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第三章 マイ・フェア・レディ

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私が両手にお菓子を持って
一心不乱に食べ続けていた時、
リオン様はシグウェルさん達にあの日
庭園であったことを詳しく話していた。

私が癒しの呪文を唱えると同時に
閃光が走ってたくさんの光の粒と
花びらが降り注いだこと。

そしてリオン様だけでなく、
その光の粒と花びらを浴びたレジナスさんも
体調が良くなり体の悪かったところが
治ったこと。

もしかするとあの時奥の院にいて
閃光を浴びた全員になんらかの影響が
あったかもしれないので、
調べてみる予定だということ。

そんな説明を一通り受けると、シグウェルさんは
レジナスさんも診ると言って
彼に触れて何かを確かめていた。

「ふーん・・・君、元々魔力がないから
殿下と違って何らかの魔法付与が
されている感じはしないなあ。
もしかすると、今まで以上の剛力を得ているとか
素早さが増してるとかそういう物理的な方向で
加護を得ている可能性はないか?」

あれだけの魔法付与を受けた殿下のすぐ側にいて
傷が治っただけで他に何もなしって事は
ないだろうしなぁ・・・と
シグウェルさんは思いを巡らせている。

「・・・分かった、騎士団での
次の演習に参加して確かめてみる」

「それがいい。それで何か気付いた事があれば
ぜひ報告してくれ」

さて、とそこで初めてシグウェルさんは
私にしっかりと向き直った。

私はちょうどお菓子を食べ終えて
一息ついていたので、
実は話すタイミングを見計らってくれて
いたのかもしれない。

「オレに話したいことがあると聞いているけど?」

そうだった。ハッとしてリオン様の
膝の上で姿勢を正した。
本当はきちんと座り直して話したいのだが、
どうしても降ろしてくれないので仕方がない。
真面目な話をするのにもの凄く不本意だけど。

「シグウェルさんは私と初めて会った時、
私の中からイリューディアさんと女神ヨナスの
2人の力の気配がするって言ってましたよね?
そのことについて思い当たることを
話したかったんです」

そうして、このルーシャ国に落ちてくる前に
イリューディアさん達のところであった出来事を
かいつまんで説明した。

もちろん、この世界の荒廃の原因が
イリューディアさんを取り合う
グノーデルさんとヨナスのせいだとかは
言わなかった。ていうか、言えない。
神様同士の痴話喧嘩の末のもらい事故だとは
言えないよ・・・!

あと、私の姿がなぜか小さくなっているのも
癒しの力を使うのに
関係なさそうな話だったので割愛した。

大きかろうが小さかろうが、
結局はイリューディアさんに与えられた力を
問題なく使えていればいいよね?

大体の話を聞き終わって、シグウェルさんは
ようやく得心したようだった。

「なるほど、そういうわけか。
ヨナスに首を締め上げられたから
その首元に残留思念が残り、
戦神グノーデルとヨナスが争ったから
あの召喚の儀式はあそこまで荒れたんだな」

「あの儀式の時はもうホント、
ダメかと思ったっすからね~。
団長がいなけりゃ完全に失敗してたっすよ」
まさかそんな恐ろしい事が起きていたなんて、と
ユリウスさんも顔をしかめている。

「あと、グノーデルさんも私に加護を与えた、
って言ってたんですけどそれがどういう力なのか
全然分かりません・・・」

は?とシグウェルさんが目を見開いた。

「至高神イリューディアに戦神グノーデルの加護?
なんの冗談だそれは」

「いえ、冗談ではなくて!あの時グノーデルさん、
俺も加護を与えたぞ、って確かに言ってました」

「イリューディア神、グノーデル神の加護に
その上ヨナス神の残留思念・・・?
3つの神力がユーリの中にあるということか?」

「え、それじゃあユーリ様は勇者様みたいに
素手で竜を殴り殺せるってことっすか⁉︎」

ぶつぶつ呟いてどうやら自分の
思考の海に沈んでしまったらしい
シグウェルさんの隣で、ユリウスさんが
カッコいいっす!と目を輝かせた。

妙な期待はやめて欲しい。
私はゲーキ・ダマーも使えないし
ものすごく伸びるゴムの手も持っていないよ!

