上 下
318 / 612
第十章 カトリーズの悪夢

VSヒドラ②

しおりを挟む
リィカは走り出した。
その走った方向を見て、ユーリも走り出す。

向かう先は、魔封陣の中央だ。
ヒドラが移動したから、今その中央は空いている。

「ギィヤァァァ! ギヤァァァァァッァァァァ!」

案の定、慌てた様子でヒドラがついてきた。
当然だろう。ヒドラはそこを守っていたのだ。自分が離れた隙に、攻撃されるわけにはいかないのだろう。

さすが、Aランクの魔物だと思う。
知能だって高い。
こちらが何をやろうとするのか、すぐに理解してくる。

どこが中央なのかはすぐに分かった。
魔力が、濃い部分がある。
間違いなく、そこが魔封陣の中央だ。

リィカが、ユーリが、そこに魔法を打ち込もうとするが、ヒドラが炎を吐いて、阻止された。

さらに、ヒドラがその巨体を割り込ませる。
攻撃を打ち込むべき中央部分は、ヒドラの体の下になった。

けれど、それでいい。
これで、ヒドラは容易にこの場所から動けなくなったはずだ。

「リィカ、何をするつもりですか?」

ユーリにもすぐに意図は分かったのだろう。
確かに、ヒドラが動かなければ、自分たちは遠距離からの攻撃ができる。炎の攻撃にさえ気をつけていれば、ダメージは受けない。

だが、同時にこちらの攻撃も通じないのだ。
最初に戻っただけだ。

リィカは気を引き締めた。

「一つ、思い付いたの。集中したいから、ヒドラに動かれると困る」

そして、思い付いた事を口にする。

「なるほど。試してみる価値は、ありそうですね」

ユーリは目を見張り、すぐにニッと笑った。


※ ※ ※


ヒドラは警戒した。
目の前の二体のニンゲン。

自分を従わせる、膨大な魔力を持ったマゾクに、この場所の死守を命じられた。
理由は知らない。興味もない。
ただ、守れと言われた場所の魔力が濃いから、何かあるのだろうとは分かった。

目の前に現れたニンゲンは、使う技は大したことないが、自分を倒せるだけの魔力を持っている。

放置できないと思って追い掛けた。
倒せると思ったのに、しぶとかった。
自分が守るべき場所に攻撃をしようとしてきたから、慌ててその場所に覆い被さった。

この場所から離れれば、ニンゲンが攻撃する。
それが分かった以上は、離れられない。

ニンゲンの使う技は、痛くもかゆくもない。この場所から動かなくても、どうにでもなる。
そう判断したのに、なぜか痛みが走った。

「ギィヤアァァァァァァァ!?」

次々に痛みが走る。
痛みが、段々と増してきて、悲鳴を上げた。


※ ※ ※


リィカが思い付いた事は、簡単だ。

初級魔法にさらに魔力を込めると、一回り大きくなる。
でも、所詮は初級魔法。込められる魔力など、限られている。

だったら、魔力を込めて増大させるのではなく、凝縮させることはできないのか。

リィカは、《火球ファイヤーボール》を発動させる。
手の平に乗るサイズの大きさ。

これに魔力を込めると、一回りくらい大きくなる。
それを放っても、なんのダメージにもならなかった。

では、逆にこれを小さくしたのなら。例え、威力の弱い初級魔法でも、それを小さく凝縮すれば、もっと威力が上がるはずだ。

やってみたら、すぐにコツを掴んだ。
魔力を込めてはダメだ。
するべきは、魔力付与だ。

火球ファイヤーボール》に魔力の付与で、干渉する。
その大きさが、少し小さくなる。
それを、ヒドラに打ち込んだ。

「ギャアァ?」

違和感があったのか、ヒドラが声を出す。
それを見て、リィカは確信する。

(――いける!)

もう一度、《火球ファイヤーボール》を使う。
魔力を付与する。

(――もっと! もっと、小さく!)

先ほどよりも、小さくなった。
元の大きさの、半分近くにまでなる。

ヒドラに放つ。

「ギィヤアアァァ!?」

先ほどより、反応が強い。
ヒドラの目がリィカを睨み、炎を吐いてきたが、それを避ける。

そして、さらにまた《火球ファイヤーボール》を発動させる。
再び、魔力付与を行う。

(小さく! 小さく!!)

ひたすらそれを念じて、魔力付与を続けた。

(――できた!!)

