556 / 619
第十六章 三年目の始まり
バッドエンドに繋がる道
しおりを挟む
「ふう……」
屋敷に戻ってきたレーナニアは、自らの部屋に入り、ベッドに横になった。侍女たちには下がってもらって、部屋には一人だ。
あの後、大変と言えば大変だった。
国立の、沢山の貴族の子息令嬢が集まる学園に、Bランクという高位の魔物が三体も現れたこと。
明らかに学園関係者ではない外部の人間が入り込んでいた事。
知らせを聞いた兵士たちが駆け付けたときには、すでに魔物は倒され、怪我人もその治療が終わっていたこと。
これは別にいいのかもしれないが、それを成したのが一応まだ学園の生徒という身分である者たちであったことが、問題と言えば問題だった。
建前上、何か問題が起これば教師がその矢面に立ち、兵士たちが来るまでの時間稼ぎをするものだ。それが、教師すら駆け付けたときには事態はすでに解決済みなのだから、面目丸つぶれである。
『申し訳ありませんが、先生方が矢面に立っていたら、死人と怪我人が量産されていただけかと思われます』
遠慮のなさ過ぎるアークバルトの言葉だが、誰も反論はできなかった。
対処に当たったのは、おそらく今この世界で一番強いであろう、勇者一行の面々である。生徒ではあるが、対処に一番適した面々でもある。それでいいじゃないか、でその話は終わった。
捕らえられた男は、尋問のために城に連れて行かれた。マンティコアの死骸三体は、兵士たちが片付けた。
そして、目撃した生徒たちからの事情聴取が行われ、それ以降の授業は中止となり、レーナニアも戻ってきたのだ。
横になったレーナニアが思い出すのは、去っていくアレクとリィカの後ろ姿だ。その姿を見送りながら、レーナニアは頭痛と共に久しぶりに"ゲームの記憶"を思い出したのだ。
それは、魔王が倒れた後のストーリーだ。ヒロインのハッピーエンドまでを綴るストーリー。
ヒロインが、相手の男性からの結婚を断り続けた場合にのみ起こるイベント。それが、ヒロインがずっと隠してきた秘密が明かされるイベントだ。
そして、ヒロインが意地でも結婚を断り続けると、ゲーム唯一の"バッドエンド"へと繋がる話でもある。
完全にゲーム通りに進んでいるとは言えない。リィカが結婚を断ったのは一回のみなのだから、断り続けているわけではない。けれど、それでもあのアレクとリィカの姿が、ゲームの中の姿と重なったのだ。
自分やアークバルトが余計な事をした、とはレーナニアは考えたくなかった。リィカに話をすることは絶対に必要だったし、アレクと話をする方向にもっていくことだって、間違っていなかったはずだ。
けれどそれが、最悪の方向に進む可能性もあると思うと、駄目だったのだろうかと考えてしまう。
「もしかしたら……もう明日からリィカさんに会えなくなるのかしら……」
明日リィカが登校してくるかどうか。それでリィカがバッドエンドを回避できたかどうかが分かる。もしも回避し損ねたなら……リィカはきっともう、アレクの部屋から出られることはないだろうから。
「ふう……」
もう一度息を吐き、目を瞑る。瞑りながら、ふと疑問がよぎった。リィカの秘密とは何なのだろうか、と。
※ ※ ※
リィカは、自分を抱えるアレクに何も言えず、ただ体を固くして緊張していた。
横抱きにされたまま学園を出て、街中を歩いて、王宮に到着した。当然、人目を引いたし、普段のリィカであれば、下ろしてと叫んでいただろう。
しかし、アレクの雰囲気とリィカの罪悪感とが重なった結果、リィカは何も言えなかったのだ。
王宮に入ると、アレクは躊躇うことなく私室に向かう。
リィカは息を呑んだ。王宮に滞在していたこともあるが、その時にアレクの部屋に入ったことはない。入るなと注意を受けてもいる。
けれど今、アレクはリィカを下ろす気配さえ見せずに、迷いなく私室に入っていった。
「アレクシス殿下……!」
「誰も入るな」
慌てた侍女たちが声をかけるが、アレクは冷たく宣言すると、ドアを閉める。そのまま部屋の中央まで歩き、そこで足を止めた。
「誰も入るなと言ったはずだ、フィリップ」
アレクの言葉に、誰かが動揺したような気配が動き、リィカもそれで、姿は見えないが誰かの魔力がこの部屋の中にあることに気付く。
その魔力は、すぐ部屋からなくなり、アレクが「フン」と鼻をならし、さらに奥へと進んだ。
たどり着いたそこは……寝室だった。
「アレク……!」
「リィカ、ここで話を聞くよ」
やや乱暴にリィカはベッドに下ろされ、アレクがその上に覆い被さったのだった。
屋敷に戻ってきたレーナニアは、自らの部屋に入り、ベッドに横になった。侍女たちには下がってもらって、部屋には一人だ。
あの後、大変と言えば大変だった。
国立の、沢山の貴族の子息令嬢が集まる学園に、Bランクという高位の魔物が三体も現れたこと。
明らかに学園関係者ではない外部の人間が入り込んでいた事。
知らせを聞いた兵士たちが駆け付けたときには、すでに魔物は倒され、怪我人もその治療が終わっていたこと。
これは別にいいのかもしれないが、それを成したのが一応まだ学園の生徒という身分である者たちであったことが、問題と言えば問題だった。
建前上、何か問題が起これば教師がその矢面に立ち、兵士たちが来るまでの時間稼ぎをするものだ。それが、教師すら駆け付けたときには事態はすでに解決済みなのだから、面目丸つぶれである。
『申し訳ありませんが、先生方が矢面に立っていたら、死人と怪我人が量産されていただけかと思われます』
