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イーラとアインドーバ3

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「この世界はウルに一切監視されてはいないけど、私は時々戻らないと怪しまれる。あなた達はこの世界で待ってて。先にいる人たちが色々教えてくれると思うから」
 戻ろうとするイーラの小さな手をアインドーバが掴む
「なに? やっぱり私を殺したいの?」
「そんなわけないじゃない。貴方みたいな小さな子を一人で行かせるわけにはいかないわ。私も一緒に行く」
「でも危険だから。あなたは確かに強いし、ウルの幹部くらいの力はあると思う。でもそれだけ。ウルの本拠地にはもっと強い幹部がひしめいてるし、それに掴まれば洗脳や改造をされちゃうかも」
「望むところよ。私に洗脳なんて効かないわ。私を制御できるのは私だけよ」
 意志の強い輝くような目
 かつてイーラもこの目を見たことがあった
 勇者フレイナという美しい勇者
 魔王を倒すために立ち上がった勇気ある少女で、人々にその勇気を与えて共に戦った
 そしてイーラの前に立ち、イーラが先代魔王にかけられていた洗脳を解いた優しい勇者だ
 だがその直後にフレイナは死んだ
 洗脳が解けたことで復活した先代魔王と戦い、相打ちで死んでしまったのだ
 何故彼女が敵である自分を助けたのか分からない
 死にゆく彼女の傍に寄ったとき、彼女は一言「君が悲しそうな顔をしていたから」といってこと切れた
 洗脳されていたため表情はなかったはずだが、勇者フレイナにその内面を見破られたのだ
 依頼イーラは勇者のように人のため、人に勇気を与えられる存在になるために生きようと決意した
 だがその決意から数年後、ようやく彼女が受け入れられるようになった時、ウルが現れ世界を滅ぼした
 魔族としてどの世界の魔族よりも力を持っていた彼女はずっと目をつけられていたのだ
 彼女を残して世界は消え、掴まって洗脳を受けた
 しかし彼女に洗脳は効かなかった
 強い意志かはたまた持って生まれた魔族としての大きな力か、そのどちらともが作用したのかは分からない
 洗脳を受けたふりをしてウルのために働くそぶりを見せて欺き、着実に大幹部にまで上り詰めたのだ
「さぁ私も一緒に連れて行きなさい」
「・・・、でも」
「大丈夫よ、自分の身は自分で守るから」
 イーラは恐怖していた
 また自分のせいで仲間を失ってしまうのではないかと
 それ故に即答はできない
 だがアインドーバはぐっと彼女の腕をつかんで離さなかった
 痛いほど握るのではなく優しく包み込むように
「分かりました。でも私から離れないで下さい。それとこれを着てください」
 それは灰色のローブで、幹部にもうすぐなりそうな者が着るローブだった
 このローブを着ている者はウルの本拠地にかなりの数がおり、幹部や大幹部についている者も少なくない
 カモフラージュにはうってつけだった
「ありがとうイーラちゃん」
 よしよしと頭を撫でられ、イーラは勇者フレイナを思い出す
 それで涙があふれて止まらなくなった
 ずっと一人で静かな戦いを続けてきた
 いつばれるかという緊張の中、綱渡りのような危ない橋を渡り続ける毎日
 彼女を優しく包み込むような存在との出会いにイーラは、その歳相応にアインドーバの胸の中で激しく泣いた
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