434 / 619
第十二章 帝都ルベニア
リィカとユーリの剣
しおりを挟む
「では、これでタイキさんの剣は終了ですね」
とりあえず、泰基の状態に問題はないと踏んだのだろう。
ユーリがにこやかにサムに向かって話しかけた。
それでリィカも思い出した。
「サムさん、僕とリィカの剣を作ってくれませんか?」
それをお願いしようと言っていた事に。
が、サムの機嫌が目に見えて悪くなった。
「なぜだ。あんたらには必要ないだろう」
「……手を見せろとか言わないんですか?」
「見なくても分かる。あんたらは剣に関してはド素人だ。帰った帰った」
シッシッと追い出すような仕草をされたが、それでもそれを頼むのには意味があるのだ。
リィカも参戦した。
「お願いします、サムさん。これから魔族と戦っていくのに必要なんです。作って下さい」
「ヤだね」
頭を下げたが、あっさり切り捨てられた。
さすがに、ちょっとムッとくる。
「えーと何だっけ……。目をうるませて、上目遣いで頼む、だったっけ……?」
かつてトルバゴ共和国で出会った老婆、ペトラに教えてもらった事を思い出す。
自分がそんなことをやっても似合わないとは思うが、この際手段を選んでいられない。
「……でも、目をうるませるって、どうしたらいいの?」
「リィカ、頑張って下さい!」
悩むリィカに、ユーリからの応援が入る。
その応援に応えたいと思うが、どうしていいか分からない。
目をうるませるということは、つまりは泣けということだろうか。だが、そう都合良く涙が出てくれるはずもない。
うーんと唸るリィカに、サムが呆れた顔で告げた。
「あのな。確かに年頃の男には有効だろうが、娘よりも年齢が下の女の子にそんな事されても、全く心は動かんぞ」
やる前に言われてしまい、リィカは落ち込んだ。
できる気もしなかったとは言っても、そう言われてしまうとショックだ。
「剣を実際にどう使いたいのか、見せたらどうだ?」
「それだ!」
「それです! サムさん、何でもいいので、軽い剣一本貸して下さい!」
泰基の提案にリィカとユーリが同時に叫ぶ。
さらに図々しく剣を貸せと言えるのは、さすがユーリという所だろうか。
「…………こいつでいいか?」
先ほど自らの夢を叶えてくれた泰基の提案を一蹴することはできないと見えて、サムが渋々ながら差し出した剣は短剣だ。
受け取ったユーリは、そのままリィカに渡す。
「なんでわたし?」
「リィカの方が種類が豊富じゃないですか」
それは単に持っている魔法適性の差でしかないが。
しかし、素直に受け取ったリィカは、サムに視線を向けた。
「すいません。何か壊れても良いものってありませんか?」
「………………」
サムは無言で指を指す。
その先にあったのは、見た目がなんとなくサンドバッグに似たようなものだ。それが、上から紐で吊されている。
「Cランクの魔物の皮を剥いで丸めたものだ。剣の切れ味とか、まあ色々確かめるのに使う。壊れたら壊れたで構わん。――やれるものならな」
わざわざ最後に付け足された一言に、リィカがムッとした表情を見せるが、すぐにその口元は弧を描く。
「壊せたら、剣を作ってくれますか?」
「一時間も二時間もかけて壊した所で、認めないぞ。それに、上の紐を切っても認めない」
挑発するようにリィカが言うが、サムはそれに乗る様子は見せない。
逃げ道を塞ぐように色々釘を刺すが、リィカからしたらそれらは完全に見当外れだ。
「そんなことしません。あれ、エンチャントの魔法を使ったとして、どのくらい保つんですか?」
「エンチャントか。あの中にもぎっしりCランクの魔物の皮が入っているんだ。表面を切り裂くくらいなら難しくないが、壊すには四回か五回、唱え直しが必要だな」
「四回か、五回……」