遠慮のなさ過ぎるアークバルトの言葉だが、誰も反論はできなかった。
対処に当たったのは、おそらく今この世界で一番強いであろう、勇者一行の面々である。生徒ではあるが、対処に一番適した面々でもある。それでいいじゃないか、でその話は終わった。
捕らえられた男は、尋問のために城に連れて行かれた。マンティコアの死骸三体は、兵士たちが片付けた。
そして、目撃した生徒たちからの事情聴取が行われ、それ以降の授業は中止となり、レーナニアも戻ってきたのだ。
横になったレーナニアが思い出すのは、去っていくアレクとリィカの後ろ姿だ。その姿を見送りながら、レーナニアは頭痛と共に久しぶりに"ゲームの記憶"を思い出したのだ。
それは、魔王が倒れた後のストーリーだ。ヒロインのハッピーエンドまでを綴るストーリー。
ヒロインが、相手の男性からの結婚を断り続けた場合にのみ起こるイベント。それが、ヒロインがずっと隠してきた秘密が明かされるイベントだ。
そして、ヒロインが意地でも結婚を断り続けると、ゲーム唯一の"バッドエンド"へと繋がる話でもある。
完全にゲーム通りに進んでいるとは言えない。リィカが結婚を断ったのは一回のみなのだから、断り続けているわけではない。けれど、それでもあのアレクとリィカの姿が、ゲームの中の姿と重なったのだ。
自分やアークバルトが余計な事をした、とはレーナニアは考えたくなかった。リィカに話をすることは絶対に必要だったし、アレクと話をする方向にもっていくことだって、間違っていなかったはずだ。
けれどそれが、最悪の方向に進む可能性もあると思うと、駄目だったのだろうかと考えてしまう。
「もしかしたら……もう明日からリィカさんに会えなくなるのかしら……」
明日リィカが登校してくるかどうか。それでリィカがバッドエンドを回避できたかどうかが分かる。もしも回避し損ねたなら……リィカはきっともう、アレクの部屋から出られることはないだろうから。
「ふう……」
もう一度息を吐き、目を瞑る。瞑りながら、ふと疑問がよぎった。リィカの秘密とは何なのだろうか、と。
※ ※ ※
リィカは、自分を抱えるアレクに何も言えず、ただ体を固くして緊張していた。
横抱きにされたまま学園を出て、街中を歩いて、王宮に到着した。当然、人目を引いたし、普段のリィカであれば、下ろしてと叫んでいただろう。
しかし、アレクの雰囲気とリィカの罪悪感とが重なった結果、リィカは何も言えなかったのだ。
王宮に入ると、アレクは躊躇うことなく私室に向かう。
リィカは息を呑んだ。王宮に滞在していたこともあるが、その時にアレクの部屋に入ったことはない。入るなと注意を受けてもいる。
けれど今、アレクはリィカを下ろす気配さえ見せずに、迷いなく私室に入っていった。
「アレクシス殿下……!」
「誰も入るな」
慌てた侍女たちが声をかけるが、アレクは冷たく宣言すると、ドアを閉める。そのまま部屋の中央まで歩き、そこで足を止めた。
「誰も入るなと言ったはずだ、フィリップ」
アレクの言葉に、誰かが動揺したような気配が動き、リィカもそれで、姿は見えないが誰かの魔力がこの部屋の中にあることに気付く。
その魔力は、すぐ部屋からなくなり、アレクが「フン」と鼻をならし、さらに奥へと進んだ。
たどり着いたそこは……寝室だった。
「アレク……!」
「リィカ、ここで話を聞くよ」
やや乱暴にリィカはベッドに下ろされ、アレクがその上に覆い被さったのだった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
『 使えない』と勇者のパーティを追い出された錬金術師は、本当はパーティ内最強だった
紫宛
ファンタジー
私は、東の勇者パーティに所属する錬金術師イレーネ、この度、勇者パーティを追い出されました。
理由は、『 ポーションを作るしか能が無いから』だそうです。
実際は、ポーション以外にも色々作ってましたけど……
しかも、ポーションだって通常は液体を飲むタイプの物から、ポーションを魔力で包み丸薬タイプに改良したのは私。
(今の所、私しか作れない優れもの……なはず)
丸薬タイプのポーションは、魔力で包む際に圧縮もする為小粒で飲みやすく、持ち運びやすい利点つき。
なのに、使えないの一言で追い出されました。
他のパーティから『 うちに来ないか?』と誘われてる事実を彼らは知らない。
10月9日
間封じ→魔封じ 修正致しました。
ネタバレになりますが、イレーネは王女になります。前国王の娘で現国王の妹になります。王妹=王女です。よろしくお願いします。
12月6日
4話、12話、16話の誤字と誤用を訂正させて頂きました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
投稿日
体調不良により、不定期更新。
申し訳有りませんが、よろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
お気に入り5500突破。
この作品を手に取って頂きありがとうございます(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)まだまだ未熟ではありますが、これからも楽しい時間を提供できるよう精進していきますので、よろしくお願い致します。
※素人の作品ですので、暇つぶし程度に読んで頂ければ幸いです。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる