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第三章 マイ・フェア・レディ
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・・・リオン様がおかしい。
私は大いに戸惑っていた。
今はベッドの中、背もたれを作ってもらい
座ったまま桃っぽいこちらの世界の果物を
食べている。
ていうか、食べさせられている。
リオン様に。
「ユーリ、もう食べなくてもいいのかい?」
じゃあ口を拭こうね。と言って丁寧に
私の口元まで拭ってくれる始末だ。
いや、おかしいでしょう。
なんで召使いにかしづかれて
面倒見られるべき人が逆に私なんかの世話を
甲斐甲斐しく焼いてるわけ?
ルルーさんはそんな私達を微笑ましそうに見て
ニコニコしてるけど、護衛で立っている
レジナスさんなんて何とも言えない複雑な顔で
もうずっと私とリオン様を見ている。
どうしてこうなった。
そもそも私が再びベッドの中から
出るのを禁じられたのは
リオン様に癒しの力を使ったことに原因がある。
リオン様を治したあの後のことだ。
私の肩口で一通り泣いたリオン様は、
顔を上げると今までにないような
輝く笑顔を私に見せてくれた。
「本当にありがとう、ユーリ。
なんて言えばいいのか・・・この感謝は
いくら言葉を尽くしても言い表せないよ」
「お役に立てたのなら光栄です」
真正面からストレートに褒められた私も
えへへっ、と照れ笑いをして
テーブルから降りようと思ったのだ。
だけど、なんと一歩も動けない。
その時初めて自分の異変に気付いた。
「・・・。あの、リオン様」
「ん?何だい、どうかした?」
優しく私の頭を撫でてくれているリオン様が
不思議そうにこちらを見る。
その腕、服の裾を思わずくいっ、と引いて掴む。
「大変です。足が全然動きません。
ていうか、これはなんか、
ち、力が抜けて・・・っ!うわっ‼︎」
「ユーリ⁉︎」
リオン様に異変を訴えている最中にも
足がガクガク震え出して立っていられなくなった。
がちゃん!と派手な音を立ててテーブルの上の
お皿をひっくり返すと足がもつれた私は
そのままリオン様の方に倒れ込む。
そんな私をリオン様はしっかり受け止めてくれて
レジナスさんも真っ青な顔をして駆け寄ってきた。
「えぇ?何これ」
「とりあえず運ぶよ」
戸惑う私を、リオン様がさっと抱き上げると
お姫様抱っこで歩き出した。
「レジナス、客間の準備をさせて。
あと医官・・・いや、これは魔導士だな。
ユリウスを呼ぶんだ。それからルルーも。」
「ユリウスを呼ぶほどのことなら、
団長であるシグウェルも呼んだ方が」
「あいつは今いない」
テキパキとレジナスさんに指示をしながら歩く
リオン様を腕の中から見上げていたんだけど、
掴まっていた腕からも力が抜けてきた。
「リ、リオン様、腕からも力が抜けてきました!」
「そうか・・・ユーリ、
僕の声はちゃんと聴こえてる?
頭がガンガンするとか、気持ち悪いとかはない?」
「大丈夫です、意識はハッキリしてるんですけど
体に全然力が入らなくて」
「恐らく、ひどい魔力切れを起こしてるんだ。
会話が出来ているなら大丈夫だと思うけど、
人によっては急性ショックで
気を失うこともあるから油断しないで。
このまま奥の院に部屋を用意させるから、
しばらく安静にしてた方がいい。
今ルルーも呼びに行かせてるからね」
客間だという部屋の扉を、レジナスさんからの
連絡で待機していた侍従さんに開けさせると
真っ直ぐベッドへと運んでくれる。
心配そうに私を覗き込む青い瞳は、
もう何の問題もなく普通に見えていそうだ。
ああ、本当に治ったんだな。と、私は
自分の事は差し置いて一安心した。
「リオン様・・・
ちゃんと見えてるみたいで、良かったです。」
思いがけない私の言葉に意表を突かれたのか
心配気に私を見ていたその顔が、
一瞬きょとんとした。
「こんな時にそんな事まで心配しないで」
リオン様がちょっと泣きそうな顔になって
私の額に軽く口付けると、
そっとベッドの上に降ろしてくれた。
その時部屋に、レジナスさんが急いでやってきた。
「リオン様、ユリウスが到着しました」
「早いな」
「先ほどのユーリの力の顕現が
魔導士院からも見えていたそうです。
何事かとちょうどこちらに向かっていたそうで」
すぐに通してくれ、とリオン様は頷きながら
私の傍らに座ると手を握ってくれた。
「魔導士団の副団長であるユリウスは
知っているね?
