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第七章 月空の下で
リィカとアレク②
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そっとキスして離れたアレクに、リィカは首を傾げた。
「……アレク?」
「頼まれなくても、側にいるつもりだった。だから、今のキス分、俺が得したな」
そう口にして笑いながら、アレクは気分がすっきりしているのを感じる。
リィカに好きだと言ってもらえて、どうしようもなく嬉しい。
現金なものだ、とは思うが、しょうがない。
とはいっても、ここから口説き落とさなければならなかった。
リィカは、自分に諦めろと言った。そして、リィカ自身も諦めると言ったのだ。
でも、あんな事を言われて、素直に諦める奴なんかいない。
だから。
「――好きだ、リィカ」
その想いをぶつける。
「今だけなんて無理だ。俺がお前を諦めることはないし、お前が諦めることも許さない」
そこで一回言葉を切る。
次の言葉を口にするのは、勇気が必要だった。
「――今度からは絶対に守る。だから、これからもずっと俺と一緒にいろ」
今まで守れなかった。傷つけてしまった。自分のことを優先させてしまっていた。
でも、自分の命に代えても守りたい。
その気持ちは確かだった。
リィカはポカンと口を開けて、ややあって首をふるふる横に振る。
「……それは……できないよ」
「なぜだ?」
「だって……」
それしか言わないリィカの涙がこぼれる。
「強情だよな、お前は。本当に」
このままでは、頷くことはないだろう。
でも、普段だったら隠してしまう気持ちを素直に話してくれた今は、チャンスのはずだった。
「約束しろ、リィカ。これからずっと、俺と一緒にいると約束しろ。そうしたら、今も側にいてやるから」
「……約束しなかったら、どうするの?」
「このまま帰る」
「……なにそれ、ひどい。キスまでしといて。頼まなくても、側にいてくれるんじゃ、なかったの?」
だが、その言葉の内容とは裏腹に、リィカは泣き笑いしていた。
そんなリィカを見て、アレクも笑う。
自分の発言は、脅しと変わらない。それでも、リィカの強情さを崩すには、このくらい強引にいった方がいいと思った。そして、それは正解だった。
「分かった。約束する。……これからも、わたしと一緒に、いて下さい」
「ああ」
そして、もう一度キスをした。
リィカの涙は、止まっていた。
※ ※ ※
アレクは、照れくささをごまかすように、リィカを捕らえている木を見る。
結局、この木が何なのかは分からないままだった。
「リィカ、魔力はあとどのくらいだ?」
その質問は、アレクからすれば当然の質問だった。
魔力がなくなれば、リィカは解放される。そういう話だったからだ。
けれど、リィカの表情を見て、アレクは目を細めた。
「答えろ、リィカ」
聞かれたくないことを聞かれた、隠そうとするような表情。
リィカがそんな顔をするときは、碌なことにならない。
「……夕方ころには、とっくに空になってた。体力も全部うばわれて、魔力もちょっとでも回復するとそれも取られて、ぜんぜん力がはいんない」
素直に答えてくれたリィカだが、その内容には顔をしかめる。
そういえば、ずっと話す言葉にも力がない。
問題は、魔力がなくなったら解放される、という話が、完全に嘘だった事だ。
嘘を言ったのか、あるいはヤズ本人はそれが真実だと思っているのか。
後者だとしたら、このククノチの木は、人をだますことさえ、できるのだろうか。
アレクは剣を抜く。
解放されないなら、力尽くでやるだけだ。
「アレク、なにするの……?」
リィカはギョッとした顔をしている。
「リィカを捕らえている木を切る。それ以外に何がある?」
「……でも、こうげきされたら」
「切るか躱すか、するさ」
剣技を発動するべく構える。魔力付与をしようとすると、流れたのが分かる。
(ずいぶん、成功するようになっているな)
細かい理屈など分かっていない、何となくの感覚でしかないが、どうやればいいかが分かってきている。
――と、視界の端で何かが動いた。
(来たな)
鞭のように攻撃してきた木の枝を躱す。と、その枝がさらに伸びてアレクを突き刺そうとして、さらに躱す。
「うしろ……!」
必死なリィカの声に、後方に視線を送れば、別の木の枝が迫ってきている。
躱すのは無理だ。
仕方なしに、魔力付与した剣技で迎撃する。
魔力付与をしたとしても、剣技は一発限りだ。また魔力付与をしなくてはならない。
見れば、周囲を動く枝に囲まれていた。
「アレク……」
涙が止まっていたはずなのに、聞こえたリィカの声は涙声になっている。
「心配するな」
あくまで枝を見据えながら、リィカに声をかける。
リィカのために、いくらでもどうにでもしてやる。
そう思ったとき、木に異変が起きた。
「……木が……ふるえてる」
そう言うリィカの声も震えていた。
確かに、大本の巨大な幹が振動しているのが分かる。
そしてその振動が大きくなると、メキメキと音がする。
「…………え……?」
「…………な……」
大きく生い茂っていた葉が、伸びていた枝が、リィカの頭上で二つに割れる。
空が見えた。
その空の上には、月が輝いている。
「”赤い月“……!?」
アレクが叫ぶ。
赤く染まった月が、その赤い光が、リィカに降り注いだ。
「……アレク?」
「頼まれなくても、側にいるつもりだった。だから、今のキス分、俺が得したな」
そう口にして笑いながら、アレクは気分がすっきりしているのを感じる。
リィカに好きだと言ってもらえて、どうしようもなく嬉しい。
現金なものだ、とは思うが、しょうがない。
とはいっても、ここから口説き落とさなければならなかった。
リィカは、自分に諦めろと言った。そして、リィカ自身も諦めると言ったのだ。
でも、あんな事を言われて、素直に諦める奴なんかいない。
だから。
「――好きだ、リィカ」
その想いをぶつける。
「今だけなんて無理だ。俺がお前を諦めることはないし、お前が諦めることも許さない」
そこで一回言葉を切る。
次の言葉を口にするのは、勇気が必要だった。
「――今度からは絶対に守る。だから、これからもずっと俺と一緒にいろ」
今まで守れなかった。傷つけてしまった。自分のことを優先させてしまっていた。
でも、自分の命に代えても守りたい。
その気持ちは確かだった。
リィカはポカンと口を開けて、ややあって首をふるふる横に振る。
「……それは……できないよ」
「なぜだ?」
「だって……」
それしか言わないリィカの涙がこぼれる。
「強情だよな、お前は。本当に」
このままでは、頷くことはないだろう。
でも、普段だったら隠してしまう気持ちを素直に話してくれた今は、チャンスのはずだった。
「約束しろ、リィカ。これからずっと、俺と一緒にいると約束しろ。そうしたら、今も側にいてやるから」
「……約束しなかったら、どうするの?」
「このまま帰る」
「……なにそれ、ひどい。キスまでしといて。頼まなくても、側にいてくれるんじゃ、なかったの?」
だが、その言葉の内容とは裏腹に、リィカは泣き笑いしていた。
そんなリィカを見て、アレクも笑う。
自分の発言は、脅しと変わらない。それでも、リィカの強情さを崩すには、このくらい強引にいった方がいいと思った。そして、それは正解だった。
「分かった。約束する。……これからも、わたしと一緒に、いて下さい」
「ああ」
そして、もう一度キスをした。
リィカの涙は、止まっていた。
※ ※ ※
アレクは、照れくささをごまかすように、リィカを捕らえている木を見る。
結局、この木が何なのかは分からないままだった。
「リィカ、魔力はあとどのくらいだ?」
その質問は、アレクからすれば当然の質問だった。
魔力がなくなれば、リィカは解放される。そういう話だったからだ。
けれど、リィカの表情を見て、アレクは目を細めた。
「答えろ、リィカ」
聞かれたくないことを聞かれた、隠そうとするような表情。
リィカがそんな顔をするときは、碌なことにならない。
「……夕方ころには、とっくに空になってた。体力も全部うばわれて、魔力もちょっとでも回復するとそれも取られて、ぜんぜん力がはいんない」
素直に答えてくれたリィカだが、その内容には顔をしかめる。
そういえば、ずっと話す言葉にも力がない。
問題は、魔力がなくなったら解放される、という話が、完全に嘘だった事だ。
嘘を言ったのか、あるいはヤズ本人はそれが真実だと思っているのか。
後者だとしたら、このククノチの木は、人をだますことさえ、できるのだろうか。
アレクは剣を抜く。
解放されないなら、力尽くでやるだけだ。
「アレク、なにするの……?」
リィカはギョッとした顔をしている。
「リィカを捕らえている木を切る。それ以外に何がある?」
「……でも、こうげきされたら」
「切るか躱すか、するさ」
剣技を発動するべく構える。魔力付与をしようとすると、流れたのが分かる。
(ずいぶん、成功するようになっているな)
細かい理屈など分かっていない、何となくの感覚でしかないが、どうやればいいかが分かってきている。
――と、視界の端で何かが動いた。
(来たな)
鞭のように攻撃してきた木の枝を躱す。と、その枝がさらに伸びてアレクを突き刺そうとして、さらに躱す。
「うしろ……!」
必死なリィカの声に、後方に視線を送れば、別の木の枝が迫ってきている。
躱すのは無理だ。
仕方なしに、魔力付与した剣技で迎撃する。
魔力付与をしたとしても、剣技は一発限りだ。また魔力付与をしなくてはならない。
見れば、周囲を動く枝に囲まれていた。
「アレク……」
涙が止まっていたはずなのに、聞こえたリィカの声は涙声になっている。
「心配するな」
あくまで枝を見据えながら、リィカに声をかける。
リィカのために、いくらでもどうにでもしてやる。
そう思ったとき、木に異変が起きた。
「……木が……ふるえてる」
そう言うリィカの声も震えていた。
確かに、大本の巨大な幹が振動しているのが分かる。
そしてその振動が大きくなると、メキメキと音がする。
「…………え……?」
「…………な……」
大きく生い茂っていた葉が、伸びていた枝が、リィカの頭上で二つに割れる。
空が見えた。
その空の上には、月が輝いている。
「”赤い月“……!?」
アレクが叫ぶ。
赤く染まった月が、その赤い光が、リィカに降り注いだ。
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