分かる。
これ以上は凝縮できない。
手の平に包み込めるくらいにまで、小さくなった。

ヒドラに放つ。

同時に、ユーリも同じくらいにまで小さくなった《光球ライトボール》を、ヒドラに放っていた。

一瞬、リィカとユーリの視線が交わり、二人でニッと笑みを交わす。

凝縮された《火球ファイヤーボール》と《光球ライトボール》は、ヒドラの固い皮膚を破り、さらにその奥にまで突き入った。

「ギィヤアァァァァァァァ!?」

ヒドラが叫びを上げた。
リィカとユーリは、魔法を打ち込んでいった。


※ ※ ※


戦いは、リィカとユーリの一方的なものとなった。

二人は近づかない。
遠くから、凝縮した初級魔法を放つだけ。

何発も打つ内に、その行程もスムーズになった。
魔法を発動させてから、魔力付与をして、凝縮させて、という流れを、最初から凝縮させた状態で生み出すことが可能となっていた。

ヒドラは、その場から動かない。
魔封陣の中央を守る必要上、動けないと言った方が正しい。

リィカとユーリが近づかないから、してくる攻撃は炎の攻撃だけだが、距離があるから、躱すのも難しくない。

一度、キリムがやったみたいに、前足を高々と上げて叩き付けて、地面を揺らしてきた。
そこで足を取られたところを、炎で攻撃してきた。

キリムの時にされたことに、またも嵌まってしまったリィカとユーリだが、凝縮した魔法が役に立った。
連発することで、炎を相殺できた。

「ギィィィヤァァァァァァァァァァァァ……!」

断末魔を上げて、ヒドラは倒れたのだ。


※ ※ ※


はぁはぁはぁはぁ
はぁはぁはぁはぁ

リィカとユーリは、二人揃って息を切らしていた。

最後は一方的だったとは言っても、油断は出来なかったし、その前までにダメージを受けている。
慣れない魔法発動をしたことでの疲労もある。

けれど、座り込む訳にはいかない。
ヒドラが倒れて、魔封陣の中央、魔力の濃い部分がはっきり分かる。

二人は同時に走り出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 衝撃で前世の記憶がよみがえったよ! 推しのしあわせを応援するため、推しとBLゲームの主人公をくっつけようと頑張るたび、推しが物凄くふきげんになるのです……! ゲームには全く登場しなかったもふもふ獣人と、騎士見習いの少年の、両片想いな、いちゃらぶもふもふなお話です。

皇女はグリフィン騎士団員になり、憧れの騎士に愛される

ゆきりん(安室 雪)
ファンタジー
「皇女はグリフィンになりたくて騎士になります!?」から題名を変更しました。 皇女として産まれたアリアは、7歳の時にお忍びで行った城下のお祭りで『お楽しみタマゴ』と言う、殆どはヒヨコだがたまにグリフィンや竜が孵るタマゴを買い、兄サイノスとタマゴが孵るのを楽しみにしていた。 そんなある日、とうとうアリアのタマゴにヒビが入り!? 皇女アリアが何故かグリフィン騎士になってしまう!? 37話から16歳のアリアになります。 王族のイザコザや騎士としての成長・恋愛を書いていきます。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

俺のタマゴ

さつきのいろどり
ミステリー
朝起きると正体不明の大きなタマゴがあった!主人公、二岾改(ふたやま かい)は、そのタマゴを温めてみる事にしたが、そのタマゴの正体は?!平凡だった改の日常に、タマゴの中身が波乱を呼ぶ!! ※確認してから公開していますが、誤字脱字等、あるかも知れません。発見してもフルスルーでお願いします(汗)

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

手切れ金代わりに渡されたトカゲの卵、実はドラゴンだった件 追放された雑用係は竜騎士となる

草乃葉オウル
ファンタジー
上級ギルド『黒の雷霆』の雑用係ユート・ドライグ。 彼はある日、貴族から依頼された希少な魔獣の卵を探すパーティの荷物持ちをしていた。 そんな中、パーティは目当ての卵を見つけるのだが、ユートにはそれが依頼された卵ではなく、どこにでもいる最弱魔獣イワトカゲの卵に思えてならなかった。 卵をよく調べることを提案するユートだったが、彼を見下していたギルドマスターは提案を却下し、詳しく調査することなく卵を提出してしまう。 その結果、貴族は激怒。焦ったギルドマスターによってすべての責任を押し付けられたユートは、突き返された卵と共にギルドから追放されてしまう。 しかし、改めて卵を観察してみると、その特徴がイワトカゲの卵ともわずかに違うことがわかった。 新種かもしれないと思い卵を温めるユート。そして、生まれてきたのは……最強の魔獣ドラゴンだった! ロックと名付けられたドラゴンはすくすくと成長し、ユートにとって最強で最高の相棒になっていく。 その後、新たなギルド、新たな仲間にも恵まれ、やがて彼は『竜騎士』としてその名を世界に轟かせることになる。 一方、ユートを追放した『黒の雷霆』はすべての面倒事を請け負っていた貴重な人材を失い、転げ落ちるようにその名声を失っていく……。 =====================  アルファポリス様から書籍化しています!  ★★★★第1〜3巻好評発売中!★★★★ =====================

処理中です...