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第4章
21.終わらない夢を見て
しおりを挟むニュース番組の爽やかなキャスターの声や、電気ポットが沸いた音。少し網戸にしてある窓の外からは、スズメの軽快な鳴き声が聞こえる。
これは、特段変わった事なんてない、私のありふれた日常だった。
あぁ……あの時の、夢か。
すぐに合点がいって、夢の中でも思わずポツリと心の中で言葉が溢れた。
……嫌だな、前世の夢。
最近は滅多に見ないと思っていたのに、このタイミングで見るなんて。
何の因果関係かは分からないけれど、見たら最後。死ぬ時の最悪な瞬間まで、絶対起きられないと言う曰く付きなのだ。
神様が本当にいるのなら、是非問いたい。
私、前世で悪い事したつもりはないんだけど、なんで生まれ変わってからも嫌な思い出を蘇らせてくるんだろうか。
「どれどれ……やった、今日は運気最高」
夢の中の私は占いの結果を見て、ニコニコとしている。そうだよ、この日はそういう幸せな気持ちで1日が始まったんだよね。
今日1日の自分の運勢を占う事。
占いが全てを決める訳じゃないって、勿論分かっていたけど。でも、これまで大きく外れた事なんてなかったし、私の欠かせない朝のルーティーンだった。
だけど現実はそんなに甘くなかった。
太陽もだいぶ落ちた頃。そろそろお店を閉めようかな、なんて考えていた時に、テテテンテテテン、とスマートフォンの音が鳴り響いた。
「はい、はい……え、、、? 祖母が……? す、すぐ向かいます……!」
私は店仕舞いもそこそこに、慌てて病院へと走り出したんだ───
「っ、おばあちゃん……!」
駆け込んだ病室は、静寂に包まれていた。
私以外に家族のいない祖母の周りにいたのは、優しかった主治医の先生、いつも身の回りのお世話をしてくれていた看護師さん達。
ベッドへと歩み寄ると、もう二度と目を開く事のない、深い眠りについた祖母の姿があった。
「容態が急変して……心肺蘇生を行いましたが……」
「そ、う……でしたか……」
おばあちゃんが死んでしまった事を受け入れたくなくて、心が拒否しているんだろう。
私は悲しくて仕方ないのに、涙が溢れなかった。
今日1日の、自分の運勢を占う事。
今日のラッキーカラーやアイテム。それから、ちょっとしたアドバイス。
どれも大好きだったのに。
「……嘘つき」
傘もささずに、雨が滴りながら暗い道を歩く私。
あぁ、もうすぐ私……信号無視した車に轢かれて死んじゃうな。
「今日の運勢……最悪だったじゃん」
重たい足を引きずる様に歩く前世の私を、ただ見つめる事しか出来なくて……何も出来なくて、いつも悲しかった。
可笑しいよね。
それでも私は今……生まれ変わった未来で、誰かの為に占いをしてる。
今はまだ、自分を占いたいとは思えないけど、本当はもう、分かり始めているんだ。
こうして占いから離れられないでいるのは──……
────────────────
「…………シャ、サシャ?」
「……ん、ノエル……様? …………えっ!?」
ガバッと勢いよく上半身を起こした私と目が合ったのは、ちょっとビックリした顔のノエル様だった。
「あれ?」
……私、轢かれる前に目が覚めた?
いつもと違う目の覚め方に驚きつつも、ノエル様が起こしてくれたからかな……と、とりあえず思う事にした。
「疲れて寝ちゃってたみたいだね」
「すみません。考え事をしたまま、ウトウトしてしまったみたいです……」
「いいんだよ、今日はあんな事があったんだから。ベッドで休んでてもよかったのに」
「いえ、そんな」
私は自分の目を覚まさせようと、そこそこ勢いよくぺちぺちっと自分の頬を叩いた。
「今日の事をきちんとお話ししないとな、と思ってましたから」
あれこれ色々と考えたけれど、クララ様が怖い思いをした被害者だという事は、紛れもない事実だから。それに、また命を狙われる可能性だってある。
ならば早いうちに、私の見解と王子様方の意見も照らし合わせておかないと。
私の顔があまりにも真剣だったのか、ノエル様は困った様に微笑んだ。
「やっぱりサシャって真面目だよね。無理しないでいいのに。レクドは今クララの部屋に行ってるから、当分はこっちに来ないと思うよ」
だから僕達も休憩しよう。そう言って扉の外で待機していたイヴにお茶の声掛けをすると、私のすぐ隣に腰掛けた。
「あの……私、何か寝言で余計な事を喋ってたりとかしませんでした?」
「いや? 僕の部屋と繋がっている方の扉を軽くノックしたんだけど、返事がなかったからさ。申し訳ないけど勝手に入ってきたところ。そしたらサシャがソファーで寝てて、何だかうなされてたみたいだから思わず起こしちゃった」
ごめんねと謝られ、私は慌てて気にしないでくださいと返した。
むしろ起こしてくれてありがとうございます、とお礼を言いたいくらいだ。
ノエル様に気づかれないように、そっと頬に手を当てる。
……よかった、今日は泣いてなくて。
イヴに淹れてもらった紅茶を飲みながら、軽食もつまむ。まだまだ長引きそうだし、お腹も空いてきてたところだったので有難い。
「夜会はひとまず閉じられましたか?」
「うん、何とかね。一応1人ずつ確認してから退出してもらったから、結構時間がかかったよ。招かれていない客は混ざってなかった。それから不審物も見つかっていない」
「なるほど……」
「まぁどれも、入場前に全て確認済の事なんだけどね」
でも招待客の中に犯人がいた可能性だってあるし、その判断は間違っていないと思う。思っていたよりも慎重に確認を行ったんだな。
「……あの、私、」
「現場をもう一度だけ確認しておきたい、かな?」
え、何で分かったの、この王子様。驚く私を横目で見て、クスリとした。
「サシャならそう言うかなと思って。ガラス片も敢えて片付けずに、そのままにしておいたんだ。勿論会場内は誰も入れないように、入り口を騎士に守らせてる。レクドが来たら皆で現場検証といこうか」
そう言うと、コテン、と私の肩に頭を乗せて寄りかかった。
「レクドが来るまで、ちょっとだけ休憩させて?」
「……ちょっとだけですよ」
この王子様、本当よく分からないな。私に対する距離感が日に日におかしくなってる気がするんだけど。
……でも、夢から覚ましてくれたお礼は、しないとだからね。
レクド王子が来るまでの少しの時間、私達の間に漂う空気は、温かくて穏やかだった。
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