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第十章 カトリーズの悪夢
デウス・アポストルス
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本日で連載開始から一年になります。
低ポイントの作品を、ここまで読んで下さっている方には、本当に感謝しかありません。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
-----------------------------------------------------------------------
デウス・アポストルスは、小国群の小さな国のとある街で生まれた。
生まれた時から、この名前だったわけじゃない。
何の変哲も無い、平凡な両親からもらった名前は、ある時期から不要となった。
デウスはいわゆる突然変異で、多い魔力を持って生まれた。
持っている属性は、水と風。
自在に魔法を操るデウスは、両親を含め、周囲の人たちに畏怖され、敬意を払われていた。
デウスが、自分は特別な人間だと思うまで、大して時間は掛からなかった。
自分はこんな小さな国にいるような人間じゃないと、国を飛び出したが、世間は甘くなかった。
特別でも何でも無かった。自分程度に魔法を操れる人間は、世間にはゴロゴロいた。
デウスが初めて経験した挫折だった。
それが一変したのは、デウスが光の属性も持っていると分かった時だ。
水属性の《回復》のつもりで詠唱して、間違って光属性の《回復》の詠唱をしてしまった。
発動するはずのない魔法が発動した。
唖然としたのは一瞬だった。
やはり自分は特別な存在だと、思うようになった。
持っているはずのない光属性を持っている自分は、神に選ばれた存在なのだ。
それからは、色々な事が上手くいった。
二属性持ちは珍しくなくても、三属性持ちともなると、数が激減する。
まして、その一つは光属性。
最初は信じてもらえなくても、目の前で魔法を見せれば、皆が信じる。
デウスが何も言わなくても、皆がデウスを「特別な存在」と認めていた。
世間を放浪するだけから、国家に召し抱えられ、出世していく。
傲慢になっていき、周囲にそれを煙たがれていたが、デウスは鼻で笑うだけだった。
「凡庸な人間が、私のような選ばれた人間を羨んでいるだけだろう」
平然とそう言い放つものだから、さらに嫌われていった。
たった一つだけ、上手くいかなかった事がある。
詠唱せずに魔法を使う男と出会ったときだ。
余所見をして自分にぶつかってきた子供に罰を与えようと、魔法を唱えた時。
ある男が、無詠唱で魔法を唱えて、それを妨害した。
その男の使う魔法を見て、思ってしまったのだ。
――敵わない、と。
そう思ってしまったことが屈辱だった。
そして、その男への憎しみを募らせていったが、男は旅人だったらしく、デウスの前に姿を見せることはなかった。
憎しみを向ける矛先がなく、鬱屈していた時。唐突に気付いた。
魔法は神から与えられた力。詠唱は、神に感謝を捧げる行為だ、という魔法の起源。
つまりは、無詠唱を行ったあの男は、神への感謝を捧げていない。感謝も捧げずに、その力を使っている、許されがたい罪を犯しているのだ。
「クククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
デウスは大声を上げた。
これこそが、自分の使命だ。
あの男を、そしてこの世界の人類すべてに、神への感謝を捧げて魔法を使えるよう、教え、導くこと。
それが、神に選ばれた自分が為すべき事なのだ、と。
※ ※ ※
デウスはまず、詠唱中に攻撃してくる無礼な者たちへの対処を考えた。
神への感謝を捧げている最中に攻撃してくるのは、あの無詠唱の男だけではない。剣を扱う者もそうだ。
彼らの攻撃を押さえつつ、詠唱をやり遂げなければならない。
《結界》の魔法でそれができる事を知ってから、デウスに敵はいなくなった。
それから、デウスは故郷に戻った。
自分の出発点から、始めようと思ったのだ。
戻ってみれば、生まれた国はなくなり、代わりにマルーランドという国が出来ていた。
だが、国のトップが変わっただけで、街は何も変わっていなかった。
国王のマルーという男は無能だった。
取り入り、操るのに、何の苦労もいらなかった。
マルーから無詠唱の魔法を使う一家の話を聞いたときには、まさかと思った。
捕らえられた男を見て、デウスは神に感謝した。
あの時の男だった。
最初から殺そうとしたわけじゃない。
神の教えを説いた。無詠唱などをやめて、神への感謝を込めて詠唱をするよう、幾度も伝えた。だが、男はついに首を縦には振らなかった。
男の処刑が決まった。
そのはずだったのに、男は牢の中で自死していた。
なぜか顔は潰れて、判別できなかったが、その牢には男しかいなかったのだ。男で間違いないだろう。
目の前で処刑するところを見たかったのに死なれてしまい、不満だった。逃げた子供達でその不満を晴らそうと思ったが見つからない。
見つからないままに国は滅び、デウスは這々の体で逃げ出したのだ。
※ ※ ※
聞き終えたリィカは、大きく息を吐いた。
詠唱に拘る理由が、どうしようもなく下らない。
無詠唱の男、というのが、サルマたちの父親だろう。
