上 下
493 / 1,022

新世界より4

しおりを挟む
 崩れていたか所を私の破壊の力で崩す
 洞窟、こういう雰囲気も久しぶりだわね
 お姉ちゃんと私はかつて一つの体を共有して旅をしていた
 あの頃のお姉ちゃんは本来の記憶を無くし、大神の娘としての力に苦しんでいたわ
 私はお姉ちゃんの中でその苦しみを分かち合ってた
 私とお姉ちゃんは遥かな昔にはただの人間として暮らしていた
 大神の血を引いてるのは確か
 でも私達を産んだ大神は亡くなる寸前に私達を人間の両親の元へと送ったの
 それは安全のためにだったんだけど、無事に育った私達が十歳を迎えた日の朝のこと、人間の両親と一緒にいた私達の元に突如として何かが落ち、私達をかばった両親は亡くなった
 その時の衝撃で私の体は一度消滅、お姉ちゃんは力が暴走して魂が別の世界へと飛ばされてしまった
 私の魂は何とかお姉ちゃんの魂に入り込めて、お姉ちゃんは地球という場所で再び人間として生まれた
 それからのお姉ちゃんは大変だった
 少し大きくなれたと思ったら殺されたり、流行り病で死んだりと、まるで地球という場所がお姉ちゃんを拒んでいるみたいだった
 そして千年ほどの月日が流れ、日本という場所に生まれた
 そこでのお姉ちゃんは悲惨というしかなかった
 今までも確かにつらかったけど、今回は愛がない
 お姉ちゃんがここまで生まれ変わった人間達はちゃんと親の愛を、兄弟の愛を受けていた
 でも今回は全然違う。生まれてから十歳の誕生日までずっと虐待され、やせ細った体は見ていられなかった
 私が変わりたくても中からじゃ何もできなかった
 許せないあいつら、私の大好きなお姉ちゃんを
 お姉ちゃんに気づいてもらいたい。でもお姉ちゃんはこの千年で完全に記憶がなくなってる
 多分私のことももう覚えていない

 十歳の誕生日の日の夜、お姉ちゃんは逃げ出した
 ボロボロでフラフラで、今にも倒れそうな足取り
 それでも自らの幸せを求めて、降りしきる雨の中走るお姉ちゃん
 青信号になった横断歩道を渡ろうとした途端、信号無視をした車にはねとばされた
 痛みは私の方に変換、死ぬ間際まで痛みはなかったと思うわ
 悲しい、こんな転生の繰り返しに一体何の意味があるって言うの?
 お姉ちゃんの心はもう擦り切れてる。記憶はなくしても傷は残り続けてる
 何とかしたい。そう思った時視界が変わった
 これは感覚でわかる
 世界が変わった? 別の世界に来たみたい
 そこでは私達の姿は人間とはかけ離れた姿になっていた
 まるで化け物
 お姉ちゃんの記憶はまだ戻ってないけどここは今までにいた地球とは全然違う
 魔力の溢れた世界
 そこでお姉ちゃんはようやく自分のことを思い出し、そのおかげで私はやっとお姉ちゃんとコミュニケーションを取れるようになった
 その後は、旅をして、世界を救って
 いやまぁそこはいっか
 とにかく私達はいろいろあって女神の末席に加わった
 本当の家族を手に入れて私達はようやく幸せを手に入れたの
 
 そして現在
 枯れた井戸の調査のために地下の洞窟にきたけど、暗い
 リィリアちゃんは明かりをつける魔法を使ってゆっくりと奥へ進んでる
 この子動じないわね。まあ中身おじいさんらしいし、落ち着いてても不思議じゃないか
「この先に何かの気配を感じます。お二人もすでに感じているでしょうが」
「え、そうなの?」
「すごいわねリィリアちゃん。感知能力は私に匹敵するかも」
「そ、そうですか? 嬉しいです」
 あ、照れてる。可愛いとこもあるわね
 とりあえずその気配がするところまで入り組んだ洞窟をゆっくり進む
 魔物はいないみたいね
 何かの気配は特に悪い感じはしないけどもしかしたら危険かもしれないし、警戒しながら進まなきゃね
「もうすぐです。気配は近いですね」
 この子の感知能力速いわね。磨けば感知の女神キュカ姉さんに匹敵するかも
 それに内部に女神がいるから新聖魔法も威力が段違いだし
 今度お姉ちゃんに会った時にでもいい能力をあげてもらおうっと
「あ、原因の何かが分かりました」
 洞窟を流れる水、その流れをせき止めているのは巨大なナマコ?
 とにかくぶよぶよとした何かが塞いでるみたい
「これなんでしょうかね?」
「分からないわ。見たことないわこんなの」
 魔物って結構種類がいるから当然私じゃわからないのもいる
 お姉ちゃんならわかるかもしれないけどね
 とりあえず悪い感じはしないからまずはコミュニケーションをとってみることにした
「えーっともしもし」
「女神様、これってコミュニケーションとれるんですかね?」
「分かんないけど悪いものじゃないから一応ね」
 すると声に反応したのかもぞもぞと動き始めた
 うん、ますますナマコっぽいわ
 それは顔らしきものをこちらに向ける
「むわあああん」
 何かしゃべってるけど何言ってるのか分からない
 こういう時こそお姉ちゃんがくれた能力を使うべき時
 翻訳の能力でナマコ君が何を話しているのか聞き取ってみる
「んあ、君たちは? もしかして冒険者か何かかな?」
「うんまあそう言う感じかな」
「僕に何か用かな?」
「えっとね、あなたがそこの水路を塞いでるから村の井戸が枯れちゃったの。邪魔だからどいてくれる?」
「んおあ、それは悪いことをしたね。眠くて眠くて。ちょっと寝るつもりが長居をしてしまったようだね」
 聞き分けのいいナマコ君ね。心なしか愛らしい気もしてきたわ
 彼はゆっくりと動き始めると塞いでいた水路からどけて、「迷惑かけてごめんね」と言いながら洞窟の奥に戻って行った
「これで解決かな?」
「ええ恐らく」
 とりあえず解決したみたいだから私達は村に戻った
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

処理中です...