上 下
3 / 619
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

3.リィカ③ー入学式の前に

しおりを挟む
「どこ行けばいいの……?」

男性を黙って見送ってる場合じゃなかった、と慌てて校舎に入ったものの、行くべき教室が分からない。

門の所にいた案内の人には、中に入ればすぐ分かる、と言われたけれど、案内の看板があるわけじゃないし、全く分からない。

もう一度戻って聞こうかな、どうしようかな、と思った所で、またも誰かに声を掛けられた。

「ん……? 君は誰だ? 平民か」

外で声をかけてくれた男性もイケメンだったけど、こっちもイケメンだ。
こっちは非常に分かりやすく、貴族だ。

明るい金髪に、群青色の目。
どこか漫画にも出てきそうな王子様っぽいイメージがある。

怖い感じはしないけれど、相手が貴族だというだけで、身がすくむ思いがする。

「ここは貴族用の校舎だ。平民が一人で入るのはやめた方がいい」
「――あっ……!」

言われて、思い出した。
校舎は、貴族用と平民用の二つがあるのだ。

貴族用の校舎は、生徒の人数が多いということもあるのだろうが、大きいし、そして豪奢だ。当然、目に付きやすい。

わたしは、何も考えずに、目に付いた校舎に入ってしまったのだ。

そこまで気付けば、平民用の校舎に向かうだけなのだが、目の前にいる王子様っぽい男性をどうするべきか。

何を言えばいいのか。
小さな村育ちのわたしより、日本で育った凪沙の方が知識があるかも、とその記憶を探ってみたけど、この場面に役立ちそうな記憶は見つからない。

「じ、実は、迷ってしまいまして……、その……すいません!!」
「おい?」

大きく頭を下げて、叫ぶように謝罪の言葉を口にして、そのまま走り出した。
驚いたような声が聞こえたけれど、構わず走った。


※ ※ ※


一度外に出れば、平民用の校舎はすぐ分かった。
貴族用のそれに比べれば、小さくて質素だけど、だからといってボロいわけではない。
清潔に保たれているのがよく分かる。

校舎に入れば、教室もすぐ分かった。
中に入って、適当に席に座る。

思い出すのは、先ほどのこと。

――どうしよう。逃げ出して来ちゃった。

二度も連続で貴族に話しかけられて、気持ちが一杯一杯だった。言い訳すればそうなるが、相手からしたら、気分が良いものではなかっただろう。

教室内を見れば、いるのは十名くらいだ。
この中から、わたしを見つけ出すなんて、簡単だ。

――無礼者! とか言われて、処刑なんかされちゃったら、どうしよう。

始まってもいない学園生活だが、すでにお先真っ暗だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

処理中です...