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第十二章 帝都ルベニア
ダンスの練習
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「はあ……」
思わずアレクはため息をついた。
採寸が終わったところに侍女たちが現れた。
今リィカの採寸とドレスを合わせているという侍女たちは、アルカトル王国で着たというドレスについて聞きにきた。
どんなドレスにするか悩んでいるから参考までに、という理由は理解できなくはない。
だが、なぜあんなに目が血走っていたのか。鼻息が荒いのか。
勢いに押されて素直に答えてしまったら、「キャー!」と顔を赤くして叫ばれた。
そして満面の笑顔で礼を言うと、颯爽と侍女たちは去っていった。
自分が言ってしまったことが、思い出すだけで恥ずかしい。
あれをリィカの前で言ってしまってないかが、気になって仕方がない。
今、その侍女たちの先導で、アレクはリィカのいる場所に向かっていた。
呼ばれたのは自分だけというのは、一体なぜなのか。理由を聞いても教えてくれないのだ。
やがて、侍女が一つの扉の前で足を止めた。
ドアをノックし、やり取りがあった後で、扉が開けられる。
「アレクシス殿下、どうぞ中へ」
気配で分かっていたが、中にいたのはリィカだ。
だが、その格好に目を見開いた。
ドレス姿だ。
とはいっても、パーティーで着るようなものではなく、王族や貴族の女性が普段着として着ているものだが。
部屋はそこそこ広いが、中にはほとんど何もない。
そして、部屋にいるのは皇女のルシアと数人の侍女、そして五十代に差し掛かっているように見える、初めて会う女性だ。
「アレクシス殿下、足をお運び頂き、申し訳ありません。こちらはプライス伯爵夫人です」
「お初にお目にかかります、アレクシス殿下」
「ああ、アレクシスだ。それで、どうしたんだ?」
まずルシアが口を開き、初めましての女性の名乗りに簡潔に返す。
要件を聞けば、口を開いたのはプライス伯爵夫人だった。
「リィカ様にダンスの簡単なステップをお教えしたところです。明日のパーティーでは、殿下と踊られることになるでしょうから、一度踊ってみてはいかがかと思いまして、ご足労頂きました」
「ダンス?」
意表を突かれた。
※ ※ ※
リィカは、ドレス合わせが終わった後にダンスの練習をすると言われて、この部屋に連れてこられた。
「なんでダンスですか!?」
「明日のパーティーで踊るからよ。ファーストダンスはアレクシス殿下と踊って頂くことになるから、簡単なステップくらい覚えてほしいの」
「踊らなきゃダメですか?」
「駄目よ」
ルシアは有無を言わせなかった。
貴族がダンスを嗜むことは知っている。だが、リィカには関係なかった。踊ったことも習ったこともない。
「ダンスも、貴族社会で生き抜く武器の一つよ。綺麗に踊れるだけで、周囲の評価が変わるわ」
それを言われてしまえば、やらないとは言えなかった。
そして、ダンスの教師だと紹介されたプライス伯爵夫人に教えてもらいながら、ステップの練習を始めた。
簡単、という言葉がつくように、そんなに難しくなかった。一応、すぐできるようになった事にホッとする。
「これなら、もう少し難しいのに挑戦してもできそうですね」
そう言われたのは、全力で拒否した。
拒否してすぐ、できるのなら挑戦した方がいいのだろうか、と思ったが、すぐプライス伯爵夫人自身が否定した。
「できるに越したことはありませんが、今回は必要ありません。リィカ様は姿勢がとても綺麗です。背筋がピンと伸びていて、踊っていてもふらつくことがほとんどありません。難しいステップを踏むことより、そちらの方がよほど大切です」
そこで一度言葉を切って、考えてから話し出す。
「間違えないように、と思うあまり、表情が固まってしまうのは良くありません。愛想笑いでいいですから、笑っていなさい。そして、少々の間違いは気にしないこと。女性は殿方のリードに合わせて踊れば良いのですから」
「リードに合わせる、ですか?」
リィカの疑問にプライス伯爵夫人が少し考えて出した結論が、実際に踊らせてみよう、という話になったのだ。
※ ※ ※
「なるほど、そういうことか」
アレクは納得したように頷くが、微妙に表情が強張っている。
「もちろん、殿下は踊れますでしょう?」
「……おそらく」
アレクの表情を見て取ったのか、ルシアにからかうように言われたが、それに逆らえる自信はなかった。
やったことはある。習ってはいた。
だが、旅に出てからそんなものとは無縁だった。果たして覚えているのかと考えると、正直怪しかった。
「踊り始めれば踊れるものですよ。簡単に音を出しますので、踊ってみて下さい」
プライス伯爵夫人の言葉で、控えていた数人の侍女が楽器を取り出し、一礼してから椅子に座る。
パーティー本番では、もちろん楽士たちの演奏があるのだろうが、練習であれば十分だろう。
何となく緊張しながら、アレクはリィカに手を差し出す。
リィカも緊張しながら、差し出された手に自らの手を乗せる。
「よろしくお願いします」
そう口にしながら、もう片方の手でドレスの裾を摘まんで礼をして見せた。
リィカがきちんとダンスに誘われたときの作法もできていることに、驚いた。
右手をリィカの腰に回し、ホールドを組む。
リィカも何も言わずともきちんと組んでくる。
音が流れれば、すぐに思い出すことができた。
そのまま踊り始めた。
※ ※ ※
(距離が近い……!)
リィカは心の中だけで叫ぶ。
分かっていた事ではあるが、実際にホールドを組んで踊り出すと、それが一番気になった。
恥ずかしくて距離をとりたくなるが、今は練習だと必死に言い聞かせる。
プライス伯爵夫人に言われたことを思い出す。
(えっと、笑顔でいろ、だっけ?)
とりあえず笑ってみる。
そうしたら、アレクが軽く吹き出した。
「なんだその顔は。何か悪いものでも食べたのか」
「ち、ちがうっ! 笑ったの!」
「どこがだ。不味いものとか酸っぱいものとか、そんなものを食べたときのような顔をしているぞ」
必死に笑ったというのに、ひどい言い草だ。
頬を膨らませれば、アレクが笑った。
「無理するな。俺に任せて、自然にしていろ」
「……それができたら、苦労しない」
「俺に身を委ねろ。正しくステップを踏もうと考えるな。一緒に楽しもう」
「……一緒に、楽しむ」
「そうだ」
アレクの優しい笑顔に、リィカも緊張が解けてくる。
自然に笑顔になる。「うん」と頷いた。
そうして緊張が和らいでくると、色々分かってくる。
リードに合わせる、というのがどういうことか、理解できてきた。
アレクに腕を引かれる。
体が回転するように促される。
それに合わせて自然に体を動かす。
その動きが、習ったステップと同じになっていることに気付く。
(難しく考えなくていいんだ)
アレクに任せて動けばいい。
そう考えたら、楽しくなってきた。
※ ※ ※
踊り終わると、拍手が起きた。
リィカは僅かに息を切らしながらも、笑顔を見せる。
「ありがと、アレク。すっごく楽しかった」
「俺も楽しかった。すごいな、リィカは。少し習っただけであそこまで踊れるんだから」
「違うよ。途中から習ったこと、頭から抜けてた。アレクに合わせてただけだよ」
こちらはまったく息を切らしていないアレクが、少し照れくさそうに笑う。
そんな二人に、プライス伯爵夫人が近づいた。
「お見事でした。リィカ様、それでよろしゅうございます。お相手の男性に委ねて、思い切り楽しみなさいませ」
「はい。先生、ありがとうございます」
礼を伝えてカーテシーをする。
プライス伯爵夫人は満足そうだ。
「本当に姿勢が綺麗ですこと。旅をしていて、体幹がしっかりしているからかしら。ご令嬢方にもお屋敷の中で練習させるより、外を一ヶ月くらい旅して歩かせた方が上達が早いかもしれませんね」
