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獣人族の国再び4

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 そのヘルハウンドに似た犬魔物、まどろっこしいからダークハウンドとでも呼ぼう
 それはハクラちゃんをジッと見ている
「あの、精霊様、あれ私狙ってないですか?」
「狙ってるね」
「涎垂らしてませんか?」
「垂らしてるね」
「私って美味しそうに見えてるんでしょうか?」
「さっき少し食べられてもんね」
「ひぃいいい!」
 ハクラちゃんはダークハウンドから身を隠すように僕の後ろに隠れたけど、ダークハウンドからは丸見えな上に、僕よりも大きいから隠れきれるわけがない
 そんなこと本人も分かってるだろうけど、食べられるっていう恐怖が彼女の判断力を鈍らせているんだろう
 でも僕には分かっていた
 力の流れから察するに、ハクラちゃんはこの魔物よりはるかに強いってことが
「大丈夫だってハクラちゃん、君なら絶対勝てるから」
「そ、そうは言っても精霊様、あんなに太くておっきいのですよ! それにいきり立ってるじゃないですか!」
「ちょっとその言い方はやめようね。なんか卑猥だから」
 涙目のハクラちゃんは迫ってくるダークハウンドに始終ビビり続けていて、僕の後ろに隠れる
 こりゃ一筋縄じゃいかないかも
 クロハさんはよくこの臆病なハクラちゃんをあそこまでモチベーション高く保っていたものだと、改めてクロハさんのすごさを痛感した
 いや姉妹だからそうなのかもしれないけど、この姉妹、異常なほど仲がいいからなぁ
 仲がいいと言うより愛し合ってるという表現のほうが正しいのかもしれない
 まぁハクラちゃんの場合は普通の姉妹愛なんだろうけど、クロハさんがやば、ハクラちゃんに対して過保護すぎるからなぁ
 たった一人の肉親だからって言ってたけど、あのハクラちゃんを見る目はなんというか、ハクラちゃんがアブないような気がする
 まぁお姉さんだから手を出すことは・・・、いやなんか出してた気がするなぁ
 ハクラちゃんが嫌がってないからまあいいのか
「せせせ精霊様! 目の前目の前!」
「ああもう、考え事してるのに!」
 僕はハクラちゃんを持ち上げてダークハウンドの前に立たせた
「へ?」
「ほら大丈夫だから」
「ちょちょちょ精霊様! そんなご無体な!」
「ほらハクラちゃん後ろ後ろ」
「ひぃいいい!」
 ハクラちゃんの後ろには口を大きく広げて今にも噛みつこうとしているダークハウンド
 とっさに彼女は力を使った
「来ないで!」
 するとダークハウンドはあっさり吹っ飛んで消し飛んだ
「ほら、だから大丈夫って言ったじゃない」
「あれ? 私ここまで力が増してたんですか?」
 ハクラちゃんは自分の手を見て驚いている
 今の魔物はSランク相当の力がある。それを一撃だ
 ぼくじゃ無理だけど、彼女は簡単に倒せるほどの力がある
 これはやっぱり鬼神の力なんだと思う
 鬼神にはまだまだ分からないことが多い。今までこの世界で鬼神に成ったのは三人
 それぞれが違う進化をするってことは分かったけど、何が作用してそうなるのかが分からない
 そう言えば僕が知っている限りでは進化する種族は鬼人に鬼仙、それからエルフ、妖怪族、あ、人間もか
 進化はその体が進化するに値したときになされる奇跡
 もしかして、精霊も進化できるのかな?
 でも精霊の祖神だった母さんからはそんな話は一切聞いたことが無い
 数億年単位でそんなことが起こってないってことだ
 今まで進化をしようと試みた精霊がいたって話もあるにはあるんだけど、そう言った精霊は皆行方不明か、格落ちし、逆に退化してしまったんだと言う
 これがどういうことなのかは母さんもわからないそうで、他の神様にしても精霊のみが進化しない理由が分からないらしい
 他種族から精霊に進化することはあるみたいだから、精霊が最終進化、ということもあるのかもしれない
「ま、これでわかったでしょ? ハクラちゃんはこの世界でも類を見ないくらいに強くなってる。それは精霊族をしのぐほどに」
「私が、そこまで?」
「自信、ついたんじゃない?」
「はい!」
 ダークハウンドを倒したことで次の階層へ繋がる扉が開く
 ハクラちゃんは自信がついたことで僕の前を胸を張って歩いて行く
 そう言えばこの迷宮って何階層まであるんだろう?
 ここから二階層目、今までの経験からしたら十階層が平均かな
 黒族の国にあった迷宮塔は百階層だから計算に入れないにしても、十階から二十階が多かった気がする
 でもここは封印までされてるような迷宮だ
 どこまであるのかもわからないし、なにが出るのかも何が起こるのかも何もわからない
 しかしまあ何というか現金なものですよ
 ハクラちゃんはあっという間に元気になってずんずん先へと進んでいく
 鼻歌まで歌ってるし
 まあ元気になってくれてよかったよ
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