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第八章 世界樹ユグドラシル

ユグドラシルの元へ

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「うわぁ、すごくキレイだね」

暁斗がその光景を見て感嘆の声を上げた。


果物の食事を済ませ、いよいよユグドラシルのある小島へ、魔物がいる所へと出発することになった。

小島の端まで歩いてきたのだが、見えた海に思わず暁斗が声を上げたのだ。
泰基やリィカも、目を輝かせている。

アレクとバル、ユーリは、海を見たこと自体が初めてだ。しばし言葉を失っていた。


ユグドラシルのある小島周辺は、十程度の小島があるらしい。

中には、島と言うより岩の固まりの様なものもあるらしいが、一行が飛ばされてきたこの島は、その中でも大きい島らしかった。


『ユグドラシルのある島は、あちらだ』

器用に前足で指さすが、教えてもらわなくても分かる。
そちらに巨大な樹が見える。

ちなみに、ククノチの木がある大陸、つまりこれまで一行が旅をしてきた大陸は、東側にあるらしい。

アレクとバル、暁斗の気配を読める三人が意識を集中させて、やがて顔を引き攣らせた。

「……メチャメチャ強そう」
「どうすんだ、これ……?」
「………………」

無言のアレクは、正直頼みを引き受けたことを後悔したくなるくらいに、相手の強さを感じていた。

「あの、その島までどうやって行くんですか?」

樹が巨大すぎて分かりにくいが、島までは結構距離がある。
リィカの質問は、ある意味もっともな疑問だ。

バナスパティは頷く。

「案ずるな。我の背中に乗るが良い」

言うが否や、バナスパティの体が輝く。

輝きが収まると、その体が長く伸びていた。確かにこれなら六人無理なく乗れるが、先ほど口の中から果物を出したことといい、どうなっているのか。

「オレ、一番前に乗る!」

暁斗が宣言し、伏せたバナスパティの背中にサッサと乗ってしまう。
それを見て、アレクは指示を出した。

「暁斗の後ろにユーリ乗ってくれ。リィカ、俺、タイキさん、バルの順だ」

指示通りに背中に順番に座ると、バナスパティが立ち上がった。

『しっかり掴まっておれ。行くぞ』

そのまま下に、海に向かって飛び降りる。

悲鳴が上がる背中を気にする事なく、バナスパティは海に着地すると、そのまま水面を駆け出した。


※ ※ ※


「気持ちいい! ねえ、もっとスピード出してよ!!」

先頭にいる暁斗が楽しそうにバナスパティに声を掛けた。

『我は構わぬが、お主の後ろにいる連中が悲鳴をあげているようだが』

「絶対にやめてください!」

「やだやだやだ」

ユーリの絶叫と、リィカがやだをひたすら繰り返しているのを聞いて、暁斗もそれ以上は口を噤む。もう一人、問題なのを思い出した。

(――父さん、大丈夫かなぁ。絶叫系、全然ダメだったけど)

小さい頃一緒に行った遊園地での父を思い出す。自分は大好きだったが、乗り終わった後の父はいつもフラフラしていて、しまいには一人で行ってこい、と言い渡された。

後ろを振り向いて、父の様子を見てみたかったが、見えないだろう事に気付いて、そのまま前を向いていた。

息子に心配されている事を知らない泰基は、悲鳴こそ上げてはいないが、バナスパティの毛にがっつり握りしめて、目を瞑って耐えていた。



アレクは、後ろからリィカのお腹に手を回していた。
が、どうやらそれすら気付かないくらいに、リィカは怖がっているらしい。

やだ、を繰り返し続けているリィカを見て、「かわいいな」などと思っていたりする。
見えるうなじに、唇を寄せた。



(緊張感ねぇな)

一番後ろに座っているバルは、そんな感想を抱く。

楽しんでいるらしい暁斗。

きちんと見えるわけではないが、おそらく前にいるリィカにちょっかいをかけているらしいアレク。

気持ちが通じた途端に、またそれか、と思う。時と場所をもう少し選べ、と心の底から突っ込みたい。

バルは、目を細めた。
巨大な樹の、根元の方まで見えてきている。

巨大な力の気配が、近づいていた。


※ ※ ※


「ギィヤアアアアアアアァァァァァ!!」

魔物の声が辺りに響く。
あちらも近づく気配に気付いたのかもしれない。

こちらを睥睨するように、小島の端に魔物がいた。
七つの首が、一気に炎を吐く。


『跳ぶぞ! 落ちるなよ』

言うなり、バナスパティは前方に思い切り跳躍した。

「うわぁ!?」
「きゃあああああ!」

背中から悲鳴が聞こえるが、誰も落ちていないので、バナスパティはそれでよしとする。

炎を躱すのと同時に、島への着地に成功した。


※ ※ ※


「まさか、勇者一行がこちらにいるとは」

白い髪、白い肌、長く尖った耳を持つ、立派な体躯をした男は、勇者一行が島に降り立つのを見ていた。

「……カストル様、判断を仰ぐ」

耳のイヤリングに指を触れて、遠い魔国へ連絡を取った。
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