リィカはつぶやく。
あのサンドバッグみたいなものとの距離は、およそ二メートル。
「じゃあ、ここから動かないであれを壊します。唱えるエンチャントは二回。それで壊せたら、作って下さい」
「ほお?」
サムは驚いたように言った。
エンチャントが二回、というのも驚くが、それ以上に二メートルも離れていれば、普通はエンチャントでは届かない。
「面白い、いいだろう。壊せたら、あんたら二人の剣を作ってやる」
「約束ですよ」
言って、サンドバッグもどきに向き直る。
チラッと仲間たちを見て見れば、皆楽しそうな顔をしているだけで、心配そうな顔は全くない。
クスッと笑って、リィカは魔法を唱えた。
「《火の付与》!」
短剣に炎が灯る。
そこに魔力を付与すると、一直線にサンドバッグもどきに向けて、火の剣が伸びた。
「なっ!?」
サムが驚いたのが聞こえる。
一方、リィカはわずかに眉をひそめる。
サンドバッグもどきの中央を貫けるかと思ったら、途中で止まった。思った以上に頑丈だ。
だが、火のエンチャントの追加効果で、サンドバッグもどきが火に包まれる。
それでも、壊れない。
このまま斬り付けたり刺したりを続けるのもいいが、それでは面白くないだろう。
火のエンチャントの長さを元に戻す。
そして、左から右に横に薙ぐように短剣を動かす。
普通なら、サンドバッグもどきに届くはずがない。
しかし、火のエンチャントから小さな火の玉が放たれて、それがすべてサンドバッグもどきに命中した。
同時に、火のエンチャントが消える。
チラッとサムを見ると、厳しい表情でリィカを見ていた。
フウッと息を吐いて、二つ目のエンチャントを唱えた。
「《風の付与》!」
魔力を付与すると、風のエンチャントがムチのように伸びた。ジャダーカを相手に使った時と同じだ。
それでサンドバッグもどきを叩く……つもりだったが、止めた。
さらに操って、風のムチがサンドバッグもどきに巻き付き、ギュッと締め付けた。
先の炎のエンチャントで脆くなっていた皮は、その締め付けに耐えきれず、ボロボロに破れて壊れたのだった。
※ ※ ※
ホッと息を吐いたリィカの耳に、拍手が聞こえた。
パンパンパンパンと手を叩いているのは、サムだ。
「なるほどな、あんなの初めて見たぜ。魔法使いが使うエンチャントか」
ご機嫌そうな表情をしている。
「あんたら、ルビーの剣を見てるんだもんな。確かにあんな使い方するんなら、ルビーのと同じように魔石から作った剣の方が使いやすいだろうな」
「じゃあ……!」
「ああ、二人分作ってやるぜ。どんなのがいいんだ? とりあえず希望を言ってみろ」
リィカとユーリがお互いに笑顔を見合わせ、頷く。
「軽い剣がいいです!」
「軽い剣にして下さい!」
「……そういやさっきも軽い剣と言ってたな」
なぜだ、という顔をするサムに、泰基が説明をした。
「少し前までリィカはショートソード、ユーリはロングソードを使っていたんですが、どちらも剣が重かったようなんです。ユーリにショートソードを持たせてみたらちょうど良かったんですが、そのショートソードが壊れてしまいまして」
「……なるほどな。ってことは、全く剣を使ったことがないわけじゃないのか」
「二人でゴブリン一匹何とか倒したのが、成果と言えば成果ですね」
あれはまだルバドール帝国に入国する前の話だ。
泰基が苦笑して伝えるが、サムの反応は予想とは違った。
「へぇ。魔法使わずにか? 剣だけで?」
感心したような様子を見せたのだ。
視線を向けられたリィカとユーリは、黙って頷く。
そうしたら、サムが何かを考え込んだ。
「……そうか。ゴブリンを倒せるなら、普通に剣を振る可能性も考えるべきか。となると」
立ち上がると、何やらゴソゴソやり出した。
