3 / 34
第1章 城下町アルテアへようこそ
ep.3 ふわふわしてるよ精霊動物
しおりを挟む
「何故……?」
「ひぇ」
やばい、早速アイスブルーの瞳が冷え冷えとしている。冗談抜きで凍死しそう。
思わず一歩下がると、いつの間にか後ろに立っていたカインにぶつかった。
「……ん?」
視線を感じてカインの足元へと条件反射で目を向ければ、こっちはこっちでゴールデンレトリバーの姿をした精霊動物と目が合ってギョッとする。
もふもふの尻尾が、ぶんぶんと勢いよく左右に揺れる。
『ねぇねぇ! メル、どうしたの?』
……おぅ、まさかこのタイミングで話しかけてくるとは。
きゅるんと瞳を輝かせた無邪気な姿から、私はぎゅんっと視線を無理やり軌道修正した。
ぐぬぬ。他の人がいる所で話しかけてきちゃ駄目だよって、ちゃんと伝えてあるのに。こういうおっちょこちょいな所は、契約者であるカインにそっくりなんだから仕方がない。
ロシアンブルーに、ゴールデンレトリバー。
あぁもう、こんな時でもすぐに動物の種類に目がいってしまう。
唯一の前世の記憶である動物の知識は、ある意味今世でも大いに役立っているのかもしれないけども、それは時と場合にもよるのだ。
「おい、シルヴァ。それくらいにしとけ。初対面のメルを凍らせる気か」
団長の声でやっと副団長は射貫くような視線を外してくれた。
「女嫌いのお前にわざわざ紹介してんだから、色々察しろよ。ま、詳しい事は朝メシ食ってから団長室で話そうや」
ここ黒夜では、団長の命令は絶対。私は口が裂けても、仕事が山の様にあるので職場に行かせてくださいとは言えなかったのである。
ロシアンブルーの精霊猫は、いつの間にか姿を消していた。
――――――――――――――――――
団長室に入るとすぐに、ソファーに寝そべっていた半透明の精霊動物がこちらへ顔を向けた。3人掛けの奥行きのあるソファーであるにも関わらず、みっちりと陣取っている程の、大きな姿である。
ツンドラオオカミの姿をしたその精霊動物は、あくびを1つすると口元を緩ませて二カッと笑った。
『よ、メル。ここに来るって事は何かあったのか?』
毎回クスリとしてしまうくらい、団長にそっくりな挨拶である。ただ時折デリカシーがなくなる団長と、根本は全然似ていないのだけども。
副団長もいる為、いつもの調子で返事をするのが憚れた私は、本当に小さく、分からないかもしれない程度にそっと頷いておいた。
「お前ら、その辺適当に座ってくれ。……んで、回りくどい言い方は性に合わねぇから単刀直入に言うわ。シルヴァ、メルは精霊適性のない非戦闘員として黒夜に所属してっけど、実際は特別な資質を持ってる」
「……特別な資質、ですか?」
「おう。お前もさっき不思議に感じたんだろう? 何で実体化していない自分のパートナー精霊の種類を、初対面の女が当てたんだってな」
そう団長に問われ、何とも言えない表情を浮かべている副団長。険しい顔だけど否定しないのは、恐らくビンゴだったという事なんだろうな。
元々精霊動物は、目に見えない存在だ。
気まぐれに人間の側にやって来て、相性がよいと感じたり、好感を持つと精霊の方から姿を見せてくれる。
生まれながらにして精霊適性を持っている人間は、そこで初めて精霊動物と1対1でパートナー契約が出来る。契約を結ぶことによって、精霊動物が生み出す不思議な力の恩恵を授かるのだ。
貴族ならば自己防衛として。平民であれば生活の助けに、といったように精霊の力の使い方は人それぞれらしい。
そして、その力を使いながら王国の警備にあたっているのが、テスカ王国精霊騎士団なのである。
私は精霊適性がないのでパートナーがいない。
私みたいな適性を持たない人も、他の能力の高さを買われて非戦闘員として騎士団に所属しているらしいのだけど、黒夜でもごく僅か、数名程しかいないと聞いている。現にまだ出会った事はないのでかなりレアなんだろう。
「メルは精霊適性がない。だけど精霊動物が見えるし、会話も可能。それも全てのだ」
「は? 全ての……?」
副団長が物珍しいモノを見るような視線を向けてきた。
そうでしょう、珍しいでしょう。
私の視界はいつも、ふわふわと賑やかな精霊動物がいっぱいで、もふもふパラダイスなんだから。
……実体化してもらわないと触れられないけど。
「そう、他人のパートナー精霊も、野良の精霊もだ。んでこの件を知る人間は、今のところ黒夜では俺とカインだけ。ただ俺らも忙しくなりそうでよ。いつでもメルの側にいられる訳じゃねぇし、いざって時にメルを守れる信用できる奴を増やしておくのもいいかと思ってな」
シルヴァは最年少で副団長に就任しただけの事があるしなと、ナイスアイディアを閃いたと言わんばかりに、1人で勝手に満足げである。そんなパートナーの姿を『メルの意見も聞かずに』と冷めた目で見つめている精霊も中々にシュールだ。
女嫌いの副団長がいざという時に私の事を守ってくれるのか……という点について、些か疑問があるんですけど……?
