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第十一章 四天王ジャダーカ

戦いの後のリィカとジャダーカ

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「またな、じゃない! 二度と来るな!!」
「リィカ! 何赤くなっているんだ! 手を貸せ!!」
「ふえ?」

せっかく余韻に浸っていたのに、二人の声に吹き飛ばされた。

暁斗が、背中を見せるジャダーカに怒鳴っている。
アレクに、強引に右手を取られた。

「――なっ……! なに、やって……!」
「消毒だ」
「――ちょっ……」

強引に右手を取られ、先ほどジャダーカに口付けられた辺りを、アレクが舐めている。

真っ赤になって抗議するも、訳の分からない一言をアレクに返され、また舐められる。
右手を引こうとしても、ビクとも動いてくれない。

それでも、アレクに舐められるその感触と光景に耐えられず、右手を引こうと躍起になっているうちに、体力の限界が訪れた。

「……………………!」

膝がガクッと崩れた。
声も出ず、倒れそうになる。

「リィカ!」

誰かの手が、崩れるリィカを支えた。
アレクじゃない。
アレクは、リィカの右手をつかんだまま、中途半端な姿勢でいる。

「ありがとう、暁斗」

自分を支えてくれた手は、暁斗だった。
その顔を見上げてお礼を言えば、暁斗の顔が真っ赤になった。

「え?」
「あ、ううん、な、なんでもない。うん、なにもないからね。なにも心配ないから、うん」
「……………?」

そっぽを向いて、まくし立てる暁斗の様子が、何か変だ。
リィカは、首を傾げる。

「行くぞ、リィカ」
「きゃぁっ!?」

しかし、疑問を追求する前に、何だか声の低いアレクに横抱きに抱えられた。
見上げるアレクの顔は、不機嫌に見える。

が、リィカの視線に気付くと、表情が柔らかくなった。

「ユーリとタイキさんに治療してもらおうな」
「……うん」

それには異論はない。
暁斗を見れば、ついてきている。

(そういえば、久しぶりに暁斗と会話をした気がする)

この最終防衛線まで来る馬車の中でも、休憩時間でも、あまり暁斗と話す機会がなかった。
自分が鏡作りとか魔法の練習とかしていたからか。
他のメンバーとは話をしていたんだから、たまたまだろうか。

(少し、気にして話してみようかな)

たいしたことではないのだろうけど、何となく暁斗とだけ話をしていなかったのが気になった。
これからもう少し暁斗と話をしてみよう、と決めたリィカだ。

だが、リィカへの恋心を持て余している暁斗を、近づけさせないようにしていた他の四人の思惑があったことに、気付くことはなかった。


※ ※ ※


「ジャダーカ様!」
「クナム、一旦引き上げろ」
「……承知致しました」

何かを言いたそうにしたクナムの言葉を遮るように、ジャダーカは一時撤退を指示する。
不満そうな顔をしながらも、クナムは頭を下げた。

ジャダーカとクナムは、ルバドール帝国を攻め込んでいる部隊に強引に入り込んだだけだから、自分たちがいなくなっても戦闘に支障はない。

しかし、《天変地異カタクリズム》同士がぶつかり合った余波がずいぶん及んでいたらしく、部隊にも少なくない怪我人がいるようだ。

であれば、一旦引き上げて回復した方がいいだろう。
強引に入り込んだだけであろうが、四天王の名は大きい。

「ジャダーカ様。撤退はいたしますが、魔物をルバドール軍に放つことの許可は頂けますでしょうか」

聞いてきたのは、クナムではなく部隊の責任者だ。
ジャダーカはわずかに眉をひそめる。

「どの程度のランクを放つか知らねぇが、意味あるのか、それ」

「ランクはCランクがメインです。意味はもちろんございます。それだけ疲労させることができますから」

「なるほどな」

一対一ではなく、大軍同士の戦いだ。
それもまた、戦略の一つなのか。

「好きにしろ」
「ありがとうございます」

先ほどまで戦っていたリィカを思う。
あの状態のリィカが魔物の攻撃を受けてしまったら……と思ったが、あの男が守るのだろう。
Cランク程度の魔物に、殺されることはないはずだ。

去っていく部隊の責任者と入れ替わるように、クナムが近づいてきた。

「撤退の準備は、彼が致します。ジャダーカ様は治療を受けて下さい」
「………………心配ねぇ。浅い傷ばかりだ」

咄嗟にどう返事をするか、迷った。
それ故の、最初の沈黙は失敗だった。
クナムの目がつり上がる。

「おそらく、肋骨辺り骨折されていらっしゃるのでは? 足は大丈夫そうですが、右腕は動きますか?」

「………………………」

「だから、リィカにここまでにしよう、なんて言ったんでしょう? もっともな理由を付けていましたが」

「うっせえな」

ジャダーカはキレた。
クナムを睨む。

「分かってんなら言うな。それに嘘でも何でもないぞ。俺は魔道具作るからな」
「え、本気で!?」

大真面目に驚かれて、ジャダーカのクナムを睨む目つきはさらに鋭くなるが、慣れてしまっているクナムは、全く気にしなかった。

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