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第十章 カトリーズの悪夢

VS人食い馬④、そして終焉へ

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「ヒヒーン!!」

オーロが、高らかに声を上げた。

「………………!」

ユーリは、それを忘れていた事に気付いた。
オーロの口から、水流が吐き出された。

「《結界バリア》!」

大きな《結界バリア》はいらない。余計な魔力を消費するだけ。
水流を防げるだけの大きさの《結界バリア》を発動させた。

「……なんて、威力ですか……!」

当然ながら、その威力も、先ほどまでの比ではなかった。
力を抜くわけにはいかなかった。

魔力残量を気にしていられず、ユーリは込められるだけの魔力を、《結界バリア》に込めた。


※ ※ ※


(このままじゃ、まずいよね)

リィカは、オーロに切り裂かれた肩を押さえていた。
傷は深くない、とは言っても、それでも痛い。

オーロを、ユーリを見る。
ユーリの魔力が、どんどん削られているのが分かる。

魔力がなくなって、《結界バリア》が維持出来なくなれば、吐き出される水流の直撃を受けるだけだ。
その前に、どうにかしなければいけない。

自分の魔力残量を確認する。
多分、初級魔法一発程度なら、何とかなる。

(成功しますように)

リィカは《火球ファイヤーボール》を凝縮して、発動させた。


※ ※ ※


オーロは、慌てなかった。
正面から発動された火球の魔法、それを水流を発動させたまま、躱す。

魔法を放った人間を見るが、すぐ意識から外した。
もう、その人間に魔法を使える魔力は残っていなかった。


※ ※ ※


(やっぱり、躱された)

予想通りだ。
できれば、水流の発動を止められれば良かったのだが。

しかし、本番はこれからだ。

リィカは崩れそうな体を必死に起こす。
もう、魔法を発動できるだけの魔力もない。
でも、もう魔力も必要ない。

「――戻ってきて!」

本当は、声を出さずにやれれば良かったのだろうが、声にした方がイメージしやすい。

リィカは、オーロに躱されて飛んでいく《火球ファイヤーボール》に向かって、声を発した。

すると、《火球ファイヤーボール》は、まるで生き物のようにその場でカーブを描き、戻ってきた。
リィカの意思に応えるように。

そしてそのまま、オーロに命中したのだった。

「!!!」

水流を口から出していたオーロは、悲鳴を上げなかった。
しかし、背後から攻撃されるなど想像もしていなかったのだろう。痛みと驚きでオーロの攻撃と動きが止まった。

そして、その瞬間を、ユーリは見逃さなかった。

凝縮された《光球ライトボール》を、ありったけ打ち込む。

「《結界バリア》!」

唱えた魔法は、攻撃を防ぐためではなかった。
唱えた《結界バリア》は、細長い槍のような形に変形する。炎の中級魔法である《炎の槍フレイムランス》によく似た形だ。

真っ直ぐに飛んでいった《結界バリア》の槍は、オーロの口の中に突き刺さり、そのまま体を貫通した。

悲鳴すら上げず、オーロは横倒しになり、息絶えたのだった。


※ ※ ※


「倒されたか」

カストルは目を閉じる。
自分が作り上げた魔物だ。
愛着がなかったわけではない。
だが、それも一瞬だった。

「オルフ、撤退するぞ」
「承知しました」

勇者たちと戦っている四名は、持ち堪えてはいるが、完全に押されている。
これ以上は犠牲を増やすだけだろう。

オルフが一人、戦場に足を進めた。


※ ※ ※


(倒したのか)

リィカとユーリの二人が、人食い馬マンイート・ホースを四体とも倒したのを確認して、泰基は苦笑していた。

たいした物だと思う。
こちらが駆け付けるまでもなかったようだ。

泰基は、戦っているディーノスを見る。
後は、魔族たちを倒すだけだ。

リィカとユーリの二人は、疲労困憊といった様子で座り込んでいる。後方からのフォローは期待できなさそうだが、一対一の戦いで、それを望むのは高望みだろう。

飛んできたモーニングスターを躱す。
ディーノスも疲れてきているのか、早さも威力も落ちてきている。

今までは躱した隙に懐に飛び込もうとしても、切り替えが早くて飛び込めなかったが、今は隙が見える。

泰基は、一気に懐に飛び込もうとして…………視界にもう一人目に入って、慌てて動きを止めた。

「《輪光リング・ライト》!」

カストルという魔王の兄と名乗った男の、側に控えていた男。
その男が放ったのは、泰基やユーリがよく使う、光の中級魔法だ。

「《輪光リング・ライト》!」

泰基も同じ魔法を唱える。

ぶつかり合った魔法は、弾けた。
弾けて生まれた光が、辺りを包み、強烈な閃光を発した。

そのまぶしさに、泰基は目を瞑る。
そして、光がやんで目を開けた時、魔族たちは四人全員、後方に下がって、カストルたちと合流していた。

「なにっ!?」

そう叫んだのは、誰だったのか。

「勇者諸君、ここまでだ。貴様らの戦いぶり、認めよう。次に再戦するときに、この雪辱を果たすとしよう」

カストルの言葉に、勇者一行が各々に驚きの感情を示す。

「逃げるのか!!」

叫んだのは、暁斗だ。

「その通りではあるが、なるほど、そう言われると、かなり悔しいものがあるな」

カストルは淡々と口にする。
その視線が、リィカに移る。

「貴様を殺せなかったのは残念だが、まあ良かろう。ジャダーカがいるからな。奴がどうにかするだろう」

むしろ、ジャダーカの機嫌をこれ以上損ねずに済んで良かった。
大真面目に言うカストルの手には、Bランク相当と思われる魔石があった。

「では、さらばだ」
「待てっ!」

再び暁斗が叫ぶ。

「【一閃しゅんいっせん】!」

剣技を放ったのは、アレクだった。
だが、それが届く前に、カストルとオルフ、他四名の姿は、その場から消えたのだった。

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