彼は回復術と魔力の流れを探ることに
優れているんだ。彼に診てもらえば
多少は楽になるはずだよ。」
だから気を楽に、安心してね。
握ってくれている手とは反対側の手で
優しく私の頭を撫でてくれる。
と、軽いノック音と共にレジナスさんが
ユリウスさんを伴って部屋に入ってきた。
「失礼いたします。ユリウス・バイラル、
殿下の許可をいただき罷り越しました。
御前失礼いたします」
私の部屋を訪れた時の人好きのする笑顔はなく、
やや緊張の面持ちでユリウスさんが
優雅にお辞儀をした。
「ありがとうユリウス。
今この時を持って君と団長の謹慎を解除する。
さっそくだがユーリを見てくれないか。
恐らく急に大きな力を使ったことによる
魔力切れを起こしている」
鷹揚に頷くリオン様の言葉に、頭を下げたままの
ユリウスさんの肩がピクリと僅かに震えた。
謹慎って何だろう?何かリオン様を
怒らせるような事したのかな、と思いながら
ユリウスさんを心配して見つめていると
「・・寛大なる御配慮、心より感謝申し上げます。」
固い表情のまま、頭を上げたユリウスさんは
そこで初めてリオン様と目が合った。
するとそのまま、信じられないものを見た、と
呆然として動かなくなる。
「・・・殿下、目はどうされました・・・?
それに、お顔の傷が」
ああ、とリオン様がその美しい目をすがめた。
「そうか、まだレジナスから説明はなかったか。
見ての通りだ。ユーリの力によって回復した。
ユーリが魔力切れを起こしたのもそれが原因だろう」
すまないユーリ、無理をさせたね。とリオン様が
ぎゅっと私の手を握った。
「はっ⁉︎なおっ・・・?えッ?まさか‼︎」
「言いたいことも聞きたいことも多々あるだろう。
だがとりあえず今はユーリを頼む。
彼女の治療が終わったらついでに僕も診てくれ」
リオン様の言葉にユリウスさんは軽く
混乱したみたい。
うん、気持ちは良く分かる。
だってこの3年間、みんな必死でリオン様の
治療方法を探していたって
ルルーさんが言っていたもの。
魔導士団長のあのシグウェルさんなんて、
国が始まって以来の天才魔導士って
言われてるらしいんだけど、
そんな凄い人ですらリオン様を治すきっかけさえ
見つけられないでいたって話だし。
私がリオン様を治せたのはひとえに
イリューディアさんの癒しの加護が
あったからこそだ。
まあそのかわり、今こうして情けなくも
1人で歩けない状態になっているわけだけど。
あちらを立てればこちらが立たず。
せっかくリオン様が治っても
肝心の私がぶっ倒れていては、相手に
気を使わせてしまうのが申し訳ない。
うまくいかないものだなあ。
何かいい方法があればいいんだけど。
いや、それよりも倒れないように
体力をつける方がいいのかな?
ふーむ、と考えていると眉根が寄って
難しい顔になってしまっていたのか
リオン様とレジナスさんの2人が慌てた。
「ユーリ、どうしたの大丈夫⁉︎どこか痛むの⁉︎」
「おい平気か、吐きそうなのか⁉︎」
わぁわぁ私をかまう2人の間に入っていけずに
ユリウスさんが一人置いてけぼりをくらっている。
あげくの果てに、早く診ろ!と
レジナスさんに小突かれて私の前に
押し出された。
・・・うん。ごめん、ユリウスさん。
完全にテンパった2人のとばっちりを受けている。
申し訳ない。。。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辺境に住む魔物の大猿みたいな馬鹿力の
レジナスに小突かれて、
おとなしくベッドの中に潜り込んでいる
ユーリ様の前に押し出された俺の頭には
理不尽、の4文字が浮かんでいた。
ユーリ様の目が俺を憐れんでいるように
見えるのは気のせいじゃないと思う。
・・・お咎めを受けるか追い返されるか、と
ビクつきながらさっき閃光が走った
奥の院を訪れたら、
そのままレジナスに引っ張られるように
奥の院に連れ込まれた。
奥の院を訪れていたユーリ様が
倒れたのだという。
さっきの閃光はそのせいか?
まさかユーリ様は誰かに襲われたのか?
今ユーリ様の側にはリオン殿下がついていると
レジナスに聞かされた時には
いやいや、いくらなんでも目が見えない人間を
1人だけ側に付けとくのは無理じゃね?と思った。
ユーリ様が急変したらどうやって気付くのよ?
だもんで、いつまでもそんな心許ない状況に
置いておくのはさすがに可哀想過ぎると
急いで彼女が休んでいる部屋に向かった。
そうしたら、だ。
直接会うのは久々だったので緊張していた俺に、
開口一番リオン殿下は信じられない事を言った。
『今この時を持って君と団長の謹慎を解除する』
・・・くっそ、やっぱ王宮の出禁には
殿下も関わってンじゃん‼︎
予想が当たった悔しさからつい動揺して
体が動いてしまったが、それ以上態度にも
表情にも出さなかった俺、よくやった。
あ~やられた、と思いながらも
出禁が解除された安心感からなんにも考えずに
リオン殿下を見て息を呑んだ。
殿下は、俺をじっと見つめていた。
その双眸は3年前までと全く同じ、
王族の証とも言える限りなく深く
冴えわたった青。
殿下が視力を失ってからは亡くしていた色だ。
・・・え?視えている、のか?まさか。
それどころか、良く見れば
痛々しく顔全体に広がっていた
あの大きな傷跡もないのだ。
どういうこと?
つい、不敬も忘れて尋ねてみれば
ユーリ様が治したのだと言う。
そのせいで魔力切れを起こして倒れているから
診てやって欲しいとのことだった。
じゃあさっきの奥の院からの閃光、
あれはユーリ様が癒しの力を使ったのが原因?
あんな、遠く離れた魔導士院からでも
目視できるだけの力を使ったと?
そりゃあ魔力切れも起こすはずだ。
というか、歩けなくなっただけで
こうして会話出来てるのは
ちょっと人間離れしている。
普通の人間ならまず死にかけるだろうし
仮に異常な魔力量を誇るうちの団長が
同じように魔導士院から目視できるほどの
力を使ったとしても、多分何日かは
昏倒するはずだ。
癒し子ってすげぇ。
脈をみるのに触れるのもさすがに
ちょっと怖くなった。
こういう時こそ空気を読まずに
あれこれやり出す団長の出番なんだけど
なんであの人、肝心な時にいないかなぁ。
どうした、大丈夫なのか?と
うるさく言ってくるレジナスを
横目に、俺はひそかにため息をついた。
私は大いに戸惑っていた。
今はベッドの中、背もたれを作ってもらい
座ったまま桃っぽいこちらの世界の果物を
食べている。
ていうか、食べさせられている。
リオン様に。
「ユーリ、もう食べなくてもいいのかい?」
じゃあ口を拭こうね。と言って丁寧に
私の口元まで拭ってくれる始末だ。
いや、おかしいでしょう。
なんで召使いにかしづかれて
面倒見られるべき人が逆に私なんかの世話を
甲斐甲斐しく焼いてるわけ?
ルルーさんはそんな私達を微笑ましそうに見て
ニコニコしてるけど、護衛で立っている
レジナスさんなんて何とも言えない複雑な顔で
もうずっと私とリオン様を見ている。
どうしてこうなった。
そもそも私が再びベッドの中から
出るのを禁じられたのは
リオン様に癒しの力を使ったことに原因がある。
リオン様を治したあの後のことだ。
私の肩口で一通り泣いたリオン様は、
顔を上げると今までにないような
輝く笑顔を私に見せてくれた。
「本当にありがとう、ユーリ。
なんて言えばいいのか・・・この感謝は
いくら言葉を尽くしても言い表せないよ」
「お役に立てたのなら光栄です」
真正面からストレートに褒められた私も
えへへっ、と照れ笑いをして
テーブルから降りようと思ったのだ。
だけど、なんと一歩も動けない。
その時初めて自分の異変に気付いた。
「・・・。あの、リオン様」
「ん?何だい、どうかした?」
優しく私の頭を撫でてくれているリオン様が
不思議そうにこちらを見る。
その腕、服の裾を思わずくいっ、と引いて掴む。
「大変です。足が全然動きません。
ていうか、これはなんか、
ち、力が抜けて・・・っ!うわっ‼︎」
「ユーリ⁉︎」
リオン様に異変を訴えている最中にも
足がガクガク震え出して立っていられなくなった。
がちゃん!と派手な音を立ててテーブルの上の
お皿をひっくり返すと足がもつれた私は
そのままリオン様の方に倒れ込む。
そんな私をリオン様はしっかり受け止めてくれて
レジナスさんも真っ青な顔をして駆け寄ってきた。
「えぇ?何これ」
「とりあえず運ぶよ」
戸惑う私を、リオン様がさっと抱き上げると
お姫様抱っこで歩き出した。
「レジナス、客間の準備をさせて。
あと医官・・・いや、これは魔導士だな。
ユリウスを呼ぶんだ。それからルルーも。」
「ユリウスを呼ぶほどのことなら、
団長であるシグウェルも呼んだ方が」
「あいつは今いない」
テキパキとレジナスさんに指示をしながら歩く
リオン様を腕の中から見上げていたんだけど、
掴まっていた腕からも力が抜けてきた。
「リ、リオン様、腕からも力が抜けてきました!」
「そうか・・・ユーリ、
僕の声はちゃんと聴こえてる?
頭がガンガンするとか、気持ち悪いとかはない?」
「大丈夫です、意識はハッキリしてるんですけど
体に全然力が入らなくて」
「恐らく、ひどい魔力切れを起こしてるんだ。
会話が出来ているなら大丈夫だと思うけど、
人によっては急性ショックで
気を失うこともあるから油断しないで。
このまま奥の院に部屋を用意させるから、
しばらく安静にしてた方がいい。
今ルルーも呼びに行かせてるからね」
客間だという部屋の扉を、レジナスさんからの
連絡で待機していた侍従さんに開けさせると
真っ直ぐベッドへと運んでくれる。
心配そうに私を覗き込む青い瞳は、
もう何の問題もなく普通に見えていそうだ。
ああ、本当に治ったんだな。と、私は
自分の事は差し置いて一安心した。
「リオン様・・・
ちゃんと見えてるみたいで、良かったです。」
思いがけない私の言葉に意表を突かれたのか
心配気に私を見ていたその顔が、
一瞬きょとんとした。
「こんな時にそんな事まで心配しないで」
リオン様がちょっと泣きそうな顔になって
私の額に軽く口付けると、
そっとベッドの上に降ろしてくれた。
その時部屋に、レジナスさんが急いでやってきた。
「リオン様、ユリウスが到着しました」
「早いな」
「先ほどのユーリの力の顕現が
魔導士院からも見えていたそうです。
何事かとちょうどこちらに向かっていたそうで」
すぐに通してくれ、とリオン様は頷きながら
私の傍らに座ると手を握ってくれた。
「魔導士団の副団長であるユリウスは
知っているね?
彼は回復術と魔力の流れを探ることに
優れているんだ。彼に診てもらえば
多少は楽になるはずだよ。」
だから気を楽に、安心してね。
握ってくれている手とは反対側の手で
優しく私の頭を撫でてくれる。
と、軽いノック音と共にレジナスさんが
ユリウスさんを伴って部屋に入ってきた。
「失礼いたします。ユリウス・バイラル、
殿下の許可をいただき罷り越しました。
御前失礼いたします」
私の部屋を訪れた時の人好きのする笑顔はなく、
やや緊張の面持ちでユリウスさんが
優雅にお辞儀をした。
「ありがとうユリウス。
今この時を持って君と団長の謹慎を解除する。
さっそくだがユーリを見てくれないか。
恐らく急に大きな力を使ったことによる
魔力切れを起こしている」
鷹揚に頷くリオン様の言葉に、頭を下げたままの
ユリウスさんの肩がピクリと僅かに震えた。
謹慎って何だろう?何かリオン様を
怒らせるような事したのかな、と思いながら
ユリウスさんを心配して見つめていると
「・・寛大なる御配慮、心より感謝申し上げます。」
固い表情のまま、頭を上げたユリウスさんは
そこで初めてリオン様と目が合った。
するとそのまま、信じられないものを見た、と
呆然として動かなくなる。
「・・・殿下、目はどうされました・・・?
