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第八章 世界樹ユグドラシル
VSキリム⑥
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『途中まではいけるかと思っておったが、やはりそう上手くはいかぬか』
バナスパティは一行の戦いを見ていた。
正直言えば、再生する首の攻略をあっさり見つけた事には驚いた。あれには苦労させられた。
が、攻略法を知ったところで、火の具現化だけはできない自分ではどうする事もできなかっただろう。
ユグドラシルの燃えさかっていた火は、消し終わった。
いっそ、戦いに参戦しようかと思ったバナスパティだが、現れた魔族の男を見て考えを変える。
幸い、魔族の男はユグドラシルには目を向けなかった。
ただ、その代わりに一行の一人がその男と戦う羽目に陥っている。
だが、他にも敵が来るかもしれないと思えば、ユグドラシルの守りから動くことはできなかった。
※ ※ ※
アレクと暁斗は、キリムの首との追いかけっこ状態になっていた。
追い掛けてくる首もあるが、時々後退する首もある。
後退して何を狙っているかなど、考えずとも分かる。
また首が復活されると面倒だ。
そのため、向こうが後退すれば、それを追い掛けて剣を振るう。
とはいっても、無理はしない。
復活されるのを阻止できれば、十分だ。
「アレク! 暁斗!」
名前を呼ばれる。
振り向く余裕はないが、リィカが来たのだと分かった。
「――お前は大丈夫なのか」
振り向かず、キリムを見たまま、アレクが問いかける。
もしリィカを見ていれば、その目が真っ赤になっていて、泣いていた事が分かっただろう。
「大丈夫だよ。……ダメなんて言ってられない」
リィカの後半の言葉は小声で、アレクと暁斗には届かなかった。
「…………」
暁斗は無言だが、心配そうな顔をしている。
アレクは腹をくくった。
ユーリの治療は、泰基に任せる。
バルは、魔族と戦っている。結界は維持されたままだ。
だから、もう三人でキリムを倒すしかない。
「リィカ、魔力はまだ残っているのか?」
「うん。まだいっぱいある」
その答えが嘘ではないことを祈りつつ、暁斗にも声を掛ける。
「アキト、俺たち三人で倒すぞ。戦えるな?」
今さらそんな事を聞いたのは、暁斗の顔色が悪かった原因に気付いたからだ。
暁斗はしっかり頷いた。
「平気。……ここで戦えないなんて言ったら、父さんに聖剣取られちゃう」
アレクは一瞬意味を考えて、すぐに笑った。
モルタナでカークスと戦っていた時、動けなくなった暁斗に泰基が言っていた言葉だ。
「よし、やるぞ」
宣言して、アレクは一瞬集中する。
「《火の付与》!」
発動した。
ほとんど切れかかっていたエンチャントをかけ直す。
暁斗も同じく魔法を唱えた。
そして、二人同時にキリムに斬りかかる。
時間稼ぎではなく、倒すために。
※ ※ ※
「――どうする、このままじゃ……」
泰基が思わず口に出る。
《全快》の反応が薄い。全力で魔力を込めて発動させているが、治っている感じがない。
(防御の魔道具があったら、少しはマシだったんだろうか)
言ったところでしょうがないことを、考えてしまう。
泰基が作った防御の魔道具、ユーリとリィカは身に付けていない。
前衛はあった方が良いだろう、と考えて作ったが、後衛にだって必要ないはずがない。
特に魔族と一対一で戦えば、前衛も後衛もないのだから。
キリムを倒したらすぐに作ろうと決めて、その前に回復の見込みのないユーリに集中する。
(――もっと強い回復を)
心からそう願う。
「――――!」
その瞬間、泰基は目を見開く。
頭に浮かんだ魔法の名前。この世界に来て、聞いた事のない魔法の名前。
「もしかして、混成魔法……?」
悩む余裕はなかった。
頭に浮かんだ魔法を唱えた。
「《復活》」
《全快》よりも、強く輝きが増す。
光魔法だけではない。水の回復魔法も発動しているのが分かる。
光と水の混成魔法だ。
リィカがポンポン混成魔法を使い、ユーリも使った。
混成魔法の一番の謎だと思ったのが、実は混成魔法の名前だ。
《熱湯》や《水蒸気爆発》は、過去に使った人がいるという話だから、さほど疑問には思わなかった。
だが、それ以降の混成魔法の名前はどうしているのか。その場で適当に考えているのか。
そう思って二人に聞いてみたら、「頭に思い浮かぶ」のだと言われた。
こんな感じの魔法を使いたい、と思ったら、その魔法の名前が頭に浮かぶのだと。
『混成魔法って自分で考えたオリジナルの魔法ができる、なんて言われてたけど、本当にそうなのか疑問』
『同感です。本当にオリジナルなら、頭に浮かぶ魔法名は一体何なんだ、と思いますよね』
リィカの疑問にユーリも頷く。
二人の意見は一致していた。
『多分、混成魔法も神から与えられた魔法なんだと思う』
『通常の魔法と違って、使える条件を満たした人にだけ、その魔法の存在が明かされるんでしょうね』
そんなやり取りを泰基は思い出す。
自分が使ってみて分かったが、確かに頭に魔法名が思い浮かぶ感じ、人間業とは思えない。
それにしても、光と水の組み合わせなど、そんな適性を持つ人間などいないはずなのに、それで混成魔法が発動したことに驚く。
