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第六章 王都テルフレイラ

バルVSメルクリウス②

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「《土の付与アース・エンチャント》!」
メルクリウスが魔法を唱えた。
剣が土に覆われ、質量が増す。

(――ちっ。無詠唱すんのかよ)
バルは、内心で舌打ちする。

こっちはできずに、ダメージをどう与えるかを悩んでいるというのに、何とも忌々しい。
本気で、無詠唱ができないと、まともに対抗することさえできなさそうだ。



「ゆくぞ」
宣言し、メルクリウスが斬りかかってきた。

振り下ろされる剣を、バルは受けずに躱す。
さらに、切り払ってくるが、やはり躱す。

エンチャントの掛けられた剣を、何もしない剣でまともに受ければ、剣が壊される。
剣技を使うために魔力を纏わせるだけでも、不足だった。


振り下ろし、突いてくる剣を、バルは躱し続けた。
(――くそっ、集中出来ねぇ)

ただ剣技を発動させるだけなら、できなくはない。そこに魔力付与という、これまで一度も成功したことのない事をしなければならないとなれば、集中する時間が必要だった。

今は躱し続けて、チャンスを待つしかない。


メルクリウスの動きが止まった。
「……なぜ、貴様はエンチャントを使わぬ?」
心底怪訝そうな顔。

それに一瞬腹は立ったが、チャンスだった。
荒れた息を押さえ込んで集中する。
剣に魔力を纏わせる。

(――細くなれ! 尖れ!)
ただそう念じて、剣技を発動させる。

「【猪勇突角撃ちょゆうとっかくげき】!」

土の突き技の剣技。しかし。

――ガキッ!

発動したのは、普通の剣技だった。
相手の体に当たったが、嫌な音を立てて阻まれる。

「我ら魔族に、剣技は効かぬぞ? 知らぬのか?」
揶揄するように言われたが、バルに言い返せるほどの余裕はない。

「『土よ。剣に纏い、宿りて、その力を……』」
駄目元で詠唱を始める。しかし。

「なるほど、そういうことか」
メルクリウスに斬りかかられ、詠唱が止まる。

「確かに、人間は魔法を使うのにわざわざ詠唱していたな。混成魔法の女を始め、貴様らは無詠唱で魔法を発動させていたが、全員ができるわけではないのか」

「――うるせぇよ!」
ほとんど反射的に言い返す。
図星を指されれば、面白くない。


再び、剣に魔力を纏わせる。
できることをやるしかない。できるまでやるしかない。
メルクリウスの、振り下ろされる剣を見つめる。

「【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」

土の、直接攻撃の剣技。

直接攻撃の剣技は、相手に命中する瞬間に発動させる必要があるから、そのタイミングが難しい。
だから、相手が大きかったり止まっていたりする場合に、使う事がほとんどだ。

振り下ろされる剣に向けて発動させるなど、普通はしない。タイミングが少しでもズレたら、それで終わりだ。
だが、他に方法はなかった。


メルクリウスとバルの剣がぶつかる。
瞬間、軽く爆発が起こる。衝撃が走る。

「――何だと!?」
バルの剣技が発動し、メルクリウスの剣がその手から弾かれた。


無事に発動したことを喜ぶ間もなく、バルは三度、剣に魔力を纏わせる。
がら空きの胴を見る。

(――今度こそ、成功しろ!)
強く、強く集中する。
体から何かが剣に向けて動いた気がして、それに誘われるように剣技を発動させた。

「【猪勇突角撃ちょゆうとっかくげき】!」

細く、鋭く尖る。
メルクリウスが、驚愕して目を見開く。

バルの剣技が、その心臓を貫いた。

「――ガハッ!」
メルクリウスの体が、地面に倒れ伏した。



バルが近づけば、メルクリウスは、満足そうな顔を浮かべた。

「――見事なり。その技、しかと、身に付ける、ことだな。その程度では……アシュラ様には、対抗……できぬ……」

メルクリウスが、目を閉じる。頭が力を無くしたようにガクッと落ちる。


パリン、と音がした。
結界に小さな罅が入り、崩れ落ちる。

「……アシュラ?」
バルが小さく、その名をつぶやいた。
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