231 / 619
第八章 世界樹ユグドラシル
ユグドラシルの元へ
しおりを挟む
「うわぁ、すごくキレイだね」
暁斗がその光景を見て感嘆の声を上げた。
果物の食事を済ませ、いよいよユグドラシルのある小島へ、魔物がいる所へと出発することになった。
小島の端まで歩いてきたのだが、見えた海に思わず暁斗が声を上げたのだ。
泰基やリィカも、目を輝かせている。
アレクとバル、ユーリは、海を見たこと自体が初めてだ。しばし言葉を失っていた。
ユグドラシルのある小島周辺は、十程度の小島があるらしい。
中には、島と言うより岩の固まりの様なものもあるらしいが、一行が飛ばされてきたこの島は、その中でも大きい島らしかった。
『ユグドラシルのある島は、あちらだ』
器用に前足で指さすが、教えてもらわなくても分かる。
そちらに巨大な樹が見える。
ちなみに、ククノチの木がある大陸、つまりこれまで一行が旅をしてきた大陸は、東側にあるらしい。
アレクとバル、暁斗の気配を読める三人が意識を集中させて、やがて顔を引き攣らせた。
「……メチャメチャ強そう」
「どうすんだ、これ……?」
「………………」
無言のアレクは、正直頼みを引き受けたことを後悔したくなるくらいに、相手の強さを感じていた。
「あの、その島までどうやって行くんですか?」
樹が巨大すぎて分かりにくいが、島までは結構距離がある。
リィカの質問は、ある意味もっともな疑問だ。
バナスパティは頷く。
「案ずるな。我の背中に乗るが良い」
言うが否や、バナスパティの体が輝く。
輝きが収まると、その体が長く伸びていた。確かにこれなら六人無理なく乗れるが、先ほど口の中から果物を出したことといい、どうなっているのか。
「オレ、一番前に乗る!」
暁斗が宣言し、伏せたバナスパティの背中にサッサと乗ってしまう。
それを見て、アレクは指示を出した。
「暁斗の後ろにユーリ乗ってくれ。リィカ、俺、タイキさん、バルの順だ」
指示通りに背中に順番に座ると、バナスパティが立ち上がった。
『しっかり掴まっておれ。行くぞ』
そのまま下に、海に向かって飛び降りる。
悲鳴が上がる背中を気にする事なく、バナスパティは海に着地すると、そのまま水面を駆け出した。
※ ※ ※
「気持ちいい! ねえ、もっとスピード出してよ!!」
先頭にいる暁斗が楽しそうにバナスパティに声を掛けた。
『我は構わぬが、お主の後ろにいる連中が悲鳴をあげているようだが』
「絶対にやめてください!」
「やだやだやだ」
ユーリの絶叫と、リィカがやだをひたすら繰り返しているのを聞いて、暁斗もそれ以上は口を噤む。もう一人、問題なのを思い出した。
(――父さん、大丈夫かなぁ。絶叫系、全然ダメだったけど)
小さい頃一緒に行った遊園地での父を思い出す。自分は大好きだったが、乗り終わった後の父はいつもフラフラしていて、しまいには一人で行ってこい、と言い渡された。
後ろを振り向いて、父の様子を見てみたかったが、見えないだろう事に気付いて、そのまま前を向いていた。
息子に心配されている事を知らない泰基は、悲鳴こそ上げてはいないが、バナスパティの毛にがっつり握りしめて、目を瞑って耐えていた。
アレクは、後ろからリィカのお腹に手を回していた。
が、どうやらそれすら気付かないくらいに、リィカは怖がっているらしい。
やだ、を繰り返し続けているリィカを見て、「かわいいな」などと思っていたりする。
見えるうなじに、唇を寄せた。
(緊張感ねぇな)
一番後ろに座っているバルは、そんな感想を抱く。
楽しんでいるらしい暁斗。
きちんと見えるわけではないが、おそらく前にいるリィカにちょっかいをかけているらしいアレク。
気持ちが通じた途端に、またそれか、と思う。時と場所をもう少し選べ、と心の底から突っ込みたい。
バルは、目を細めた。
巨大な樹の、根元の方まで見えてきている。
巨大な力の気配が、近づいていた。
※ ※ ※
「ギィヤアアアアアアアァァァァァ!!」
魔物の声が辺りに響く。
あちらも近づく気配に気付いたのかもしれない。
こちらを睥睨するように、小島の端に魔物がいた。
七つの首が、一気に炎を吐く。
『跳ぶぞ! 落ちるなよ』
言うなり、バナスパティは前方に思い切り跳躍した。
「うわぁ!?」
「きゃあああああ!」
背中から悲鳴が聞こえるが、誰も落ちていないので、バナスパティはそれでよしとする。
炎を躱すのと同時に、島への着地に成功した。
※ ※ ※
「まさか、勇者一行がこちらにいるとは」
白い髪、白い肌、長く尖った耳を持つ、立派な体躯をした男は、勇者一行が島に降り立つのを見ていた。
「……カストル様、判断を仰ぐ」
耳のイヤリングに指を触れて、遠い魔国へ連絡を取った。
暁斗がその光景を見て感嘆の声を上げた。
果物の食事を済ませ、いよいよユグドラシルのある小島へ、魔物がいる所へと出発することになった。
小島の端まで歩いてきたのだが、見えた海に思わず暁斗が声を上げたのだ。
泰基やリィカも、目を輝かせている。
アレクとバル、ユーリは、海を見たこと自体が初めてだ。しばし言葉を失っていた。
ユグドラシルのある小島周辺は、十程度の小島があるらしい。
中には、島と言うより岩の固まりの様なものもあるらしいが、一行が飛ばされてきたこの島は、その中でも大きい島らしかった。
『ユグドラシルのある島は、あちらだ』
