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第八章 世界樹ユグドラシル
ヤキモチ?
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「――バル!」
結界が崩れ落ちた途端に、響いた声はリィカの声だった。
同時に駆け寄ってくる姿も見えて、バルは苦笑した。
目の前で止まるかと思ったリィカが止まらない。
トン、と軽い衝撃を感じて、抱き付かれたと分かった時には、さすがに動揺した。
「……おい、リィカ」
「ごめん、なさい。何もできなくて、本当にごめんなさい。――勝ってくれて……ほんとに、良かった……」
「――あのなぁ」
リィカは泣いていた。
負けたら泣くだろうと思って頑張ったのに、勝っても泣くのか。一体どうしたら良かったのか。
(女って分かんねぇな)
バルは、自分の婚約者のフランティアの事も思い出しつつ、そんな事を思うが、それで事態は改善しない。
どうにか泣き止ませなければならない。
「……ああ、その、な、リィカ。せっかく勝ったんだから、泣くんじゃねぇって」
ぎこちなく言って、リィカの頭に手を置く。
そうしたら、さらに泣き声が大きくなった。
(だから、おれにどうしろってんだよ)
困って周囲を見る。
唯一、頼りになりそうな泰基の姿はない。
代わりに目に入ったのは、自分を射殺しそうな目で見ているアレクだ。
(おれのせいじゃねぇって)
そう思いながらアレクを見てみれば、さらにアレクの目が据わった。
もう一人、近くにいる暁斗を見ると、心配そうにリィカを見ているが、それだけだ。期待はしていなかったが、やはり何もしてくれる気はないらしい。
「――リィカ、頼むから泣き止んでくれ。おれもどうしていいか分かんねぇ。お前に力をもらったよ。だから勝てた」
バルは、リィカの頭を軽く撫でる。少し考えて付け足した。
「おれは、お前の泣き顔より笑った顔が見てぇ。そっちの方が好きだ。だから笑え、リィカ」
言ってから、しまったと思った。好きだという言葉は入れるべきじゃなかったか。
ちらりとアレクを見れば、さらに眼光が鋭くなっている。
しかし、リィカには効果覿面だったようだ。
リィカが顔を上げる。涙を、自分の指で拭いている。
「……うん、バル。ありがとう……じゃないね。勝ったんだからおめでとう、かな?」
拭いた側からまた涙は零れていたが、それでもリィカは笑ってみせた。
「……おう」
短いバルの返答は、わずかにリィカから視線を逸らしてのものだった。
可愛い女の子の、涙と笑顔のコンボは強力すぎた。
※ ※ ※
「リィカ、もういいだろう? バルから離れろ」
アレクが焦れたようにリィカに声を掛ける。
「……え?」
リィカは、と言えば、一瞬何のことだと言わんばかりの様子を見せるが、自分が抱き付いているのに気付いて、赤くなってバルから離れた。
「……そ、そうだよね。疲れてるのに抱き付いちゃって、ごめんなさい。……っていうか、ケガとか大丈夫? わたし、痛いところ触っちゃったりしてない?」
リィカが、アレクの思う所とは斜め上の事を言い出して、バルは思わず遠い目をする。
(もしかして、大変なのはリィカじゃなくて、アレクの方だったりすんのか?)
そんな考えが頭に浮かんだ。
「平気だ。そんなたいした怪我はしてねぇよ。それより、おれにあんまり引っ付いてるとアレクがヤキモチやくぞ。程々にしとけ」
「――バル!」
赤い顔で怒鳴ってきたのはアレクだ。
だが、リィカはキョトンと首を傾げる。
「……ヤキモチ? なんで?」
(――ああ、こりゃ駄目だ)
リィカの反応に愕然とした様子を見せているアレクを見る。
(まあ、頑張れ)
応援にもなっていないが、そっと心の中でつぶやいた。
「ところで、ユーリとタイキさんはどうしたんだ?」
バルが聞いたら、リィカの表情が強張った。
不審に思って見れば、アレクと暁斗の表情も似たり寄ったりだ。
「……バル、ほんとにケガ大丈夫?」
その表情のままリィカに聞かれて、訳が分からないながら、頷く。
「ああ、平気だ」
「じゃあ、ゆっくりでいいから戻ってきて。わたしは先にユーリの所に行ってる」
「………は?」
言うなり、リィカが身を翻して駆け出す。
「オレも先行くね」
暁斗も一声掛けて駆け出した。
「……何があったんだ?」
残ったアレクに質問する。
答えるアレクの表情も暗い。
「ユーリがな、リィカを庇ってキリムの炎の攻撃をまともに受けたんだ」
「――なっ!?」
その内容にバルが驚愕し、走り出し、アレクもすぐ後を追った。
結界が崩れ落ちた途端に、響いた声はリィカの声だった。
同時に駆け寄ってくる姿も見えて、バルは苦笑した。
目の前で止まるかと思ったリィカが止まらない。
トン、と軽い衝撃を感じて、抱き付かれたと分かった時には、さすがに動揺した。
「……おい、リィカ」
「ごめん、なさい。何もできなくて、本当にごめんなさい。――勝ってくれて……ほんとに、良かった……」
「――あのなぁ」
リィカは泣いていた。
負けたら泣くだろうと思って頑張ったのに、勝っても泣くのか。一体どうしたら良かったのか。
(女って分かんねぇな)
バルは、自分の婚約者のフランティアの事も思い出しつつ、そんな事を思うが、それで事態は改善しない。
どうにか泣き止ませなければならない。
「……ああ、その、な、リィカ。せっかく勝ったんだから、泣くんじゃねぇって」
ぎこちなく言って、リィカの頭に手を置く。
そうしたら、さらに泣き声が大きくなった。
(だから、おれにどうしろってんだよ)
困って周囲を見る。
唯一、頼りになりそうな泰基の姿はない。
代わりに目に入ったのは、自分を射殺しそうな目で見ているアレクだ。
(おれのせいじゃねぇって)
そう思いながらアレクを見てみれば、さらにアレクの目が据わった。
もう一人、近くにいる暁斗を見ると、心配そうにリィカを見ているが、それだけだ。期待はしていなかったが、やはり何もしてくれる気はないらしい。
「――リィカ、頼むから泣き止んでくれ。おれもどうしていいか分かんねぇ。お前に力をもらったよ。だから勝てた」
バルは、リィカの頭を軽く撫でる。少し考えて付け足した。
「おれは、お前の泣き顔より笑った顔が見てぇ。そっちの方が好きだ。だから笑え、リィカ」
言ってから、しまったと思った。好きだという言葉は入れるべきじゃなかったか。
ちらりとアレクを見れば、さらに眼光が鋭くなっている。
しかし、リィカには効果覿面だったようだ。
リィカが顔を上げる。涙を、自分の指で拭いている。
「……うん、バル。ありがとう……じゃないね。勝ったんだからおめでとう、かな?」
拭いた側からまた涙は零れていたが、それでもリィカは笑ってみせた。
「……おう」
短いバルの返答は、わずかにリィカから視線を逸らしてのものだった。
可愛い女の子の、涙と笑顔のコンボは強力すぎた。
※ ※ ※
「リィカ、もういいだろう? バルから離れろ」
アレクが焦れたようにリィカに声を掛ける。
「……え?」
リィカは、と言えば、一瞬何のことだと言わんばかりの様子を見せるが、自分が抱き付いているのに気付いて、赤くなってバルから離れた。
「……そ、そうだよね。疲れてるのに抱き付いちゃって、ごめんなさい。……っていうか、ケガとか大丈夫? わたし、痛いところ触っちゃったりしてない?」
リィカが、アレクの思う所とは斜め上の事を言い出して、バルは思わず遠い目をする。
(もしかして、大変なのはリィカじゃなくて、アレクの方だったりすんのか?)
そんな考えが頭に浮かんだ。
「平気だ。そんなたいした怪我はしてねぇよ。それより、おれにあんまり引っ付いてるとアレクがヤキモチやくぞ。程々にしとけ」
「――バル!」
赤い顔で怒鳴ってきたのはアレクだ。
だが、リィカはキョトンと首を傾げる。
「……ヤキモチ? なんで?」
(――ああ、こりゃ駄目だ)
リィカの反応に愕然とした様子を見せているアレクを見る。
(まあ、頑張れ)
応援にもなっていないが、そっと心の中でつぶやいた。
「ところで、ユーリとタイキさんはどうしたんだ?」
バルが聞いたら、リィカの表情が強張った。
不審に思って見れば、アレクと暁斗の表情も似たり寄ったりだ。
「……バル、ほんとにケガ大丈夫?」
その表情のままリィカに聞かれて、訳が分からないながら、頷く。
「ああ、平気だ」
「じゃあ、ゆっくりでいいから戻ってきて。わたしは先にユーリの所に行ってる」
「………は?」
言うなり、リィカが身を翻して駆け出す。
「オレも先行くね」
暁斗も一声掛けて駆け出した。
「……何があったんだ?」
残ったアレクに質問する。
答えるアレクの表情も暗い。
「ユーリがな、リィカを庇ってキリムの炎の攻撃をまともに受けたんだ」
「――なっ!?」
その内容にバルが驚愕し、走り出し、アレクもすぐ後を追った。
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