やがてその手に取ったのは、ショートソードだ。それをユーリに渡す。
「これは?」
「失敗作のガラクタだ。とりあえず振ってみろ」
「……構いませんが、なぜ?」
「剣士は手を見れば、大体実力が分かる。どんな剣がいいのかもな。だが、あんたらに関しては分かる気がしない。だから、振って見せろ」
見ようともしないのに、なぜ分かる気がしないと言い切るのか。
何となく釈然としないものを感じながらも、ユーリは言われた通りに剣を振る。
ジッと見ているサムが、何を考えているのかよく分からない。
「そこまででいい。次、嬢ちゃん振ってみろ。悪いが、さすがにショートソードより軽い剣はない。短剣じゃ分かりにくいから、それを振ってみろ」
「は、はいっ」
ユーリから剣を受け取って、振ってみる。さっきの短剣と比べると、重く感じる。
それでも自分にできるだけの事をやると、サムからストップがかかった。
「何となく分かった。何であんたらが剣をやる必要があるかは分からんがな。だが、きっとそれが必要なんだろう」
あえてそれ以上の事情を聞くつもりはないようだ。
腕を組んで考えている。
「……話を聞いたかも知れないが、俺がルビーに作ってやってる剣は完全とは言えない。あいつが全力で魔力をこめたら壊れてしまうような代物だ。だから、あいつのと同じように作っただけでは、あんたらの魔力に耐えられない可能性が高い」
「ええ、伺いました。だから、質よりも量を優先していると」
「そうなんだよな。鍛冶師としては不本意極まりないが」
ユーリの答えに、サムは笑うでもなく真顔で頷く。
そして、少し考えるようにしながら、言葉を続けた。
「純粋に考えれば、魔石のランクが上がれば上がるほど、込められる魔力も増える。だが、魔石がでかいのに、小ぶりな剣を作るのができるかどうかがちょっと分からない」
サムの言いたい事はよく分かる。
魔道具を作るにも、その魔石の大きさに合った大きさで作るのが作りやすい。
「あんたら、Cランク以上の魔石はどのくらい持っている?」
「CとBはたくさんありますよ。Aランクは三個ですね」
ユーリが答えると、サムの目が輝いた。
「マジか。売ってくれって言ったら、売ってくれるか?」
「……今って僕たちの剣の話をしているんですよね?」
「そうだが、たくさんあるなんて言われたら、欲しくなるじゃないか」
ちなみにBランクの魔石がたくさんある理由は、ユグドラシルの島でバナスパティが色々魔物を狩ってきた結果である。
だが、その中にAランクの魔物はいなかった。
だから、持っているAランクの魔石は、カトリーズの街でリィカとユーリが戦ったヒドラ。
そして、最終防衛線で戦った二体の魔物のAランクの魔石。合計三個だ。
「これは真面目な話だが、失敗前提というか練習用というかでBランクの魔石をいくつか提供してくれないか。Aランクが三個だけじゃ、そっちを練習用とするわけにはいかないからな」
いったん言葉を切って、さらに続ける。
「作るならAランクの魔石で剣を作るべきだろう。大きい魔石で小ぶりの剣を作れるか、Bランクの魔石で試してみたいんだが」
ユーリがアレクを見る。
アレクが頷いた。
「構わない。Bランクは十個ほどでいいか?」
「そんなにくれるのか!?」
多かったらしい。
しかし、正直魔石はたくさんあるのだ。
「ああ。もし余ったら、そのまま差し上げよう」
「イヨッシャー! よーし、最低限で済ませるぞ!」
何だか別方向でやる気を出し始めたサムに微妙に不安を抱きながら、魔石を渡す。
Bランクの他に、Aランクの魔石も二個渡す。
「残りもう一つのAランクの魔石は、くれないのか」
「なぜあげる必要があるんだ」
身を乗り出して要求してくるサムに、アレクが冷たい声で告げた。
