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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ
2.リィカ②ー入学と出会い
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それから約一ヶ月後。
わたしは、国立アルカライズ学園の門をくぐっていた。
「うわぁ、大きな学校だなぁ……」
思わず感嘆が零れる。
凪沙の記憶にある学校とは比較にならないくらいに大きいし、広い。
足を止めてボケッと眺めてしまう。
「どうした、大丈夫か?」
「ふえっ?」
突如かけられた声に、間抜けな声が漏れる。
声を掛けてきた人を見て……目をパチクリさせた。
髪が黒い。
この世界では初めて見た。けれど、凪沙の記憶では、当たり前にあった髪の色。
思わず目をのぞき込むが、目の色は黒ではなく、翠だった。
そんなわたしに、目の前の男性は不思議そうな顔をした。
「大丈夫か? お前、新入生だろう? 早くしないと、入学式に遅れるぞ」
まあ俺も新入生だけどな、と目の前の男性が笑う。
それでわたしも、ハッとした。
別に時間ギリギリに来たわけじゃないけど、そんなゆっくりできるほどでもない。
お礼を伝えようと口を開きかけて……それに気付いて、一瞬言葉が詰まった。
「…………だ、大丈夫、です。ありがとう、ございます」
喉に引っかかるような感覚を無視して、何とか言葉を発する。
だが、目の前の男性は、何も感じなかったようで、笑って立ち去っていった。
男性の、制服のブレザーの胸ポケットには、この国の紋章の刺繍がしてあった。
わたしのには、していない。
刺繍しているのは、貴族だけだ。
つまり、あの男性は平民ではなく、貴族なのだ。
考えてみなくても分かることだけど、この学園は国立だ。
つまりは、貴族が多く在籍する学園。
平民もいるらしいけれど、その数はごく少数で、大多数が貴族だ。
遭遇するとしたら、貴族との遭遇率の方が圧倒的に高い。
「……はぁ、良かった」
貴族は苦手だ。
全部が全部、嫌な貴族ばかりじゃないらしいけれど、村にいた頃に近くにいた貴族は怖い貴族だった。
何もなくて良かったと思う。
去っていく男性の後ろ姿を見る。
ふと、キラッと髪が光った気がした。
あれ、と思った。
日の光に透けてみる髪色は、黒ではなく、金だった。
わたしは、国立アルカライズ学園の門をくぐっていた。
「うわぁ、大きな学校だなぁ……」
思わず感嘆が零れる。
凪沙の記憶にある学校とは比較にならないくらいに大きいし、広い。
足を止めてボケッと眺めてしまう。
「どうした、大丈夫か?」
「ふえっ?」
突如かけられた声に、間抜けな声が漏れる。
声を掛けてきた人を見て……目をパチクリさせた。
髪が黒い。
この世界では初めて見た。けれど、凪沙の記憶では、当たり前にあった髪の色。
思わず目をのぞき込むが、目の色は黒ではなく、翠だった。
そんなわたしに、目の前の男性は不思議そうな顔をした。
「大丈夫か? お前、新入生だろう? 早くしないと、入学式に遅れるぞ」
まあ俺も新入生だけどな、と目の前の男性が笑う。
それでわたしも、ハッとした。
別に時間ギリギリに来たわけじゃないけど、そんなゆっくりできるほどでもない。
お礼を伝えようと口を開きかけて……それに気付いて、一瞬言葉が詰まった。
「…………だ、大丈夫、です。ありがとう、ございます」
喉に引っかかるような感覚を無視して、何とか言葉を発する。
だが、目の前の男性は、何も感じなかったようで、笑って立ち去っていった。
男性の、制服のブレザーの胸ポケットには、この国の紋章の刺繍がしてあった。
わたしのには、していない。
刺繍しているのは、貴族だけだ。
つまり、あの男性は平民ではなく、貴族なのだ。
考えてみなくても分かることだけど、この学園は国立だ。
つまりは、貴族が多く在籍する学園。
平民もいるらしいけれど、その数はごく少数で、大多数が貴族だ。
遭遇するとしたら、貴族との遭遇率の方が圧倒的に高い。
「……はぁ、良かった」
貴族は苦手だ。
全部が全部、嫌な貴族ばかりじゃないらしいけれど、村にいた頃に近くにいた貴族は怖い貴族だった。
何もなくて良かったと思う。
去っていく男性の後ろ姿を見る。
ふと、キラッと髪が光った気がした。
あれ、と思った。
日の光に透けてみる髪色は、黒ではなく、金だった。
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