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第十二章 帝都ルベニア

ルベニア出発

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パーティーの翌日は、旅の準備にあてた。
この帝都ルベニアを出発してしまえば、もう後は人の国はない。生き残っている人がどの程度いるのかは分からないが、魔族の勢力圏だ。食料の補充も、どの程度できるか分からない。

だからこそ、保存の利く食料を手に入れることが最優先だったが、ほとんどルードリックが用意してくれた。
もう一つ、用意が必要だったはずの衣類は、聖地でもらっている。
改めて必要な準備は、ほとんどなかった。

「アイテムボックスが本当に有り難いな」

アレクがしみじみと頷いた。

ちなみに何度かルードリックたちの前でアイテムボックスを使ってしまったので、さすがにそれが何なのかを聞かれた。

「リィカが鏡と同じように作った物です」

アレクの答えにルードリックは妙に納得したような顔を見せて、それ以上の質問はなかった。


※ ※ ※


パーティーの間ずっと貴族たちと話をする羽目になった暁斗は、ずっと文句を言っていた。

「パーティーなんて絶対もうヤだ。最悪。みんなして、楽しんでズルい」

ダンスはどうせできないとしても、食べることも飲むこともできずに、ずっと立ったまま、誰だか分からない人たちと話をしていたのだ。
暁斗の文句を聞きつつ、同じような目に合っていた泰基には、別の言い分がある。

「お前、本当に立っていただけで、話も何もしてないだろ。トラヴィスさんやルシア皇女がほとんど受け答えしてくれていたんだから」

何せ四方八方から話しかけられて、泰基もトラヴィスに任せっきりというわけにはいかなかった。暁斗の方が危なっかしいので、トラヴィスも暁斗にかかりきりだった。だからといって、貴族が泰基に話しかけてこないはずがない。

その状況を見て取ったようで、ルシアが割り込んできてくれたときは、心からホッとした泰基だ。

「どんな話があったの?」

興味津々のリィカに、暁斗は首を傾げ、泰基は顔をしかめた。

「話の半分は、自分には娘がいて器量が良くてどうのこうの、という話だった」
「……それは、お疲れ様でした」

心の底からリィカが言う。
泰基は疲れたように笑うが、暁斗はなおも疑問そうにしている。

「そういえば、そんな事言ってる人多かったよね。だから何なんだろうって思ったんだけど」
「「「ブハッ!!」」」

暁斗の言葉に、一気に吹き出したのがアレクとバル、ユーリだ。

「貴族の思惑も、アキトの前じゃ形無しだな」
「参考になるじゃねぇか。今度、真似してみっかな」
「面白いですね。何のこと、と首を傾げていたら、どうするんでしょうね」

三人とも、堪えようとして堪えきれない笑いが見えている。
そんな三人に、暁斗は少し不満を思ったようだ。

「……オレ、何か変な事言った?」
「いやいや、変じゃないさ。流石だと思っただけだ」

そうアレクは答えても、結局笑っているので説得力は皆無だ。
ムッとする暁斗に、リィカは苦笑して、泰基は呆れて口を開く。

「なんでお前は分からないんだ? 異世界物の話じゃ珍しくもないっていうのに」
「……へ?」

首を傾げる暁斗に、まあいいかと泰基は理解させることを諦めた。
自分の娘を勇者である暁斗の嫁にしようとしているなど、理解したらしたで面倒になりそうだ。

泰基も暁斗も良く読んでいた、異世界物のファンタジー小説。
その中に出てくるフレーズが実際に出てきたときには、「マジで言ってるよ」と思ったが。

当然ながら暁斗だって知っているはずで、その意味を理解してないとは思えないのだが。
以前に、小説と一緒にするなと言ったからだろうか。だが、本当に切り離してしまっているのは、器用なのか不器用なのか悩みどころだ。

ちなみに、面倒な貴族の大半が泰基と暁斗の所へ行ってくれたおかげで、リィカたちはそこまで大変ではなかった。
リィカはバルやユーリとも踊ったし、他にも申し込まれた貴族の男性と踊っている。

アレクとはさらに一曲踊った。
踊った後に、今の曲が夫婦や婚約者同士が踊る曲だと教えられた時は、どう反応して良いか分からなかった。

だが、パーティー後からリィカを見る貴族たちの視線の種類が、少し変わったように感じられたのだった。


※ ※ ※


リィカたちは帝都ルベニアを出発した。
ルバドール帝国に入ってから、ずっと一緒に移動をしてきたトラヴィスやバスティアン、そして他五人の護衛たちも一緒だ。

向かうのは、真っ直ぐ魔国に向かって、北に延びる道だ。
途中遭遇する魔物を倒しながら、砂漠の道を進み、途中から道を外れる。
地図と方角を確認しながら進むこと、三日。

「ここです」

トラヴィスが言ったのは、特に何もない場所だった。
疑問を口にする前に、トラヴィスが再び口を開く。

「皇太子殿下より頂いた地図によれば、この辺りの砂の下に扉が隠されていて、そこから地下道に入ることができる、とのことです」

「地下道……?」

アレクが訝しげにつぶやいた。
その一方、暁斗は周囲をキョロキョロ見回している。

「目印ってないの?」
「申し訳ありません。そういったものがあるという話は特には……」

トラヴィスが言い終わらないうちに、シャキーンと音を立てて暁斗が聖剣を抜いた。
そして、聖剣を迷わず砂地に突き刺す。

「《土の付与アース・エンチャント》!」

エンチャントを唱え、さらに魔力を流し、聖剣が仄かに光を帯びる。
それに全員の驚きの視線が集まる中、暁斗は魔法を唱えた。

「《砂嵐サンドストーム》!」

土の中級魔法だ。
その瞬間、足元の砂が巻き上げられた。
全員が慌てて口元を押さえるが、暁斗だけは落ち着いていた。

聖剣が強く輝いた。
同時に《砂嵐サンドストーム》が足元の砂を巻き込み、さらに大きくなり、味方の回りを囲む。
さらにそこからも、砂を巻き込みながら巨大化していき、《砂嵐サンドストーム》の内側の地面にある砂が、少なくなっている。

「――あっ……!」

リィカが声を上げ、指を指す。
砂が少なくなった地面。そこに明らかに人工物と思われるものが覗いていた。

「良かった、あった」

暁斗が安堵したように言うと、周囲を囲んでいた砂嵐が崩れ落ちた。
巻き上げられた砂は、外に落ちるだけで内側には落ちてこない。

駆け寄ったのはトラヴィスたちだった。
トラヴィスの指示で護衛たちが砂を払い、やがて見えたのは間違いなく扉だった。

模様も何もない、シンプルな扉。取っ手すらない。
あるのは、たった一つの窪みだけ。

暁斗がその窪みに躊躇うことなく、聖剣を差し込んだ。

――ギギィ

わずかに軋む音をたてて、その扉が開いたのだ。

「みんな、行こう」

驚く周囲に暁斗が声をかけ、扉の中に足を踏み入れる。
皆もそれを追いかけた。

「皆様方、ご武運をお祈り致します」

トラヴィスたちが敬礼した。
彼らに見送られて、勇者一行は扉の奥へと歩みを進めたのだった。


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