「あぁ……だから先程入室した際に、あのソファーを見て頷いていたのですか……あちらに精霊動物がいるんですね?」
黙り込んでいた副団長から、突然そんな風に話しかけられて、私はびくりと肩を震わせた。
ま、まさかあの些細な仕草までも観察されていたとは。……ちょっと怖い。
「そ、そうです。団長のパートナーですから、顔見知りなんです! っですよね、団長?」
「おう。オミ、ついでに実体化してくれるか?」
『はいよ』
半透明の姿から、前世にネットで見た映像と同じような色味、姿の、もっふりとした白い毛並みのツンドラオオカミが現れる。
オミはゆったりと私の元へとやってきて、身体を擦りつけた。1週間ぶりのオミの毛並み、折角だし堪能させていただきますとも。
「パートナーの元に行くよりも先に……?」
「精霊動物に限らずかは分かんねぇけど、とにかくメルは動物に好かれる体質みたいなんだよな」
団長は苦笑いを浮かべながら、私とオミの逢瀬を眺めていた。団長、すみません。そしていつも私のもふもふ欲を満たしてくれてありがとう、オミ。
ふんわりとした首元を両腕で優しく抱きしめて、もふりと顔を埋めた私なのだった。
「ひぇ」
やばい、早速アイスブルーの瞳が冷え冷えとしている。冗談抜きで凍死しそう。
思わず一歩下がると、いつの間にか後ろに立っていたカインにぶつかった。
「……ん?」
視線を感じてカインの足元へと条件反射で目を向ければ、こっちはこっちでゴールデンレトリバーの姿をした精霊動物と目が合ってギョッとする。
もふもふの尻尾が、ぶんぶんと勢いよく左右に揺れる。
『ねぇねぇ! メル、どうしたの?』
……おぅ、まさかこのタイミングで話しかけてくるとは。
きゅるんと瞳を輝かせた無邪気な姿から、私はぎゅんっと視線を無理やり軌道修正した。
ぐぬぬ。他の人がいる所で話しかけてきちゃ駄目だよって、ちゃんと伝えてあるのに。こういうおっちょこちょいな所は、契約者であるカインにそっくりなんだから仕方がない。
ロシアンブルーに、ゴールデンレトリバー。
あぁもう、こんな時でもすぐに動物の種類に目がいってしまう。
唯一の前世の記憶である動物の知識は、ある意味今世でも大いに役立っているのかもしれないけども、それは時と場合にもよるのだ。
「おい、シルヴァ。それくらいにしとけ。初対面のメルを凍らせる気か」
団長の声でやっと副団長は射貫くような視線を外してくれた。
「女嫌いのお前にわざわざ紹介してんだから、色々察しろよ。ま、詳しい事は朝メシ食ってから団長室で話そうや」
ここ黒夜では、団長の命令は絶対。私は口が裂けても、仕事が山の様にあるので職場に行かせてくださいとは言えなかったのである。
ロシアンブルーの精霊猫は、いつの間にか姿を消していた。
――――――――――――――――――
団長室に入るとすぐに、ソファーに寝そべっていた半透明の精霊動物がこちらへ顔を向けた。3人掛けの奥行きのあるソファーであるにも関わらず、みっちりと陣取っている程の、大きな姿である。
ツンドラオオカミの姿をしたその精霊動物は、あくびを1つすると口元を緩ませて二カッと笑った。
『よ、メル。ここに来るって事は何かあったのか?』
毎回クスリとしてしまうくらい、団長にそっくりな挨拶である。ただ時折デリカシーがなくなる団長と、根本は全然似ていないのだけども。
副団長もいる為、いつもの調子で返事をするのが憚れた私は、本当に小さく、分からないかもしれない程度にそっと頷いておいた。
「お前ら、その辺適当に座ってくれ。……んで、回りくどい言い方は性に合わねぇから単刀直入に言うわ。シルヴァ、メルは精霊適性のない非戦闘員として黒夜に所属してっけど、実際は特別な資質を持ってる」
