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第十章 カトリーズの悪夢

診断

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リィカは、暁斗と泰基が出て行った天幕の入り口を眺めたまま、動かなかった。

「リィカ、いいから座れ」

アレクに手を取られる。

「お前、丸一日以上寝ていたんだ。いきなり無理するな」
「……でも、暁斗が」

アレクが、少しムッとした顔をする。
意味が分からずに、リィカは首を傾げた。

「……タイキさんが追い掛けたんだから、任せておけば良い。とにかく休んでくれ」

バツの悪そうな顔をしたアレクにもう一度言われて、今度はリィカも素直に従った。
ベッドに腰掛ける。

「リィカの意識が戻ったこと、ケルー少将に伝えてくる。ついでに、食事ももらってくっから」

そう言って、バルが出て行った。
残ったユーリが、リィカに近づいてきた。

「リィカ、ちょっと調べさせて下さいね。――《診断ディアグノーゼ》」

肩に置かれた手が、淡く光る。
体の中の異常を調べるための魔法だ。
別に何も違和感はないけれど……、と思いながらも、リィカは大人しくしている。

「――うん、問題はないみたいですね」
「そうか、良かった」

ユーリとアレクが、ホッとした顔をした。

「何か、あった?」

魔法まで使って、なぜ調べられたのか分からない。
リィカの質問に、二人とも表情が曇った。

「隷属の首輪を嵌められていただろう?」

「デウスの話では、何度も制裁の痛みを発動させた、ということでしたので。後遺症などないかが気になっていたんですよ」

「……ああ、あれ、制裁の痛み、なんて名称ついてるんだ……」

そんな程度の痛みじゃなかったけどなぁ、とボンヤリと思う。
地獄の苦痛……いやいや、そんなものでも物足りない。

「リィカ、首元を隠せるもの、何か持っているか?」
「首? なんで?」

アレクは、少し辛そうな顔をして、視線を逸らせている。
ユーリも沈痛そうな面持ちだ。

「首輪を嵌められていた痕が、赤くなって残っているんだ。それにその周囲も、ひどくただれている。痛みはないか?」

「《回復ヒール》で治そうと思ったんですが、治らなかったんですよ。隷属の首輪に、きっと特殊な能力でもあるんでしょうね」

言われて首元に手を触れる。
痛みは感じない。言われて見れば、何となく違和感がある気はするが、その程度だ。

(鏡があればなぁ)

首元は自分では見られない。
どの程度ひどいのか、自分ではさっぱりだ。

(首、隠すもの…………)

何かあったっけ? と考えて、思い出したら顔が赤くなった。

アイテムボックスに触れて出したのは、スカーフだ。
モントルビアの王都モルタナで、ルイス公爵の屋敷で滞在中にもらったスカーフ。

……アレクにキスマークを付けられて、それを隠すためにもらったものだ。

出発時に返そうとしたのだが、メイドたちに「また必要になるかもしれませんから」と笑顔で言われて、顔を赤くしながら受け取った品物だ。

「………………………」

無言で首にスカーフを巻く。
アレクも思い出したのか、微妙に顔が赤かった。


※ ※ ※


「魔力の探査かぁ。すごいね」

どうやって自分を見つけたのか。
その説明を聞いて、リィカは感嘆の声を上げた。

左手の指輪に目を向けて、アレクを見る。
まさか、あの魔力付与が役に立つなんて、あの時には全く考えてもいなかった。

「わたしもできるようになりたいなぁ」

アレクたちのやっている気配察知の、魔力バージョンだ。
気配を探るのは全く出来る気はしないが、魔力を探す方なら出来るような気がする。

うずうずし出したリィカを見て、アレクとユーリが苦笑している事には気付かない。

「デウスについての話だが。聞くか、リィカ?」

聞きたくないなら、それでもいい。
そう言ったアレクに、リィカは居住まいを正す。

「聞く。教えて」

大変な目にあった。辛い目にあった。
でも、だからこそ知りたかった。
デウスが、詠唱に拘る理由を。

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