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36. 断固拒否!!
しおりを挟む「私としては身内の恥を晒すようで嫌だし、これでは何の為にナディアの魔法を抑えたか分からない。あと、単純に不愉快。
だが、私が教会にポロッともしかしたらこういうことがあるかもと話したら、「自分達の聖女に刃向かってくる愚か者を真正面から迎えてその出鼻をへし折りたい」って火がついちゃってね。
教会は教会なりの考えがあるみたいだけど、無意味な争いだし、まず大事な祝祭でやる事じゃない。
説得しているんだけど、あの脳筋には言語理解力がないのかも、とにかく止められないんだよね。
特に聖女祭は教会主催で、私は場所と人材を提供しているだけだから決定権がない……要は口を出せないのさ。
だから、教会が入れろと言ったら入れるしかないんだ。悲しいことにね」
今の教会はシルヴィーの一件があってから人事も運営も全て刷新されており、かつての面影は無い。
だが、マリィは知らなかった。まさかここまで血の気の多い教会になっているとは。6年前とは180度変わっている。
相手にするだけ意味が無いのに、教会はクリフォードの無茶な計画を本気にし、真正面から叩き潰すつもりだ。
マリィは呆れた。だが、同時にマリィの脳内に嫌な推測が走る。
クリフォードの書類偽造……貴族籍……聖女祭……教会が乗り気……国王は教会に従うしかない……。
これらを全て総合するとつまり……。
マリィはその信じられない結論に絶叫した。
「陛下! まさか本当にナディアを私の子にする気ですか!?」
「うん、そのまさかだよ。でないと参加させられないだろう? 不参加にさせたら教会に何を言われるか分からないし、こんな理由で軋轢を生みたくないからね」
国王は白衣の中から1枚の紙を取り出しマリィに渡す。マリィはその紙を国王から受け取り中身を読んだ。
書いた人間の絶望的な字の汚さで内容が分かりにくいが確かにナディアをマリィの養子にする申請書である。後は国王のサインだけで承認できる状態だ。
マリィは国王に何度も首を横に振った。
「嫌です! ナディア本人のことはともかくあなた達の問題に私を巻き込まないでください!
特例でも何でも作ればいいでしょう!?」
しかし、国王は全く動じない。
「無理無理。特例なんて1回作っただけで大変なんだよ?
今回のみとか1回限りとか言っても、絶対後年の人間が過去に前例があったからって掘り返して問題起こすんだから。
国家権力を舐めないでくれたまえ。影響力は絶大なんだ」
「だからって私を使うのですか!?
貴方は結婚の時もそうでしたけど、人を何だと思っているんですか! ゲームの駒じゃないんですよ。
それにクリフォードとナディアが問題を起こした時、私も責任が問われることになります!
私にはルークがいるんです。ルークまで何かあったら……」
「あぁ、それは大丈夫。
君まで責任を問われたらその時は書類偽造の件を持ち出して君を守るよ。そこは保証する。
まぁ、それによって起こるだろう二次被害、特に風評被害とかは保証しないけど」
「やっぱりダメじゃないですか!
断固拒否です!」
マリィは怒り申請書を破り捨てようとする。しかし、国王がボソッと「それコピーだよ」と告げ、マリィは手を止めるしかなかった。
怒りの吐きどころを見失い悔しくなるマリィ。
そんなマリィをフィルバートの後ろからルークは不安そうに見ていた。
ルークが知っているマリィはいつも穏やかで愛情深いその人で、確かに怒ることもあるが……こんな風に捲し立てるように怒ることはない。
(話の内容はよくわかんないけど……ナディア……あの女の子が自分の妹になるかもしれない……そういうことであっているかな?
でも……)
ルークは1度だけ見たあの子を思い出す。母親にそっくりな、魔法使いらしき彼女は……。
(何か自分と同じとは思えない子だった……)
その時、ふとルークは視線を感じた。
顔をそちらに向けると、そこには国王の目があった。
ルークと目が合うと、国王はにんまりと笑った。
(……っ)
怖気付くルーク。そんなルークに国王はにこやかかつ爽やかに告げた。
「君にもやってもらいたいことがあるんだよね。
しかも、君にしかできない。
フィルバートがいる今なら尚のことね」
「僕にしか出来ない?」
ルークは不安を感じつつもぱちぱちと何度も目を瞬かせる。
国王は笑っていた。とても人の良い笑みを浮かべていた。それはそれはとても詐欺師の顔だった。
「君、ヒーローに興味ある? 絵本でもなんでもいいんだけど、憧れの人とかでもいいよ」
「えっ、え……」
そう聞かれ、思わずルークは頬っぺたを上気させる。思いつく人はもちろん1人しかいない。
すぐさま自分の頭上を見上げた。
そこにはもちろんフィルバートがいる。
フィルバートは自分を輝く目で見つめるルークと目が合うと、国王の方を振り返った。
「先生、何を考えている……?」
「フィルバートはちょっと黙ってなさい」
フィルバートは今まで経験則からあまり良くないことが起きるのを察し、ルークを庇うように立つ。しかし。国王はフィルバートを軽くあしらい、そして、ルークに話しかけた。
「さて、ルークくん、フィルバートが憧れなのか、まぁ分かるよ、ウンウン。
これは提案なんだが、フィルバートみたいに人助けをしたくないかい?」
「人助け?」
ルークが不思議そうに首を傾げると、国王は何でもないように告げた。
「聖女祭の時だけでいい。君、聖女になってくれない?」
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