「……特別な資質、ですか?」
「おう。お前もさっき不思議に感じたんだろう? 何で実体化していない自分のパートナー精霊の種類を、初対面の女が当てたんだってな」
そう団長に問われ、何とも言えない表情を浮かべている副団長。険しい顔だけど否定しないのは、恐らくビンゴだったという事なんだろうな。
元々精霊動物は、目に見えない存在だ。
気まぐれに人間の側にやって来て、相性がよいと感じたり、好感を持つと精霊の方から姿を見せてくれる。
生まれながらにして精霊適性を持っている人間は、そこで初めて精霊動物と1対1でパートナー契約が出来る。契約を結ぶことによって、精霊動物が生み出す不思議な力の恩恵を授かるのだ。
貴族ならば自己防衛として。平民であれば生活の助けに、といったように精霊の力の使い方は人それぞれらしい。
そして、その力を使いながら王国の警備にあたっているのが、テスカ王国精霊騎士団なのである。
私は精霊適性がないのでパートナーがいない。
私みたいな適性を持たない人も、他の能力の高さを買われて非戦闘員として騎士団に所属しているらしいのだけど、黒夜でもごく僅か、数名程しかいないと聞いている。現にまだ出会った事はないのでかなりレアなんだろう。
「メルは精霊適性がない。だけど精霊動物が見えるし、会話も可能。それも全てのだ」
「は? 全ての……?」
副団長が物珍しいモノを見るような視線を向けてきた。
そうでしょう、珍しいでしょう。
私の視界はいつも、ふわふわと賑やかな精霊動物がいっぱいで、もふもふパラダイスなんだから。
……実体化してもらわないと触れられないけど。
「そう、他人のパートナー精霊も、野良の精霊もだ。んでこの件を知る人間は、今のところ黒夜では俺とカインだけ。ただ俺らも忙しくなりそうでよ。いつでもメルの側にいられる訳じゃねぇし、いざって時にメルを守れる信用できる奴を増やしておくのもいいかと思ってな」
シルヴァは最年少で副団長に就任しただけの事があるしなと、ナイスアイディアを閃いたと言わんばかりに、1人で勝手に満足げである。そんなパートナーの姿を『メルの意見も聞かずに』と冷めた目で見つめている精霊も中々にシュールだ。
女嫌いの副団長がいざという時に私の事を守ってくれるのか……という点について、些か疑問があるんですけど……?
「あぁ……だから先程入室した際に、あのソファーを見て頷いていたのですか……あちらに精霊動物がいるんですね?」
黙り込んでいた副団長から、突然そんな風に話しかけられて、私はびくりと肩を震わせた。
ま、まさかあの些細な仕草までも観察されていたとは。……ちょっと怖い。
「そ、そうです。団長のパートナーですから、顔見知りなんです! っですよね、団長?」
「おう。オミ、ついでに実体化してくれるか?」
『はいよ』
半透明の姿から、前世にネットで見た映像と同じような色味、姿の、もっふりとした白い毛並みのツンドラオオカミが現れる。
オミはゆったりと私の元へとやってきて、身体を擦りつけた。1週間ぶりのオミの毛並み、折角だし堪能させていただきますとも。
「パートナーの元に行くよりも先に……?」
「精霊動物に限らずかは分かんねぇけど、とにかくメルは動物に好かれる体質みたいなんだよな」
団長は苦笑いを浮かべながら、私とオミの逢瀬を眺めていた。団長、すみません。そしていつも私のもふもふ欲を満たしてくれてありがとう、オミ。
ふんわりとした首元を両腕で優しく抱きしめて、もふりと顔を埋めた私なのだった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる