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3.女嫌いな俺様王子

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 レオ様は「はぁ?」という表情で、横に立っていた私を見上げた。

「全部目を通したから、別にいいだろ? この位の内容なんて一度見れば覚えるし」

「……さようで」

 私はうわぁ……と、口には出さずとも、思わず顔を顰めた。……頭が良すぎるのも困ったものである。普通の人が言えば嘘くさいのだが、この王子に至っては本当なのだから、尚更タチが悪い。

「生憎私はその辺りにいるごく一般人なもので、そんな頭脳は持ち合わせておりません」

「お前は宰相んとこの養女なんだから、侯爵家の令嬢だろうが。お前が一般人なら、大体の貴族は一般人になるぞ」

 本当、あぁ言えばこう言うな、この王子。

「知ってますか、レオ様。そういうのを揚げ足取りって言うんですよ」

 私は自分が立っているのをいい事に、ソファーに座っているレオ様を見下ろして言い放つ。

「……お前からは俺に対する敬意が、微塵も感じられないんだけど。本当いい度胸してんな」

 私とレオ様がバチバチと睨み合っていると、部屋の隅から堪えきれずに吹き出した様な声が聞こえた。

「は~……本当に面白い。毎日一触即発な掛け合いをしてて、二人ともよく飽きませんね」

「「ロラン(様)」」

 静かに私たちのバトルを見守っていた、レオ様専属騎士のロラン様が、クスクスと笑いながらこちらに歩み寄ってきた。

 ロラン様は二十歳の若さでレオ様の専属騎士に大抜擢された、超優秀なエリート騎士様だ。人柄も良く、爽やかな見た目、更には独身という事も相まって、レオ様に続く女性人気なのである。

 勿論時と場合によっては、警備の騎士様が増員されるのだが、レオ様の専属騎士という肩書きは、今のところロラン様しか持っていない。つまり、レオ様の執務室と自室へ入室出来る許可を持っているのは、専属騎士であるロラン様と専属メイドの私しかいないのだ。

 ……いつも思ってるんですけど、一国の王子の割に、少数精鋭すぎません?

「レオドール様は他のメイドを側に置かないのですから、ルルリナ様がお手伝いしてくださって、実際助かってるでしょうに」

「……まぁ、ルルには猫を被らなくていいから、気を遣わないしな」

 ロラン様は、そうでしょうとも、と微笑むと、今度は私の方を向いて話を振ってきた。

「ルルリナ様は、宰相のご令嬢という肩書きを隠してお仕事をされていらっしゃるでしょう? レオドール様の専属としてなら行動範囲も限られますし、こっそりとお仕事をするのには好都合ですよね?」

「……そのご配慮は、とても有難いと思っております」

「では、お互いに利害が一致してますよね」

 ロラン様はニコニコとしながら、パンッと軽快に手を叩いたのだった。事を収めるのに慣れたこの爽やか騎士様も、中々にあなどれない。

「そうだ。ルルリナ様も折角ですから、来月からいらっしゃるご令嬢の詳細を確認されたらいかがですか?」

「あ……確かにそうですね。早めに見ておいた方がいいかもしれません」

 私のその言葉を聞くと、サッとロラン様が机に残されていた書類を取りに行き、どうぞ、と渡してくださる。ありがとうございます、と受け取っていると、レオ様は手に持っていた残りの書類を私にパスしてきた。

「ほら、これで全部だ。十五人だから十五枚だな。そっち座れ」

「ありがとうございます」

 お言葉に甘えて、レオ様の向かい側のソファーに座らせてもらい、私はご令嬢たちのプロフィールを見る事にした。

「わぁ……隣国の公爵令嬢に、国内からも上位貴族のご令嬢が名を連ねてる……すごい豪華ですね」

 流石、大人気のレオ様だ。十五人に絞るまでも、きっと競争率はすごく高かったんだろうな。

「十五名のご令嬢との交流も、結構時間がかかりそうですね。レオドール様のスケジュールを確認しましたが、公務に加えて、この三ヶ月はかなり忙しくなりそうです」

「確か、三グループに分かれて少人数での茶会、一対一での歓談、それから夜会……だったか」

 ハァ……と、これ見よがしに溜息をついている顔も様になるからちょっと皮肉である。

「で? ルル。お前本当は、父上に何を頼まれたんだよ」

 唐突にそう聞かれた私は、目を丸くさせた。

「えっ? 本当に陛下からは激励をいただきましたよ? あとは、ご令嬢たちの観察係みたいなものを任されたくらいです」

「観察ねぇ……」

 何考えてんだよ、あのクソ親父は……と、小さく暴言を呟いていたのを、私は聞き逃しませんでしたけども。

「へぇ、それはまた陛下も粋な事を……抜き打ち調査ですかね?」

「恐らく。王妃となる人の器は、やはりうわべだけではダメだと事でしょうか?」

 私はロラン様の問いかけに、首を傾げつつも答えたのだった。

「あ、そうでした。それから、何か気になる点や心配な事があった時は、まずロラン様に報告をするようにと、伺っております。その時は、よろしくお願いいたします」

 私は深々と頭を下げる。

「分かりました。では、お互い協力しながら頑張りましょう」

 ロラン様が微笑んでくれたのを見て、私もつられて微笑んだ。ロラン様が女性に人気なのも、何となく分かった気がする。

 腹黒王子はというと、お茶請けのクッキーをサクッと齧りながら、そんな私たちの様子をふーんと興味なさげに眺めていたのだった。

 
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