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魔王ちゃんを狙う者5

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 あれから数か月が経った
 吾輩を狙う者は鳴りをひそめたまま今のところ何もない
 一体どこへ消えたのだろうな? このまま引き下がってくれればいいのだが
 まぁ相手は吾輩を殺そうとしているのだから万が一にもそんなことはないだろう
 さて、国の視察に回るか
 この国はかつて世界征服のために領土をかなり拡大していた
 魔族の国、名前はジューオン、首都はこの城があるリガインだ
 勇者に敗れた後、吾輩がこの国を治めることを条件に領土を少し縮小して国を存続させてもらえることになった
 勇者は吾輩を父上の呪縛から解き放ってくれた恩人でもある
 だから吾輩は勇者のことを・・・。いや、それはあってはならないことだ。この気持ちはそっとしまっておこう
 それにしても、あの日以来勇者はどこへ消えてしまったのか
 今は考えようにしてはいるがそのうちまた会えるとよいのだが・・・
 ともかく視察のことを今は考えなければな
 この視察は一応抜き打ちだ。その土地土地の普段の姿が見たいからな
 護衛としてリドリリとシュロン、それにカミネだ
 カミネは既にリドリリに左手を絡め、まるで恋人のように抱き着いている
 うむ、微笑ましい限りだ
 リドリリは困った顔をしているが、まぁ迷惑そうではないので放っておこう
 かくして吾輩たちの視察旅が始まった
 この国、結構広い
 めんどく、いや、決してめんどくさいわけじゃないぞ?
 ただちょーっと広いなぁって思っただけだし。イヤァ、シサツタノシミダナー
 吾輩が嫌そうにしてるのを感じ取ったのか、リドリリが優しく語り掛けてきた
「キーラ様、今から行く街はジェラートという食べ物が有名なのですよ?」
「ジェラート? なんだそれは?」
「数ヵ月前に流れ着いた異世界人が広めた甘くて冷たいデザートです。口の中で溶けてとってもおいしいんですよ」
「ほぉ! それは是非とも食べてみたい!」
 ジェラート、そんな魅惑の食べ物があるのか
 甘いものは大好きなのだ
 一転とても楽しみになった吾輩はウキウキしながら道中を急いだ。と言っても隣街なので1時間ほどで着いたんだがの
 早速ジェラートを食べに、じゃなくて街長に会いに行くか
 街長のいる建物に行くと、すぐに吾輩たちに気づいたここで働いている魔族たちが駆け寄って来た
「魔王様! よくぞおいでくださいました。すぐに街長を呼んでまいりますね」
「うむ、頼むのだ」
 彼らが呼びに行くとすぐに街長が走って来た
 相当慌てているようだ
「これはこれは魔王様! それにリドリリ様、お久しぶりでございます」
「えぇ、ナイアも元気そうで何よりです」
 彼女、街長のナイアとリドリリはかつては上司と部下の関係だった
 父上が亡くなった後はナイアの温厚な性格と、人々をまとめ上げる手腕を買ってこの街、ゴルビを任せている
 街長として非常に頑張ってくれているみたいで、この街はここまで発展した
 今では首都と同じくらいにぎわっているのだ
 彼女と他愛のない話をし、報告を聞きしばらくすると、部屋に何やら運ばれてきた
「あ、来たようですね。魔王様、少し休憩されてはどうでしょう?」
「ふむ、そうだな。じゃぁお言葉に甘えよう」
 運ばれてきたのは見たこともない食べ物だった
 なんだか丸いものがガラスの器にいくつか乗っかっている
「これは何だ?」
「フフフ、食べてみてください」
 吾輩はスプーンでそれをすくい取り、一口運んでみた
 口の中に入れた瞬間、冷たさと甘さが口の中いっぱいに広がった
 甘い! そしてうまい!
「美味しいですか? それはジェラートという食べ物です」
「これがジェラートか! 話には聞いていたが、何ともうまいものなのだな!」 
 あまりの美味しさに口の中に運ぶ手が止まってくれない
 すると、急激に頭が痛くなってきた
「ぬおお、頭が! なんだこれは!? まさかまた吾輩の命を狙って、毒か!? 毒なのか!?」
「落ち着いてください魔王様、いっきに食べ過ぎたのです。ほら、熱い紅茶を飲んでみてください」
 言われるがまま紅茶を口に含むと、不思議なことに頭痛はなくなった
「おお、痛くなくなったぞ。なんと不思議な食べ物か」
 頭痛のリスクはあるが、それはゆっくり食べれば問題ないようだ
 これほどの食べ物を伝えてくれるとは、その異世界人には褒美をやらんとな
 吾輩はナイアに礼を言い、これからも街を頼むと言ってゴルビを後にした
 次に目指すはサルハという小さな町だ
 ジェラートのおかげで元気が出たことだし、張り切っていくとしよう
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