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二の国(後編)
獣
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『ビースト』、数年前、神国からこの世界全体に向けて公開された謎の存在。
いくつか条件を満たしたエルフは自我を失い、獣のように暴れ出す。
そして、その力は元の比ではないほど跳ね上がり、手がつけられなくなる。
その存在が、今、俺らの目の前で生まれてしまった。
何度も修羅場を潜り抜けてきたのかヨロズは義足をバネのように使ってビーストから距離を取る。
俺は恐怖からか絶望からか動くこともできずに立ち尽くしていた。
ビーストが獣のように走って俺に近づいてくる。
ああ、終わりか。
いや、死ぬ訳にはいかない。
姉を探さなくちゃ…
でも、動けない。
俺は諦めから目を瞑ろうとした。
しかし、突然目の前に何者かが現れた。
その者は異常に伸びた爪で弾くようにビーストを跳ね除けた。
ビーストは突然飛ばされて困惑していたようだったが、俺の前に立つ人物に標的を変えて向かってくる。
ビーストが四足歩行で地面を蹴り飛び上がる。
その体は次の瞬間、俺の前の者の爪に突き刺されていた。
少し、爪が脈動するように動いた気がした。
その数秒後、ビーストは痙攣するように動いたのち、完全に活動を停止した。
俺の前の人物はくるりと俺に向かって振り返る。
そいつは、顔をツノの生えた面で隠し、体を紫のマントで覆っていた。
裏路地で薬物を売っていた人物、般若であった。
「何で…」
助けたのか、その言葉が出てこない。
しかし、般若は俺の不完全な言葉の意味を理解したように軽く頷くと、般若の面を外した。
「まあ、同じ人間のよしみってやつだ」
大きな面で隠していた般若の耳は尖っていなかった。
俺が生きていた中で、家族以外初めてエルフではない人間を見た。
般若はもう一度面を付け直して耳を隠した。
「お前もあまりその耳を出さない方が良い
人間の能力を利用しようとする者もいる」
ようやく心が静まった俺は口を開く。
「人間の能力ですか?」
「ああ、七美徳人や七大罪人、特殊能力者、能力者、新人類、旧人類、精霊術師、魔術師、加護持ち。
まあ、古い文献を見ると人間には様々な能力を持つ者が居たようだ。
現在その能力を持つ者自体いないものもあるが、何かの拍子に覚醒する可能性もある。
だから、人間であることはなるべく隠しておくべきだ。」
「あの、あなたは?」
「俺は大罪人(たいざいにん)の一人、体内で毒を作る能力がある。
顧客には勿論違法なルートで入手したクスリを売っているが、本来俺の体内でも薬物くらい作れる。」
俺は名前を聞いたつもりだったが、般若はどうやら勘違いしたようだ。
なるほど、なぜビーストがああも簡単に動きを止めたのかこれで納得がいく。
般若の爪から毒を注入されたのだろう。
般若はもう語ることがないのか、マントを翻して去ろうとする。
「あの、助けていただきありがとうございました」
俺は般若の後ろ姿に深々と頭を下げた。
再び顔を上げた時には般若の姿はなかった。
代わりに遠くに逃げていたヨロズの姿が目に入る。
ヨロズは俺を見てばつが悪そうな顔をしていたが、やがてため息をつくと俺に近づいてきた。
「自分だけ逃げて悪かったな、作戦は失敗だが、あたしの持っている情報は教えてやる」
いくつか条件を満たしたエルフは自我を失い、獣のように暴れ出す。
そして、その力は元の比ではないほど跳ね上がり、手がつけられなくなる。
その存在が、今、俺らの目の前で生まれてしまった。
何度も修羅場を潜り抜けてきたのかヨロズは義足をバネのように使ってビーストから距離を取る。
俺は恐怖からか絶望からか動くこともできずに立ち尽くしていた。
ビーストが獣のように走って俺に近づいてくる。
ああ、終わりか。
いや、死ぬ訳にはいかない。
姉を探さなくちゃ…
でも、動けない。
俺は諦めから目を瞑ろうとした。
しかし、突然目の前に何者かが現れた。
その者は異常に伸びた爪で弾くようにビーストを跳ね除けた。
ビーストは突然飛ばされて困惑していたようだったが、俺の前に立つ人物に標的を変えて向かってくる。
ビーストが四足歩行で地面を蹴り飛び上がる。
その体は次の瞬間、俺の前の者の爪に突き刺されていた。
少し、爪が脈動するように動いた気がした。
その数秒後、ビーストは痙攣するように動いたのち、完全に活動を停止した。
俺の前の人物はくるりと俺に向かって振り返る。
そいつは、顔をツノの生えた面で隠し、体を紫のマントで覆っていた。
裏路地で薬物を売っていた人物、般若であった。
「何で…」
助けたのか、その言葉が出てこない。
しかし、般若は俺の不完全な言葉の意味を理解したように軽く頷くと、般若の面を外した。
「まあ、同じ人間のよしみってやつだ」
大きな面で隠していた般若の耳は尖っていなかった。
俺が生きていた中で、家族以外初めてエルフではない人間を見た。
般若はもう一度面を付け直して耳を隠した。
「お前もあまりその耳を出さない方が良い
人間の能力を利用しようとする者もいる」
ようやく心が静まった俺は口を開く。
「人間の能力ですか?」
「ああ、七美徳人や七大罪人、特殊能力者、能力者、新人類、旧人類、精霊術師、魔術師、加護持ち。
まあ、古い文献を見ると人間には様々な能力を持つ者が居たようだ。
現在その能力を持つ者自体いないものもあるが、何かの拍子に覚醒する可能性もある。
だから、人間であることはなるべく隠しておくべきだ。」
「あの、あなたは?」
「俺は大罪人(たいざいにん)の一人、体内で毒を作る能力がある。
顧客には勿論違法なルートで入手したクスリを売っているが、本来俺の体内でも薬物くらい作れる。」
俺は名前を聞いたつもりだったが、般若はどうやら勘違いしたようだ。
なるほど、なぜビーストがああも簡単に動きを止めたのかこれで納得がいく。
般若の爪から毒を注入されたのだろう。
般若はもう語ることがないのか、マントを翻して去ろうとする。
「あの、助けていただきありがとうございました」
俺は般若の後ろ姿に深々と頭を下げた。
再び顔を上げた時には般若の姿はなかった。
代わりに遠くに逃げていたヨロズの姿が目に入る。
ヨロズは俺を見てばつが悪そうな顔をしていたが、やがてため息をつくと俺に近づいてきた。
「自分だけ逃げて悪かったな、作戦は失敗だが、あたしの持っている情報は教えてやる」
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