とりあえず、泰基の状態に問題はないと踏んだのだろう。
ユーリがにこやかにサムに向かって話しかけた。
それでリィカも思い出した。
「サムさん、僕とリィカの剣を作ってくれませんか?」
それをお願いしようと言っていた事に。
が、サムの機嫌が目に見えて悪くなった。
「なぜだ。あんたらには必要ないだろう」
「……手を見せろとか言わないんですか?」
「見なくても分かる。あんたらは剣に関してはド素人だ。帰った帰った」
シッシッと追い出すような仕草をされたが、それでもそれを頼むのには意味があるのだ。
リィカも参戦した。
「お願いします、サムさん。これから魔族と戦っていくのに必要なんです。作って下さい」
「ヤだね」
頭を下げたが、あっさり切り捨てられた。
さすがに、ちょっとムッとくる。
「えーと何だっけ……。目をうるませて、上目遣いで頼む、だったっけ……?」
かつてトルバゴ共和国で出会った老婆、ペトラに教えてもらった事を思い出す。
自分がそんなことをやっても似合わないとは思うが、この際手段を選んでいられない。
「……でも、目をうるませるって、どうしたらいいの?」
「リィカ、頑張って下さい!」
悩むリィカに、ユーリからの応援が入る。
その応援に応えたいと思うが、どうしていいか分からない。
目をうるませるということは、つまりは泣けということだろうか。だが、そう都合良く涙が出てくれるはずもない。
うーんと唸るリィカに、サムが呆れた顔で告げた。
「あのな。確かに年頃の男には有効だろうが、娘よりも年齢が下の女の子にそんな事されても、全く心は動かんぞ」
やる前に言われてしまい、リィカは落ち込んだ。
できる気もしなかったとは言っても、そう言われてしまうとショックだ。
「剣を実際にどう使いたいのか、見せたらどうだ?」
「それだ!」
「それです! サムさん、何でもいいので、軽い剣一本貸して下さい!」
泰基の提案にリィカとユーリが同時に叫ぶ。
さらに図々しく剣を貸せと言えるのは、さすがユーリという所だろうか。
「…………こいつでいいか?」
先ほど自らの夢を叶えてくれた泰基の提案を一蹴することはできないと見えて、サムが渋々ながら差し出した剣は短剣だ。
受け取ったユーリは、そのままリィカに渡す。
「なんでわたし?」
「リィカの方が種類が豊富じゃないですか」
それは単に持っている魔法適性の差でしかないが。
しかし、素直に受け取ったリィカは、サムに視線を向けた。
「すいません。何か壊れても良いものってありませんか?」
「………………」
サムは無言で指を指す。
その先にあったのは、見た目がなんとなくサンドバッグに似たようなものだ。それが、上から紐で吊されている。
「Cランクの魔物の皮を剥いで丸めたものだ。剣の切れ味とか、まあ色々確かめるのに使う。壊れたら壊れたで構わん。――やれるものならな」
わざわざ最後に付け足された一言に、リィカがムッとした表情を見せるが、すぐにその口元は弧を描く。
「壊せたら、剣を作ってくれますか?」
「一時間も二時間もかけて壊した所で、認めないぞ。それに、上の紐を切っても認めない」
挑発するようにリィカが言うが、サムはそれに乗る様子は見せない。
逃げ道を塞ぐように色々釘を刺すが、リィカからしたらそれらは完全に見当外れだ。
「そんなことしません。あれ、エンチャントの魔法を使ったとして、どのくらい保つんですか?」
「エンチャントか。あの中にもぎっしりCランクの魔物の皮が入っているんだ。表面を切り裂くくらいなら難しくないが、壊すには四回か五回、唱え直しが必要だな」
「四回か、五回……」
リィカはつぶやく。
あのサンドバッグみたいなものとの距離は、およそ二メートル。
