上 下
262 / 487

魔王の王16

しおりを挟む
 フィオナちゃんを私の背中に乗せてひとまず今日は野営をすることになった
 ニッサさんがアンデッド避けの魔法を展開して、さらにエルヴィスと私のダメ押し結界
 これだけ強固ならよほど強いアンデッドではない限り大丈夫
 フィオナちゃんはしばらくして目が覚めたけど、魔力切れのせいかまだ頭がガンガンするのと、眩暈があるみたい
「ご心配おかけしました」
「いいのよ。でもあまり無茶はしないでね?」
 この任務が終わったら魔力を伸ばす方法を教えてくれるらしい
 集中力が大事だから、こういう危険が伴う時にはできないんだって
「もう歩けそう?」
「はい、それは大丈夫です」
「でもま、ゆっくり休んで。ご飯や寝床の用意は僕達でやるから」
 この二人がアイドルのように大人気な理由が分かる
 単純に優しい。すごく
「はい、スープとパン。野菜はいっぱい入ってるから栄養はつくわよ。あとこれもね」
 そう言ってニッサさんはスープとパン、そしてかったい干し肉をくれた
 あじはまあ、うん、保存食にしては美味しい部類
 干し肉はかなり固くて、ちっちゃな私の歯じゃ噛み切れなかったけど、ニッサさんが切り刻んでくれた
「さて、食べたらゆっくり寝ること! 疲れや寝不足はパフォーマンスを落としちゃうからね」
 ニッサさんおかあさんみたい
 
 翌朝
 すっきりした目覚めで簡易テントから外に出ると、結界まわりはゾンビたちが浄化された後でいっぱいになってた
 具体的に言うと灰が積もってた
「すごい結界ですね」
「ふふふ、そりゃあそうよ。教会で血のにじむような特訓したもの」
 ドヤッてるニッサさん可愛い
「さて、目的地の魔王討伐場所はもうすぐよ」
「もうさすがにスケルトンドラゴンクラスは出ないだろうけど、気は抜かないようにね」
 平原の丁度中心あたり
 そこには石碑が一つ立っていた
 死者の魔王への石碑じゃなくて、死者の魔王の犠牲者のための石碑
 そこに、一人の何かが座っていた
 ボサボサの髪に汚れてボロボロの服と体
 死体が腐った臭いがする
「なんだ、人間か? 鳥人もいるようだな。私を再び殺しに来たか?」
「お前は、死者の魔王だな?」
「そう呼ばれていたのは知っていたが、ふむ・・・」
 そのまま黙り込んでしまう魔王らしき者
「戦う気がないなら聞かせて欲しい。お前を甦らせたのはなんだ?」
「死者を操るのが私様の力だった。私様がかつて操った死者は、意志もありしっかりと受け答えできていたんだ。だがどうだ? 今私様の力は見る影もない」
「それがどうした? お前を甦らせたのは誰かと聞いてるんだ!」
 声を荒げるクピアさん
「私様は、もうだめだ。こんな力じゃ、死者に申し訳が立たない。彼らは私様の、良き友だったというのに」
 なんだか文献に残ってる話と違う
 死者の魔王は陰湿で、死体の尊厳を貶めるのが好きだったって聞いたけど、いざ本人と会ってみると、まるでそんな感じはしないどころか、死体を丁寧に扱っていたような感じさえする
「私様は、もう間もなく再び眠りにつくだろう」
 死者の魔王が自身のお腹を見せる
 そこにはざっくりと何かで切り裂かれた痕があった
「まさか、自分で自分の体を?」
「私様はもう静かに、死者たちと眠りにつきたいのだよ。私様を、蘇らせたあの男・・・。情報が欲しいのだろう? あの男からは異質な気配がした。まるで、この世界にないものかのように。話せることはそれだけだ。それじゃあ、もう眠らせてくれ」
「ありがとう。死者たちの王」
「ふふ・・・」
 魔王ではなく、死者に寄り添った王
 それがこの人の本来の姿だったのかも
 死者たちの王は最後に私達に優しく笑いかけて、ボロボロと崩れ去った
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...