである大変
甘くておいしい焼き菓子ですよ。」
ヒルダ様が私にクッキーの乗った皿を
差し出して来た。
どうやらこれ以上恋バナを続けるつもりは
ないらしい。それならそれでいいんだけど、
なんだか気になるんだよねぇ・・・。
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