器用に前足で指さすが、教えてもらわなくても分かる。
そちらに巨大な樹が見える。
ちなみに、ククノチの木がある大陸、つまりこれまで一行が旅をしてきた大陸は、東側にあるらしい。
アレクとバル、暁斗の気配を読める三人が意識を集中させて、やがて顔を引き攣らせた。
「……メチャメチャ強そう」
「どうすんだ、これ……?」
「………………」
無言のアレクは、正直頼みを引き受けたことを後悔したくなるくらいに、相手の強さを感じていた。
「あの、その島までどうやって行くんですか?」
樹が巨大すぎて分かりにくいが、島までは結構距離がある。
リィカの質問は、ある意味もっともな疑問だ。
バナスパティは頷く。
「案ずるな。我の背中に乗るが良い」
言うが否や、バナスパティの体が輝く。
輝きが収まると、その体が長く伸びていた。確かにこれなら六人無理なく乗れるが、先ほど口の中から果物を出したことといい、どうなっているのか。
「オレ、一番前に乗る!」
暁斗が宣言し、伏せたバナスパティの背中にサッサと乗ってしまう。
それを見て、アレクは指示を出した。
「暁斗の後ろにユーリ乗ってくれ。リィカ、俺、タイキさん、バルの順だ」
指示通りに背中に順番に座ると、バナスパティが立ち上がった。
『しっかり掴まっておれ。行くぞ』
そのまま下に、海に向かって飛び降りる。
悲鳴が上がる背中を気にする事なく、バナスパティは海に着地すると、そのまま水面を駆け出した。
※ ※ ※
「気持ちいい! ねえ、もっとスピード出してよ!!」
先頭にいる暁斗が楽しそうにバナスパティに声を掛けた。
『我は構わぬが、お主の後ろにいる連中が悲鳴をあげているようだが』
「絶対にやめてください!」
「やだやだやだ」
ユーリの絶叫と、リィカがやだをひたすら繰り返しているのを聞いて、暁斗もそれ以上は口を噤む。もう一人、問題なのを思い出した。
(――父さん、大丈夫かなぁ。絶叫系、全然ダメだったけど)
小さい頃一緒に行った遊園地での父を思い出す。自分は大好きだったが、乗り終わった後の父はいつもフラフラしていて、しまいには一人で行ってこい、と言い渡された。
後ろを振り向いて、父の様子を見てみたかったが、見えないだろう事に気付いて、そのまま前を向いていた。
息子に心配されている事を知らない泰基は、悲鳴こそ上げてはいないが、バナスパティの毛にがっつり握りしめて、目を瞑って耐えていた。
アレクは、後ろからリィカのお腹に手を回していた。
が、どうやらそれすら気付かないくらいに、リィカは怖がっているらしい。
やだ、を繰り返し続けているリィカを見て、「かわいいな」などと思っていたりする。
見えるうなじに、唇を寄せた。
(緊張感ねぇな)
一番後ろに座っているバルは、そんな感想を抱く。
楽しんでいるらしい暁斗。
きちんと見えるわけではないが、おそらく前にいるリィカにちょっかいをかけているらしいアレク。
気持ちが通じた途端に、またそれか、と思う。時と場所をもう少し選べ、と心の底から突っ込みたい。
バルは、目を細めた。
巨大な樹の、根元の方まで見えてきている。
巨大な力の気配が、近づいていた。
※ ※ ※
「ギィヤアアアアアアアァァァァァ!!」
魔物の声が辺りに響く。
あちらも近づく気配に気付いたのかもしれない。
こちらを睥睨するように、小島の端に魔物がいた。
七つの首が、一気に炎を吐く。
『跳ぶぞ! 落ちるなよ』
言うなり、バナスパティは前方に思い切り跳躍した。
「うわぁ!?」
「きゃあああああ!」
背中から悲鳴が聞こえるが、誰も落ちていないので、バナスパティはそれでよしとする。
炎を躱すのと同時に、島への着地に成功した。
※ ※ ※
「まさか、勇者一行がこちらにいるとは」
白い髪、白い肌、長く尖った耳を持つ、立派な体躯をした男は、勇者一行が島に降り立つのを見ていた。
「……カストル様、判断を仰ぐ」
耳のイヤリングに指を触れて、遠い魔国へ連絡を取った。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
クズな恩恵を賜った少年は男爵家を追放されました、 恩恵の名は【廃品回収】ごみ集めか?呪いだろうこれ、そう思った時期がありました、
shimashima
ファンタジー
成人に達した少年とその家族、許嫁のジルとその両親とともに参加した恩恵授与式、そこで教会からたまわった恩恵は前代未聞の恩恵、誰が見たって屑 文字通りの屑な恩恵 その恩恵は【廃品回収】 ごみ集めですよね これ・・ それを知った両親は少年を教会に置いてけぼりする、やむを得ず半日以上かけて徒歩で男爵家にたどり着くが、門は固く閉ざされたまま、途方に暮れる少年だったがやがて父が現れ
「勘当だ!出て失せろ」と言われ、わずかな手荷物と粗末な衣装を渡され監視付きで国を追放される、
やがて隣国へと流れついた少年を待ち受けるのは苦難の道とおもいますよね、だがしかし
神様恨んでごめんなさいでした、
※内容は随時修正、加筆、添削しています、誤字、脱字、日本語おかしい等、ご教示いただけると嬉しいです、
健康を害して二年ほど中断していましたが再開しました、少しずつ書き足して行きます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる