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第十章 カトリーズの悪夢

教主

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風の手紙エア・レターから聞く、暁斗の説明は分かりにくかった。

ステラからの手紙で、リィカが呼び出された事。
リィカの悲鳴が聞こえたと思ったら、その気配が途絶えたこと。

分かったのはそのくらいだ。
だが、それだけ分かれば十分だった。

今、気配が途絶えたその場所にいる、という暁斗に、そのままそこにいるように言って、アレクは走り出していた。

トラヴィスたちに事情を説明したのは、泰基だった。
暁斗とどういう手段で話をしていたのか、おそらく疑問だっただろうに、その質問はなかった。

「ブラウン少佐、宿屋の娘を見つけて確保しろ」
「はっ」

トラヴィスはバスティアンに指示を出すと、アレクを追って走り出していた。


※ ※ ※


「アキト!」

暁斗は聞こえた声に振り向く。
アレクだった。
その後ろには、他の仲間たちもいる。

「みんな、ごめんなさい」

まずそれを言おうと、暁斗は決めていた。
リィカを守れなかった。
何も言い訳などできなかった。

大きく頭を下げた暁斗に、どう思ったのだろうか。
強く握られて震えていたアレクの拳が、解かれるのが暁斗からも見えた。

「謝罪は、いらない。事情を詳しく教えてくれ」

何かを必死に抑えるような、アレクの声。
暁斗は、頭は上げたが目は伏せたままだった。


※ ※ ※


暁斗は事情を説明した。
風の手紙エア・レターで話をした時よりは、上手に説明できたと思う。

きちんと伝えられるように、みんなが到着するまでに、頭の中で必死に考えていた。その甲斐はあったはずだ。

「勇者様。教主、と言っていたのですね?」
「そう聞こえました」

トラヴィスに聞かれて、暁斗は頷く。
風の手紙エア・レターで聞こえただけだが、間違いない。

トラヴィスが何か考え込む。

「何か心当たりがあるのか?」
「心当たりと言えば心当たりですが……、宿屋の娘にも話を聞いてからに致します」

アレクに答えたトラヴィスの声は、どこか忌々しい感じがあった。


※ ※ ※


「知らないわよ。どこにいるかなんて」

ステラは、逃げも隠れもせず、実家の宿屋にいた。
バスティアンにリィカの行方を聞かれ、悪びれもせずに、答えたのだった。

「お前が関わっているんだろう?」

「あの人たちが、復讐してくれるって言ってくれたの。最初に、女を浚う必要があるって言うから、呼び出しただけ」

疑いもしないで来たから、笑いを堪えるのが大変だったわよ、と言うステラは、言葉とは裏腹に、にこりともしない。ひどく、昏い目をしていた。

「復讐の準備が整ったら、連絡してくれるんだって。だから、それを楽しみに待っているというわけ」

分かったら帰って、と言われたが、それだけで帰るわけにはいかない。

「そいつらは、どこのどいつだ?」
「半年くらい前から、ここに住んでるわよ? 男の一人が、教主とか呼ばれてたけど」
「………………教主……」

バスティアンは、そう呼ばれる男に心当たりがあった。
自然、顔が険しくなる。

「復讐をしてくれる相手の情報を、そう簡単に話して良いのか?」

「ん、ああ、そうだった。もし自分たちを捕まえようとしたら、リィカの命は保証しないって、軍に伝えろって言われてたんだっけ」

ステラは軽く言った。
別に死んでも構わない。暗にそう言っている。

「勇者様のご一行がいなくなったら、誰が魔王を倒す?」

バスティアンのその質問で、ステラの様子がガラッと変わった。

「だから何よ! 我慢しろっていうの!? みんなして、同じ事ばかり!」

その目が、表情が、怒りに変わる。
そして、やり場のない悲しみが見て取れる。

「そんなの知らない! あの人たちのせいで、パパとママが死んじゃったのに! なんで、あの人たちはのうのうと生きてるのよ! それが許せないの!」

「そうか」

この場に、勇者一行の誰もいなくて良かったと思う。
彼らの誰にも、聞かせたい言葉ではなかった。
すでに一度、自分のミスで聞かせてしまったから、なおさらだ。


彼女の感情は、珍しいものではない。
だが、勇者一行からしたら、理不尽以外の何者でもない。

魔族が攻めてきた責任は魔族にあるのであって、勇者一行にはない。彼らは、不利な状況の中、懸命に戦ってくれたのだ。

勇者たちが魔王を倒せなければ、父母を失う子が、子を失う父母が増えるだけだ。
その時には、復讐したくてもできない。

それをステラに伝えたところで意味がないことも、バスティアンに分かる。

だからといって、復讐を遂げさせるわけにもいかない。
それをさせてしまえば、一時は満足しても、必ず後悔する。

バスティアンは、黙って去ることしかできなかった。
自分の感情との折り合いは、自分でつけてもらうしかない。

今、自分たちのすべきことは、リィカを助け出すことだった。


※ ※ ※


「やはり、教主か」

バスティアンから話を聞いて、トラヴィスが忌々しげにつぶやいた。

「小国群のいずこかにいるかと思っていたら、我が帝国内に入り込んでいたとはな」

半年前、と言うと、おそらく魔王誕生くらいの頃だろう。
あの頃は、帝国もバタバタしていたから、その混乱に乗じて入国されてしまったのだろう。

勇者一行に向き直る。

「教主について、ご説明させていただきます」

トラヴィスから語られた話は、勇者一行もかつて耳にしながらも、忘れてしまっていた話だった。

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