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第十二章 帝都ルベニア

回復の魔石

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「……うーん」

ユーリは、自分の右手を見つめて唸る。
リィカを見れば何やら落ち込んでいる風で、それをアレクが慰めているようだ。
だが、端から見れば、ラクダの上でイチャイチャしているようにしか見えない。

「どうした、ユーリ」
「リィカみたいに、上手く凝縮魔法を操れないんですよね。何発も出すのもできないですし」
「なるほど。声かけて悪かった。タイキさんに変わっから」
「……ちょっと、バル。冷たくないですか」
「おれに想像もできねぇ相談すんじゃねぇ」

確かにそうかもしれないが、声を掛けてきたのはバルだ。
別に答えを出せというつもりはないが、愚痴くらい聞いてくれてもいいだろうに。

が、本当にバルの代わりに泰基が寄ってきた。

「俺だって凝縮魔法を使っているわけじゃないんだから、相談に乗ってやれと言われても、困るんだけどな」
「僕も別に、タイキさんに相談したいと言ったわけではないのですが……」

苦笑する泰基に、ユーリも苦笑する。
バルが勝手に気を利かせただけだ。

相談するなら、相手はリィカだろう。
だが、向けた視線の先、あの二人の間に割って入る勇気はない。

「だが、ちょうど良かった。聞いてみようと思って、ずっと聞きそびれていたことがあったんだ」
「なんでしょう?」

泰基の言葉に、ユーリは不思議そうに聞き返す。

「回復の手段についてだ。以前に、魔法か薬草の二択だと教えてもらった事があっただろ?」
「ええ、そうですが?」

神官の光魔法か魔法使いの水魔法で回復するか、あるいは薬草を使うか。
回復の手段と言えば、それだけだ。

「《回復ヒール》の魔石は、その手段に入らないのか?」
「……ああ、なるほど」

魔石には、魔法を封じ込められる。
もっぱら生活魔法を込めることが多いが、他の魔法を込めることもある。

だったら、《回復ヒール》の魔石があってもいいだろうと思うのだが、回復手段にそれがあがらない。

「一言で言ってしまえば、神官の実力差が原因、ですかね?」

胡乱げな顔をした泰基に、ユーリは説明した。

神官は、教会に来た人の治療を行うことで、治療代をもらう。
完全に出来高制だ。

魔石に《回復ヒール》の魔法を込めて売る場合、その神官が作って売れた分の代金を渡せば良い。だが、作った神官によっては、なかなか売れないこともある。

「実力があって人気のある神官もいれば、それとは真逆の神官もいますからね。そういう神官の作った魔石って、売れなかったらしいですよ」

ユーリが苦笑する。
教会に来た人の治療をするときには、教会側が振り分ける。人気があろうとなかろうと、治療するのに問題がなければいいのだ。

ただ、魔石を買うとなると、それは購入する人の判断だ。
どうせ買うなら実力がある人が作った魔石を買いたい、というのは当然の心理だろう。

しかし、作った神官側からは当然不満も出てくる。売れなければ、報酬がもらえない。

「実力のある神官は忙しいですからね。普段の治療だけで手一杯で、魔石作りにまで手を出せません。しかし、たまに作って売り出すとあっという間に売り切れて、もっとないのかとクレームがくる」

「つまりは、神官側からも客側からもクレームが出るわけか」

泰基が苦笑する。
話の先が見えた。

「そういうことです。で、不満しか出ないんだったらやめてしまえ、と《回復ヒール》の魔石が作られることはなくなりました」

「……何というかまあ、命を守るためにあってしかるべきものだろうに」

「まったくの同感ですが、命を守るものだからこそ、良いものを手に入れたいという気持ちも分かりますがね」

攻撃魔法でも剣技でもそうであるように、《回復ヒール》も使う人によって効力が違う。
いつどこで何があるか分からない以上、少しでも効果の強いものを、と考えるのはしょうがないだろう。

「……難しいものだな」

「ええ。でも、僕はタイキさんの自動回復の魔道具の方がいいと思いますけどね。《回復ヒール》の魔石を使うには、その人の意思が必要ですが、タイキさんのはただ身に付けておけばいいわけですから」

普段、街に住んでいる人には魔石は必要ない。何かあれば、教会に行けばいいのだから。
それが必要なのは、旅して移動している人だ。戦闘中であっても勝手に回復してくれる方が、有り難いだろう。

「そうだが、回復力がな……」

大怪我を負うと、あまり効果らしい効果が見られない。
カトリーズの街での戦いで、重傷だったバルが回復しているようには見えなかった。

「効果をあげられるかどうか、やってみましょうか。失敗したって魔石が壊れるだけですよ」
「それもそうだな」

考えるなら、やってみればいいのだ。
幸いにも、魔石には困らない。

ついでに、防御効果ももっと上げられないかを試してみるか、と泰基は内心でつぶやいた。


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