上 下
239 / 619
第八章 世界樹ユグドラシル

VSキリム⑥

しおりを挟む
『途中まではいけるかと思っておったが、やはりそう上手くはいかぬか』

バナスパティは一行の戦いを見ていた。

正直言えば、再生する首の攻略をあっさり見つけた事には驚いた。あれには苦労させられた。

が、攻略法を知ったところで、火の具現化だけはできない自分ではどうする事もできなかっただろう。


ユグドラシルの燃えさかっていた火は、消し終わった。
いっそ、戦いに参戦しようかと思ったバナスパティだが、現れた魔族の男を見て考えを変える。

幸い、魔族の男はユグドラシルには目を向けなかった。
ただ、その代わりに一行の一人がその男と戦う羽目に陥っている。

だが、他にも敵が来るかもしれないと思えば、ユグドラシルの守りから動くことはできなかった。


※ ※ ※


アレクと暁斗は、キリムの首との追いかけっこ状態になっていた。

追い掛けてくる首もあるが、時々後退する首もある。
後退して何を狙っているかなど、考えずとも分かる。

また首が復活されると面倒だ。
そのため、向こうが後退すれば、それを追い掛けて剣を振るう。

とはいっても、無理はしない。
復活されるのを阻止できれば、十分だ。

「アレク! 暁斗!」

名前を呼ばれる。
振り向く余裕はないが、リィカが来たのだと分かった。

「――お前は大丈夫なのか」

振り向かず、キリムを見たまま、アレクが問いかける。
もしリィカを見ていれば、その目が真っ赤になっていて、泣いていた事が分かっただろう。

「大丈夫だよ。……ダメなんて言ってられない」

リィカの後半の言葉は小声で、アレクと暁斗には届かなかった。

「…………」

暁斗は無言だが、心配そうな顔をしている。

アレクは腹をくくった。
ユーリの治療は、泰基に任せる。
バルは、魔族と戦っている。結界は維持されたままだ。

だから、もう三人でキリムを倒すしかない。

「リィカ、魔力はまだ残っているのか?」
「うん。まだいっぱいある」

その答えが嘘ではないことを祈りつつ、暁斗にも声を掛ける。

「アキト、俺たち三人で倒すぞ。戦えるな?」

今さらそんな事を聞いたのは、暁斗の顔色が悪かった原因に気付いたからだ。
暁斗はしっかり頷いた。

「平気。……ここで戦えないなんて言ったら、父さんに聖剣取られちゃう」

アレクは一瞬意味を考えて、すぐに笑った。
モルタナでカークスと戦っていた時、動けなくなった暁斗に泰基が言っていた言葉だ。

「よし、やるぞ」

宣言して、アレクは一瞬集中する。

「《火の付与フレイム・エンチャント》!」

発動した。
ほとんど切れかかっていたエンチャントをかけ直す。

暁斗も同じく魔法を唱えた。

そして、二人同時にキリムに斬りかかる。
時間稼ぎではなく、倒すために。


※ ※ ※


「――どうする、このままじゃ……」

泰基が思わず口に出る。
全快オールヒール》の反応が薄い。全力で魔力を込めて発動させているが、治っている感じがない。

(防御の魔道具があったら、少しはマシだったんだろうか)

言ったところでしょうがないことを、考えてしまう。

泰基が作った防御の魔道具、ユーリとリィカは身に付けていない。

前衛はあった方が良いだろう、と考えて作ったが、後衛にだって必要ないはずがない。
特に魔族と一対一で戦えば、前衛も後衛もないのだから。

キリムを倒したらすぐに作ろうと決めて、その前に回復の見込みのないユーリに集中する。

(――もっと強い回復を)

心からそう願う。

「――――!」

その瞬間、泰基は目を見開く。
頭に浮かんだ魔法の名前。この世界に来て、聞いた事のない魔法の名前。

「もしかして、混成魔法……?」

悩む余裕はなかった。
頭に浮かんだ魔法を唱えた。

「《復活リジェネレーション》」

全快オールヒール》よりも、強く輝きが増す。

光魔法だけではない。水の回復魔法も発動しているのが分かる。
光と水の混成魔法だ。



リィカがポンポン混成魔法を使い、ユーリも使った。
混成魔法の一番の謎だと思ったのが、実は混成魔法の名前だ。

熱湯アクア・カリエンテ》や《水蒸気爆発スチームバースト》は、過去に使った人がいるという話だから、さほど疑問には思わなかった。

だが、それ以降の混成魔法の名前はどうしているのか。その場で適当に考えているのか。

そう思って二人に聞いてみたら、「頭に思い浮かぶ」のだと言われた。
こんな感じの魔法を使いたい、と思ったら、その魔法の名前が頭に浮かぶのだと。


『混成魔法って自分で考えたオリジナルの魔法ができる、なんて言われてたけど、本当にそうなのか疑問』

『同感です。本当にオリジナルなら、頭に浮かぶ魔法名は一体何なんだ、と思いますよね』

リィカの疑問にユーリも頷く。
二人の意見は一致していた。

『多分、混成魔法も神から与えられた魔法なんだと思う』

『通常の魔法と違って、使える条件を満たした人にだけ、その魔法の存在が明かされるんでしょうね』



そんなやり取りを泰基は思い出す。

自分が使ってみて分かったが、確かに頭に魔法名が思い浮かぶ感じ、人間業とは思えない。

それにしても、光と水の組み合わせなど、そんな適性を持つ人間などいないはずなのに、それで混成魔法が発動したことに驚く。

もしかしたら、珍しいだけで全くいないわけではないのかもしれない。


――ユーリは、見て取れるくらいに、回復し始めていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ
ファンタジー
悲運の王女アミレス・ヘル・フォーロイトは、必ず十五歳で死ぬ。 目が覚めたら──私は、そんなバッドエンド確定の、乙女ゲームの悪役王女に転生していた。 ヒロインを全ルートで殺そうとするわ、身内に捨てられ殺されるわ、何故かほぼ全ルートで死ぬわ、な殺伐としたキャラクター。 それがアミレスなのだが……もちろん私は死にたくないし、絶対に幸せになりたい。 だからやってみせるぞ、バッドエンド回避!死亡フラグを全て叩き折って、ハッピーエンドを迎えるんだ! ……ところで、皆の様子が明らかに変な気がするんだけど。気のせいだよね……? 登場人物もれなく全員倫理観が欠如してしまった世界で、無自覚に色んな人達の人生を狂わせた結果、老若男女人外問わず異常に愛されるようになった転生王女様が、自分なりの幸せを見つけるまでの物語です。 〇主人公が異常なので、恋愛面はとにかくま〜ったり進みます。 〇基本的には隔日更新です。 〇なろう・カクヨム・ベリーズカフェでも連載中です。 〇略称は「しぬしあ」です。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る

犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」  父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。  そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。  ヘレナは17歳。  底辺まで没落した子爵令嬢。  諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。  しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。 「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」    今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。 ***************************************** ** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』     で長い間お届けし愛着もありますが、    2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 ** *****************************************  ※ ゆるゆるなファンタジーです。    ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。  ※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。  なろう他各サイトにも掲載中。 『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓ http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...