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第十三章 魔国への道
魔力付与と支援魔法
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ダランに言われるまでもなく、リィカだって分かっている。
手で結界に触れる。
結界は間違いなく魔力で出来ている。《天変地異》同士をぶつけ合わせなくても、あの魔封陣と同じように、結界の中央から魔力を注ぎ続ければ、どこかで壊れる。
けれど、リィカがいるのは結界の外だ。中央から魔力を注ぐのは無理だ。
一番問題なのは、この結界を壊すための魔力の上限がどこなのか、感じられないということだ。
街一つを飲み込んだ魔封陣でさえ、何となくでも上限は感じられたのに、この十メートル四方の結界の上限が、まるで分からない。魔力を注いだとして、どれだけ注いでもすべて飲み込まれてしまいそうな、そんな感じがする。
魔力を注ぎ込んで壊すのは無理だ。
――で、あるならば。
暁斗が聖剣に手をかけている。けれど、震えて抜けない。
でも、と思う。
暁斗はそれでいい。人相手に命のやり取りなんてしなくていい。いつか日本に帰ったとき、「人を殺した」なんて罪の意識を持って欲しくないから。
「暁斗! 抜かなくて良い! 戦わなくていいの! 助けるまで、無事でいて!」
それは、凪沙の記憶と感情を持つ、リィカの覚悟だった。
※ ※ ※
リィカは剣を抜いた。
練習を重ねただけあって、手に馴染んでいる。仲間たちを相手に、剣を振る練習をしてきたけれど、この場での相手は動かない結界だ。
ふう、と息を吐く。目を瞑り、剣の切っ先に意識を集中し、研ぎ澄ます。
「はあっ!」
勇ましい掛け声を上げて、リィカは剣を結界に突き刺した。
「魔力を注いでも壊せないなら、一点を突き破るだけっ!」
剣が触れている部分が、バチバチと音を立てている。手応えを感じながら、リィカは剣の切っ先に魔力を集めた。
※ ※ ※
「ムリだと思うけどなぁ。なぁ、アキトもそう思うだろ?」
「………………」
ダランの言葉に、暁斗はただ睨み付ける。
「何かしゃべってよ。聖地じゃ、仲良くしてたのに」
「………………」
それでも、暁斗は無言。
「まあ別に良いけどさ。ボクはアキトを殺すだけ。アキトはどうするの? リィカが結界を壊してくれる、なんて期待しない方がいいよ? ボクに殺されるか、ボクを殺すか。二つに一つだ」
「………………」
「ああ、もう一つあったか。どっちかが降参すること。ボクは降参するつもりはないから、するならアキトかな」
「……オレだって、そんなのしないよ」
「あ、やっとしゃべったね。良かったよ。言葉を忘れちゃったのかと思った」
茶化してくるダランに、暁斗はグッと唇を噛む。
そんな暁斗に、ダランはフフンと不敵に笑う。人差し指を、暁斗に向けた。
「《極光線》!」
ハッとして、暁斗が躱す。
何とか躱すが……まだ弱体化の魔法の効果が続いている。体が重い。
「……………!」
カーブを描いて《極光線》が暁斗に向かってくる。今度は……躱せなかった。
「うあっ!?」
「役に立つなぁ。ユーリのを真似て出来るようになった、魔力付与」
命中した肩を押さえる暁斗に、さらに右手を向ける。
「話を聞いてさ、こんなのも出来るようになったんだ」
「なっ!?」
その右手から放たれたのは、黒い小さな球体。見覚えのあるそれは、リィカやユーリが使う《球》の凝縮魔法だった。
「し、《防御》!」
暁斗がとっさに唱えた。初めて使った防御魔法だが、きちんと発動してくれた。いや、あくまで実戦で初めてというだけで、練習はしていたのだが。
ルバドールの帝都を出発してからここに至るまでの練習は、「やってなかったこと、苦手なことにチャレンジしよう」がコンセプトだった。
リィカが、ジャダーカとの戦いでエンチャントの魔法を使ったように、どこで何が必要になるか分からない。
今までは、どちらかというと「得意なことを伸ばす」方面をメインに練習していたが、練習の方向性を変えたのだ。
ちなみに、アレクと暁斗が文句を言った。バルが渋い顔をした。
ユーリが一喝した。自分たちも剣の練習するんだから、お前らも魔法の練習やりやがれ、と。いや、こんな口調ではなかったけれど、暁斗の耳にはそう聞こえた。
アレクとバルにはどう聞こえたのか分からないが、それ以降文句は出なかった。
確かにやっておいて良かったんだろう。
でも、こんなことで使いたくなかった。
《防御》に黒い凝縮魔法がぶつかる。ホッと胸をなで下ろした暁斗だが、一瞬後には表情が強張った。
――《防御》に、ヒビが入った。
それはあっという間に広がり、破壊される。
「ぐっ!」
黒い凝縮魔法は、さきほど《極光線》が命中した右肩に、再び命中する。
見た目の怪我はないが、肩から腕にかけての衝撃が強い。痛みに顔を歪めながら、暁斗は魔法を発動させる。
「……《回復》」
水魔法の《回復》だから、普段ユーリや泰基がかけてくれる光魔法のものほど効果はないだろうが、それでもじわりと肩の痛みが和らぐ。
「ふーん、アキトが支援魔法使うイメージなかったけど、使えるんだ。ちまちま回復されるのは面倒だなぁ。――あ、そうだ」
ダランが何かを思いついたように、ニヤッと笑う。
「アキト、言ってたよね。毒状態にする魔法、見たいってさ」
「え……」
「《毒》」
状態異常の魔法の一つ、相手を毒状態にする魔法が放たれた。
手で結界に触れる。
結界は間違いなく魔力で出来ている。《天変地異》同士をぶつけ合わせなくても、あの魔封陣と同じように、結界の中央から魔力を注ぎ続ければ、どこかで壊れる。
けれど、リィカがいるのは結界の外だ。中央から魔力を注ぐのは無理だ。
一番問題なのは、この結界を壊すための魔力の上限がどこなのか、感じられないということだ。
街一つを飲み込んだ魔封陣でさえ、何となくでも上限は感じられたのに、この十メートル四方の結界の上限が、まるで分からない。魔力を注いだとして、どれだけ注いでもすべて飲み込まれてしまいそうな、そんな感じがする。
魔力を注ぎ込んで壊すのは無理だ。
――で、あるならば。
暁斗が聖剣に手をかけている。けれど、震えて抜けない。
でも、と思う。
暁斗はそれでいい。人相手に命のやり取りなんてしなくていい。いつか日本に帰ったとき、「人を殺した」なんて罪の意識を持って欲しくないから。
「暁斗! 抜かなくて良い! 戦わなくていいの! 助けるまで、無事でいて!」
それは、凪沙の記憶と感情を持つ、リィカの覚悟だった。
※ ※ ※
リィカは剣を抜いた。
練習を重ねただけあって、手に馴染んでいる。仲間たちを相手に、剣を振る練習をしてきたけれど、この場での相手は動かない結界だ。
ふう、と息を吐く。目を瞑り、剣の切っ先に意識を集中し、研ぎ澄ます。
「はあっ!」
勇ましい掛け声を上げて、リィカは剣を結界に突き刺した。
「魔力を注いでも壊せないなら、一点を突き破るだけっ!」
剣が触れている部分が、バチバチと音を立てている。手応えを感じながら、リィカは剣の切っ先に魔力を集めた。
※ ※ ※
「ムリだと思うけどなぁ。なぁ、アキトもそう思うだろ?」
「………………」
ダランの言葉に、暁斗はただ睨み付ける。
「何かしゃべってよ。聖地じゃ、仲良くしてたのに」
「………………」
それでも、暁斗は無言。
「まあ別に良いけどさ。ボクはアキトを殺すだけ。アキトはどうするの? リィカが結界を壊してくれる、なんて期待しない方がいいよ? ボクに殺されるか、ボクを殺すか。二つに一つだ」
「………………」
「ああ、もう一つあったか。どっちかが降参すること。ボクは降参するつもりはないから、するならアキトかな」
「……オレだって、そんなのしないよ」
「あ、やっとしゃべったね。良かったよ。言葉を忘れちゃったのかと思った」
茶化してくるダランに、暁斗はグッと唇を噛む。
そんな暁斗に、ダランはフフンと不敵に笑う。人差し指を、暁斗に向けた。
「《極光線》!」
ハッとして、暁斗が躱す。
何とか躱すが……まだ弱体化の魔法の効果が続いている。体が重い。
「……………!」
カーブを描いて《極光線》が暁斗に向かってくる。今度は……躱せなかった。
「うあっ!?」
「役に立つなぁ。ユーリのを真似て出来るようになった、魔力付与」
命中した肩を押さえる暁斗に、さらに右手を向ける。
「話を聞いてさ、こんなのも出来るようになったんだ」
「なっ!?」
その右手から放たれたのは、黒い小さな球体。見覚えのあるそれは、リィカやユーリが使う《球》の凝縮魔法だった。
「し、《防御》!」
暁斗がとっさに唱えた。初めて使った防御魔法だが、きちんと発動してくれた。いや、あくまで実戦で初めてというだけで、練習はしていたのだが。
ルバドールの帝都を出発してからここに至るまでの練習は、「やってなかったこと、苦手なことにチャレンジしよう」がコンセプトだった。
リィカが、ジャダーカとの戦いでエンチャントの魔法を使ったように、どこで何が必要になるか分からない。
今までは、どちらかというと「得意なことを伸ばす」方面をメインに練習していたが、練習の方向性を変えたのだ。
ちなみに、アレクと暁斗が文句を言った。バルが渋い顔をした。
ユーリが一喝した。自分たちも剣の練習するんだから、お前らも魔法の練習やりやがれ、と。いや、こんな口調ではなかったけれど、暁斗の耳にはそう聞こえた。
アレクとバルにはどう聞こえたのか分からないが、それ以降文句は出なかった。
確かにやっておいて良かったんだろう。
でも、こんなことで使いたくなかった。
《防御》に黒い凝縮魔法がぶつかる。ホッと胸をなで下ろした暁斗だが、一瞬後には表情が強張った。
――《防御》に、ヒビが入った。
それはあっという間に広がり、破壊される。
「ぐっ!」
黒い凝縮魔法は、さきほど《極光線》が命中した右肩に、再び命中する。
見た目の怪我はないが、肩から腕にかけての衝撃が強い。痛みに顔を歪めながら、暁斗は魔法を発動させる。
「……《回復》」
水魔法の《回復》だから、普段ユーリや泰基がかけてくれる光魔法のものほど効果はないだろうが、それでもじわりと肩の痛みが和らぐ。
「ふーん、アキトが支援魔法使うイメージなかったけど、使えるんだ。ちまちま回復されるのは面倒だなぁ。――あ、そうだ」
ダランが何かを思いついたように、ニヤッと笑う。
「アキト、言ってたよね。毒状態にする魔法、見たいってさ」
「え……」
「《毒》」
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