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第十二章 帝都ルベニア

ルシアと会話②

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「……違う?」
「そ、そうですっ。わたしっ、男の人と、その、そういうこと、したことないです!」

言いながら、リィカは思い切り説得力がないことに気付いた。

昨日は実際にアレクの部屋に泊まったのだ。
アレクにも言われたではないか。男の部屋に泊まるという事が、どういうことか分かっているのか、と。

「…………………」

無言のままのルシアが怖い。
そんな事を考えもしなかったが、周囲から見ればアレクとそういう事をしていると思われてもおかしくないのだ。

どう言ったらいいんだろうか。

「あの、だからわたしはっ……」
「うそっ、嘘でしょ!? 昨晩もそうだけど、ずっと一緒に旅してきたのよね!? それで何もなかったの!?」

言い訳を試みたリィカの言葉を、ルシアが遮った。
リィカは首をすくめた。

「……なかったです」
「うそでしょー!?」

仰天して絶叫するルシアには悪いが、それが事実なんだからしょうがない。
昨日は、まあ、色々際どいところまではいったが、それは言わなくていいはずだ。

やがて、ルシアはボフッとベッドに沈み込む。

「そうなんだぁ。そっかぁ。兄様なんか見てると、男性なんて簡単に女に手を出すものだと思ってたから、あの人が何もしてこないのは私の身分に遠慮してるのかな、なんて思ってたけど。そっかぁ」

独りごちるルシアの言葉に、リィカはどこをツッコもうと悩んだ。

「えーと……」
「この国はね、一夫多妻だから、今現在兄様の奥方は五人いるの。これ以上増えるかどうかは分からないわね。ちなみに、第一妃が妊娠中。初めての子供ね」
「――あ、はい」

質問する前に教えてくれた。
そっか。一夫多妻なのか。それをとやかく言うのはおかしいけれど、それでも、五人も奥さんがいるのか、と思ってしまう。

「ちなみに、ルビーは誰も娶ってないわ。あの子はあの子なりの信条があるようだから」

それはまた、兄弟でずいぶん対極だ。
これからどうなるかは分からないが。

「皇女殿下の旦那様になる方は、どんな方なんですか?」

一夫多妻が当たり前なら、ルシアの結婚相手も複数の女性と結婚するのだろうか。
皇女と結婚するというのに、それがありなんだろうか。

「私が最初の妻になるけど、どうなるかしらね。希望を言うなら、他の女性を娶って欲しくはないけど」
「……やっぱりそう思うんですね」
「そりゃね。好きな男性だもの。一人占めしたいじゃない」

リィカは目を見開いた。

「好きな……ですか?」
「そうよ。政略だと思った? もちろん、政略的な意味がないとは言わないわ。でも彼、ルビーの側近していて、そちらの繋がりもあるから、そこまで意味は強くないの」

ルベルトスの側近。
そう言われて、リィカの脳裏に一人の男性の姿が浮かぶ。

「あの、それって、大将閣下の……バジェット様、でしたっけ?」

最終防衛線であった、大将であるリヒトーフェン公爵の息子、バジェット。
彼が、ルベルトスの側近であったはずだ。

「そっか。リィカさん、会ったのね。そう。バジェットが私の結婚相手。戦えもしないのに、ルビーについて最前線に行っちゃって」

ルシアが憂いの表情を見せた。

大将という、元帥を除けば軍のトップまで上り詰めた男の息子。
その息子が、剣も魔法も才能がないと分かった時の周囲の落胆は大きかった。そして、それを何よりも感じていたのが、バジェット本人だ。

「私も貴族から父様の事で色々言われて、言い返すこともできなくて泣いていて、そんな時かしらね、彼と会ったのは」

二人で慰め合って頑張った。
バジェットは文官の道を選び、ルシアも皇宮での振る舞いを身に付けた。
気付けば、バジェットはルベルトスの側近になっていたが、それからもルシアとの交流は続いた。

「それで、結婚することになったんですね」
「そうよ。バジェットから申し込まれたとき、本当に嬉しかったわ。それなのに」

ルシアがプクッと頬を膨らませる。
結婚式の日取りまで決まったのに、魔王が誕生してしまった。

ルベルトスが最前線に出向くと決まった時、相談もなしにバジェットはルベルトスについていくと決めたらしい。

「一言くらい、何か相談してくれてもいいと思わない? それなのに、行くことに決めたからって決定事項を言っただけで、後は何も言ってくれなかったの」

待っててくれ、でもいいし、結婚式が延期になってゴメン、でもいい。
何か言って欲しかったのに、何も言ってくれなかった。

愚痴るルシアに、リィカはアハハハと引き攣った笑みを浮かべるだけだ。

リィカは、ジャダーカの相手をアレクに浚われそうになったところを攫い返して、自分が戦った。
そんな自分がもしルシアの立場だったら、何も言ってくれないと愚痴ってなんかいない。その場で自分も連れて行けと相手に迫っただろうと思う。

「……キスくらいしてくれるかなって思ってたのに」

それもまだだったのか。
さらに続いた愚痴に、リィカは遠い目をした。
それはもう、何回もされている。――と言ったら、ルシアが落ち込みそうな気がするので、言えないが。

「……結婚前でも、バジェットが求めてくれたら、私良かったのに」
「ふえっ!?」

何を、というツッコミを入れるまでもなく、リィカの顔が赤くなる。
その様子を見て、ルシアが深々とため息をついた。

「本当に、リィカさんも経験ないのね。……一応勉強はしたけど、実際どんな感じかなぁって聞いてみたかったのに」

ブンブン首を横に振る。
振りながら、そういえば凪沙は経験してるはず、と思い当たったが、それ以上思い出すのは本能が拒否した。

「ねぇ、でも本当に何もなかったの? 昨晩、あの姿でアレクシス殿下の部屋に泊まったのよね? あ、そういえば、侍女がキスマークがあったって言ってたわ」

「えっ!? そんなこと、報告いっちゃうんですか!?」

「報告じゃないわよ。ただの噂話。でもじゃあ本当にそうなのね。ねぇねぇ、教えてちょうだい」

カマかけられた、と気付いた所で遅い。
グイグイ来るルシア相手に逃げることもできず、洗いざらい白状する羽目になったのだった。


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