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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】

ep.13 妬み恨まれ、罪深い

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 雨粒とともに上空から舞い降りて来たのは、ニアと……まさかの副団長だった。

 ニアは副団長にも雨除けのベールをかけているようで、淡く光る魔法のベールが雨粒を弾くその姿は、副団長の容姿も相まって何だか神々しい。

 一瞬だけ、雨音さえも消えたように、この辺り一帯が不思議と静寂に包まれた。
 私も焔天の団員も皆、ぽかん……としてしまった。

 副団長は状況を確かめるかのように見渡すと、目が合った私へは、何故だか少し眉を寄せて、瞳を鋭く細めたようだった。

 ……確かに1人だけぽつんと雨に濡れた状態だったけど、そんなにみすぼらしい格好してたかな?

「ニア、とりあえずアシュレーに雨除けの魔法を」

『えぇ、勿論よ。任せてちょうだい』

 副団長の指示で、すぐに私にも魔法のベールがふんわりとかかった。

 まるで、水を弾くガラスの膜のようなものが貼られている感覚。
 視界がとってもクリアで、すごい便利……!

「っありがとう、ございます」

 少しの間だと思うけれど、自分にかけられた魔法のベールにすっかり見惚れていた私は、はたと気がついて慌てて副団長にお礼を告げた。
 ニアには後で、他の団員がいない所できちんとお礼を言おう。

『うふふ。傘よりもね、私の魔法をメルに使う許可が出せるシルヴァを連れてくる方が、断然手っ取り早いって事に気がついたのよね』

 焔天の団員がいる手前、満足気に話すニアに返事が(という名のツッコミだが)出来ない私。

 後で不満の1つでも言うべき……?
 いやいや。結果的に、雨除けはきちんとしてくれてるしな……?

 そんな風に悶々としている内に、初っ端から私に突っかかってきていた喧嘩っ早そうな団員が、副団長にギャンギャンと噛み付いていた。

「おっまえ……! シルヴァ・ステラじゃねぇかっ!!!」

「はぁ……そうですけど、貴方は誰ですか?」

「ハァァッ!? 覚えてねぇのかよ!!!」

 おぉ、彼のパートナーらしき精霊動物のブルドッグ犬も、一緒に足元で唸っている。
 空気は最悪なのにちょっとホッコリするのは、精霊動物のおかげかもしれない。

「あ~あ。ほんと、微塵も相手にされてないねぇ、うちのおバカ団員は」

「えぇと……あの方とうちの副団長は、何か特別な間柄だったりするんでしょうか……?」

 この人、さっきから事の成り行きをどこか楽しそうに見守っているんだよなぁ……
 私は先程の軽薄そうな焔天の団員に、思わず問いかけていた。

「ん? あれっ? 何で君、知らないの? 今年の入団試験の実技でさ、君んとこの副団長はトップで通過したじゃない?」

「そう……なんですか?」

 非戦闘員として入団している私は実技試験を受けてはいないので、副団長がトップ通過したとは全くもって知らなかったのである。

 そういえばカインは9位で、ギリギリ1桁台に入ったんだーって喜んでたっけか。

 へぇぇ、という抜けたような私の返答を少し不思議に感じていたようだったけれど、そのまま話を続けてくれた。

「え? うん。しかも筆記でも1位を取ってたから尚更かな。すごい成績だったのに、それを喜ぶ事もなく顔色1つ変えないから、他の受験者達の鼻についたんじゃないかなぁ」

「俺は試験で見かけた時から、テメェのそのいけすかねぇ顔、一発ぶん殴りてぇと思ってたんだよ……!」

「……勝手にそう言われても、正直困るんですが」

「ほらね?」

「なるほど……」

 あぁ、無自覚なんだか自覚ありだか分からないけど、煽りがとっても上手ですね、副団長。火に油、静かにガンガン注いでますってば。

「うるせぇっ……! ……こうやって会ったのもいい機会だからな。おらっ、お前らもさぞかしお偉くなったフクダンチョーサマのお相手してやろうぜ!!!」

 喧嘩っぱやい団員に感化されて、元々少なからず副団長を妬んだりしていた他の団員たちも、やる気満々になってしまっているようである。

「あーあ。絶対こうなると思ったー」

「ちょ、貴方は同じ焔天の団員なのに、止めないんですか?」

「僕は出世街道を目指してるから、この事がバレて上に知られたりでもしたら嫌なんだよね。だから喧嘩には加わらない。まぁ……でも、止める義理もないからさ。そういう事だからごめんね。先、帰るね?」

 じゃ、またね!と言って、他の団員に気づかれないようにしながら笑顔で去って行った。

「ほんとに先帰っちゃった……!?」

 いっそ清々しい程に軽薄だな……!?

「はぁ……面倒くさいですね。路地裏といえどここは街中ですから、精霊魔法は使わずにやってくださいよ」

「てめぇに指図されなくても分かってんよ!!! 名門ステラ家の、不吉な死神がよ!!!」

 ……ステラ家の死神?

 初めて聞いた失礼な物言いに、何で副団長はそんな風に言われてるんだろう……と疑問に思いながら目を向けた。

 副団長は表情を変えずに、ふっと視線だけを下に落とした……かと思った、次の瞬間。

 焔天の団員達へ、氷のような凍てつく眼差しを向けていた。

「……早く全員まとめて来いよ。時間が勿体ないだろ」

「……んん?」

 何か……副団長から、聞いた事のないような言葉遣いが発せられたんですけど?

『メル、ちなみにだけどシルヴァは売られた喧嘩は買うし、戦闘中はいつもより口が悪い、意外と好戦的なタイプなのよ?』

「えぇ……!? もっと論理的なインテリタイプだと思ってたのに……!?」

 もうあの軽薄な団員は退場していたので、私はニアとすっかり普通に会話をし始めていた。
 勿論小声で、なのは相変わらずである。

 まさかの、ウチの団長と性格は違えど同じタイプ。
 実力こそが全てな黒夜の所属で間違いなかったですね、副団長。

「もうっ……! 黒夜の副団長が焔天の団員と路地裏で喧嘩とか、笑えないんですけど!」

『そうねぇ。流石に騒ぎになるとめんどくさいから、ちょっと特別な魔法を路地裏の入り口にでもかけとくわ。シルヴァ。この魔法、維持するの大変だから後10分位で終わりにしてよね』

「5分で終わるだろ、こんな」

 雑魚ども、と声には出さずに口だけ動かしたみたいだけど、焔天の団員達は気がついたようである。

 鼻で笑い、あしらったその表情は美しいのに、その顔からすぐに暴言が出るわ出るわ。

 何だろうな……これって悪い方のギャップなのかな。

 もはや騎士ではなく悪魔のようである。
 いや……相手をせん滅させようとする意味では、死神という言葉は少し合っているのかもしれない、なんて失礼ながらも思ってしまったのだった。

 
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