もしかしたら、珍しいだけで全くいないわけではないのかもしれない。
――ユーリは、見て取れるくらいに、回復し始めていた。
バナスパティは一行の戦いを見ていた。
正直言えば、再生する首の攻略をあっさり見つけた事には驚いた。あれには苦労させられた。
が、攻略法を知ったところで、火の具現化だけはできない自分ではどうする事もできなかっただろう。
ユグドラシルの燃えさかっていた火は、消し終わった。
いっそ、戦いに参戦しようかと思ったバナスパティだが、現れた魔族の男を見て考えを変える。
幸い、魔族の男はユグドラシルには目を向けなかった。
ただ、その代わりに一行の一人がその男と戦う羽目に陥っている。
だが、他にも敵が来るかもしれないと思えば、ユグドラシルの守りから動くことはできなかった。
※ ※ ※
アレクと暁斗は、キリムの首との追いかけっこ状態になっていた。
追い掛けてくる首もあるが、時々後退する首もある。
後退して何を狙っているかなど、考えずとも分かる。
また首が復活されると面倒だ。
そのため、向こうが後退すれば、それを追い掛けて剣を振るう。
とはいっても、無理はしない。
復活されるのを阻止できれば、十分だ。
「アレク! 暁斗!」
名前を呼ばれる。
振り向く余裕はないが、リィカが来たのだと分かった。
「――お前は大丈夫なのか」
振り向かず、キリムを見たまま、アレクが問いかける。
もしリィカを見ていれば、その目が真っ赤になっていて、泣いていた事が分かっただろう。
「大丈夫だよ。……ダメなんて言ってられない」
リィカの後半の言葉は小声で、アレクと暁斗には届かなかった。
「…………」
暁斗は無言だが、心配そうな顔をしている。
アレクは腹をくくった。
ユーリの治療は、泰基に任せる。
バルは、魔族と戦っている。結界は維持されたままだ。
だから、もう三人でキリムを倒すしかない。
「リィカ、魔力はまだ残っているのか?」
「うん。まだいっぱいある」
その答えが嘘ではないことを祈りつつ、暁斗にも声を掛ける。
「アキト、俺たち三人で倒すぞ。戦えるな?」
今さらそんな事を聞いたのは、暁斗の顔色が悪かった原因に気付いたからだ。
暁斗はしっかり頷いた。
「平気。……ここで戦えないなんて言ったら、父さんに聖剣取られちゃう」
アレクは一瞬意味を考えて、すぐに笑った。
モルタナでカークスと戦っていた時、動けなくなった暁斗に泰基が言っていた言葉だ。
「よし、やるぞ」
宣言して、アレクは一瞬集中する。
「《火の付与》!」
発動した。
ほとんど切れかかっていたエンチャントをかけ直す。
暁斗も同じく魔法を唱えた。
そして、二人同時にキリムに斬りかかる。
時間稼ぎではなく、倒すために。
※ ※ ※
「――どうする、このままじゃ……」
泰基が思わず口に出る。
《全快》の反応が薄い。全力で魔力を込めて発動させているが、治っている感じがない。
(防御の魔道具があったら、少しはマシだったんだろうか)
言ったところでしょうがないことを、考えてしまう。
泰基が作った防御の魔道具、ユーリとリィカは身に付けていない。
前衛はあった方が良いだろう、と考えて作ったが、後衛にだって必要ないはずがない。
特に魔族と一対一で戦えば、前衛も後衛もないのだから。
キリムを倒したらすぐに作ろうと決めて、その前に回復の見込みのないユーリに集中する。
(――もっと強い回復を)
心からそう願う。
「――――!」
その瞬間、泰基は目を見開く。
頭に浮かんだ魔法の名前。この世界に来て、聞いた事のない魔法の名前。
「もしかして、混成魔法……?」
悩む余裕はなかった。
頭に浮かんだ魔法を唱えた。
「《復活》」
《全快》よりも、強く輝きが増す。
光魔法だけではない。水の回復魔法も発動しているのが分かる。
光と水の混成魔法だ。
リィカがポンポン混成魔法を使い、ユーリも使った。
混成魔法の一番の謎だと思ったのが、実は混成魔法の名前だ。
《熱湯》や《水蒸気爆発》は、過去に使った人がいるという話だから、さほど疑問には思わなかった。
だが、それ以降の混成魔法の名前はどうしているのか。その場で適当に考えているのか。
そう思って二人に聞いてみたら、「頭に思い浮かぶ」のだと言われた。
こんな感じの魔法を使いたい、と思ったら、その魔法の名前が頭に浮かぶのだと。
『混成魔法って自分で考えたオリジナルの魔法ができる、なんて言われてたけど、本当にそうなのか疑問』
『同感です。本当にオリジナルなら、頭に浮かぶ魔法名は一体何なんだ、と思いますよね』
リィカの疑問にユーリも頷く。
二人の意見は一致していた。
『多分、混成魔法も神から与えられた魔法なんだと思う』
『通常の魔法と違って、使える条件を満たした人にだけ、その魔法の存在が明かされるんでしょうね』
そんなやり取りを泰基は思い出す。
自分が使ってみて分かったが、確かに頭に魔法名が思い浮かぶ感じ、人間業とは思えない。
それにしても、光と水の組み合わせなど、そんな適性を持つ人間などいないはずなのに、それで混成魔法が発動したことに驚く。
もしかしたら、珍しいだけで全くいないわけではないのかもしれない。
――ユーリは、見て取れるくらいに、回復し始めていた。
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