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第十六章 三年目の始まり

バッドエンドに繋がる道

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「ふう……」

 屋敷に戻ってきたレーナニアは、自らの部屋に入り、ベッドに横になった。侍女たちには下がってもらって、部屋には一人だ。

 あの後、大変と言えば大変だった。
 国立の、沢山の貴族の子息令嬢が集まる学園に、Bランクという高位の魔物が三体も現れたこと。
 明らかに学園関係者ではない外部の人間が入り込んでいた事。

 知らせを聞いた兵士たちが駆け付けたときには、すでに魔物は倒され、怪我人もその治療が終わっていたこと。

 これは別にいいのかもしれないが、それを成したのが一応まだ学園の生徒という身分である者たちであったことが、問題と言えば問題だった。

 建前上、何か問題が起これば教師がその矢面に立ち、兵士たちが来るまでの時間稼ぎをするものだ。それが、教師すら駆け付けたときには事態はすでに解決済みなのだから、面目丸つぶれである。

『申し訳ありませんが、先生方が矢面に立っていたら、死人と怪我人が量産されていただけかと思われます』

 遠慮のなさ過ぎるアークバルトの言葉だが、誰も反論はできなかった。

 対処に当たったのは、おそらく今この世界で一番強いであろう、勇者一行の面々である。生徒ではあるが、対処に一番適した面々でもある。それでいいじゃないか、でその話は終わった。

 捕らえられた男は、尋問のために城に連れて行かれた。マンティコアの死骸三体は、兵士たちが片付けた。

 そして、目撃した生徒たちからの事情聴取が行われ、それ以降の授業は中止となり、レーナニアも戻ってきたのだ。

 横になったレーナニアが思い出すのは、去っていくアレクとリィカの後ろ姿だ。その姿を見送りながら、レーナニアは頭痛と共に久しぶりに"ゲームの記憶"を思い出したのだ。

 それは、魔王が倒れた後のストーリーだ。ヒロインのハッピーエンドまでを綴るストーリー。
 ヒロインが、相手の男性からの結婚を断り続けた場合にのみ起こるイベント。それが、ヒロインがずっと隠してきた秘密が明かされるイベントだ。

 そして、ヒロインが意地でも結婚を断り続けると、ゲーム唯一の"バッドエンド"へと繋がる話でもある。

 完全にゲーム通りに進んでいるとは言えない。リィカが結婚を断ったのは一回のみなのだから、断り続けているわけではない。けれど、それでもあのアレクとリィカの姿が、ゲームの中の姿と重なったのだ。

 自分やアークバルトが余計な事をした、とはレーナニアは考えたくなかった。リィカに話をすることは絶対に必要だったし、アレクと話をする方向にもっていくことだって、間違っていなかったはずだ。

 けれどそれが、最悪の方向に進む可能性もあると思うと、駄目だったのだろうかと考えてしまう。

「もしかしたら……もう明日からリィカさんに会えなくなるのかしら……」

 明日リィカが登校してくるかどうか。それでリィカがバッドエンドを回避できたかどうかが分かる。もしも回避し損ねたなら……リィカはきっともう、アレクの部屋から出られることはないだろうから。

「ふう……」

 もう一度息を吐き、目を瞑る。瞑りながら、ふと疑問がよぎった。リィカヒロインの秘密とは何なのだろうか、と。


※ ※ ※


 リィカは、自分を抱えるアレクに何も言えず、ただ体を固くして緊張していた。

 横抱きにされたまま学園を出て、街中を歩いて、王宮に到着した。当然、人目を引いたし、普段のリィカであれば、下ろしてと叫んでいただろう。
 しかし、アレクの雰囲気とリィカの罪悪感とが重なった結果、リィカは何も言えなかったのだ。

 王宮に入ると、アレクは躊躇うことなく私室に向かう。
 リィカは息を呑んだ。王宮に滞在していたこともあるが、その時にアレクの部屋に入ったことはない。入るなと注意を受けてもいる。

 けれど今、アレクはリィカを下ろす気配さえ見せずに、迷いなく私室に入っていった。

「アレクシス殿下……!」
「誰も入るな」

 慌てた侍女たちが声をかけるが、アレクは冷たく宣言すると、ドアを閉める。そのまま部屋の中央まで歩き、そこで足を止めた。

「誰も入るなと言ったはずだ、フィリップ」

 アレクの言葉に、誰かが動揺したような気配が動き、リィカもそれで、姿は見えないが誰かの魔力がこの部屋の中にあることに気付く。
 その魔力は、すぐ部屋からなくなり、アレクが「フン」と鼻をならし、さらに奥へと進んだ。

 たどり着いたそこは……寝室だった。

「アレク……!」
「リィカ、ここで話を聞くよ」

 やや乱暴にリィカはベッドに下ろされ、アレクがその上に覆い被さったのだった。
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