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第十四章 魔国

カストル

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 カストルたちは、魔国を出て人の地を歩いていた。
 ともにいるのは、カストルが拾って育てたダラン、側近のオルフ。そしてバトルアックスを持つラムポーン、モーニングスターを持つディーノス、合わせて五人。

 人の地といっても、ここは元々人も誰も住んでいなかった地。かつて人間たちが「北の三国」と呼んでいた地、そして魔族たちが占領したリョト村まで行くのにも、まだまだ南下しなければならない。

 ふと、カストルが足を止めた。後ろを振り返る。

「カストル様?」

 ダランに呼ばれたが、カストルは返事をできなかった。
 やがて、力なく肩を落とす。

「……ホルクスが、負けた」
「………………!!」

 その場の、カストル以外の全員に驚愕が走る。
 誰もその言葉を疑わない。なぜそんなことが分かるのか、とも言わない。カストルがそう言う以上は、それが事実だ。

「魔力が……!」

 そう声を上げたのは光魔法を使うオルフだ。
 カストルも当然感じている。辺りに満ちていたはずの、魔王の、ホルクスの魔力が、急速に失われていく。

 そして遠い魔国の空。青空などほとんど見ないはずの空に、青空が一瞬広がったのが見えた。

「勇者が、ホルクスの魔力を集めて浄化した。正確には、この惑星ほしの外に放った、というべきであろうが」
「ほし、とは……?」

 オルフの疑問に、カストルはほんの僅かな笑みを浮かべただけで、答えない。
 代わりに口にしたのは、別のことだった。

「これで、魔王様の魔力が失われた。……何もせずとも持っていた膨大な魔力が、なくなった」

 カストルの言葉に、オルフが頷く。ラムポーンとディーノスは、反応に困った様子だ。ダランは静かにカストルを見つめるだけ。
 それぞれの反応を見つつ、カストルが再度言葉を口にする。

「元々ラムポーンとディーノスは、魔法を使わぬからな。ダランは人間だ。我々魔族のように、魔王様の影響を受けない」

 フッと笑い、さらに続ける。

「私は問題ない。オルフもな。魔王様の魔力がなくとも、戦える力は身に付けている。だが……」

 カストルは、遙か南に視線を送る。そこには何も見えない。だが、その視線が意味するところを、その場の全員が分かっていた。

「ルバドール軍と戦っている魔族たちは、そうは行かぬだろうな。魔力を失って……そう経たぬうちに敗北するだろう。生き延びられる者がいるかどうか」

 そこまで言って、カストルは言葉を切り、目を閉じる。
 生き延びたところで生きる手段などない。彼らは魔国へ戻ることはない。であれば、下手に生き残るより、戦いの中で死ぬ方が幸せだろう。

「行くぞ。続いてきた不変の歴史を、変えるために」
「はいっ!」

 こうしてカストルは、ホルクスに託された未来へ向かって歩き出す。
 その未来がどういうものになるかは、まだ見えない。


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