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第七章 月空の下で

アイテムボックス

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「魔法のバッグっていうより、異空間収納とかアイテムボックスとかの方がシックリくるなぁ」

出来上がった魔道具を見て、暁斗がしみじみ言った。


試しにメンバー全員の荷物を入れてみた。
何も問題なく入ったし、取り出せる。もちろんそれで腕輪が重くなるなんて事もない。

今後、荷物を持つ必要がなくなるので、かなり旅は楽になる。

難点といえば難点なのが、自分の荷物を取り出すのに、いちいちリィカに頼む必要がある、という事か。



「異空間収納……?」

リィカが首を傾げる。が、頭の中で漢字に当てはめてみれば、何となく意味は分かった。

確かに、形状はまったくバッグじゃないから、魔法のバッグと呼ぶのには違和感はある。

「じゃあ、この魔道具の名前、異空間収納? それか、アイテムボックス? にする?」

「うーん、オレ的にはアイテムボックスの方がいいな。あ、でもそれだと面白くないか。…………父さん、どうしよう」

リィカの言葉に、暁斗が妙な事を言い出して、泰基を見た。

「面白くないって、何がだ。アイテムボックスでいいだろ」

「だって、せっかく異世界なのに。名前付けられるのに。なんか新しい名前がいい」

「だったら、お前が考えろ」

「それができたら、父さんに振ってない……」

むう、と暁斗は唸った。

「しょうがない。じゃあ、名前アイテムボックスで」

暁斗の言葉に、泰基が半眼になり、リィカは苦笑した。
こうして、アイテムボックスは無事に完成した。


※ ※ ※


「ねえ、どうしよう。オリーさんに連絡した方がいいかな?」

無事アイテムボックスと名付けられた魔道具が完成した後、リィカが悩むように言った。

「そういえば、オリーさん、出来たら連絡してって言ってたよね」

旅の途中で出会った、魔道具作りをしている三人組。サルマ、オリー、フェイ。

オリーは勇者の伝説が大好きで、過去勇者が作ったとされる魔法のバッグにも強い関心を持っていた。

作成に挑戦すると言ったリィカに、「出来たら教えて」と言っていたのだ。


「どうやって連絡すんだ?」

「どうって、風の手紙エア・レターしかないけど。――そう言えば、かなり距離あるけど、繋がるのかなぁ」

バルに答えつつ、荷物から、サルマと一緒に作った風の手紙エア・レターを取り出す。

前に風の手紙エア・レターで話したときは、モルタナからデトナ王国の方向に進んだ、最初の街にいると言っていた。

あの時は自分たちもその街のすぐ近くまで行っていたが、今はかなり離れている。

風の手紙エア・レターを取り出すが、何となく連絡をしにくい。
サルマたち三人の過去かも知れない話を聞いてしまったからだろうか。

「気にしなくていいだろ。できたと言うだけだ」

泰基がそんな内心を察したように言うと、リィカはためらいつつも頷いた。



『おや、リィカちゃん。またまたどうしたの?』

風の手紙エア・レターを起動させれば、普通にサルマの声が聞こえた。

「うん……。サルマさんたちは、同じ所?」

『そうだよ。Dランクだって相手にできないのに、Cランクが現れて移動なんかできるもんか』

遠くても繋がるんだな、と感動を覚えつつ、要件を伝える。

「オリーさん、聞いてる?」

『ボクに用? どうしたの?』
オリーの声も普通に聞こえる。

「実は、魔法のバッグの魔道具版、出来上がったからその報告……」

『ええっ、ホントに!!!? どうやったの!!!!?』

リィカが言い切る前に、大音量の返事が返ってきた。
耳がキーンとなって痛い。

リィカは耳を押さえて返事どころではないが、風の手紙エア・レターからは盛んに早く教えてと催促する声が聞こえてくる。

『オリー、うるさい』
無口なフェイが文句を言うのが、遠くから聞こえた。

『全くだ。悪いね、リィカちゃん。耳大丈夫?』

「…………なんとか」
リィカはかろうじて返事を返す。耳は少し落ち着いてきた。

『でもワタシも興味ある。どうやって作ったの?』

「はい、実は……」
リィカは説明をしていったが、途中から全く向こうの声が聞こえなくなった。


話し終わっても無言なので、風の手紙エア・レターが壊れたのかな、と本気で心配になった頃。
ようやく応答があった。

『……Bランクなんて、どうやって魔石手に入れたの?』

聞こえるサルマの声は低くて怖い。

それを聞かれても答えられないと思って、前に風の手紙エア・レターを作ったときは、Cランクの魔石を使った、と言ったのだ。多分Cランクでも出来るだろうから、ウソではない、と言い訳して。

が、今回は別だ。Cランクでは作れなかったから、素直にBランクの魔石を使ったと言ったのだが、案の定聞かれた。しかも、どうやら怒ってるっぽい。

「えっと……たまたまとか、偶然とか……?」

『たまたまも偶然も、意味は同じ。……戦ったわけじゃないね?』

「……ええっと……あはは……」

ズバッと聞かれたそれに、リィカはぎこちなく笑うしかできない。

『あははじゃない! 全く何なの、あんたたちは! 誰も怪我してないの!?』

「大丈夫ですよ。みんな元気」

『……Bランクと戦って、元気なのも逆に怖いんだけど。ところであんたたち、今どこにいるの?』

「トルバゴ共和国の首都です」

『やっぱり北に行ってるんじゃないか! さらに北上するとか言わないだろうね?』

なぜやっぱりが付くのかが分からないが、もちろんさらに北上する。
それを素直に言うべきか悩んで、無言でいたら、図星だと悟られたらしい。

『いいかい? あんたたちの強さは知ってるけど、絶対じゃないんだ。力試しをしたいのかも知れないけど、程々にすること! それにね……』

途中でサルマの言葉が切れる。珍しいな、と思って、問いかける。

「サルマさん?」

『……リィカちゃん、小国群じゃあまり魔法を使うんじゃないよ。トルバゴなら大丈夫だろうけど、他じゃ危険だ。できるだけ剣で片付けること。どうしても魔法が必要なら、詠唱すること』

「…………えっ?」

『他の連中にも、そう言っといて。じゃあ、そういうことでね。
 魔法のバッグ……じゃない、アイテムボックスだっけ? ワタシらが作れるようになるには、まだまだ時間が掛かりそうだけど、教えてくれて嬉しかったよ。じゃあね』

プツッと風の手紙エア・レターが切れた。


リィカは、はあっ、と大きく息を吐いた。

サルマが最後にくれた忠告は、十年前に処刑された父親と逃げ出した子供たち、という話がそのままサルマたちの過去だと思えば、納得できてしまうものだった。

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次回から、話が大きく変わります。
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