サルマたちの父親が殺されてしまった理由が、逆恨みから来ていたのが、どうしようもなく悲しい。
リィカは、悼むように静かに目を閉じた。
低ポイントの作品を、ここまで読んで下さっている方には、本当に感謝しかありません。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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デウス・アポストルスは、小国群の小さな国のとある街で生まれた。
生まれた時から、この名前だったわけじゃない。
何の変哲も無い、平凡な両親からもらった名前は、ある時期から不要となった。
デウスはいわゆる突然変異で、多い魔力を持って生まれた。
持っている属性は、水と風。
自在に魔法を操るデウスは、両親を含め、周囲の人たちに畏怖され、敬意を払われていた。
デウスが、自分は特別な人間だと思うまで、大して時間は掛からなかった。
自分はこんな小さな国にいるような人間じゃないと、国を飛び出したが、世間は甘くなかった。
特別でも何でも無かった。自分程度に魔法を操れる人間は、世間にはゴロゴロいた。
デウスが初めて経験した挫折だった。
それが一変したのは、デウスが光の属性も持っていると分かった時だ。
水属性の《回復》のつもりで詠唱して、間違って光属性の《回復》の詠唱をしてしまった。
発動するはずのない魔法が発動した。
唖然としたのは一瞬だった。
やはり自分は特別な存在だと、思うようになった。
持っているはずのない光属性を持っている自分は、神に選ばれた存在なのだ。
それからは、色々な事が上手くいった。
二属性持ちは珍しくなくても、三属性持ちともなると、数が激減する。
まして、その一つは光属性。
最初は信じてもらえなくても、目の前で魔法を見せれば、皆が信じる。
デウスが何も言わなくても、皆がデウスを「特別な存在」と認めていた。
世間を放浪するだけから、国家に召し抱えられ、出世していく。
傲慢になっていき、周囲にそれを煙たがれていたが、デウスは鼻で笑うだけだった。
「凡庸な人間が、私のような選ばれた人間を羨んでいるだけだろう」
平然とそう言い放つものだから、さらに嫌われていった。
たった一つだけ、上手くいかなかった事がある。
詠唱せずに魔法を使う男と出会ったときだ。
余所見をして自分にぶつかってきた子供に罰を与えようと、魔法を唱えた時。
ある男が、無詠唱で魔法を唱えて、それを妨害した。
その男の使う魔法を見て、思ってしまったのだ。
――敵わない、と。
そう思ってしまったことが屈辱だった。
そして、その男への憎しみを募らせていったが、男は旅人だったらしく、デウスの前に姿を見せることはなかった。
憎しみを向ける矛先がなく、鬱屈していた時。唐突に気付いた。
魔法は神から与えられた力。詠唱は、神に感謝を捧げる行為だ、という魔法の起源。
つまりは、無詠唱を行ったあの男は、神への感謝を捧げていない。感謝も捧げずに、その力を使っている、許されがたい罪を犯しているのだ。
「クククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
デウスは大声を上げた。
これこそが、自分の使命だ。
あの男を、そしてこの世界の人類すべてに、神への感謝を捧げて魔法を使えるよう、教え、導くこと。
それが、神に選ばれた自分が為すべき事なのだ、と。
※ ※ ※
デウスはまず、詠唱中に攻撃してくる無礼な者たちへの対処を考えた。
神への感謝を捧げている最中に攻撃してくるのは、あの無詠唱の男だけではない。剣を扱う者もそうだ。
彼らの攻撃を押さえつつ、詠唱をやり遂げなければならない。
《結界》の魔法でそれができる事を知ってから、デウスに敵はいなくなった。
それから、デウスは故郷に戻った。
自分の出発点から、始めようと思ったのだ。
戻ってみれば、生まれた国はなくなり、代わりにマルーランドという国が出来ていた。
だが、国のトップが変わっただけで、街は何も変わっていなかった。
国王のマルーという男は無能だった。
取り入り、操るのに、何の苦労もいらなかった。
マルーから無詠唱の魔法を使う一家の話を聞いたときには、まさかと思った。
捕らえられた男を見て、デウスは神に感謝した。
あの時の男だった。
最初から殺そうとしたわけじゃない。
神の教えを説いた。無詠唱などをやめて、神への感謝を込めて詠唱をするよう、幾度も伝えた。だが、男はついに首を縦には振らなかった。
男の処刑が決まった。
そのはずだったのに、男は牢の中で自死していた。
なぜか顔は潰れて、判別できなかったが、その牢には男しかいなかったのだ。男で間違いないだろう。
目の前で処刑するところを見たかったのに死なれてしまい、不満だった。逃げた子供達でその不満を晴らそうと思ったが見つからない。
見つからないままに国は滅び、デウスは這々の体で逃げ出したのだ。
※ ※ ※
聞き終えたリィカは、大きく息を吐いた。
詠唱に拘る理由が、どうしようもなく下らない。
無詠唱の男、というのが、サルマたちの父親だろう。
サルマたちの父親が殺されてしまった理由が、逆恨みから来ていたのが、どうしようもなく悲しい。
リィカは、悼むように静かに目を閉じた。
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