「……夫人。貴族令嬢にそれを求めるのはちょっと無理があると思うわ」
「そうですねぇ。でも皇女殿下みたいに何度も何度も転ぶよりは良いと思いませんか?」
「喧嘩売ってるなら、買うわよ?」
「あらあら」
ルシアの一段低くなった声にも、プライス伯爵夫人はコロコロ笑って受け流す。
申し訳ないと思いながらも、リィカも少し笑ってしまった。
「さて、リィカ様が殿下以外の方と踊られるかどうかは分かりませんが、最初のダンスは必ず殿下と踊り下さい」
「はい」
よく分からないが、最初のダンスはパートナーとして出席した人と踊るのが礼儀らしい。
「その後はどなたと踊るのも踊らぬのも自由。ただし、踊る場合には少々注意が必要です。曲によっては、婚約者や夫婦で踊るものとされる曲もあります。逆に言えば、その曲で一緒に踊った男性は、周囲からあなたの婚約者、もしくはそれに近しい存在と見なされます」
「えっ?」
「殿下がご存じでしょうから、教えてもらいなさい」
プライス伯爵夫人がアレクに視線を送り、リィカも見れば、アレクが頷く。
「逆に、親子や兄妹なんかで踊る曲もあります。その曲で一緒に踊った男性とは、お互いに男女の関係にはならないと周囲に知らしめることにもなります。たまにそういった曲が紛れ込みますから、お気を付け下さいませ」
「は、はい。分かりました」
リィカの返答にプライス伯爵夫人は頷くと、ルシアに告げた。
「皇女殿下。私がお教えできるのは以上です。簡潔に最低限必要な事を、というご要望に応じられましたでしょうか」
「ええ、プライス伯爵夫人。感謝するわ」
「とんでもございません。大役をお任せ頂いたこと、嬉しく思います」
そう告げて、プライス伯爵夫人は部屋を出て行った。
それを見送って、リィカはルシアに向き直る。
「皇女殿下、ありがとうございました」
「どういたしまして。リィカさんが優秀過ぎて、できないの笑おうと思ってたのに残念だわ」
冗談……というには、ルシアの顔が本気だった。
カーテシーを練習したときのことを思い出して、リィカの頬がヒクついた。
「リィカさん、今夜も私の部屋に泊まってちょうだい。色々教えてあげる」
「ぜひお願いします」
ルシアの誘いに、躊躇うことなくリィカは応じる。
そうやって笑っているリィカを、アレクは驚いた顔をして見ていた。
思わずアレクはため息をついた。
採寸が終わったところに侍女たちが現れた。
今リィカの採寸とドレスを合わせているという侍女たちは、アルカトル王国で着たというドレスについて聞きにきた。
どんなドレスにするか悩んでいるから参考までに、という理由は理解できなくはない。
だが、なぜあんなに目が血走っていたのか。鼻息が荒いのか。
勢いに押されて素直に答えてしまったら、「キャー!」と顔を赤くして叫ばれた。
そして満面の笑顔で礼を言うと、颯爽と侍女たちは去っていった。
自分が言ってしまったことが、思い出すだけで恥ずかしい。
あれをリィカの前で言ってしまってないかが、気になって仕方がない。
今、その侍女たちの先導で、アレクはリィカのいる場所に向かっていた。
呼ばれたのは自分だけというのは、一体なぜなのか。理由を聞いても教えてくれないのだ。
やがて、侍女が一つの扉の前で足を止めた。
ドアをノックし、やり取りがあった後で、扉が開けられる。
「アレクシス殿下、どうぞ中へ」
気配で分かっていたが、中にいたのはリィカだ。
だが、その格好に目を見開いた。
ドレス姿だ。
とはいっても、パーティーで着るようなものではなく、王族や貴族の女性が普段着として着ているものだが。
部屋はそこそこ広いが、中にはほとんど何もない。
そして、部屋にいるのは皇女のルシアと数人の侍女、そして五十代に差し掛かっているように見える、初めて会う女性だ。
「アレクシス殿下、足をお運び頂き、申し訳ありません。こちらはプライス伯爵夫人です」
「お初にお目にかかります、アレクシス殿下」