それに、お顔の傷が」
ああ、とリオン様がその美しい目をすがめた。
「そうか、まだレジナスから説明はなかったか。
見ての通りだ。ユーリの力によって回復した。
ユーリが魔力切れを起こしたのもそれが原因だろう」
すまないユーリ、無理をさせたね。とリオン様が
ぎゅっと私の手を握った。
「はっ⁉︎なおっ・・・?えッ?まさか‼︎」
「言いたいことも聞きたいことも多々あるだろう。
だがとりあえず今はユーリを頼む。
彼女の治療が終わったらついでに僕も診てくれ」
リオン様の言葉にユリウスさんは軽く
混乱したみたい。
うん、気持ちは良く分かる。
だってこの3年間、みんな必死でリオン様の
治療方法を探していたって
ルルーさんが言っていたもの。
魔導士団長のあのシグウェルさんなんて、
国が始まって以来の天才魔導士って
言われてるらしいんだけど、
そんな凄い人ですらリオン様を治すきっかけさえ
見つけられないでいたって話だし。
私がリオン様を治せたのはひとえに
イリューディアさんの癒しの加護が
あったからこそだ。
まあそのかわり、今こうして情けなくも
1人で歩けない状態になっているわけだけど。
あちらを立てればこちらが立たず。
せっかくリオン様が治っても
肝心の私がぶっ倒れていては、相手に
気を使わせてしまうのが申し訳ない。
うまくいかないものだなあ。
何かいい方法があればいいんだけど。
いや、それよりも倒れないように
体力をつける方がいいのかな?
ふーむ、と考えていると眉根が寄って
難しい顔になってしまっていたのか
リオン様とレジナスさんの2人が慌てた。
「ユーリ、どうしたの大丈夫⁉︎どこか痛むの⁉︎」
「おい平気か、吐きそうなのか⁉︎」
わぁわぁ私をかまう2人の間に入っていけずに
ユリウスさんが一人置いてけぼりをくらっている。
あげくの果てに、早く診ろ!と
レジナスさんに小突かれて私の前に
押し出された。
・・・うん。ごめん、ユリウスさん。
完全にテンパった2人のとばっちりを受けている。
申し訳ない。。。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辺境に住む魔物の大猿みたいな馬鹿力の
レジナスに小突かれて、
おとなしくベッドの中に潜り込んでいる
ユーリ様の前に押し出された俺の頭には
理不尽、の4文字が浮かんでいた。
ユーリ様の目が俺を憐れんでいるように
見えるのは気のせいじゃないと思う。
・・・お咎めを受けるか追い返されるか、と
ビクつきながらさっき閃光が走った
奥の院を訪れたら、
そのままレジナスに引っ張られるように
奥の院に連れ込まれた。
奥の院を訪れていたユーリ様が
倒れたのだという。
さっきの閃光はそのせいか?
まさかユーリ様は誰かに襲われたのか?
今ユーリ様の側にはリオン殿下がついていると
レジナスに聞かされた時には
いやいや、いくらなんでも目が見えない人間を
1人だけ側に付けとくのは無理じゃね?と思った。
ユーリ様が急変したらどうやって気付くのよ?
だもんで、いつまでもそんな心許ない状況に
置いておくのはさすがに可哀想過ぎると
急いで彼女が休んでいる部屋に向かった。
そうしたら、だ。
直接会うのは久々だったので緊張していた俺に、
開口一番リオン殿下は信じられない事を言った。
『今この時を持って君と団長の謹慎を解除する』
・・・くっそ、やっぱ王宮の出禁には
殿下も関わってンじゃん‼︎
予想が当たった悔しさからつい動揺して
体が動いてしまったが、それ以上態度にも
表情にも出さなかった俺、よくやった。
あ~やられた、と思いながらも
出禁が解除された安心感からなんにも考えずに
リオン殿下を見て息を呑んだ。
殿下は、俺をじっと見つめていた。
その双眸は3年前までと全く同じ、
王族の証とも言える限りなく深く
冴えわたった青。
殿下が視力を失ってからは亡くしていた色だ。
・・・え?視えている、のか?まさか。
それどころか、良く見れば
痛々しく顔全体に広がっていた
あの大きな傷跡もないのだ。
どういうこと?
つい、不敬も忘れて尋ねてみれば
ユーリ様が治したのだと言う。
そのせいで魔力切れを起こして倒れているから
診てやって欲しいとのことだった。
じゃあさっきの奥の院からの閃光、
あれはユーリ様が癒しの力を使ったのが原因?
あんな、遠く離れた魔導士院からでも
目視できるだけの力を使ったと?
そりゃあ魔力切れも起こすはずだ。
というか、歩けなくなっただけで
こうして会話出来てるのは
ちょっと人間離れしている。
普通の人間ならまず死にかけるだろうし
仮に異常な魔力量を誇るうちの団長が
同じように魔導士院から目視できるほどの
力を使ったとしても、多分何日かは
昏倒するはずだ。
癒し子ってすげぇ。
脈をみるのに触れるのもさすがに
ちょっと怖くなった。
こういう時こそ空気を読まずに
あれこれやり出す団長の出番なんだけど
なんであの人、肝心な時にいないかなぁ。
どうした、大丈夫なのか?と
うるさく言ってくるレジナスを
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