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第七章 月空の下で

アレクVSククノチ

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ククノチが、アレクに飛びかかる。
長く伸びた爪で、アレクを切り裂こうと手を振りかざす。

――キン!

リィカを抱き寄せたまま器用に剣を抜いたアレクが、その爪を弾き飛ばした。

ククノチが距離を取る。
と思ったら、今度は木の枝が四方八方から攻撃してきた。

「――ちっ!」

アレクは、思わず舌打ちをしていた。
剣を振るうが、全部は防ぎきれない。

「アレク……!」

リィカの悲鳴が聞こえる。あちこち痛い。
幸いなのが、リィカには一切攻撃が行かないことだった。



「アレク、離して。今のままじゃ不利だよ」

それは分かっている。腕を捕らえられたままのリィカは、この場から動けない。

だから、そのリィカをこうして抱き寄せているという事は、自分も動けないことを意味する。

「駄目だ。離せば、あいつに奪われる」

それに根拠はない。しかし確信していた。手を離せばククノチに奪われる。離すわけにはいかなかった。



厄介なことがもう一つ。

こうして向かい合っているというのに、ククノチの気配が分からない。
少しでも目を離せば、あっという間にその姿を見失ってしまうだろう。

「――何者なんだ、あいつは」

アレクの父であるアルカトル国王の持つ諜報機関『影』。そこの人間も、全く気配を感じないが、ククノチはそれとは違う感じがする。

気配を感じないのではなく、周りに溶け込んでいる感じ。それが正確な表現のような気がした。



「【火鳥炎斬かうえんざん】!」

剣技を発動させる。火の、横薙ぎに切り払う剣技。

普段は風の剣技を使う事の方が多いが、相手が木であれば、炎の方が有効なはずだった。

だが、ククノチは避けようとすらしない。

「――――――っ!」

アレクは目を見開いた。
剣技が命中したはずなのに、全くダメージがない。

「――あんた、魔族なのか?」

剣技が効かない相手であるなら、その可能性が高い。容姿が違うので、その可能性は排除していたが。

「笑止! 言ったであろう。我は神により生み出された神の木。ヒトの編み出した技など、効きはせぬ!」

意味が分かるような分からない言葉だ。
魔力付与を施して、もう一度発動させる。

「【火鳥炎斬かうえんざん】!」

だが、結果は変わらない。

「小細工をしたところで、ヒトの編み出した技には変わらぬ」

ククノチは、嘲るように笑った。



(――厄介だな)

剣技が、人間の編み出した技が通じないなら、後は魔法しかない。

魔法は神から与えられた力だ。その理屈でいくなら、通じるはず。

リィカが魔法を使えるなら何も問題なかったが、今は無理だ。
となると、自分がやるしかないのだが。

(――詠唱、させてもらえるか?)

魔法といっても、普段自分が使っている魔法はエンチャントだけ。ククノチと距離が開いているため、剣に魔法を掛けるエンチャントは意味がない。

普通の魔法も使えなくはないが、ほとんど使っていないので、正直な所自信がない。というか、詠唱を覚えているかどうかからして怪しい。

だが、やるしかない。

「『火よ。我が手に宿り』……」

何とか思い出しつつ詠唱を始めた所で、ククノチが飛びかかってきて、詠唱が中断される。

剣で弾けば、またすぐ距離を開けられる。

また一から詠唱のやり直し。
この状況で魔法を発動するのは無理だと、判断せざるを得なかった。
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