「ああ、アレクシスだ。それで、どうしたんだ?」
まずルシアが口を開き、初めましての女性の名乗りに簡潔に返す。
要件を聞けば、口を開いたのはプライス伯爵夫人だった。
「リィカ様にダンスの簡単なステップをお教えしたところです。明日のパーティーでは、殿下と踊られることになるでしょうから、一度踊ってみてはいかがかと思いまして、ご足労頂きました」
「ダンス?」
意表を突かれた。
※ ※ ※
リィカは、ドレス合わせが終わった後にダンスの練習をすると言われて、この部屋に連れてこられた。
「なんでダンスですか!?」
「明日のパーティーで踊るからよ。ファーストダンスはアレクシス殿下と踊って頂くことになるから、簡単なステップくらい覚えてほしいの」
「踊らなきゃダメですか?」
「駄目よ」
ルシアは有無を言わせなかった。
貴族がダンスを嗜むことは知っている。だが、リィカには関係なかった。踊ったことも習ったこともない。
「ダンスも、貴族社会で生き抜く武器の一つよ。綺麗に踊れるだけで、周囲の評価が変わるわ」
それを言われてしまえば、やらないとは言えなかった。
そして、ダンスの教師だと紹介されたプライス伯爵夫人に教えてもらいながら、ステップの練習を始めた。
簡単、という言葉がつくように、そんなに難しくなかった。一応、すぐできるようになった事にホッとする。
「これなら、もう少し難しいのに挑戦してもできそうですね」
そう言われたのは、全力で拒否した。
拒否してすぐ、できるのなら挑戦した方がいいのだろうか、と思ったが、すぐプライス伯爵夫人自身が否定した。
「できるに越したことはありませんが、今回は必要ありません。リィカ様は姿勢がとても綺麗です。背筋がピンと伸びていて、踊っていてもふらつくことがほとんどありません。難しいステップを踏むことより、そちらの方がよほど大切です」
そこで一度言葉を切って、考えてから話し出す。
「間違えないように、と思うあまり、表情が固まってしまうのは良くありません。愛想笑いでいいですから、笑っていなさい。そして、少々の間違いは気にしないこと。女性は殿方のリードに合わせて踊れば良いのですから」
「リードに合わせる、ですか?」
リィカの疑問にプライス伯爵夫人が少し考えて出した結論が、実際に踊らせてみよう、という話になったのだ。
※ ※ ※
「なるほど、そういうことか」
アレクは納得したように頷くが、微妙に表情が強張っている。
「もちろん、殿下は踊れますでしょう?」
「……おそらく」
アレクの表情を見て取ったのか、ルシアにからかうように言われたが、それに逆らえる自信はなかった。
やったことはある。習ってはいた。
だが、旅に出てからそんなものとは無縁だった。果たして覚えているのかと考えると、正直怪しかった。
「踊り始めれば踊れるものですよ。簡単に音を出しますので、踊ってみて下さい」
プライス伯爵夫人の言葉で、控えていた数人の侍女が楽器を取り出し、一礼してから椅子に座る。
パーティー本番では、もちろん楽士たちの演奏があるのだろうが、練習であれば十分だろう。
何となく緊張しながら、アレクはリィカに手を差し出す。
リィカも緊張しながら、差し出された手に自らの手を乗せる。
「よろしくお願いします」
そう口にしながら、もう片方の手でドレスの裾を摘まんで礼をして見せた。
リィカがきちんとダンスに誘われたときの作法もできていることに、驚いた。
右手をリィカの腰に回し、ホールドを組む。
リィカも何も言わずともきちんと組んでくる。
音が流れれば、すぐに思い出すことができた。
そのまま踊り始めた。
※ ※ ※
(距離が近い……!)
リィカは心の中だけで叫ぶ。
分かっていた事ではあるが、実際にホールドを組んで踊り出すと、それが一番気になった。
恥ずかしくて距離をとりたくなるが、今は練習だと必死に言い聞かせる。
プライス伯爵夫人に言われたことを思い出す。
(えっと、笑顔でいろ、だっけ?)
とりあえず笑ってみる。
そうしたら、アレクが軽く吹き出した。
「なんだその顔は。何か悪いものでも食べたのか」
「ち、ちがうっ! 笑ったの!」
「どこがだ。不味いものとか酸っぱいものとか、そんなものを食べたときのような顔をしているぞ」
必死に笑ったというのに、ひどい言い草だ。
頬を膨らませれば、アレクが笑った。
「無理するな。俺に任せて、自然にしていろ」
「……それができたら、苦労しない」
「俺に身を委ねろ。正しくステップを踏もうと考えるな。一緒に楽しもう」
「……一緒に、楽しむ」
「そうだ」
アレクの優しい笑顔に、リィカも緊張が解けてくる。
自然に笑顔になる。「うん」と頷いた。
そうして緊張が和らいでくると、色々分かってくる。
リードに合わせる、というのがどういうことか、理解できてきた。
アレクに腕を引かれる。
体が回転するように促される。
それに合わせて自然に体を動かす。
その動きが、習ったステップと同じになっていることに気付く。
(難しく考えなくていいんだ)
アレクに任せて動けばいい。
そう考えたら、楽しくなってきた。
※ ※ ※
踊り終わると、拍手が起きた。
リィカは僅かに息を切らしながらも、笑顔を見せる。
「ありがと、アレク。すっごく楽しかった」
「俺も楽しかった。すごいな、リィカは。少し習っただけであそこまで踊れるんだから」
「違うよ。途中から習ったこと、頭から抜けてた。アレクに合わせてただけだよ」
こちらはまったく息を切らしていないアレクが、少し照れくさそうに笑う。
そんな二人に、プライス伯爵夫人が近づいた。
「お見事でした。リィカ様、それでよろしゅうございます。お相手の男性に委ねて、思い切り楽しみなさいませ」
「はい。先生、ありがとうございます」
礼を伝えてカーテシーをする。
プライス伯爵夫人は満足そうだ。
「本当に姿勢が綺麗ですこと。旅をしていて、体幹がしっかりしているからかしら。ご令嬢方にもお屋敷の中で練習させるより、外を一ヶ月くらい旅して歩かせた方が上達が早いかもしれませんね」
「……夫人。貴族令嬢にそれを求めるのはちょっと無理があると思うわ」
「そうですねぇ。でも皇女殿下みたいに何度も何度も転ぶよりは良いと思いませんか?」
「喧嘩売ってるなら、買うわよ?」
「あらあら」
ルシアの一段低くなった声にも、プライス伯爵夫人はコロコロ笑って受け流す。
申し訳ないと思いながらも、リィカも少し笑ってしまった。
「さて、リィカ様が殿下以外の方と踊られるかどうかは分かりませんが、最初のダンスは必ず殿下と踊り下さい」
「はい」
よく分からないが、最初のダンスはパートナーとして出席した人と踊るのが礼儀らしい。
「その後はどなたと踊るのも踊らぬのも自由。ただし、踊る場合には少々注意が必要です。曲によっては、婚約者や夫婦で踊るものとされる曲もあります。逆に言えば、その曲で一緒に踊った男性は、周囲からあなたの婚約者、もしくはそれに近しい存在と見なされます」
「えっ?」
「殿下がご存じでしょうから、教えてもらいなさい」
プライス伯爵夫人がアレクに視線を送り、リィカも見れば、アレクが頷く。
「逆に、親子や兄妹なんかで踊る曲もあります。その曲で一緒に踊った男性とは、お互いに男女の関係にはならないと周囲に知らしめることにもなります。たまにそういった曲が紛れ込みますから、お気を付け下さいませ」
「は、はい。分かりました」
リィカの返答にプライス伯爵夫人は頷くと、ルシアに告げた。
「皇女殿下。私がお教えできるのは以上です。簡潔に最低限必要な事を、というご要望に応じられましたでしょうか」
「ええ、プライス伯爵夫人。感謝するわ」
「とんでもございません。大役をお任せ頂いたこと、嬉しく思います」
そう告げて、プライス伯爵夫人は部屋を出て行った。
それを見送って、リィカはルシアに向き直る。
「皇女殿下、ありがとうございました」
「どういたしまして。リィカさんが優秀過ぎて、できないの笑おうと思ってたのに残念だわ」
冗談……というには、ルシアの顔が本気だった。
カーテシーを練習したときのことを思い出して、リィカの頬がヒクついた。
「リィカさん、今夜も私の部屋に泊まってちょうだい。色々教えてあげる」
「ぜひお願いします」
ルシアの誘いに、躊躇うことなくリィカは応じる。
そうやって笑っているリィカを、アレクは驚いた顔をして見ていた。
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