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第三章 マイ・フェア・レディ

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「ーうん、やっぱり。思った通りだ、
よく似合ってるよユーリ」

リオン様がにこにこして私を褒めてくれる。

倒れてから数日後。
回復してすっかり元通りの元気を取り戻した。
以前のようにリオン様とお茶をしている
私の首には華奢で小さなネックレス。

細い銀色の鎖がしゃりん、と音を立てて
その真ん中にはリオン様の瞳の色みたいな
深い青色の石が嵌まっている。

元々ある、あの絶対はずれないチョーカーと
重ね付けされても違和感がない作りだ。

「真ん中のは魔石でね。
色々な魔力をためておく事ができるから、
防御魔法を付与してお守りにも出来るし
自分の予備の魔力を入れておいて
今回みたいな魔力切れの時に回復に
使うこともできる。
勿論、魔力を入れずにただ単にアクセサリーとして
身に付けておくこともできるよ」

兄上の為に取り寄せた石なんだけど、
大きい石だったからついでに僕やユーリの分も
作れたんだ、とリオン様は自分の耳元を
見せてくれた。

そこには私と同じ青い色をした
ピアスが嵌まっている。
大声殿下には指輪にして贈ったらしい。

「お揃いだね」
ふふっ、と笑みをこぼすリオン様。
リオン様とお揃いは別にいいんだけど、
大声殿下ともか・・・。
なんとなく複雑な心境になるのは
たぶんまだ私があのデリカシーのない人に
親しみを感じていないからだろう。
兄上大好きリオン様には申し訳ないので
言えないけど。

なんとなく後ろめたい気持ちを隠すように、
私も子どもらしい元気いっぱいの笑顔で
明るくお礼を言う。

「ありがとうございます、とっても嬉しいです!
魔石ってすごいですね、そんなに
色んな事ができるなんて‼︎」

「純度の高いものは見付けるのが難しいんけどね。
今回は運良く質の良いものが発見されたけど、
場所が普通の人間では採掘が難しい場所だったので
シグウェルに行かせたんだよ。」

「えっ、魔導士団長なのに石の採掘ですか?」

「鉱山の一角が魔物の巣穴になっていてね。
彼でなければ難しかったんだ。まあ、ついでに
近辺の魔物の一掃もしてもらったし
一石二鳥だったかな」

そうか、ユリウスさんが来てくれた時に
シグウェルさんがいなかったのって
そういうこと?

そういえばレジナスさんが
シグウェルさんを呼びますか、と尋ねた時に
リオン様が彼は今いない、って言っていた。

ネックレスが出来上がってきたタイミング的にも
多分あの時に魔石発掘に派遣されてたんだ。

「そんな大変な思いをして取ってきて
もらったなんてなんだか申し訳ない
ですね・・・」

「ただのペナルティーだから気にしないで。
おかげでその分謹慎解除が早まったんだから」

「えっ?」

「召喚直後のユーリのところでの騒ぎは
僕の耳にも入っているよ。
まだこちらの世界に来たばかりのユーリに
失礼な態度を取ったのにそのままにしておいては
他の者にも示しがつかないからね。
当面の間の王宮への出入り禁止を命じていたんだ。」

思いもよらない話に驚く私を尻目に
リオン様はさらりと何でもない事のように言った。

突然口付け寸前までせまるなんて、ルルーから
詳細を聞いた時はどうしようかと思ったよ。

そう言って微笑むリオン様の笑顔が
いつもと違って若干黒い気がする。

あっ、じゃあ謹慎解除ってそういう・・・?
リオン様に不敬を働いて謹慎になったのではなく、
あの時の私の部屋でのことが原因で2人は
謹慎処分になっていたの⁉︎

ルルーさんがプンプンしていた、
王宮を出禁にしてもらいますからね!が
思っていたより大ごとになっていた⁉︎

それに、えっ?ルルーさんから詳細を聞いたって
あの恥ずかしい目にあったのを
ルルーさん言っちゃったの⁉︎

あの時の、眼前にせまるシグウェルさんの
綺麗な顔とか壁ドン状態の体勢とか、色んな事を
一瞬で思い出してぶわっと両頬が熱を持つ。

「でもさすがに癒し子にいつまでも
会えないのは仕事上支障が出ると
シグウェルにも言われたから、
早期の謹慎解除をするのと引き換えに
魔石をね・・・って、ユーリ?
どうかした?顔が赤くなってる」

リオン様は話を続けていたけど、
私の耳にはもう入ってきてなかった。

ルルーさんがリオン様に話したということは、
リオン様の側にはいつもレジナスさんも
いるわけでつまりは、レジナスさんに
までバレている⁉︎

ハッとしてレジナスさんの方を見ると、
私が何を考えていたのか分かったようで
眉を寄せて苦い顔で頷いた。

うぁ~恥ずかしいからせっかく内緒にしてたのに。

「・・・恥ずかしいからあんまり
他の人達には知られたくなかったです」

くうっ、と無念を漂わせてやっとそう言った。

そう。私の今の見た目は子どもでも、
中身はいい年したアラサーなのだ。

ましてや、シグウェルさんは
多分元の世界の私より歳下だと思う。

そんな歳下一人うまくあしらえないなんて、
イケメンに無意味に眼前に迫られた
気恥ずかしさもあるけど、自分の
対人対応能力の低さも恥ずかしいのだ。

何年も社会人やって営業で交渉の駆け引きにも、
接待での酔っ払ったおじさんのあしらいにも
慣れてるはずなのに相手がイケメンだと
このザマとか。顔がいいってズルい。

リオン様やレジナスさんも顔が整っていて
充分イケメンの部類なんだけど雰囲気や表情が
柔らかい分、緊張したことはない。

でもシグウェルさんはなんというか、氷の美貌と
言うかあの冷たい眼差しでじっと見つめられると
もの凄く緊張してどうしていいか分からなくなる。

いや、それともわたしがあの手のイケメンに
免疫がないのが悪いのか?

「次はもっと上手にできるように
頑張ります・・・‼︎」

そうだ。あんな状況にはもうならないのが
ベストだけど、もし同じシチュエーションに
なるようなら、大人の社会人として動揺せずに
今度こそうまくあしらってみせるのだ。

するとうーうー唸って悔しがり反省した私に、
なぜか2人が慌てて身を乗り出した。

「えっ⁉︎何を上手に頑張るの⁉︎」

「何を言ってるんだユーリ⁉︎」

口付けされそうになったら断っていいんだよ⁉︎と
リオン様が小さく叫び、レジナスさんが真剣な眼で
首が折れそうなほどそれに同意して頷いている。

「エッ?」

2人こそ何を言ってるの?
一体なんの話?

頭の中にハテナマークがたくさん浮かんだ。

きょとんとした私に我に返ったのか、
リオン様がはっとして椅子に掛け直した。
レジナスさんも一つ咳払いをすると
元通りリオン様の後ろに控える。
なんだったんだ。

「ーとにかく、そういう訳で魔石を
取ってきてもらう事で謹慎は解除したから、
もしユーリが望むのなら
あの2人に会うことはできるよ。
ただしその時は、後見人である僕も
必ず同席させること」

「ありがとうございます!
できれば一度、早いうちにお会いしたいです。
お話ししたいことがあるんです。」

そう。結局あの時は私がちゃんとした
癒し子かどうか確かめてそれで満足した
シグウェルさんだけど、
女神ヨナスの関係者なんじゃないかって
疑われたし一度ここに落ちてくる前に
あったことをきちんと説明したい。

そしてそれは、この国の王族であるリオン様にも
知っておいてもらっていた方が良いだろう。

「それなら近いうちにあの2人が
僕の体調を診に来ることに
なっているからその時にしようか?」

「え?この間ユリウスさんに診て
もらってましたよね?
どこか悪いんですか?それとも、ちゃんと
治っていませんでしたか?」

またリオン様が往診を受けるなんて初耳だ。
もしかして、私の癒しに何かミスでも
あったんだろうか。

なにしろ人1人を完全に治すという
大きな癒しの力を初めて使ったのだ。
何があってもおかしくない。

青くなった私に違うんだ、とリオン様が
柔らかに笑った。

「体調はまったく問題ないよ。
イリューディア神の加護を受けた
癒しの力ってすごいね、むしろ前より
調子がいいくらいだ。
先日ユリウスに診てもらった時に、
彼では調べきれない部分があったらしくて
シグウェルにもう一度あとで確認して
もらおうって話になっていたんだよ」

「・・・実は俺もあの日から体調がいいです」

今は一応ティータイムなので、
レジナスさんも控えめに会話に入ってきた。

「うん?そうなのかい?」

リオン様が初めて聞いた、と
レジナスさんを見やる。

「はい。俺の事など些末な事ですので、
特に報告はいらないかと思っていたのですが。
今のリオン様の話からすると俺の体調の良さも
イリューディア神の加護による癒しに
関係しているかもしれません。
であれば、念のため俺の状態もお話しさせて
いただきます」

レジナスさんがそう言うと、
続けて。とリオン様が先を促した。

「体調がいいとは思ってはいたんですが、
一番大きな違いに気付いたのはあの光を
浴びてしばらくしてからです。
いつの間にか俺の左肩の関節の動きの
悪さがなくなっていました。
それと、右脇腹の大きな傷が一つ。
それも無くなっています」

まさかあの光がレジナスさんにまで
影響していたなんて。
あの時私は、たしかにリオン様を
治すことしか考えてなかったのに
癒しの呪文を唱えることで
他の人まで無意識に治していたと
いうことだろうか?

恐るべし、加護の力。

そりゃ勇者様も必要だったとは言え
はっちゃけて色んな漫画の必殺技
使いたくなっちゃうわー・・・

ちょっと遠い目をしてしまった私の
向かいで、リオン様はレジナスさんの報告に
目を丸くして驚いた後、呆れ顔になった。

「レジナス、君ねぇ。無口も大概にしなよ。
脇腹の古傷がなくなってるのも凄いけど、
左肩の関節ってそれ、もう治る見込みがないって
言われてたやつだよね?
そのせいで両剣を使えなくなってたじゃないか。
それが治るって相当だよ?もっと喜びなよ」

良かったじゃない、君元々は双剣使いだったんだし
元通りの剣技を使えるようになるんだよ?
とリオン様に半ばお説教気味に言われて
さすがのレジナスさんも都合が悪そうだ。

「いえ、俺のことよりもその時は
ユーリが寝込んでいたので
そちらのほうが大事でしたし・・・」

申し訳ありません、とレジナスさんが
ぺこりと不器用そうに頭を下げた。

「まあ・・・うん。それはそうなんだけどさぁ。
てことは、あの時あの光を浴びた他の人達にも
何らかの影響があったと考えていいのかな。
あの時、奥の院全体が光ったと報告は
受けているけど光の粒子と花弁が舞ったのは
この庭園だけだったんだよね?」

リオン様が考え込んで、レジナスさんに
確認する。

「はい。あの花びらはお2人を中心に
庭園の中を満たすように降り注いでいました」

「てことは、君の大きな傷が治ったのは
その花と粒子を浴びたのも関係しているのか?
あの時奥の院にいた全員に聞き取りをして、
庭園にいた僕達との差異も調べないといけないな。
シグウェル達が来たらちょっと相談してみよう」

ふんふん、といくつかの確認事項を
反芻してリオン様は頷いた。

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