実は、私がグノーデルさんに与えられたらしい
破壊と戦いの加護をさっぱり使えないと
分かっているのには理由がある。

・・・試してみたのだ、ゲーキ・ダマーを。

部屋で一人になった時にこっそりと。
だってグノーデルさんの加護の力っていうのが
どんな風に私に与えられているのか全然
分からなかったんだもん!

だから手っ取り早く、100年前の勇者様よろしく
TVで見たことあるのを試してみた。

なぜゲーキ・ダマーだったかは
癒し子の部屋に剣なんて物騒なものは
置いてなかったからだ。
もしあったら剣を3本使うやつを
試しても良かったし、
なんなら剣が一本しかなければ鉄の塊を斬って
またつまらぬものを斬ってしまった、
とかやってみてもよかった。

想像してほしい。女の子が一人、
部屋の中でTVアニメの真似事をして
頭上に腕を掲げている様子を。

声を張り上げて、わけのわからない呪文を
叫んでいる様を。

そしてその後、何にも起こらずシーンと
静まり返っている室内を。

・・・あれは確か夕方近い時間帯で、
シーンとした部屋の中には
騎士団の人達の警護交代の号令と
鳥のさえずる声だけが外から
聞こえてきてたっけなぁ・・・。

おのれは小学生男子か!と
何も起こらないのが無性に恥ずかしくなって
ベッドの上でゴロゴロ転がった。
今思い出しても恥ずかしい。

そんなわけで、グノーデルさんが
与えてくれたらしい加護の力が何なのか
いまだに私は分かっていない。

だからあと頼りになりそうなのはこの国の
魔法の第一人者である魔導士団長だけ!と
思っていたんだけど・・・
どうやらシグウェルさんにとっても
想定外のことらしい。

結局グノーデルさんの力は今のところ
放置するしかないのかぁ。
そのうちうっかり暴発しないことを祈るのみだ。

「ねぇユーリ。このチョーカー、
ハサミを入れても絶対切れないって
言ってたよね?」

リオン様が私のチョーカーを触りながら
訊いてきた。
そうです、と頷くと

「これがもしかしてヨナスの力
そのものってことはない?
真ん中の赤い宝石も、まるで君の見た
ヨナスの瞳の色みたいだよね」

「ええっ?」

「ヨナスに掴み掛かられた首にあるのも
それらしさが増してるし」

私が自分でもやったみたいに
チョーカーをくいくい引っ張りながら、
本当に取れないねぇ。
なんて言っている。

なんか、そう言われるとそんな気がしてきた。

「シグウェル、もしこれがヨナス神の
呪いの残留思念だとしてユーリに影響はないの?」

「ヨナスのものらしい気配が微かにするだけで、
人に対しての悪意や害意は感じられないので
恐らく大丈夫かと。
・・・解呪、試してみますか?」

リオン様の質問に、思考の海から浮上してきた
シグウェルさんがそう言った。

「お願いしたいです!」

思わず大きな声が出てしまった。
もしこれがヨナスの呪いのカケラだとしたら、
これが取れたら元の大きさに戻れたり
しないかな?

淡い期待をして私はリオン様の膝から降りると
テーブルを挟んで対面していた
シグウェルさんの隣に腰掛けた。

「まず最初に、君の中にある
イリューディア神から受けた加護の力を
探らせて欲しい。
グノーデル神やヨナス神の力も感じられるのか
調べてみたいからね。解呪はそれからだ。
では目を瞑って。これから首に手をかざすから
多少は熱さを感じるはずだが我慢して欲しい。
あとそうだな・・・殿下のネックレスは
壊れるとマズイから一度外した方がいい」

前回の私の部屋での出来事は
何だったんだ、ってくらい
これからすることを丁寧に
シグウェルさんは説明してくれた。

前回もいきなり顔面にせまってこないで
これくらいの説明が欲しかったよ。

いや、前回の反省をふまえての
今回のこの丁寧さなのかな?

「お願いします」

私は素直に目を閉じて
シグウェルさんの解呪を待った。
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