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第十七章 キャンプ

脱出の準備

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「我々も脱出しろ、ですか。まあ当然ですね」

 魔法師団員からアレクの言葉を聞いたヒューズは、特に悩むこともなく頷いた。報告をあげたほうが戸惑うほどだ。

「それでよろしいのですか?」
「我々がいても足手まといです。それに、脱出した生徒たちの護衛をしなければなりませんから」
「……そうですね、分かりました」

 足手まといと言われれば、その通りと言わざるを得ない。何せ、アレクは一撃で魔物を倒していた。自分たちは無理だし、一対一でも相手が難しい場合も多いのだ。

 魔法師団員はそう考え、頷く。ただこんな場合ではあるが、考えている事を口にした。

「ヒューズ殿、一つお願いがあるのですが」
「何でしょうか」
「アレクシス殿下とバルムート様には魔法師団員を。ユーリッヒ様とリィカ嬢には騎士団員をつける、という考えは尤もだとは思います。ただ、せっかくなので私はリィカ嬢の戦いを見たいのです」

 その言葉に、ヒューズは一瞬押し黙った。そんな状況か、と言いたくなるが、気持ちは分かる。目の前の師団員は、魔法師団の副師団長に一番近しい男だ。その大変さを身近で見てきている男だ。

「分かりました、いいですよ。アレクシス殿下とバルムート様のところに、騎士団員がいないわけではありませんし。ただ、見ているだけではなくきちんと戦って下さいよ」
「ええ、それはもちろん。ありがとうございます」

 頭を下げて去っていくのを見送りながら、ヒューズは思う。

 魔法師団の力が全体的に落ちている。師団長派閥の人間が訓練をサボっているのが主な理由ではあるが、真面目に取り組んでいる副師団長の派閥側も、実力が上がっていかない。

 元々下級貴族が多く、魔力量も豊富とは言い難いから、ある程度は仕方がない。だが、それを彼らは良しとしていないのだろう。魔法を使えなかった勇者を教えて使えるようにしたリィカに、教えを請うか検討している、という話を聞いたことがある。

 その目でリィカの実力を見る事ができれば、その検討も大分進むだろう。確かに、彼らにとっては"せっかくの機会"なのだ。


※ ※ ※


「やはり、馬車も馬も足りませんか……」

 脱出準備を整えているハリスからの報告に、ヒューズは苦々しくつぶやいた。分かってはいた。ここまで生徒たちは歩いてきたのだ。乗ってきた馬車は、最後に止まった宿に置いてあり、明日ここまで引いてくる予定だった。

 歩けなくなった生徒たちを乗せた馬車も、あっても邪魔なので宿に引き返している。
 ここにある馬や馬車は、キャンプに必要な物品を運んできたものだけである。それらの物品類は置いていくとしても、それでも足りない。

「兵士は全員歩いて、生徒たちを馬に乗せます。教師の方々には、全員御者を務めてもらいたい」
「それは構いませんが、歩くとなると時間が……」
「時間稼ぎは殿下方にお願いするしかありません。他にどうしようもできません」

 馬がなければ歩くしかない。そうすると一気に駆け抜けることが不可能になるから、どうしても遅くなる。確かにどうすることもできないのだが、ハリスの顔は微妙に歪んだ。

 アレクたちの担任をしているのがこの男であることを、ヒューズも当然知っている。生徒の身分に関わらず、平等に接している男だ。自分の生徒たちが危険な場所に立っていることだけでも、きっと辛く感じているのだろうと思う。

 それを察した上で、ヒューズは何も言わない。そしてハリスもそれに関しては口にせず、言ったのは別の事だ。

「馬車から荷はすべて出し終えましたから、生徒たちを乗せ始めます。まあ、詰め込むことになりますが」
「それもしょうがないですね。文句を言う奴は置いていきましょう」

 ハリスが苦笑して言えば、ヒューズはニコリともせずに言った。実際、馬車に詰め込むことになるし、御者台にも乗ってもらう事にもなる。文句の一つや二つは絶対に出るだろうが、それに関わっている余裕はない。

 置いていくというのが、半ば本気であるヒューズに対し、それだけは絶対にないと考えているハリスが、生徒たちに指示を出そうとしたときだった。

「この程度に何を時間掛けている! やはり無能ばかりではないか!」

 そう叫んだのは、ナイジェルだった。
 ああやっぱり文句を言うのはこいつか、とヒューズは内心で思ったのだった。
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