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第十三章 魔国への道

表出するリィカの願い

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 暁斗はリィカに駆け寄った。
 いつの間にか息苦しさがなくなっていることにすら気付かない。

 リィカの顔色を見て、息を呑んだ。
 見覚えがある。
 ククノチとの戦いで生命力を使ったというリィカは、ひどく青白い顔をしていた。あの時と同じ……いや、それ以上に顔色が悪い。

「……驚いた。本当に、この結界を壊すなんて」
「リィカに近づくな、ダラン!」

 一歩リィカに向けて足を踏み出したダランを牽制するように、暁斗が叫ぶ。そして、聖剣の柄に手をかけると、迷うことなく抜き放った。

「オレが相手だ! リィカに手を出すな!」
「いやいや、おかしいでしょそれ。さっきからボクは、アキトと戦ってるつもりだったんだけど」

 真っ当なダランのツッコミだったが、暁斗は無言のまま構えを緩めない。
 その様子を見て、ニヤッと笑った。

「さっきまで全く戦おうとしなかったのに。リィカが倒れた途端に、その気になったんだ?」
「リィカはオレが守るんだ!」
「あっそ。でもさぁ……」
「だめ……あきと……」

 言いかけたダランの言葉を遮ったのは、弱々しいリィカの声だった。倒れたまま、リィカの手が暁斗の足を掴む。

「だめ……けんを、しまって……。たたかっちゃ、だめ。あきとも、たいきも。ふたりはぜったい、ひとを、ころさないで」

「リィカ……」

「かえす、から。ぜったい、わたしが、にほんにかえして、あげるから。だから、だめ……!」

「………………」

 なぜ、と思う。
 リィカは元日本人で、転生した人だ。それはもう、暁斗の中でほぼ事実となっている。

 けれど、本当にそれだけなんだろうか。リィカは何を知っているんだろうか。
 思い出すのは、かつての父の言葉だ。

『暁斗。……いつか、そのうち、きちんとお前にも話すよ』

 ユグドラシルの島でそう言った父は、自分に何を話そうとしているのだろうか。

「面白い事を言うな、小娘」
「カストル様!?」
「……カストル!?」

 突如割り込んできた声に、ダランが真っ先に驚き、一拍遅れて暁斗も声を上げる。そこに現れたのは、魔王の兄、カストルだった。

「カストル様、なぜここに……」

「小娘の発言が気になってな。それに……結界が破壊された以上、お前を一人ここに残しておく必要がない」

「一人……?」

 ダランは周囲を見渡す。
 あったはずの結界がすべてなくなり、起き上がっている姿を確認できるのは、勇者一行だけだ。

(みんな、負けちゃったんだな)

 しんみりとそう思うものの、言葉にはしない。まだここは戦いの場だ。
 暁斗が、カストルに剣を向けた。

「何の用だ、カストル」
「貴様に用はないがな。あえて言えば、やはり人間相手には戦えなかったな、というところか。予想通りだったが、小娘のせいで台無しにされた」

 凄む暁斗にカストルは淡々と告げ、倒れているリィカに問いかけた。

「小娘、なぜ貴様は勇者二人が人を殺すことを厭う? なぜそこまで帰すことに拘る?」

 暁斗は思わずリィカに視線を送る。ドクンドクンと心臓が早くなる。リィカが何と答えるのか、緊張する。

 そのリィカが、体を起こした。悪かった顔色に、血色が戻っている。その目がカストルを睨み付ける。そして、次に発した言葉にも弱々しさはなかった。

「そんなの、あんたに関係ない!」
「フン、まあ良い」

 カストルが周囲を見渡せば、泰基もユーリも、アレクもバルも体を起こしている。カストルが動けば、間違いなく四人も動くだろうが、四人とも相当にダメージを受けている。

「一人くらいは、殺しておくか」
『それは、困るな』

 カストルの言葉に全員が身構えたとき、空から声が降ってきた。サァッと影が差す。

『魔族と事を構える気はないが、その者らは我らの恩人だ。殺すというのであれば、まずは我が相手になろう』

 上空から、音もなく降り立つ。
 四本足の、獅子ライオンに似たそれは。

「バナスパティ!?」

 暁斗がその名を呼んだ。



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