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第十七章 キャンプ

VSティアマト①

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 だんだん太陽が落ち始めている。辺りが次第に薄暗くなってきた。
 ドラゴンの夜目がどれだけ効くのか分からないが、長引けばリィカたちは見えにくくなる。

(あまり時間はかけてられない)

 リィカはそう思い、出現したドラゴンを睨んだ。


※ ※ ※


 ドラゴンが大きく口を開けた。そこに魔力が集まっていく。

「《結界バリア》!」

 ユーリが魔法を唱えて、アレクとバルの前面に光の結界ができる。同時にドラゴンの口から激しく射出されたのは、大量の水だった。

「……………っ……!」

 中級魔法の《水鉄砲アクアガン》に似ているようで、しかし威力は桁違いに強い。
 ユーリの表情が一瞬にして歪み、《結界バリア》が壊れる。アレクとバルが慌てて左右に避け、迎え撃ったのはリィカだった。

「《電磁砲レールガン》!」

 貫通力の高い魔法が、放出された水流と激突する。
 リィカは歯を食いしばった。防御を重ねなかったのは、それでは多分無理だと思ったからだ。攻撃魔法をぶつけたほうが、防げる可能性が高い。

 だが、強い。押されると思ったが、その状況を仲間たちが傍観しているだけのはずもない。

「《太陽柱サンピラー》!」
「ギャァ?」

 ユーリが、中級魔法を唱える。ドラゴンが空から降りる光柱の中に取り込まれるが、不愉快そうにしただけで、さほどダメージを負った様子はない。

 やはり中級では効果が薄いか、とユーリが思ったところで、アレクとバルが動いた。

「《風の付与ウインド・エンチャント》!」
「《土の付与アース・エンチャント》!」

 同時にエンチャントの魔法を唱える。さらに、アレクが剣に魔力を流す。風の緑の魔力が、さらに深く緑に染まる。

「【隼一閃しゅんいっせん】!」

 何度目になるか、横に薙ぐ風の剣技。サイズも大きく、威力も強くなったそれは、ドラゴンの腹に命中した。

「ギャアアァァッ!」

 目に怒りを宿して、攻撃してきたアレクを睨んで叫ぶ。だが同時に、口から放出されていた水が止まった。

「いけえええぇぇぇっ!」

 リィカが叫ぶ。《電磁砲レールガン》が水を蒸発させながら、真っ直ぐドラゴンに向かう。
 同時にアレクがドラゴンに肉薄し、その後ろをバルが追う。

「ギャッ!」

 ドラゴンは、リィカの魔法と、アレクとバルの攻撃、三つを凌がなければならない。どれか一つくらいは決まる。そう思ったリィカだが、それは甘かった。

 ――突如、突風が吹き荒れて、リィカの魔法が消し飛んだ。アレクとバルが、それ以上前に進めず、逆に吹き飛ばされそうになり、その場に必死に立ち止まっている。

「飛んだ……」

 ドラゴンの、背中の二対の翼が、激しく動いた。その翼の動きが突風を生み出したのだ。そして、さらに宙に浮き、空を飛ぶ。

「ギャアアァァッ!」

 上空から、再び水流が発射された。

「《結界バリア》!」
「《水防御アクア・シールド》!」

 ユーリの唱えた《結界バリア》に、今度はリィカも防御を重ねる。

 先ほどは、攻撃魔法で相殺できなかった。だというのに、今度は上空からの攻撃で、さらに勢いもついて威力が増している。

「くっ……!」
「…………っ……」

 リィカとユーリが歯を食いしばる。それでも、受け止めてはいる。防御は破られていない。このまま防ぎきる……とリィカが思ったところで、ドラゴンは広げていた羽をたたんだ。当然、空を飛べず、そのまま地上に落下する。

「マズいっ!」

 理由が分からないリィカを余所に、そう叫んだのはアレクだった。剣技を放とうと剣を構える。だが、遅かった。

 ドラゴンが足から着地した。上空から何に遮られることもなく着地し……その衝撃で地面が揺れた。

「うわっ!?」
「きゃあっ!?」

 かつてユグドラシルの島で戦ったキリムも、自らの巨体を利用して足元を崩してきた。
 このドラゴンは、キリムほど巨体なわけではない。だが、それでも身長の二倍以上の大きさはある。それが、空から落ちてくる重力も利用して、地面に衝撃を与えたのだ。

 それだけ、と言われればそれだけ。だが、リィカとユーリの気が散るのには十分すぎた。水流を受け止めていた魔法への集中力が、散漫になる。そして、あっけなく壊れた。

「「…………!」」

 勢いよく吐き出された水が、リィカとユーリを襲う。二人は目を見開くしかできない。だが、その前に立ち塞がったのは、バルだった。

「ぐおっ!」

 悲鳴を上げつつも、土のエンチャントのかかった剣で、その水流を受け止める。だが、バルの大きな体が、押された。足が後ろにずれていき、受け止めている剣も押される。さらに、剣にかかっていたエンチャントが切れた。

「あっ……!」

 我に返ったリィカが動こうとしたとき。先に動いたのはアレクだった。

「はあっ!」

 剣を、ただ上から下へと振り下ろす。そして、それは文字通りに、水を断ち切っていた。

 アレクが、フウッと息を吐く。旅の途中、人食い馬マンイート・ホースと戦ったとき、暁斗がそれらの攻撃を剣で切っていたのを思い出してやってみたのだが、上手くいった。

 そして、バルもフッと息を吐く。そのちょっとした隙間。

「ギャアアアァァッ!」

 ドラゴンが低空飛行で体当たりするように突っ込んできた。だがすでにこの時には、後衛組が落ち着いていた。

「《水蒸気爆発スチームバースト》!」

 リィカの魔法が放たれる。ドラゴンは躱そうとして失敗し、直撃した。だが、そこで無理に前に出ることはせず、魔法の威力に合わせて後ろに下がり、さらに上空へと飛び出す。

 魔物のくせに対処が見事だ。ダメージは最小に抑えられてしまっただろう。だが、距離はあいた。その瞬間、今度はユーリが動いた。

「《太陽爆発ソーラー・フレア》!」

 魔王との戦いの最中に使えるようになった、火と光の混成魔法。それが、ドラゴンを中心に発動して、凄まじい爆発を起こした。

 今度こそ、確実に命中した。だが、四人の誰の表情にも安堵はない。その爆発の中の気配も魔力も、衰えていないからだ。

 リィカは、無言のままアイテムボックスに手を触れる。取り出したのは、ルバドール帝国の帝都ルベニアで、サムに作ってもらった剣だ。

「剣で戦うんですか?」
「うん。翼を切り落とす」
「なるほど」

 ユーリは頷いて、同様に剣を取りだした。
 アレクもバルも、それを見て苦笑する。自分たちに任せろ、と思わなくもないが、剣を取りだしたからといって、リィカとユーリが接近戦をするわけではないだろう。

「まあ、あちらだけ空を飛ばれたら、戦いにくいからな」
「おれらと同じ、地面に降りて来いってことだな」

 爆発が収まる。
 そこには、体のあちこちから血を流しているものの、五体満足なドラゴンの姿があった。

「ギャアアアアアァァァァァァァァアァアァァアアァァッ!」

 怒り狂ったようにドラゴンは咆哮し、四人は迎え撃つべく剣を構えたのだった。
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