「じゃあ、ここから動かないであれを壊します。唱えるエンチャントは二回。それで壊せたら、作って下さい」
「ほお?」
サムは驚いたように言った。
エンチャントが二回、というのも驚くが、それ以上に二メートルも離れていれば、普通はエンチャントでは届かない。
「面白い、いいだろう。壊せたら、あんたら二人の剣を作ってやる」
「約束ですよ」
言って、サンドバッグもどきに向き直る。
チラッと仲間たちを見て見れば、皆楽しそうな顔をしているだけで、心配そうな顔は全くない。
クスッと笑って、リィカは魔法を唱えた。
「《火の付与》!」
短剣に炎が灯る。
そこに魔力を付与すると、一直線にサンドバッグもどきに向けて、火の剣が伸びた。
「なっ!?」
サムが驚いたのが聞こえる。
一方、リィカはわずかに眉をひそめる。
サンドバッグもどきの中央を貫けるかと思ったら、途中で止まった。思った以上に頑丈だ。
だが、火のエンチャントの追加効果で、サンドバッグもどきが火に包まれる。
それでも、壊れない。
このまま斬り付けたり刺したりを続けるのもいいが、それでは面白くないだろう。
火のエンチャントの長さを元に戻す。
そして、左から右に横に薙ぐように短剣を動かす。
普通なら、サンドバッグもどきに届くはずがない。
しかし、火のエンチャントから小さな火の玉が放たれて、それがすべてサンドバッグもどきに命中した。
同時に、火のエンチャントが消える。
チラッとサムを見ると、厳しい表情でリィカを見ていた。
フウッと息を吐いて、二つ目のエンチャントを唱えた。
「《風の付与》!」
魔力を付与すると、風のエンチャントがムチのように伸びた。ジャダーカを相手に使った時と同じだ。
それでサンドバッグもどきを叩く……つもりだったが、止めた。
さらに操って、風のムチがサンドバッグもどきに巻き付き、ギュッと締め付けた。
先の炎のエンチャントで脆くなっていた皮は、その締め付けに耐えきれず、ボロボロに破れて壊れたのだった。
※ ※ ※
ホッと息を吐いたリィカの耳に、拍手が聞こえた。
パンパンパンパンと手を叩いているのは、サムだ。
「なるほどな、あんなの初めて見たぜ。魔法使いが使うエンチャントか」
ご機嫌そうな表情をしている。
「あんたら、ルビーの剣を見てるんだもんな。確かにあんな使い方するんなら、ルビーのと同じように魔石から作った剣の方が使いやすいだろうな」
「じゃあ……!」
「ああ、二人分作ってやるぜ。どんなのがいいんだ? とりあえず希望を言ってみろ」
リィカとユーリがお互いに笑顔を見合わせ、頷く。
「軽い剣がいいです!」
「軽い剣にして下さい!」
「……そういやさっきも軽い剣と言ってたな」
なぜだ、という顔をするサムに、泰基が説明をした。
「少し前までリィカはショートソード、ユーリはロングソードを使っていたんですが、どちらも剣が重かったようなんです。ユーリにショートソードを持たせてみたらちょうど良かったんですが、そのショートソードが壊れてしまいまして」
「……なるほどな。ってことは、全く剣を使ったことがないわけじゃないのか」
「二人でゴブリン一匹何とか倒したのが、成果と言えば成果ですね」
あれはまだルバドール帝国に入国する前の話だ。
泰基が苦笑して伝えるが、サムの反応は予想とは違った。
「へぇ。魔法使わずにか? 剣だけで?」
感心したような様子を見せたのだ。
視線を向けられたリィカとユーリは、黙って頷く。
そうしたら、サムが何かを考え込んだ。
「……そうか。ゴブリンを倒せるなら、普通に剣を振る可能性も考えるべきか。となると」
立ち上がると、何やらゴソゴソやり出した。
やがてその手に取ったのは、ショートソードだ。それをユーリに渡す。
「これは?」
「失敗作のガラクタだ。とりあえず振ってみろ」
「……構いませんが、なぜ?」
「剣士は手を見れば、大体実力が分かる。どんな剣がいいのかもな。だが、あんたらに関しては分かる気がしない。だから、振って見せろ」
見ようともしないのに、なぜ分かる気がしないと言い切るのか。
何となく釈然としないものを感じながらも、ユーリは言われた通りに剣を振る。
ジッと見ているサムが、何を考えているのかよく分からない。
「そこまででいい。次、嬢ちゃん振ってみろ。悪いが、さすがにショートソードより軽い剣はない。短剣じゃ分かりにくいから、それを振ってみろ」
「は、はいっ」
ユーリから剣を受け取って、振ってみる。さっきの短剣と比べると、重く感じる。
それでも自分にできるだけの事をやると、サムからストップがかかった。
「何となく分かった。何であんたらが剣をやる必要があるかは分からんがな。だが、きっとそれが必要なんだろう」
あえてそれ以上の事情を聞くつもりはないようだ。
腕を組んで考えている。
「……話を聞いたかも知れないが、俺がルビーに作ってやってる剣は完全とは言えない。あいつが全力で魔力をこめたら壊れてしまうような代物だ。だから、あいつのと同じように作っただけでは、あんたらの魔力に耐えられない可能性が高い」
「ええ、伺いました。だから、質よりも量を優先していると」
「そうなんだよな。鍛冶師としては不本意極まりないが」
ユーリの答えに、サムは笑うでもなく真顔で頷く。
そして、少し考えるようにしながら、言葉を続けた。
「純粋に考えれば、魔石のランクが上がれば上がるほど、込められる魔力も増える。だが、魔石がでかいのに、小ぶりな剣を作るのができるかどうかがちょっと分からない」
サムの言いたい事はよく分かる。
魔道具を作るにも、その魔石の大きさに合った大きさで作るのが作りやすい。
「あんたら、Cランク以上の魔石はどのくらい持っている?」
「CとBはたくさんありますよ。Aランクは三個ですね」
ユーリが答えると、サムの目が輝いた。
「マジか。売ってくれって言ったら、売ってくれるか?」
「……今って僕たちの剣の話をしているんですよね?」
「そうだが、たくさんあるなんて言われたら、欲しくなるじゃないか」
ちなみにBランクの魔石がたくさんある理由は、ユグドラシルの島でバナスパティが色々魔物を狩ってきた結果である。
だが、その中にAランクの魔物はいなかった。
だから、持っているAランクの魔石は、カトリーズの街でリィカとユーリが戦ったヒドラ。
そして、最終防衛線で戦った二体の魔物のAランクの魔石。合計三個だ。
「これは真面目な話だが、失敗前提というか練習用というかでBランクの魔石をいくつか提供してくれないか。Aランクが三個だけじゃ、そっちを練習用とするわけにはいかないからな」
いったん言葉を切って、さらに続ける。
「作るならAランクの魔石で剣を作るべきだろう。大きい魔石で小ぶりの剣を作れるか、Bランクの魔石で試してみたいんだが」
ユーリがアレクを見る。
アレクが頷いた。
「構わない。Bランクは十個ほどでいいか?」
「そんなにくれるのか!?」
多かったらしい。
しかし、正直魔石はたくさんあるのだ。
「ああ。もし余ったら、そのまま差し上げよう」
「イヨッシャー! よーし、最低限で済ませるぞ!」
何だか別方向でやる気を出し始めたサムに微妙に不安を抱きながら、魔石を渡す。
Bランクの他に、Aランクの魔石も二個渡す。
「残りもう一つのAランクの魔石は、くれないのか」
「なぜあげる必要があるんだ」
身を乗り出して要求してくるサムに、アレクが冷たい声で告げた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる